アメリカ軍戦力投射:常に備えあり?
2017年10月29日
F. William Engdahl
2017年1月に、D. J. トランプ・アメリカ大統領が就任して以来、将軍連中の一隊とともに、ワシントンは、ほとんどあらゆる方向を、核や他の軍事力で脅し、北朝鮮を完全に壊滅すると威嚇し、シリア反政府集団への兵器出荷を増やし、AFRICOM軍事行動を強化し、海軍艦隊を、南シナ海からバルト海に至るまで、想像できる限りのあらゆる方向に派遣し、ロシア国境沿いの軍隊を強化し、イランを威嚇している。
これら全ての大言壮語の背後にあるのは、士気が史上最低で、大半が底無しなほど準備不十分で、納税者にとって負担が重く、他の潜在敵国の最先端技術から遥かに遅れた技術を使っているアメリカ軍だ。全てが国防目的と大違いのことに軍隊が酷く酷使され、濫用されているかつて唯一の超大国衰退の症状なだ。
アメリカ海軍艦船の衝突
今年8月、アメリカ海軍第七艦隊のミサイル駆逐艦ジョン・S・マケイン号がシンガポール沖で、石油タンカーと衝突し、乗組員10人が死亡した。その二カ月前には、日本を本拠とする米軍艦フィッツジェラルド号が商船と衝突し、乗組員が7名死亡し、推計5億ドルの損害を被った。海軍の諜報捜査では、サイバー攻撃の証拠は皆無だった。今回に限って、ワシントンは、ロシアあるいは中国のせいにしようとしなかった。落ち度は自国にある。
信じがたいことに見えるかも知れないが、世界最大で最も手ごわい海軍で、ブッシュ-チェイニー政権時代、ドナルド・ラムズフェルドが国防長官だった時に、海軍士官の伝統的な訓練を廃止して、“コスト削減”するという決定がなされたのだ。高度なレーダー、ソナー、銃、ミサイルや、データ・リンク・システムなどの海軍電子工学機器が1960年代に、一層複雑化し、海軍は、最初の艦船に乗船する前に、将来の士官に過酷な12-14カ月の訓練をする水上艦乗組士官学校(Surface Warfare Division Officer School)と呼ばれるものを設立した。2003年、“効率を生み出すため”学校は閉鎖され、コンピューター・ベースの訓練(CBT)に置き換えられた。初期の訓練に出席する代わりに、新海軍士官は袋入りのコンピューター訓練用ディスクを与えられ、艦長は指揮下の将校の能力に責任を持てと命じられた。
本格的訓練を廃止すれば、“より高度な職業上の満足感をもたらし、将校の最初の遠征における投資利益率を高め、より多くの時間が、経験を積むのに使える”と主張し、決定の責任を負っていたティモシー・ラフリョール海軍中将は、多くの将校から厳しく非難された。訓練費削減は、年間、はかげた1500万ドルも節約した。しかも、自動レーダー装置や船舶自動識別装置(AIS)などの“ミス予防”電子機器への過度の依存から、実際に船橋の窓から危険を見張る監視員の廃止に至った。フィッツジェラルドやマケイン号では誰も監視をしていなかったのだ。
フィッツジェラルド号やマケイン号の艦長は艦長職を解かれたが、深刻な問題に対して、到底本格的な対応とは言い難い。腐敗の根は深い。
低い基準
1960年代のベトナム戦争の真面目な熟練退役軍人なら誰でも、外国による軍事占領からの独立のため、あるいは外国による攻撃と戦っている土地と民衆の中に、外国人兵士として入る場合、決定的な違いがあることを証言できる。アメリカ合州国とフランスで長年暮らした、ベトナム労働党中央委員会主席のホー・チ・ミンが、世界最高の装備をした部隊に対して、非常に装備不足の農民軍隊を率い、最終的に勝利した。
アメリカ合州国国防軍には、1991年のソ連崩壊による冷戦終了以来、説得力ある“悪の”敵がなかったという事実は、士気の上で大きな影響を受けた。2001年、アフガニスタンに行き、オサマ・ビン・ラディンを倒し、次にイラクで、サダム・フセインを倒し、次はリビアでムアンマル・ カダフィを倒し、今シリアでバッシャール・アル・アサドを倒そうとしているが、こうした“敵”のどれ一人たりとも、大半のアメリカ人にとって道徳的に説得力がない。
この文脈で、アメリカ国軍が、ワシントンと、ウオール街のその後援者連中が世界中でたがっているように見える戦争のための十分適任の知的な軍要員を採用するのに苦労しているのも驚くべきことではない。
今年、世界中でのミッション用に新兵定員を満たすため、アメリカ陸軍は、テストで下位三分の一の成績で、薬物使用経歴がある人々を含め、質の低い、いわゆるカテゴリー・フォーの新兵を採用せざるを得なくなった。
しかも、陸軍要員や海軍将校の補充が不十分なだけではない。
気がかりなパイロット不足
10月23日、Defense Oneによれば、アメリカ空軍は、B-52核兵器搭載可能爆撃機の編隊を、冷戦終焉以来、行われてこなかったf24時間警戒態勢の準備をしていることを明らかにした。バークスデール空軍基地の空軍兵たちは、1991年のソ連解体で中止されていた行動である、航空機を“警戒命令が発せられた場合に備え、”原子爆弾を装備したB-52が直ちに離陸できるよう準備している。
ところが、トランプの将軍連中の狂った新計画が問題を増やした。空軍には適格のパイロットが劇的に不足しているのだ。
10月21日、トランプ大統領は、ジョージ・W・ブッシュが2001年9月11日後に宣言した国家非常事態を延長し、空軍が1,000人までの退役パイロットを軍務に再度服するよう呼びかけることを可能にする大統領命令に署名した。命令はペンタゴン広報担当官によれば“空軍の深刻なパイロット不足を緩和する”取り組みの一環だ。
何十年もの間、年間予算が、中国、イギリス、フランス、ドイツとロシアを合計したものを超えるアメリカ軍は、到底勝負にならないイラクやアフガニスタンやリビアなどの軍事的敵対者と戦争をしてきた。
6月 米国陸軍士官学校は、「At Our Own Peril: 卓越後の世界における国防省リスク評価」と題する研究を発表した。研究の中で、著者たちは、第二次世界大戦後に作り出された、アメリカに支配される世界秩序は“大変なストレスを受けている”と結論づけている。彼らは更に“秩序とその構成要素は、ソ連崩壊で以来、一極体制へと転換し、概してアメリカ合州国と、その主要な欧米およびアジア同盟諸国によって支配されてきた。現状維持勢力は、集団的に国際的安全保障の結果条件を決定する上での優位に満足しており、ライバルとなる力と威信の中心が登場することに抵抗している”
研究は更に、アメリカは“ソ連崩壊後、20数年間享受してきた、優位、最高権威や卓越という難攻不落の立場を、もはやあてにすることはできない”とつけ加えている。
今や、中国が本物の大国として登場し新興ユーラシアという中国の構想と団結した大国としてロシアが急速な登場する中、アメリカ外交政策として健全な振る舞いでもなく、成熟した国家の振る舞いとして真摯でもない行動で、トランプ政権は、あらゆる場所で、あらゆる人々と戦っている。でっちあげた脅威や、自らの主権を主張する国々に対して、アメリカ軍を強化するのではなく、アメリカの崩壊しつつある国内インフラを構築し回復すること、本当のアメリカ経済を構築して、主要産業国として隊列に復帰することこそ、遥かに意味があるだろうと私は考える。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書で、本記事は、オンライン誌“New Eastern Outlook”独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2017/10/29/usa-military-force-projection-semper-paratus/
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属国大本営広報部洗脳呆導の嵐。瞥見するだけで腹がたつ。(ほとんど見ていないが)
孫崎享氏の今日のメルマガ題名をコピーさせていただこう。
トランプ横田基地より入国。米国軍人は、入国に関し、日本の法律は適用されないという地位協定の条項を利用しての入国。「米軍は日本の法律の適用外」の運用を示したもの。この入国の異例さをマスコミ報じない。隷属が常態化。
「カッコイイ」とのたまう見にいった男性の声が聞こえた。(見ているわけではないが)カッコワルイ属国民。
最近購入して、読み始めた本、『主権なき平和国家』伊勢崎賢治・布施祐仁著。
帯に、「いつまで占領状態を許すのか!」とある。
(もちろん急速に、主権なき戦争国家にかわりつつある。)
アフガニスタン植民地訪問者たちを連想する悲しさ。
IWJで、伊勢崎賢治氏、布施祐仁氏に著者インタビュー予定という。これも必見。
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コメント
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「勤め人と軍人は被搾取者という意味で同じである」
ドローンなどによる非対称攻撃を多用する米軍は、戦闘員という人的損失を避けるためと言いながら、必要な訓練コストを抑制してその全てを現場まかせとし、ミスやトラブルは現場指揮官の指導不足とばかりに責任を押し付けているようですね。そして経験豊かな優秀な軍人たちは(責任を問われて)現場から離れていき、残されたのは経験だけでなく能力も不足した未熟な軍人、という悪循環を生んで最終的に最も大きなコストを吐き出しています。
人材を育てるコストを削って全てを現場の責任とする、いう構図は資本主義社会の至る所に見られる共通のものではないかと思います。そもそも、資本主義社会における種々の組織体は軍隊となんら変わりません。身分・職分を区別して権限と責任の範囲を限定し、上からの命令は絶対で、異議申し立ては基本的に受け入れられず、現場が直面する危機を回避し問題を解決することを現場指揮官の権限の範疇で強いられます。その実、現場の判断での勝手な撤退は許されません。
人材の適切な配置と教育訓練はいずれも平時、非常時の平滑な組織運営と迅速な意思判断・組織行動に不可欠なのですが、平時はその効果が表に出ないために軽視されがちです。非常時にその問題が顕在化した時に初めてその責任が何処にあるのかを人は知るのです。でも、本来責任を取るべき人たちが決して責任を問われることは稀です。それは破滅的な問題に直面した時ぐらいです。世間の耳目を集めない限り、闇に葬られるのが世の常です。大抵の場合上手くいかないのは現場が責務を果たしていないから、と責任転嫁するのです。
組織の持続に必要な人材を育てるコストをケチるため替えが効かない構造になっているのが現在の組織体です。そのような文脈から、専門性の高い分野で優秀な人材を長く現場に縛り付けるため「ホワイトカラーエグゼンプション」が声高に叫ばれたのでしょう。効率化を突き詰めたら使い捨てが最も安上がりだった、というわけです。
投稿: 海坊主 | 2017年11月12日 (日) 11時45分
今回のトランプ大統領訪問についての私の見解は、一言で言えば「良かった」です。
こう言うと誤解されそうですが、
トランプという人物は台風の様なもの、というのが私の印象的認識だからです。
だから、その台風が過ぎ去った後、思ったよりは被害が少なかったので、そういう意味で良かったという事です。
それと、これでトランプという人物を知る事が出来たのも、良かったと言えます。
疾風の様に現れて・・・ではないけれども、彼のビジネスマンとしての手法を直接的に拝見できた事で、少しは先が読み易くなったとも言えるでしょう。
来日前、彼は「リメンバー パールハーバー」を口に出し、横田基地に降り立つというパフォーマンスで日本人を牽制したつもりだった。
ところが当の日本人は、大半が無関心。(マスコミだけが勝手にはしゃいでいただけ)
彼にしてみれば肩透かしを食らった思いだったでしょう。
今回は皮肉な事に、日本人の無関心が逆に被害を最小限に留めたと言えるのではないかと思う訳です。(一部のノータリンの人たちが少し騒いでいた様ですが)
トランプという人は根っからのビジネスマンなのであり、彼の手法は最初にガツーンと相手を威嚇して相手の頭を押さえ、主導権を握る事にあり。
それから相手の出方を覗いながら自分のペースに引きずり込む。
まーこれは以前から判っていた事ではありますが、彼のストレートな性格を拝見できて良かったと思いますね。
これで安倍は、TPPへの復帰を口に出せずに終わってしまったのだと思います。
(水面下では分からないけど)
そして日米FTAも今回は見送られた。
(これはNFTAを優先と、WTOの方を進める考え方からの事であろうとは思いますが)
従って今回の被害は、「日本は米国からもっと多くの武器を買う」程度に収まったので、私的には一先ず安堵です。
米軍が使い古した武器や出来損ないの戦闘機などを超プレミア価格で買わされるのは辛いところではありますが、属国の身としては文句も言えますまい。
寧ろ恐らくは、トランプ氏がTPPには完全に無関心である事が概ね明確になった事の方を喜ぶべきというのが、私の率直な気持ちです。
そして恐らくは、トランプ氏は自由貿易という名の新自由主義協定に付随するISD条項を嫌っているであろうと思えるところまで判明した事も、私を安堵させる理由です。
ミサイルの脅威は北朝鮮だけではないし、核兵器というのは、実質的には使用不可なのでありますから、本質的に恐れても仕方のない事です。
寧ろ恐れるべきはグローバリズムであり、新自由主義の方です。
種子法廃止、水道民営化は着々と我々の生活圏にまで浸食してきています。
これは生存権に関わる最も根源的な問題です。
多国籍巨大資本やグローバル投資家たちが利益を貪る為に、我々の命が供される事は、単に金を払わされる事よりも格段に大きな脅威だと思うからです。
本日、TPP違憲訴訟の第二幕がスタートします。
今回は植草氏もブログで取り上げていなかった事を少し寂しく思いました。
なので私がこの場を借りて申し上げさせていただきます。
余裕のある方はご参集を!
投稿: びいとるさいとう | 2017年11月 8日 (水) 07時45分