北朝鮮の頭に拳銃をつきつけるワシントン
Finian CUNNINGHAM
2018年5月22日
ドナルド・トランプ大統領が、金正恩に対して異様な威嚇をした後、アメリカと北朝鮮との間の平和外交の見通しは突然打撃をこうむった。事実上、殺害の脅しだ。
先週、トランプは、もし北朝鮮指導者が、ワシントンの完全非核化要求に従わなければ、金は“カダフィのような目にあう”と警告した。トランプは、もし核兵器を放棄しなければ、北朝鮮は“破壊される”とも言った。
トランプの他国に対する暴力の言辞は、ほぼ間違いなく国際法と国連憲章違反だ。
アメリカ大統領が北東アジアの国を犯罪的に恫喝したのは、これが初めてではない。昨年9月、彼は国連総会で、北朝鮮を“完全に破壊する”と演説していた。
ところがアメリカ・マスコミは、更なる譲歩を引き出すため、腹黒く、“典型的なやり方で”交渉から後退していると北朝鮮を非難し、大統領の最新の騒ぎを歪曲している。
ワシントンが北朝鮮の頭に拳銃をつきつけ、マフィア風に、“文句が言えないはずだと自分が考える提案”を平壌に押しつけている、火を見るよりも明らかな事実を、アメリカ・マスコミは無視している。
6月12日、シンガポールで予定されている大いに期待されている、トランプ・金サミットが突然不透明になった。北朝鮮国営メディアが、もしアメリカが、平壌による一方的核軍縮を強く要求するなら、サミットはキャンセルすると警告した。
トランプ政権は、シンガポール会談計画を継続していると言って対応した。だがサミットを順調に進めるため、北朝鮮の立場を保証するのに、アメリカと韓国当局者はおろおろしていると報じられている。トランプが彼の栄光の一瞬を奪われたくなくて躍起なのは確実だ。
二つの進展が、ワシントンと交渉する北朝鮮の意欲を削いだのだ。トランプと金が、それまでの双方のけんか腰言辞をやめ、向かい合ってのサミットを行うことに合意した明らかに飛躍的前進した後、北朝鮮は冷めてしまった。
ワシントンは、北朝鮮との交渉準備のガイドラインとして、“リビア・モデル”を考えていると言った国家安全保障問題担当補佐官ジョン・ボルトンの公的発言を平壌は引用した。ボルトンは、2003年-2004年、元リビア指導者ムアンマル・カダフィが、ジョージ・W ブッシュ政権をなだめるため、核兵器計画の一方的停止に同意したことを指していた。
その七年後、カダフィ政権が違法なアメリカ-NATO戦争で、いかに打倒され、リビア指導者が街頭で殺害される結果になったのかを考えれば、これは陰険なタカ派ボルトンによる厚かましい基準点なのだ。
北朝鮮は以前、保証無しに大量破壊兵器政策を放棄し、アメリカによる政権転覆攻撃にさらされることになった例として、リビアとイラクをあげていた。
外交交渉のであるべきものを間近に、ブッシュ時代の悪名高い政権転覆立案者のジョン・ボルトンが、リビアを“モデル”だと、はっきり言及した以上、北朝鮮が、突然反発すると決めても、不思議はない。
もう一つの展開は、今月行われた、アメリカ軍と同盟国韓国の年次軍事演習だ。現在、両国軍は北朝鮮国境近辺で、戦闘機と戦艦も参加しているとされる“マックス・サンダー”作戦を行っており、例によって、平壌にとっては、侵略準備のように見えている。一体どうして、それが北朝鮮にとって“信頼醸成”のはずがあるだろう?
トランプとの会談は実現しないかもしれないと警告する中、進行中のアメリカ軍との共同演習をキャンセル理由として挙げ、先週突然、北朝鮮も韓国側との高水準の交渉をキャンセルした。軍事演習継続を巡り、北朝鮮は韓国は“愚かで無能だ”と酷評した。
またしても、外交上のもう一つの劇的逆転だ。わずか数週間前、北朝鮮の金委員長は、朝鮮戦争(1950年-53年)終結以来、二国を分断している非武装地帯で、韓国の文在寅大統領と歴史的会談を行った。両指導者は、協力の新時代と、最終的に戦争を終結させるための正式な平和条約を調印する意図を明言した。
北朝鮮の揺れに関する欧米マスコミの解釈は根拠がなく、不必要に身勝手だ。マスコミがほのめかしているように、平壌が心理戦を演じて譲歩を強要しているわけではない。
これは、アメリカ合州国が、ワシントン側からのいかなる返礼も無しに、北朝鮮の一方的武装解除を期待するという本当に不届きな狙いをさらけ出していることの反映に過ぎない。つまり、降伏、投降を。
この要求に加えて、北朝鮮が“安全”、つまり、無防備と見なされたら、ワシントンが政権転覆に向けて動くという極めて深刻な根本的な脅威がある。
トランプが金委員長との“歴史的サミット”に熱心なのは、双方の和平合意を求めるためではない。不動産界の大物出身の大統領は、派手な見せ物と、虚栄心からの成功しか考えていない。自分がいかにノーベル平和賞に相応しいかとまで、彼は語っている。
もちろん、世界中に放映される金との握手は、トランプのうぬぼれと、元リアリティーテレビ番組TVスターの視聴率への渇望に大いに役立つだろう。
トランプが、先週、北朝鮮を安心させようとして、“アメリカは、リビア・モデルを使わない”と言って、ボルトンを、たたき返したように見えた理由はこれだ。
ところがトランプは、同時に、北朝鮮は、核兵器を放棄しなければ、リビア同様の結果になるとまで、とっぴに言って、さらにへまをやらかした。
道徳的にボロボロの戦争屋ジョン・ボルトンがいて、CIA拷問を支持するマイク・ポンペオが国務長官であることが、北朝鮮が、提案されている会談に背を向けつつあるように見える、極めて妥当な理由だ。
更に、トランプが無知と粗野な本能をさらけ出しているのだから、これまた、平壌が警戒する、至極もっともな理由だ。
朝鮮半島の平和は多国間の等式だ。北朝鮮による核兵器放棄は、等式の片側に過ぎない。式のもう一方の不可欠な側は、ワシントンによる軍隊撤退、平壌との平和保証調印、経済戦争を終わらせ、二つの朝鮮が干渉されずに和解を追求するのを可能にすることだ。
しかし、このコラムで以前書いた通り、ロシアと中国に対し、兵力を維持するアジア-太平洋でワシントンの戦略的権益は極めて大きく、朝鮮半島における本当の和平合意への同意は、アメリカにとって、受け入れ難いものなのだ。
上っ面のアメリカ外交の下にあるワシントンの真意はアメリカ政府に対する北朝鮮の降伏だ。
“交渉しろ、さもないと”と北朝鮮に言うのは、頭に銃を突きつけるようなものだ。多少とも自尊心がある国なら応じるはずがない。
ワシントンの不誠実さと、自分の義務に関する傲慢な無知に対して、平壌がワシントンに素っ気ない態度を取って至極当然だ。トランプが、イラン核合意で後戻りしたのも、北朝鮮にとって、もう一つの教訓的実例だ。
だが不気味なことに、アメリカ政府は、自分の鼻をつねられた後、極めて汚らしいことをしようとしているようだ。
記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2018/05/22/washington-holds-gun-north-korea-head.html
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2018年5月8日に翻訳した記事「帝国の征服への道: 和平と軍縮協定」が気になっていた。「北朝鮮の言い方がひどかった」というような趣旨のことを大本営広報部解説者が言っていた。「帝国の征服への道: 和平と軍縮協定」のような指摘を決してしないのがお仕事。
話題の広報担当、通信社元論説委員長というのに驚いた。本当だろうか。
事実の解明ではなく、支配体制維持がお仕事という小生の偏見・被害妄想、本当かも?
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