背筋の凍るようなサウジアラビア人行方不明事件‘改革者’皇太子という欧米マスコミ幻想を粉砕
Finian CUNNINGHAM
2018年10月8日
New Eastern Outlook
在イスタンブール・サウジアラビア領事館訪問中、著名な評判の高いサウジアラビア人ジャーナリストが陰惨に殺害されたニュースは、全ての欧米マスコミに衝撃を与えた。
背筋の凍るような事件は、サウジアラビア政権の専制的本質を強調するだけではない。欧米マスコミが“改革者”としてもてはやしてきたt石油王国の若き支配者皇太子に関する幻想も粉砕したのだ。
先週10月2日火曜日、ジャマル・カショギは、予定している結婚に関する公式文書を入手するため、予約の上、在トルコ・サウジアラビア領事館に入館した。午後1時頃のことだった。彼の婚約者は外で彼を待っていた。しかし彼は決して現れなかった。四時間後、心配した婚約者が、領事館建物内で彼がサウジアラビア当局に拘留されているかも知れないと懸念して、カショギがそうするよう助言していた通り、トルコ当局に電話した。
カショギは、マスコミの中でも、ワシントン・ポストやBBCの著名解説者だった。彼の行方不明は、先週国際的に見出し記事になった。サウジアラビア当局は、カショギは領事館を出たと言って、悪意を持った関与は一切していないと主張している。
ところが奇妙なことに、老齢の父親の代わりにサウジアラビア王国の事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が、ジャーナリストの行方不明は、自国役人の責任ではないとブルームバーグ通信社に語って論争に加わったのだ。実際、皇太子が、事件について、公的に発言する必要性を感じたというのは、奇妙に思える。
ところが、四日後、行方不明は衝撃的な展開になった。
現在、カショギは、暗殺のためサウジアラビアから派遣された暗殺部隊によってサウジアラビア領事館内で殺害されたと報じられている。15人の暗殺部隊が、捕虜を拷問し、たぶん彼の遺骸を構内から、外交特権で密かに持ち出すため遺体をバラバラにしたというトルコ警察筋の報告には、更にぞっとさせられる 。
サウジアラビア当局は、カショギは、彼が訪問した日の10月2日に領事館の建物を出ていったという主張を繰り返して、依然、事件での潔白を主張している。しかし、この説明は、カショギの婚約者の主張と完全に矛盾している。
更に、領事館の建物には無数のCCTV監視カメラがあるのに、サウジアラビアは、ジャーナリストが構内から歩いて出ていったのを示す映像公開を拒否している。
トルコ警察が、サウジアラビア領事館の敷地内で犯罪行為が起きたという想定のもとで、犯罪捜査を開始したと報じられている。先に書いた通り、未確認のトルコ警察筋はカショギは、サウジアラビア工作員連中に残虐に殺害されたと考えている。
殺人とされるもので特に衝撃的なのは、ジャマル・カショギが立派なジャーナリストとして世界的に有名なことだ。昨年サウジアラビアで、ムハンマド皇太子が権力の座について以来、カショギは彼が気まぐれな専制君主と見なす人物に対し益々批判的になった。
カショギがかつてはサウド王家宮廷の身内と見なされていたがゆえに、彼の批判は、一層悪影響があった。彼は、元駐米、駐英大使だったトルキ・ファイサル王子のメディア顧問を勤めたこともある。
2017年9月、ムハンマド皇太子が、サウド家の他の古参メンバーに対する徹底的粛清を始めると、カショギは自ら亡命した。逮捕され、拘留中に拷問されたと報じられている何百人もの人々の中には、超億万長者投資家で、カショギを、彼のアラブ・ニュース組織の編集長に任命したメディア界の大物アル=ワリード・ビン・タラール王子もいた。
亡命中、ムハンマド皇太子の下での事実上のクーデターに、カショギは一層批判的な記事を書き始めた。彼はワシントン・ポストで定期コラム記事を書いて、サウジアラビアが率いるイエメンでの悲惨な戦争や、ペルシャ湾の隣国カタールに対する無益な封鎖を強調している。彼は皇太子指揮下の“改革”の魅力なるものは、現実というより、幻想だとも警告していた。
重要なのは、このジャーナリストが、サウジアラビア国内で起きている変化について、ワシントン・ポストを含む欧米マスコミによる肯定的な報道と比較して全く異なる見解を表明していたことだ。
彼が陰の支配者となって以来、欧米マスコミは、33歳のムハンマド皇太子を“改革者”として、もてはやしがちだった。敵に対する彼の弾圧を、彼の権力を強化するための“騙し討ち”という、現実的な説明をするのではなく、長年懸案だった腐敗や縁故主義粛清として報じていた。
ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズやBBCなどは、カショギの批判的なコラム記事にもかかわらず、若い支配者を、サウジアラビア君主制の“古く保守的な”イメージからの胸のすくような離脱として描き出そうとしていた。
皇太子は、アメリカのドナルド・トランプ大統領や、フランスのエマニュエル・マクロン大統領にもてはやされてきた。
原理主義的なワッハーブ派王国サウジアラビアでの女性による自動車運転禁止や映画館開設という彼の国王令は、皇太子がいかにサウジアラビアを“近代化”しようとしている好例として称賛されてきた。
トランプやマクロンやイギリスのメイやカナダのトルドーにとって本当に魅力があったのは、イエメンでの戦争を煽るための新たな武器契約での、サウジアラビア支配者による飽くなき支出だったのではあるまいかと疑いたくなる。
それでも、鋭い批判者達は、“改革”を、単なる形ばかりの広報活動と見ていた。些細な変化は実施されつつあるが、サウジアラビア政権は、サウジアラビア東部州の少数派シーア派に対する残虐な弾圧を強化し、イエメンでの殺戮や大量虐殺的封鎖を継続している。政権は女性や他の人権活動家逮捕も継続している。そうした女性たちの中には、今、斬首による死刑を待っているイスラー・ゴムガムなどもいる。
発言権がなく、サウジアラビアの監獄や拷問センターに投げ込まれている人々のために、カショギが彼の表現で言えば“異議を唱えている”のは評価できる。
そうすることで、自分を危うい状態においていることを、59歳のジャーナリストは知っていた。サウジアラビア王家による説得や、身の安全の“保障”にもかかわらず、サウジアラビア帰国を、彼は拒否してきたと報じられている。
これは、カショギが、新たな結婚に必要な離婚証明書を受け取るためにイスタンブールのサウジアラビア領事館を訪れた理由の説明になるだろう。彼は9月28日に領事館を訪れ、10月2日に、書類を受け取るため再度来訪するよう言われていたのだ。
それによって、サウジアラビア支配者連中が、致命的なワナを準備する十分な時間が得られたように見える。15人の暗殺部隊は、10月2日にカショギを捕らえるために編成されたと報じられている。
著名ジャーナリストが領事館の建物を訪れることすら安全ではないというのは時代の気味悪い兆候だ。現在のサウジアラビア支配者連中がどれほど国際法を軽蔑しているかの気味悪い兆候でもある。
トランプやマクロン大統領などの欧米指導者による、へつらう甘やかしのおかげで、ムハンマド皇太子は、何であれ彼の専制的な気まぐれが望むことをしても、自分にはある種の免責特権があると思っているのは確実だ。この訴追免除、刑事免責されるという感覚は、改革する“魅力的な皇太子”というばかばかしい妄想を報じながら、サウジアラビアによる犯罪を見て見ないふりをしてきた欧米マスコミによって育てられたものでもある。
自分たちの寄稿者の一人、ジャマル・カショギが“改革中の”サウド家の命令で残虐に殺害されたように思われるがゆえに、まさにこのおべっか使いの欧米マスコミ連中は、ショックを受けているのだ。
これは粗野な、血も凍るような覚醒だ。サウジアラビアに関する欧米マスコミのウソが粉砕されただけではない。横暴なサウジアラビア政権を、どれほど卑劣なやり方であれ連中が好きに行動するよう、つけあがらせた欧米マスコミのやり方ゆえに、これまで実に多数のことで連中が共謀してきたと同様、そうしたウソで、連中は最新のサウジアラビア犯罪の共犯なのだ。
フィニアン・カニンガム
大手新聞社の元編集者・記者。国際問題について、広範囲に書いており、いくつかの言語で発表されている。
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同じ筆者による別記事「US-Saudi Split Looming?」もある。ところで、アメリカ国連大使、突然辞任を発表した。
「驚きの愛媛県知事会見」こそ「いつまでもモヤモヤ感は払拭はできない」。
会場からの、適切な対応。
菅氏は、安倍首相の追悼の辞を代読。「基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意だ。県民の気持ちに寄り添いながら沖縄の振興・発展に全力を尽くす」と読み上げた。会場からは「うそつき」「帰れ」などの声が上がった。
孫崎享氏のメルマガで知った映画。『モルゲン、明日』。
第二次世界大戦での自国の行いを深く反省し、1968年の学生運動をきっかけに芽生えた反原発・環境保護の意識と情熱を政治に反映し、次世代につなげようとしている彼らの姿は、世界は市民の手で変えられると教えてくれる。
日本で知の巨人と呼ばれた人物の言葉は「反原発」で猿になる。彼はオウムも擁護した。
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