アメリカ・マスコミはいかに破壊されたか
2018年10月1日
Paul Craig Roberts
9月24日のコラム“Truth Is Evaporating Before Our Eyes” https://www.paulcraigroberts.org/2018/09/24/truth-is-evaporating-before-our-eyes/で、いかに非難だけで相手を破壊できるかを実証するため、アブグレイブの拷問と、ジョージ・W・ブッシュ大統領のテキサス州兵航空隊の任務不履行を報じた、CBSニュース・チームや、ピーボディー賞受賞者で、26年もニュースの仕事をしたベテランCBSプロデューサー、メアリー・メイプスや、定評あるニュース・アンカー、ダン・ラザーを破壊した例をあげた。
90パーセントのアメリカ・マスコミが、エンタテインメントや他の事業が専門で、報道が専門でない6つの巨大企業に集中されるの許し、独立したアメリカ・マスコミを破壊したのは、ビル・クリントン大統領だったことを私は何度も書いている。この未曾有のマスコミの集中は、アメリカのあらゆる伝統に反しており、政府に国民に対する責任を持たせ続けるべく、建国の始祖が出版・報道の自由に託した信頼を破壊したのだ。
メアリー・メイプスの『Truth and Duty 』(2005年、St. Martin’s Press)(『大統領の疑惑』2016年、稲垣みどり訳、キノブックス刊)を読むまで、シャーマン反トラスト法とアメリカの伝統に反する、このマスコミ独占が、誠実な報道をどれだけ破壊したかに私は気づいていなかった。
起きたのは、こういうことだ。テキサス州兵航空隊はベトナム戦争の徴兵を逃れるためにエリート連中が息子を入れておく場所だった。ジョージ・W・ブッシュが、戦争から逃れるのを狙って、入隊待ちの長いリストを飛び越え入隊できたことや、州兵航空隊の要求事項違反や、無許可で他州に転属したことについて、ジェリー・B・キリアン中佐書いた書類の写しをCBSが入手した。CBSチームは、書類を、本物か、そうでないか判断するために何カ月も作業した。書類中の情報は、テキサス州兵パイロットの時代にジョージ・W・ブッシュと知り合った人々のインタビューと辻褄が合うことが分かった。
これは入念に準備された報道で、やっつけ仕事ではなく、ブッシュの義務不履行に関して、現在我々が知っているあらゆる情報と一致している。
CBSニュース・チームにとっての問題は、当時彼らは気づいていなかったのかも知れないが、その書類が専門家が疑問の余地ない本物だと確認できる原本でなく、コピーだったことだ。そのため書類は他の人々の証言と首尾一貫していたが、原本ならできていたはずの、書類が本物だという確認が、専門家たちはできなかったのだ。
共和党はこの弱点に付けこみ、CBSの『60ミニッツ』報道が真実かどうかから、写しが偽物かどうかへと話題をそらせた。
CBSには他にも二つ問題があった。一つは同社オーナー、ヴァイアコムが報道事業ではなく、法的特権や規制上の許可で儲けようとして、ワシントンでロビー事業をしている会社だったことだ。ブッシュ政権が否定する鼻先で、アメリカのによる拷問を暴露し、ブッシュに強い特権があり、テキサス州防衛隊から罪を問われなかったことを示すCBSの本当のニュース報道は、大金をかけたヴァイアコム・ロビー活動の邪魔だった。
極右ブロガー連中がCBSを追求すると、ヴァイアコム幹部は厄介なCBSニュース・チームを処分する方法に気がついた。ヴァイアコム経営幹部は、同社の記者たちを支持するのを拒否し、ブッシュがテキサス州防衛隊の任務を遵守し損ねたことに関する『60ミニッツ』報道に対し、共和党支持者で構成される、つるし上げ用“調査委員会”を雇ったのだ。
ヴァイアコムが、自社のロビー活動の邪魔になる自立したニュースを片づけたいと望んでいたのに、メアリー・メイプスと彼女の弁護士は、真実に何か意味があり、最後は勝利すると思い込んでいた。そこで、彼女は自分の経歴と品位が組織的に破壊されてゆくのを見守る破壊過程にさらされることになったのだ。
CBSのもう一つの問題は、それが正当化できるか、できないかに関係なく、保守的な共和党連中によって、CBSとダン・ラザーが、共産主義者に等しい呼称である、リベラルと見なされたことだ。何百万人ものアメリカ人にとっての問題は、リベラルなCBSが、ジョージ・W・ブッシュを傷つけ、国民をイスラム・テロにさらけ出したままにしようとしていたことだったのだ。ブッシュがワールド・トレード・センターとペンタゴンを吹き飛ばしたイスラム・テロリストからアメリカを守ろうとしているのに、CBSはブッシュ大統領を中傷しようとしているというのが極右の考えだった。
メアリー・メイプスとダン・ラザーとCBSニュース・チームは報道に専念し過ぎ、自分たちが、その中で活動している危険な状況に考えが及ばなかった。それで彼らは、ハリバートンとイスラエルのためになる、ディック・チェイニーの中東戦争に役立つ罠と“リベラル”ニュースに対する保守派の憎悪に役立つ罠にはまってしまったのだ。
アメリカ・マスコミは一体なぜ、CBSの入念な報道を擁護しなかったのだろう? 答えは、それが、TVニュース・メディアが死につつある時期だったからだ。インターネットが勝利しつつあった。同社以外のマスコミは、CBSの崩壊に、この市場を奪い、寿命を伸ばす好機を見て取ったのだ。
そこで、同社以外のマスコミは『60ミニッツ』が偽書類に基づく報道をしたという偽ニュースを報じた。マスコミは、自分たちの死刑執行令状に署名していることに気がついていなかったのだ。共和党がCBSにけしかけた極右ブロガー連中もそうだった。現在、そうしたブロガー連中自身、いかなる真実を表現できる状態から遮断されている。
アメリカにおける真実は根絶されつつあり、CBSニュースの破壊は出発点だった。メアリー・メイプスが著書で書いている通り、ヴァイアコムはスタッフ全員を首にし『60ミニッツ』を完全に一掃するやいなや、翌日ヴァイアコムは意気揚々と年次株主総会を開催した。サムナー・レッドストーン会長は、2004年に5600万ドルの給与を得た。最高執行責任者のレスリー・ ムーンべスとトム・フレストンは“それぞれ法外な年収5200万ドルを手に入れた。”
一方CBSニュース・チームの人々は住宅ローンも自動車ローンも医療保険も支払えなくなった。
メイプスはこう書いている。“数年前まで、大企業幹部へのこうした大盤振る舞いなど聞いたことなどなかった。今では、こうしたマスコミの支配者連中が公共電波を牛耳っており、彼らが果たすべき責任は一つだけ、儲けることだ。”調査報道から、政府と大企業広告主守る必要がある巨大企業でさえも。
その結果、現在アメリカ・マスコミは全く信頼できない。読者はいかなる報道も、ニューヨーク・タイムズの死亡記事すらも信じることができない。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスとクリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:https://www.paulcraigroberts.org/2018/10/01/how-the-american-media-was-destroyed/
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このメイプスによる本『大統領の疑惑』をもとに、映画『ニュースの真相』が制作されている。映画は見ていないが、『大統領の疑惑』は読み始めたらとまらない。決意をもって書かれた作品 太田愛著 『天上の葦』(KADOKAWA) ネタバレ注意
の記事で知って、テレビ報道番組にまつわる策謀についてのミステリー『天上の葦』を拝読したばかり。
昨日は以下のインタビューを拝聴した。この二冊の本と直接つながる出来事のご本人。その出来事からも、「現在日本のマスコミは全く信頼できない。読者はいかなる報道も、新聞の死亡記事すらも信じることができない」と思っている。
上層部からの圧力か!? 森友問題でスクープを連発した元NHK記者の「考査室への異動」の真相に迫る! 岩上安身による大阪日日新聞論説委員・相澤冬樹氏インタビュー 2018.10.2
いじめ問題についても追求したいとおっしゃっている。是非拝読したいものだ。
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