二つのサミット物語
Finian Cunningham
2018年6月12日
Strategic Culture Foundation
世界秩序が我々の目の前で変化するのを見るのはほとんど超現実的な見ものだ。週末、欧米のG7サミットがとげとげしく崩壊する光景は、同時期に中国で開催された、前向きで、まばゆい上海協力機構SCO会議とは著しい対照だった。
週末にかけての、二つのサミットの物語が、世界秩序のこれまでにない歴史的変化をまざまざと実証している。主に中国とロシアが率いる新たな多国間パラダイムに道を譲って、アメリカ率いる欧米秩序は明らかに解体しつつある。可能性として、後者の軌道は、覇権と一極主義の野望が特徴の、必然的に紛争を醸成する古いアメリカが率いる秩序とは対照的に、本当の協力と、平和的関係が特徴だ。
アメリカのドナルド・トランプ大統領の、突然かつ逆なでするような、カナダG7サミット離脱が多くを物語っている。週末にかけ、トランプは、他の欧米の指導者と日本の安倍首相様々な貿易紛争を巡って口論した。そしてトランプは、主催者であるカナダのジャスティン・トルドー首相を鼻であしらい、当てつけに、北朝鮮指導者の金正恩と会うべく、シンガポールに向かうため、会議から早めに去った。
象徴的意味は包括的だ。まるで、アメリカ大統領が、遥かに重要な問題を追及しながら、無力なフォーラムを軽蔑しているかのようだった。トランプと金のシンガポールでの出会いも、新たな地政学的エネルギーという東方の勢いを物語っている。
トランプは、北朝鮮指導者と会う初の現役アメリカ大統領だ。厳密に言えば、両国は、1950年-53年の戦争を終わらせる平和条約を決して調印していないので、依然戦争状態にある。この敵意も、今週もし二人の指導者が、朝鮮半島の兵力の段階的縮小をもたらせるような気が合う関係を作れれば、すっかり変わり得る。
金は、予定されていた火曜日のトランプとの歴史的会談二日前にシンガポールに到着した。トランプは一日前に到着した。金は - 北朝鮮指導者として三度目と言われる - 極めてまれな海外旅行で、北京政府の好意で中国国際航空747に搭乗した。またもや象徴的意味は反響している。中国が二つの敵対国同士のこの極めて重要な出会いを実際上、促進していたのだ。
G7サミットで、トランプが去った後に残ったのは厄介な大混乱だ。多国間合意に対するアメリカ大統領の高圧的な拒絶により、イギリス、ドイツ、フランス、カナダの指導者と欧州連合幹部は激怒していた。トランプは、アメリカ“同盟国’であるはずの国々を“不公平な”貿易関税に関する文句で粗野に威嚇した。貿易紛争で、一体誰が正しいのか知るのは困難だ。だか一つ明らかなことがある。約43年前に設定された、欧米諸国プラス日本のG7グループは、深い不満から、全くの混乱状態にあった。
ケベック到着前、ワシントン出発時に、ロシアをG7に復帰させるべきだと発言して、トランプの好戦的な姿勢がサミットに悪影響を与えた。かつてのG8から、モスクワがウクライナの主権に干渉していることに関する当時の欧米による主張を巡り、2014年にロシアは追放された。
他のG7加盟諸国、特にイギリスのテリーザ・メイ首相は、トランプのロシア招請提案に憤慨した。ローマの新政権がロシアとのヨーロッパの関係を回復したがっていることと首尾一貫して、イタリアの新人ポピュリスト首相ジュゼッペ・コンテだけが、トランプの立場に同意した。もう一つの明らかな兆しは、国際政治における東方に向かう動きだ。
アメリカ大統領がG7サミットでにのんびり歩いていった際に出迎えたカナダのトルドー首相のボディ・ランゲージは、不本意と気まずさを示していた。週末は、口論と侮辱的言動へと成り下がった。トランプはトルドーを“不正直”で“弱い”とまで言った。一方、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、トランプに対し、以前にしたようなへつらうような男同士のかたい友情を見せなかった。マクロンは、アメリカ“覇権”抜きの新たなG6構造さえ主張した。
中国におけるSCOサミットの展開との対照は実に大きい。習近平主席が、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンやインドやパキスタンやカザフスタンやキルギスタンやタジキスタンやウズベキスタンやイランの指導者を温かく歓迎した。これら指導者の陽気なまとまりは、G7での不和と激論とは実に対照的だ。
何十年もの戦争や紛争の後、インドとパキスタンがSCOの新たな二国として参加、同席したのは、新たな地政学的パラダイムが、東で立ち上がりつつあることを証明する強力な証拠だ。
SCO加盟諸国は、経済発展と相互安全保障での提携の取り組みを倍加すると誓った。新世界秩序は、アメリカ率いる秩序の場合のように、一つの大国が、他の国々に対し、覇権を行使するのではなく、協力に基づくものを手招きしていると習主席は述べた。
イランのハサン・ロウハーニー大統領は、習とプーチンが多国間の尊重に基づく新たな世界構造を構築する道を拓いていることに感謝の意を表した。イラン指導者は、トランプが一方的なアメリカ離脱で壊そうとしている国際核合意に対する不変の支持を中国とロシアに感謝した。ヨーロッパが核合意をしっかり支えるかどうかは見てみないとわからないが、今回のG7サミットで、トランプに抵抗する上での彼らの無力さが、彼らが誓った通りに献身する根性などないことを示唆している。
SCO会議中の公式声明で、習とプーチンは、今週シンガポールでのトランプ-金会談は、二人が以前から支持していた、アメリカと北朝鮮間の平和的対話路線に沿ったものであることを適切に再認識させた。昨年、トランプと金が、核戦争で威嚇する激しい言葉のやりとりをした際、平和な対話こそ唯一の道だと忠告したのは中国とロシアだった。
70年以上優勢だった第二次世界大戦後の欧米秩序は、明らかに衰えつつある。アメリカに支配されていたこの秩序は常に一種の幻想だった。互恵関係や高尚で高潔な主張からほど遠く、アメリカ率いる秩序は常にアメリカ資本主義と帝国主義の狙いの優勢が目的だ。
ヨーロッパは決して本当の同盟国ではない。彼らはアメリカ権力の付属物だった。アメリカの権威が衰退している今、欧米内でのライバル関係が激化しつつある。アメリカの覇権支配願望は衰えつつある力により限定されており、ワシントンは、自分たちの本当の役割が属国に過ぎないことに今頃気づいた同盟諸国であるはずの国々に対し、一層あからさまな弱いものいじめ戦術を用いている。
だがアメリカ一極“例外主義”は、グローバルな相互関連と、平等と外交の原則に対する自覚がある現代の世界では忌み嫌われている。
中国とロシアは、習近平とウラジーミル・プーチンの指導の下、アメリカとそのお仲間欧米のおべっか使いのそれを越える政治的認識の進化段階にある。
SCOサミットは、協力による進歩と平和のための新世界秩序を見事に実証している。小競り合いし、中傷しあうG7は、旧秩序の廃墟だ。
とは言え、これが世界平和が勝利することを保証するわけではない。構想は確かに存在しており、中国とロシアや東半球の他の国々のおかげで成長しつつある。死につつある、アメリカ率いる資本主義覇権と帝国主義の欧米帝国を、いかにすれば、安全に平和な多国間互恵的関係に変えられるかが、非常に重要な課題だ。
Finian Cunninghamは、国際問題について多く書いており、彼の記事は複数言語で刊行されている。彼は農芸化学修士で、新聞ジャーナリズムに進むまで、イギリス、ケンブリッジの英国王立化学協会の科学編集者として勤務した。彼は音楽家で、作詞作曲家でもある。彼はほぼ20年以上、ミラー、アイリッシュ・タイムズや、インデペンデントなどの大手マスコミで、編集者、著者として働いた。
記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2018/06/11/trump-meets-kim-amid-shifting-world-order.html
----------
「日米基軸」幻想 (詩想社新書)を読んでいる。それで思いだしたのが、筆者のお一人、進藤榮一氏の「アジア力の世紀――どう生き抜くのか」 (岩波新書)の一節。アメリカン・フットボールと相撲を対比して、日米の外交戦略違いを浮き彫りにしておられるくだり。どちらも、現在、不祥事で注目されているのはただの偶然だろう。
『国家の殺し方 オーストラリアがアメリカと結んだ破滅的な貿易協定』書評という記事翻訳のあとがきに、上記対比の一部を引用させて頂いた。お読み頂ければ幸い。
『国家の殺し方』、破滅的な貿易協定について書かれたものだが、今、まさに、その代表的なものが成立した。TPP11。こういうとんでもない法律については、一切論じないで、くだらない話題でゲラゲラ笑う大本営広報部痴呆番組洪水を見ていると、国まるごと「ナイアガラの滝壺に向かう遊覧船の中で、酒をのみながら、じゃれあっている観光客集団」に見えてくる。
ミサイルはもう飛んでこないと、ミサイルをあおった当人が言う一方、慎重にみきわめなければならないといって、イージス・アショア配備に邁進する戦争省幹部。マッチ・ポンプ属国。
« 2014年のウクライナ・クーデターを、アメリカ政府は、いかにして、なぜ行ったのか | トップページ | ロシアとの関係を正常化するには、ヨーロッパは洗脳されすぎているのだろうか? »
「アメリカ」カテゴリの記事
- アメイジング・グレース(素晴らしき神の恩寵)!バイデンの許しの奇跡(2024.12.10)
- アメリカ製ミサイルをウクライナがロシアに発射するのをバイデンが許可した理由(2024.12.08)
- ビビにとって、テヘランへの道はダマスカス経由(2024.12.07)
「アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事
- シリア崩壊(2024.12.11)
「NATO」カテゴリの記事
- シリア崩壊(2024.12.11)
- ガザについて連中は嘘をつき、シリアについても嘘をついている(2024.12.03)
- 対シリア戦争を再燃させるアメリカと同盟諸国(2024.12.02)
「ロシア」カテゴリの記事
- シリア崩壊(2024.12.09)
- クレイグ・マレー - 中東における多元主義の終焉(2024.12.09)
- アメリカ製ミサイルをウクライナがロシアに発射するのをバイデンが許可した理由(2024.12.08)
- ビビにとって、テヘランへの道はダマスカス経由(2024.12.07)
- 対シリア戦争を再燃させるアメリカと同盟諸国(2024.12.02)
「中国」カテゴリの記事
- トランプ大統領の対中国「貿易戦争2.0」は過酷なものになるだろう(2024.12.06)
- ウクライナ紛争や国内政治崩壊の損失によりドイツは崩壊しつつある(2024.11.23)
- トランプ政権:「戦争タカ派なし」から「全員戦争タカ派」へ(2024.11.20)
- ドイツはロシア燃料を使用していたがゆえにヨーロッパの原動力だった(2024.10.24)
「Finian Cunningham」カテゴリの記事
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
- バイデンの哀れなATACMS挑発をプーチン大統領が無視すべき理由(2024.11.21)
- ドイツがアメリカのポチでいることの破滅的代償を示す選挙混乱とフォルクスワーゲンの苦境(2024.09.10)
「トランプ大統領」カテゴリの記事
- ビビにとって、テヘランへの道はダマスカス経由(2024.12.07)
- トランプ大統領の対中国「貿易戦争2.0」は過酷なものになるだろう(2024.12.06)
- ロシア新形ミサイルが、いかにゲームを変えつつあるのか(2024.11.29)
- トランプの「嵐」に対抗する反乱鎮圧作戦「開始」(2024.11.28)
- トランプ政権:「戦争タカ派なし」から「全員戦争タカ派」へ(2024.11.20)
「SCO」カテゴリの記事
- 戦略的ユーラシア・パートナーとしてイスラム諸国を誘うロシア(2022.10.23)
- 世界政治的権力の方向は断固東方に動いている(2022.09.26)
- サマルカンド行き(2022.08.06)
- キエフのエルドアン、北京のプーチン:新オスマン主義は大ユーラシアにしっくり収まれるか?(2022.02.10)
- コーカサスで責任を引き受けるロシア(2020.11.19)
コメント
« 2014年のウクライナ・クーデターを、アメリカ政府は、いかにして、なぜ行ったのか | トップページ | ロシアとの関係を正常化するには、ヨーロッパは洗脳されすぎているのだろうか? »
トランプ大統領は情の人かー米朝会談を受けてー
鷲巣力氏は故加藤周一について「情の人」か「理の人」かを取り上げ,前者であると結論付けている(加藤周一自選集10,解説,岩波書店)。しかるにトランプはどちらだろうか。
ところで,情または理の人を英語では何というのであろうか。A warm-blood-villainまたはa cold-blood villain? 英語が苦手な小生にはよく分からない。拙い記憶によれば,WetまたはDryでもいいのかなと思ったりもするが,ここでは字数節約のため,「Wet」と「Dry」を採用させていただく。
さて12日の米朝会談を受けて,NHKをはじめとして否定的な受け止め方をする論調が支配的だという。例えば朝堂院大覚総裁も「シンガポールにおける米朝首脳会談 ほとんど中身なしの意味のない会談【NET TV ニュース】朝堂院大覚 米朝首脳会談 2018/06/13」と批判している。果たしてそうなのかどうか。また例えば,上久保誠人立命館大教授は大金をとられるだけと批判が厳しい(「会談の「落としどころ」は日本にとって最悪だった」ダイヤモンド 6月14日)。しかし果たしてそうなのか。一方でトランプ・金正恩両氏が会ったことが重要だという記事もある(Deeply Japanブログ主,あいば達也氏や植草一秀氏)。これまた果たしてそうなのか。
やたら多国間会議が多い(国際会議ではない)。SCOがありケベックでのG7があったばかり。小生はこちらにもお邪魔している関係で去年のAPEC首脳会議の記憶がいまだに残っている。「二サミット物語」ではなくて「三,四サミット物語」だろうと頭が混乱しているが,そもそも「共同声明」なるものは事務方が準備して首脳たちがその場で会って署名するだけで,二人が38分であろうと40分であろうと会談しても「共同声明」に大きな変更がないのが一般的であろう。(ケベックG7は例外中の例外ではあるけれど,事務方同士ですでに意見が割れていたと思えば,G1.5とG5とが対立するのは前もって明らかであった,と言えよう)。
トランプが大統領に就任して約1年4ヶ月がたつが,北朝鮮への対応を振り返ってみるに,小生が真っ先に思い出すのは朝鮮半島沖に米空母3隻及びB1級爆撃が集結といったニューズ報道である。「テーブルの上にはあらゆる選択肢が乗っている」から「俺のボタン(一物)が大きい」あるいは「俺のボタンの方がより大きいぞ」といったやり取りまで。そこにトランプのDryの面が露わになっていると思う。
政治家は一般にWetでは使い物にならない。米議会を唸らせるためには十分Dryであることを示すことが必要である。トランプがとったのはシリアの空軍基地への58発のミサイル攻撃や米仏英合同軍の108発のミサイル攻撃であろう。証拠なし。証拠がなければ攻撃してはダメだというのはWetである。米国の伝統は知る人ぞ知る「強いアメリカ」であり,3G(God神,Guns大砲,Guts勇気)である。
昨年メラニア夫人を連れてイスラエルを訪問した時,トランプは嘆きの壁で祈った。シリアへのミサイル攻撃,シンガポールでの二者会談開催が3Gのそれぞれに当たるだろう。
また例えばDryの面は,狂犬マティスを国防長官に任命し,狂人ボルトンを大統領助言官に採用したことにも現れている。しかしシリアでもシンガポールでも結果はWetであった。リビア方式という言葉は消えてなくなっている。
思えば,東西ドイツ分裂,南北ヴィエ・ナム民族分断の歴史と統一を考えれば,朝鮮民族が北と南に分かれているのは忍びない。そう考えたとすればトランプはWetの人である。ゆえにポンぺオをして朝鮮半島の危機を煽り,ヘイリー女史をして米議会を宥めるために強烈な経済制裁を国連で決議させた。また念の入ったことに,5月27日には米朝会談中止の書面を公開して北に送った。その書面をよく読めば,Wetであることが分かる。
ところで,セントサ島における米朝両首脳会談は大成功とは言わないまでも,共同声明批判において強調されていないことがある。それは板門店宣言である。4月27日に文・金会談で合意した14項目の内容である。この合意を共同宣言では,Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration,・・・と表し,「再確約すること」と書いてある。これらの合意は事務方が詰めたよくできた内容であるが,これを無視して酷評する識者が多い。
目新しい合意内容でないという意見は正しい。しかし目新しかろうと旧かろうとその合意が確実に行われるならば,朝鮮半島と世界の平和にとってこれほど望ましいものはないだろうと,考える。米朝韓中露がしっかり実行することを期待したい。
以上のように見てきたとき,トランプはDryとWetとを使い分けて,自分の理想を実現する大統領なのかも知れない。P.C.ロバ-ツが指摘されたように,「金もあり,きれいな奥さんがあり,地位もそれなりにありながら,なぜ大統領に立候補したのか」という言葉を思い出す。
追記: G7を早めに切り上げたトランプ大統領はトルド-首相を“不正直”で“弱い”と言ったが,“不正直”はDryに,“弱い”はWetに当たるのではないだろうか。すなわち,誉め言葉。
追記2: 新CIA長官は南洋のタイやミャンマー等で拷問を指示してきた女性らしい(Dry)。悪の枢軸で残っているのはイランだけであるから,ボルトンと共に利用されるのだろうと推測している。
追記3: 断食が始まる前の5月,トランプはエルサレムへ米大使館を移した。米議会の2回の決議に応えた(Dry)。しかし彼にはパレスティナ人の抵抗も激しくなることを予期していた。これは彼の失点であろう。
投稿: 箒川 兵庫助 | 2018年6月14日 (木) 16時26分