来るべき崩壊
2018年5月20日
TD originals
Truthdig
Chris Hedges
トランプ政権は、貝殻の上に立つビーナスとは明らかに違う。ドナルド・トランプは、長期的な政治的、文化的、社会的腐食過程の結果だ。彼はアメリカの破綻した民主主義の産物だ。我々は、機能している民主主義の中で暮らしていて、トランプや彼を取り巻く政治変異体は、次回選挙で打ち負かすことができる、どういうわけか常軌を逸した逸脱だという虚構を長続きさせればさせるほど、我々は益々独裁制に向かって突進することになる。トランプが問題なのではない。大企業権力と二大政党官僚に支配され、我々が重視されていない政治制度が問題なのだ。大企業支配国家を解体して、我々が、政治支配を奪い返すのだ。そしてこれは、今年アメリカ中の教師たちが示したような大規模で持続的な市民的不服従を意味する。もし我々が立ち上がられければ、アメリカは新たな暗黒時代に突入する。
逆さまの全体主義というアメリカ体制の構築を支援してきた民主党は、左翼の多くによって、またしても救世主として祀り上げられている。ところが、この党は、トランプ当選と、バーニー・サンダースの反乱を引き起こした社会的不平等に対処するのを断固拒否している。民主党は、国民の半分苦しめている本当の経済的苦難が聞こえず、話せず、見えないのだ。労働者に生活できる賃金を支払うようには戦わない。民主党は、国民全員へのメディケアを実現させるため、医薬品や保険業界に逆らおうとはしない。民主党は、国を骨抜きにし、無益で費用のかかる外国での戦争遂行を推進している軍の飽くなき欲求を抑制しようとしていない。民主党は、プライバシーの権利や、政府による監視からの自由や、適正手続きを含む失われたわれわれの市民的自由を回復しようとはしない。民主党は、企業と、汚い金を、政治から追い出そうとはしない。民主党は、アメリカ警察を非武装化したり、アメリカ合州国は、世界の人口のわずか5パーセントに過ぎないのに、世界中の囚人の25パーセントを占めている刑務所制度を改革したりしようとはしない。民主党は、特に選挙シーズンには非主流派受けを狙い、本質的な政治、社会問題に対処するのを拒否し、代わりに、ゲイの権利や妊娠中絶や銃規制のような、特有な反政治集団の狭い文化的問題に焦点を絞っている。
これは絶望的戦術だが、理解できるものではある。民主党指導部のクリントンやナンシー・ペロシやチャック・シューマーやトム・ペレスは大企業支配アメリカの産物だ。党エリートや、大企業からの資金によって支配されない開かれた民主的政治プロセスであれば、この連中が政治的権力を得られるはずなどないのだ。彼らはこれを知っている。連中は、自分たちの特権的な立場を放棄するより、体制丸ごと自滅するのを選ぶはずだ。しかも、それが実際に起きることではないかと私は恐れている。民主党は、何らかの形で専制政治に対する防壁だという考え方は、過去30年間の民主党政治活動と合致しない。民主党は専制政治の保証人だ。
トランプは、彼らを裏切った政治・経済体制に、アメリカ国民の大きな部分が抱いていた憎悪を活用したのだ。彼は無能で、不道徳で、不正直で、うぬぼれ屋かも知れないが、彼は、彼らが嫌悪している体制を、巧みに笑い者にしているのだ。政府機関、法律や、世間から認められているエリートに向けた彼の残虐で、人をばかにしたあざけりは、これらの機関や法律やエリートが敵対勢力になっているので、国民の共感を呼んだのだ。また政治的見通しに、自分たちの苦難を軽減する変化が見えない多くの人々にとっては、トランプの残酷さと毒舌は、少なくともカタルシス効果がある。
トランプは、あらゆる独裁者同様、何の倫理的中核もない。彼に対する個人的忠誠、へつらいに基づいて、同盟者や被任命者を選んでいる。彼は誰でも裏切る。彼は腐敗しており、金を貯め込んでおり、彼は昨年4000万ドル稼いだ、ワシントンD.C.、ホテルだけでも、彼の大企業のお仲間。かつては多少の規制と監督を行ってきた政府機関を、彼は解体しつつある。彼は開かれた社会の敵だ。だから彼は危険なのだ。民主的組織や規範の最後の名残に対する彼の強烈な攻撃は、大企業全体主義から、我々を守ってくれるものが、間もなく、名前すら全く無くなってしまうことを意味している。
中にはマデレーヌ・オルブライトもいるのだが、アメリカの破綻した民主主義を立案した連中による、忍び寄るファシズムに対する警告は、お笑いだ。連中は、エリート連中が、いかに時代精神から切り離されているかを示している。こうしたエリートの誰一人、信頼性がない。トランプ当選を可能にした、ウソと欺瞞の体系と大企業による略奪を、連中が作り上げたのだ。トランプが、こうしたエリートをおとしめればおとしめるほど、そしてこの連中が凶事の予言者カサンドラのように抗議の叫びを上げれば上げるほど、国が急速に崩壊するなか、一層、彼が大統領の悲惨な立場を救済し、泥棒政治家連中による国の略奪を可能にする。
マスコミはトランプ専制政治の重要な柱の一本だ。ヴェルサイユ王宮で、農民にパンが足りないのに、国王のささいな欠点をぺちゃくちゃしゃべる18世紀の廷臣連中のように、マスコミはとめどなく、しゃべり続けている。多くの人々にとっては、日々の苦しみと全く無関係な、ロシアによる干渉やらポルノ女優への支払いやら虚ろな話題を、マスコミは、ダラダラ話し続け、アメリカの生活を特徴づけている。マスコミは、アメリカの民主主義と経済を破壊し、アメリカ史上最大の富の上方移転を画策した大企業権力の乱用を批判したり、調査したりするのを拒んでいる。大企業マスコミは、金と情報源へのアクセスと引き換えに、文化的自殺をしている朽ち果てた遺骸だ。トランプが“偽ニュース”を巡り、マスコミを攻撃する際は、彼は、またもや、こうした全てのマスコミが無視している深い憎悪を表現する。マスコミは、トランプがしているのと同様に、貪欲の神マモンの偶像を奴隷のように崇拝している。マスコミは、リアリティーテレビ番組大統領が大好きなのだ。マスコミ、特にケーブル・テレビのニュース番組は、視聴者を、21世紀版『カリガリ博士』にくぎ付けにするために、照明を点けて、カメラを回し続けている。視聴率上は良い。収益にとっては良い。だが、これは衰退を加速する。
こうしたこと全てが、間もなく、金融崩壊で一層ひどくなる。ウオール街の銀行は、2008年の金融崩壊以来、連邦準備金制度理事会と議会によって、ほぼゼロ・パーセント金利で、16兆ドルも緊急援助や他の助成金で渡された。連中は、この金や昨年行われた大規模減税でため込んだ金を、自社株買い戻しに使い、幹部報酬やボーナスを上げ、一層維持不能な借金返済奴隷労働に追いやっている。2017年の法律で、シェルドン・アデルソンのカジノ事業だけでも、6億7000万ドルの減税を受けた。CEOと労働者給与の比率は、今や平均339 対 1で、最大のギャップは、5,000 対 1に近づいている。金を儲け、蓄積する、この金の循環的利用は、カール・マルクスが“擬制資本”と呼んだものだ。公的債務、企業債務、クレジット・カード債務や学資ローン債務の絶えざる増加が、最終的には、ノミ・プリンスが書いている通り、“借金返済に充てるために入ってくるお金、あるいは借りられるお金が、利払いに足りなくなる転換点に至る。そこで高利回りの債券から始まる借金バブルがはじける。”
成長を借金に頼っている経済では、クレジット・カードの支払いを遅延すると、金利は、28パーセントに跳ね上がる。それが、我々の賃金が停滞していたり、実質的に下落していたりする理由だ。生活維持に十分なだけ稼げていれば、生きるため金を借りなければならないにようなるはずがない。それが、大学教育、住宅、医療費や水道光熱費が、これほど高い理由だ。我々が借金から決して解放されないよう、制度設計されているのだ。
しかしながら、次の金融崩壊は、プリンスが著書“Collusion: How Central Bankers Rigged the World”で指摘しているように、前回のもののようにはなるまい。彼女が言う通り“代案がないためだ”。金利はこれ以上下げようがない。実体経済は全く成長していない。次回は出口が無いだろう。ひとたび経済が崩壊し、国中で猛威を振るって燃え盛ると、トランプでさえ聡明で温和に見えるような奇人政治屋が登場する。
そこで、ウラジーミル・レーニンを引用すれば、我々は何をするべきか?
我々は、我々を守り、力に力で対抗するための平行する、人々の組織の構築にエネルギーを注ぐべきなのだ。組合、コミュニティー開発組織、地方通貨、代替する政党や食品協同組合を含む、こうした平行する組織は、町ごとに構築されなければなるまい。経済的困窮の時期には、エリート連中は、ゲートで囲った住宅地にひきこもり、我々を自力で何とかするよう放置する。ゴミ収集から公共交通、食品流通や医療に至る基本的社会サービスは崩壊するだろう。膨大な失業や不完全就業が社会不安を引き起こすが、対処方法は、政府による雇用創造ではなく、軍隊化した警察の残虐と、市民的自由の完全な停止だ。既に社会の片隅に追いやられている、体制を批判する人々は沈黙させられ、国家の敵として攻撃される。労働組合の最後の名残も、廃止の標的にされるだろうが、最高裁判所の裁判で、公共部門労組が労働者を代表する能力を麻痺させる判決が出ると予想されるので、この過程は間もなく加速されるはずだ。ドルは世界の準備通貨であることを止め、大幅なドル安になるだろう。銀行は閉鎖する。地球温暖化で、我々、特に沿岸住民や農業やインフラは益々大きな負担を負わされるが、枯渇した州は、その費用を工面できまい。商業マスコミは、支配層エリート同様、茶番から不条理へと変わり、その言説は、明らかに、あまりにも作り話で、あらゆる全体主義国家でと同様、現実から切り離される。トランプ同様、マスコミは全て愚からしく聞こえることとなる。そして、W.H. オーデンを引用すれば、“幼い子供たちは街頭で死ぬ”。
海外特派員として、私は旧ユーゴスラビアを含め崩壊した社会を報道してきた。内部崩壊の間際に、朽ち果てた金融、社会、政治体制がいかに脆弱なのかを、絶望的な人々が理解するのは不可能だ。崩壊のあらゆる前兆が目に見えている。崩壊しつつあるインフラ; 慢性的な不完全雇用と失業; 警官による殺傷力の高い武器の無差別使用; 政治停滞・低迷; 借金という足場の上に築かれた経済; 学校、大学、職場、モール、コンサート会場や映画館での虚無的な銃乱射事件; 年間約64,000人が死亡するオピオイド過剰摂取; 蔓延する自殺; 軍の持続不可能な拡張; 経済発展と政府歳入の絶望的な手段としての賭博; ごく少数の腐敗した徒党による権力掌握; 検閲; 学校や図書館から裁判所や医療施設に至るまでの、公共施設の物理的減少; 我々を幻想の中に閉じ込め続ける、気の滅入る光景になったアメリカから、我々をそらすための電子的幻影による絶え間ない爆撃。我々は差し迫る死の普通の症状を苦しんでいる。私が間違っていたら嬉しいと思う。しかし、私は以前これを見ている。私は前兆を知っている。準備をしておくようにとしか私は言えない。
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記事原文のurl:https://www.truthdig.com/articles/the-coming-collapse/
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「逆さまの全体主義」と勝手に訳したの元の単語は、リンク先にある通り、政治学者故シェルドン・ウォリンの表現、Inverted Totalitalianism。
どういうものか知りたくて、その言葉が書名にある彼の本を買った記憶はあるのだが、現在は本の山に消えたまま。例によって「良い本は翻訳されない」ようだ。
Democracy Incorporated: Managed Democracy and the Specter of Inverted Totalitarianism
国会討論、毎回面倒だが、頭とふところに良いので、与党ゆ党質疑は音声を消している。
マスコミは○×専制政治の重要な柱の一本だ。
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