イランでのアメリカの転覆工作はなぜ失敗したのか
2018年2月23日
Tony Cartalucci
New Eastern Outlook
2017年12月末“広範な”抗議行動がイラン中に広まっていると欧米マスコミが報じた。最初は経済的不満とされるものでかき立てられ、抗議行動参加者はやがて、イランの内政問題や外交政策について、アメリカ国務省をおうむがえしにする要求をし始めた言説は、2011年、アメリカが仕組んだ“アラブの春”であふれた“大衆蜂起”に関する見出しやソーシャル・メディアのものと区別がつかない。
抗議行動は、実際、今やアメリカが仕組んだことが明らかな“アラブの春”と全く区別がつかず、リビアやシリアのような国々の運命に関するいまだに新鮮な幻滅が、イランでの抗議行動の効果を弱める上で、効果があった可能性がある。
実際の騒動より長く続いた欧米プロパガンダ
イラン抗議行動に関する欧米言説を適切なものとし、推進する取り組みでのPolitico記事“イラン蜂起は一体なぜ死なないか”はこう主張している。
…自分たちが、子供をたべさせるのに苦闘する中、政府が、レバノン、シリア、イラクや他の国々での冒険に、何十億ドルも費やしていることで、イラン国民は立腹したのだ。イラン人が貧しくなるのに、政権は裕福になる。イラン人が苦しんでいるのに、政権の同盟者は強力になり、繁栄している。
ところが、Politicoが、ランド研究所の専門家アリレザ・ナデルが書いた記事を、2018年1月7日に公表したのは、抗議行動が既に“死にたえ”てからだ。
Politicoの記事は抗議行動がとっくに終わってから何日、何週も後に刊行された唯一のものではないことが、アメリカが支援する反政府集団が現地で行動をあおる中、欧米マスコミが、情報空間で、イランの社会不安をあおるため、何週間も - 何カ月もプロパガンダを準備していたことを示している。
アメリカ政策論文が示しているように、イラン国境内と、国境沿いでの反政府戦線や武装過激派集団の創設のみならず、“「イスラム国」(ISIS)と戦う”という口実でシリアや北イラクを含むアメリカ軍事基地によるイランそのものの包囲をも含む準備が、何年もかけたものであるにもかかわらず、抗議行動はあっというまに進行し、終わってしまった。
もし多数のイラン人が本当に広範な経済的、政治的不満で街頭で繰り出していれば - こうした不満のいずれも、まだ適切に対処されていないので、欧米マスコミそのものによっても、イラン政府による最少の力の行使で抗議行動がこれほど素早く消え去る可能性は少ないはずだ。
だがもし抗議行動が、欧米に組織され、イラン国内と外国双方で、違法で人気のない反政府運動に率いられていたのであれば、欧米が長年乱用したこのあからさまな破壊戦術、“広範な”抗議行動が、わずか数日間で消え去るのは、ありうるどころか必然だ。
ワシントンによる大規模な準備
イラン打倒の準備は、十年以上も昔にさかのぼり、共和党も民主党も、現在のドナルド・トランプ大統領と政権と、彼の前任者、バラク・オバマ大統領を含め複数のアメリカ大統領政権を通して続いている。
ブルッキングス研究所は、2009年の“ペルシャに至る道はいずれか? 対イランアメリカ新戦略のための選択肢”で、イラン政府を弱体化させ、打倒するための大々的な計画を詳細に説明していた。
論文には下記の章がある。
1章: イランが拒否すべきでない提案: 説得;
3章: 全面的実行: 侵略;
4章: オシラク・オプション: 空爆;
5章: ビビにまかせる: イスラエル軍事攻撃を可能にするか、奨励する
6章: ベルベット革命: 大衆蜂起を支持する;
7章: 反乱をあおる: イランの少数派と反政府集団を支持する、そして、
8章: クーデター: 政権に反対する軍の動きを支持する.
どの選択肢も、2009年以来、直接イランに対し、あるいはシリアに対し、紛争をイラン国境にまで広げる企みとして追求されてきたものであるのに留意すべきだ。これには、アメリカは妥当な関係否認をしながら、シリア空爆にイスラエルを利用することも含む。
これらの章の中で反政府派団体や武装過激組織を作り出して、支援する詳細な計画が説明されている。テヘランに圧力をかけ、イラン国民の間に分裂と不満を生み出すのに利用できる様々な経済制裁を説明している。テヘランを全面戦争へと追い立てるためのあり得る方法として、秘かに、そして公然と、イランを軍事的に攻撃する方法も提案している。
論文は、つい最近の抗議行動より規模も期間もより大きかった同じ年、アメリカが画策した抗議行動、アメリカが支援した“緑の革命”が失敗した後間もなく書かれていた。
転覆の前にイランを疲弊させ、手を広げすぎにさせようとしたアメリカ
“危険だが、全能にあらず: 中東におけるイランの権力の影響範囲と限界を探る”と題するやはり2009年に刊行されたランド研究所による別論文は、イランの外交政策は主に自衛を追求していると書いている。論文は、こう明確に書いている(強調は筆者による):
イランの戦略は基本的に防衛的だが、多少攻撃的な要素もある。内部の脅威に対して政権を守り、侵略を防ぎ、侵略か起きた場合、本国を守り、影響力を拡張するというイラン戦略は、大半は防衛的なものだが、地域におけるイランの野望の表現と結びついて、多少の攻撃的傾向もある。一部は、特に2001年9月11日テロ攻撃以来のアメリカ政策声明や地域での姿勢に対する反応だ。アメリカ合州国内の、あからさまな政権転覆議論や、イランを“悪の枢軸”の一環と定義する演説や、イランを取り巻く国々に基地を確保しようとしているアメリカ軍の取り組みから、イラン指導部は、侵略の脅威を極めて深刻に受け止めている。
論文は、シリアとレバノンのヒズボラとイランとの強いつながりや、イラクとのつながりの強化を論じている。こうしたつながりは、ランド研究所論文によれば、地域におけるアメリカ軍による攻撃に対し、イラン近辺に緩衝の生成を狙ったものだ。
2011年、アメリカは、中東と北アフリカ地域(MENA)全体を荒廃させる代理戦争に取り組み、リビアを打倒し、年末までに永久的荒廃におとしいれ、外国が資金と武器を提供する過激派が、トルコとヨルダン国境からシリアに多数押し寄せ、全国的紛争でシリアは破壊された。
リビアが最初に打倒され、更に代理部隊によるシリア侵略のための出発点として利用されている事実が、アメリカ-NATOによるリビア介入を推進した地域でのより広範な文脈を実証している。
要するに、アメリカは近辺にあるイラン国防の主柱を攻撃していたのだ。アメリカによる包囲を阻止し、ワシントンのこの地域の同盟諸国、特にペルシャ湾岸諸国が - イランを金のかかる地域介入にひきずりこむよう仕組まれた地域全体の不安定化を食い止めるためシリア、レバノンやイラクが、イランの国防戦略にとっていかに重要か知りながら。
イラン軍は、直接、間接の軍事支援を含め、シリアとイラクに相当な援助をしており、それがアメリカと欧米同盟諸国によりイランに課されている何十年もの経済制裁と組み合わさって、イランにおけるアメリカが支援する最近の抗議行動での、アメリカが利用しようとしている、いわゆる“経済的”不満に貢献している。
アメリカは、カタールやバーレーンを含む幾つかのペルシャ湾諸国で軍隊を維持しており、2003年の侵略以来、イラクでの軍事駐留を継続し、イランの東部国境アフガニスタンにも、2001年以来、アメリカ軍を駐留させている。
最近、アメリカは東シリアを占領し、シリア国内と北イラクのクルド民兵集団に大規模支援をしている。アメリカは、南西パキスタンや西アフガニスタンで、バローチー・テロリストにも、政治的支援および秘密の支援を行っている。
地図上で、アメリカは、2011年以来、イラン周辺沿いで、自国軍と、代理部隊に費用のかかる紛争に関与させて、イランの更なる包囲を継続しているのは明らかだ。
反政府派は意図的に“匿名”のまま
イランでの騒動 を推進し、恒久化を狙う煽情的な欧米の見出しにもかかわらず、欧米マスコミは、街頭に出た政治集団や過激派集団の正体を特定しないよう特に配慮している。“民主主義支持の抗議行動参加者”リストに載っているテロ組織から呼び寄せた過激派だったことが最後には明らかになったリビアやシリアでと同様、イランの抗議行動に参加した人々の多くにも、同様に悪質な背景がある。
イランでの抗議行動参加者は、2009年、ブルッキングス論文の“適切な代理人を見つける”と題する小見出しで、名指しされた反政府集団や人物の名前を呼び起こす。こうしたものの中には、アメリカ国務省が外国テロ組織に指定し、アメリカがこの集団に、より公然と資金提供し、武器を与えることを可能にするためだけの目的で、2012年にリストから外されたムジャヒディン・ハルク(MEK)がある。打倒されたイランのシャーの息子で現在アメリカ合州国で暮らしている亡命イラン反政府人、レザ・ パーレビーも含まれている。
イランにおける反政府派支持報道の大半は、アメリカ国務省のペルシャ語版ボイス・オブ・アメリカや、ニューヨークに本拠を置く“イラン人権センター”を含む公然とアメリカが資金提供するメディアによるものだ。
最近のイラン“抗議行動”が、テヘランに対するアメリカ陰謀の次の段階ではなく、イラン人の欲求不満の“自然発生的”表現だという主張は、欧米マスコミが世界中の人々に売り込むのが益々困難になっている不条理だ。
ワシントンの投資利益率
それでも騒動は、アメリカによるイラン包囲という続行中の取り組みと組み合わさると、少なくともテヘランに更なる圧力をかけて、地域中でのアメリカが支援する複数の代理部隊戦争に対して戦いながら、国内でも更なる資源を投入することを強いることになる。
“ペルシャに至る道はいずれか?”という2009年のブルッキングス論文は、はっきりこう述べている。
究極的目標は政権を排除することだが、国内の反政府派との協力も、アメリカ合州国か他の問題に対しても影響力が得られる、イラン政権に対する強制的圧力の一形式となり得る。
論文はこう続けている。
理論的に、アメリカ合州国は、不安定化あるいは、打倒で、政権を威嚇することで、威圧的影響力を得ることが可能で、その後、イランの核計画などの他の問題や、イラク国内の過激派支援に関して、譲歩を強いるのにこの影響力を利用できる。
ところが、アメリカがイランを不安定化するために外国が資金提供する反政府派や過激派集団を利用しようとするたびごとに - 特に欧米マスコミの支配に対する代替選択肢が増大し続ける中 - この戦術は、信頼性、持続可能性と実行可能性を一定程度失うことになる。
シリア、イラクやイエメンにおける長年の紛争の中、軍事的、経済的にイランが手を広げ過ぎている事実にもかかわらず、最近の抗議行動これほど早く廃れてしまったことが、イランのように準備万端の手ごわい国を標的にする際、アメリカにとって、この外交政策選択肢が、いかに持続不可能なものとなっているかを実証している。
テヘランのよく練り上げられた情報戦争、良く準備された治安部隊と、良く組織された反抗議行動の組み合わせが、今回の最新のアメリカが支援する転覆活動を鈍らせた。
テヘランに対するワシントンの明白な無能さは、シリア政府を打倒し、イラクに対する覇権を確保しようという取り組みでの苦闘とあいまって、アメリカが違法な覇権外交政策を巡り、何十年も作り上げようと取り組んできた正統性の妄想を更に弱体化させる。
ワシントンの益々ずさんで、あからさまなイラン介入は、南米から東南アジアまで、至るところで国々の不安定化を、ワシントンが準備する中、そうした年内の取り組みを弱体化させるだろう。アメリカが、アメリカ政治へのロシアによる介入を非難しているのだから、モスクワが“アメリカ選挙に影響を与えた”とされることが是認できないのに、アメリカが世界中の外国の選挙に、全米民主主義基金(NED)や米国国際開発庁などの組織を通して、あからさまに影響を与えるのみならず、ワシントンD.C.から、あらゆる反政府諸政党を露骨にあやつることがなぜ是認されるのかという当然の疑問が問われるべきなのだ。
イランを不安定化し打倒するための大規模ながら、これまでの所失敗しているワシントンの取り組みの投資収益率は実際疑わしい。イランや次にアメリカに標的にされる他の国々は、この最近の抗議行動を再検討し、次回には、もっとしっかり準備すべきだ。益々多くの人々が、アメリカが支援する破壊工作中に使われた戦術を知るようになり、これら戦術は益々効果が弱まっている.
シリアとイラクで依然負け続けているアメリカ
一方、イランにおける抗議行動は、シリア軍がイドリブに向かって前進し続け、アメリカが、シリアの東部地域における駐留継続を正当化しようと苦闘する今、シリアにおけるワシントンの不安定な立場に対する影響はほとんどないように見える。もしイドリブが確保されれば、アメリカとトルコの占領軍は、紛争においても、国際的な正当性でも周辺に追いやられてしまう。
シリア国内のトルコやアメリカ軍を標的にする非正規戦争は、両国の占領を、維持できない犠牲の大きい紛争へ変えかねない。シリア、ロシアやイランが支援する非正規軍と、戦っていると主張しながら、同時に、トルコやアメリカ自身が武器と資金をを与えてきたテロ組織を区別するのが困難になるだろう。
アメリカが支援する抗議行動を繰り返し利用しすぎて、地政学的あの手この手という、かつてのアメリカの貴重な手段でなくなったのと同様、標的にした国家に対するテロの利用は、ブーメランのように、ワシントンに戻ってこようとしているように見える。人類史上のあらゆる衰退しつつある帝国と同様、アメリカは簡単に“撤退”するわけには行かない。アメリカがMENA地域から完全に根こそぎにされるまでには、更に何年もの直接、間接の戦争が必要だろう。とは言え、新年前のイランでのアメリカが支援する破壊活動の目を見張るような失敗は、アメリカ覇権の不可逆的な衰退の更なる証拠なのかも知れない。
Tony Cartalucciは、バンコクに本拠を置く地政学専門家、著者で、これはオンライン誌“New Eastern Outlook”独占記事.
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2018/02/23/why-us-subversion-flopped-in-iran/
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