タイは地域の指導者になれるのだろうか?
2017年9月16日
Andre Vltchek
タイ人がどうしても外国語を学ぼうとしないことの代償を計算するのは難しい。しかしながら、大胆な推計の中には、損失が年間何百億ドルにのぼる可能性があると計算しているものもある。しかも状況は決して良くなってはいない。
バンコクは東南アジアの中心になりたがっていて、多くの基準で既に目標を実現している。スワンナプーム国際空港は地域で二番目ににぎわっている。国際報道機関のほぼ全てが、ジャカルタやクアラルンプールではなく、バンコクにある。いくつかの国連機関がバンコクに事務所を設けており、巨大モールや、ビルマ、カンボジア、ラオスや、遥か彼方、中東の人々を主な対象とする最高の民間医療機関もある。
もう何十年も、タイは売り込みに余念がなく、世界中の何百万人もの人々の関心をとらえている。
既に行っている以上に、本当に良くすることが可能なのか疑問視するむきもある。フォーブスによれば、バンコクは最近、世界最も旅行者の多い場所だ。
“マスターカードのGlobal Destination Cities Indexによれば、2016年、タイの首都で少なくとも一泊した旅行者は2150万人だった。比較すると、昨年ロンドンで一晩以上滞在した人々は1990万人で、パリは1800万人だった。ニューヨークは、それよりずっとリストの下位で、1280万人だ。”
2016年だけでも、3259万人の外国観光客がタイを訪れ、数値は減っていない。
統計は様々だが、今や旅行と観光は、タイGDPの約20パーセントを占めている。これは大きい。地域の他の国々より遥かに多い。
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タイにとって、これは皆良いニュース、あるいは少なくとも理論的にはそうだ。
しかし、国際的な雰囲気にもかかわらず、バンコクは比較的閉じられ、隔離された社会のままだ。
現在、バンコク中心部には伝統的なタイ・レストランより日本食堂の方が多いように見える。ところが、そうした店のどれかで、例えばアイス・ティーを、タイ語以外の言語で注文しようとしてみると、ひどく驚かされることになる。スタッフが外国語を決して話さない可能性が高いのだ。
しかももっと深刻なことがある。少なくとも理論的には外国人顧客に対応するはずの銀行で働いている人々が、タイ語以外ほとんど話せない。‘観光警官’さえ、被害に会ったことを報告しても、理解できない。
先日、バンコクで、何らかの理由で、送金にウエスタン・ユニオンを使っている外国雑誌社から、かなりの額の支払いを引き出そうとした。ウエスタン・ユニオンはタイでは大手のアユタヤ銀行(クルンシイ)と提携している。その支店の一つで、ベイルートやナイロビでさえ普通2分しかかからないはずの単純な手続きを終えるのに、屈辱的に90分もかけさせられた。銀行職員たちの無能さは、悪意に満ちた表情と無遠慮な無礼さ(欧米ではなく、アジアの基準で)で覆い隠された。何やらややこしい印刷物を示して、益々新しい‘追加情報’が加虐的に要求された。関係者六人の中の誰一人タイ語以外話さなかった。
*
概して、多くのタイ人は、外国人観光客や国外で暮らしている人々のおかげで、まずまずの収入を得られるのは自分たちの生来の権利だと思っている。高いレベルの知識や、外国語の流ちょうさや、質のよいサービスを提供する必要はないと考えられている。
現地通訳がかつて私にこう言った。
“皆タイに来たがります、皆ここが好きです、だから彼らは、タイ王国の流儀を受け入れるべきです。”
最近、プロ用ビデオ機器用品をバンコクのSONYショールームで買おうとして、店員たちが外国語を全くはなせないことに気がついた。スタジオで痛んだHDVテープ二本取り出そうとして、同じ経験をしたことがある。
何年も前、タイが世界で最も物価のやすい場所で、バックパッカーや冒険心ある人々にとっての安息の地だった時代なら、こうしたことも全く問題なかった。以来あらゆることが変わったのだ。タイは高級顧客向けサービスを提供しようと必死になっている。しかし同等なサービスや商品は、今ではロンドンやパリや東京の方が、バンコクより安いことが多い。スーパーマーケットの食べ物もそうだ。それでもなお外国語に達者になってはいない。
旅慣れた日本人が最近こう指摘した。
“2ドルという形ばかりの値段なら、不作法で外国語を話さないウエイトレスが出す煮すぎたまずいパスタも我慢できた。もしサービスが依然お粗末で、全員タイ語以外話さず、値段がベニスの洒落たレストランのうまいスパゲッティ料理の倍もする場合‘気前よく’しているなど到底無理だ”
*
ところが、タイは大勢の人々がやって来続けると確信している。
無数の欧米マスコミによる、極端に肯定的なプロパガンダというのも、その理由の一つだ。万一タイに何らかの批判があったとしても、そうしたものは、非常に穏やかで‘優しい’のだ。欧米の定説のあらゆる基本的要素 - タイがどれほど素晴らしく、くつろげて、安全で、快適か - が、そうした記事で擁護されているのだ。
何の不思議でもない! どの政権が実権を握ろうと、タイはアジアにおけるアメリカの筋金入り同盟国の一つであり続けている。
タイは、欧米が推進する経済体制を全面的に導入した。冷戦中、何千人ものタイ人共産主義者や左翼を殺害し、拷問し、少なくとも投獄した(介入不要だ)。
過去に、王国は(中国で)敗北し、大量虐殺をした蒋介石軍の兵士を多数快く受け入れた。タイはベトナムやラオスやカンボジアでの野蛮な爆撃作戦に参加し、しばしば自国パイロットまで貸し出し、パタヤや他の軍事空港に勤務するアメリカ人や、オーストラリア人や他の国々のパイロットや技術者のために、売春婦として働くように、地方から貧しい若い女性たちを集めた。
タイはあらゆる批判、欧米によってタイに注入されたほとんど全ての基本的権力要素に触れることさえ禁じる厳しい法律を採択している。
以来、この報酬は大きい。
現地人と外国人観光客とのやりとりが不作法なことが頻繁にあろうとも、タイは依然‘微笑みの国’という評判を保っている。
タイの殺人率の方が、アメリカ合州国より高いのに、タイ王国は依然比較的安全な場所だと見なされている。
欧米の主要マスコミは、民主的に選ばれた政府を倒す果てしない軍事クーデターを概して受け入れ、何度か見出しになった後、無視される。
事実上ありとあらゆる海岸線が不可逆的なほど過度に営利化され、破壊さえされているのに、タイは‘熱帯の楽園’として知られている。
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実は完全な英語を話すタイ人集団が一つ存在する - エリートだ。彼らの大半はアメリカ合州国やイギリスやオーストラリアで教育を受けている。彼らの一部は、ジェット族で、国際人の暮らしをし、世界のあちこちにいくつもの資産を所有している。
だが、外国人は二週間のバケーション中に、こうした人々とひょっこり出くわすことはない。私はこうした人々の何人かと、様々な機会に出会ったことがあり、彼らの外国語、特に英語の流ちょうさは素晴らしいと“証言”できる。
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率直正直に言って、私はバンコクが実際大好きだ。バンコクは無秩序で、大きくなりすぎたが、実に複雑で、わくわくする都市だ。私は全大陸の約160カ国で働いた事かあるが、バンコクは依然、地球上のお気に入り場所の一つだ。タイは私を混乱させ、私を打ちのめすことが多いが、タイ無しの人生は想像できない。タイは私がそれについて考え、ものを書くために訪れる場所の一つだ。
だがバンコクは決して親しみ易い場所ではなく、安くもない。バンコクは決してくつろいだ心地よい都市ではない。それがバンコクだ。私にとって、タイは素晴らしいが、他の多くの人々にとって、そうではない。しかし、タイは決して欧米の肯定的プロパガンダが描き出しているものではない。
タイは変われるはずだ。もしタイ国民が毎年何千万人もの外国人観光客を活用し、アメリカ合州国、ヨーロッパや日本だけではなく、もっと多くの他の場所について学べれば、大幅に進歩できるはずだ。タイにやってくるのは、欧米の人々だけではない。中国、インド、ロシアや中南米やアフリカからさえ観光客はやってきている。
また凶暴な資本主義しか選べる経済体制がないわけではない。欧米の“真実”も、もはや独占的なものではない。
タイにとって最善なのは、何百万人もの観光客たちから何か新しいことを学ぶため交流することだろう。交流や、様々な言語を学ぶことを通して学ぶよりも、良い方法が他にあるだろうか。
バンコクは今や世界都市で、国際色ある大都市だが、心根は偏狭だ。こうしたものは変われるし、変わるべきなのだ。外国人訪問者のためではなく、タイ国民のために!
アンドレ・ヴルチェクは、哲学者、小説家、映画製作者で、調査ジャーナリスト。「Vltchek’s World in Word and Images」の制作者で、革命小説『オーロラ』や、他に何冊かの本の作家。オンライン誌“New Eastern Outlook”独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2017/09/16/can-thailand-evlove-into-a-regional-leader/
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遠い昔、シンガポールとバンコクで、製品のプレゼンをしたことがある。
シンガポールでは、大講堂で一時間ほど説明した後、適切な質問・批判の嵐。
バンコクでは、同規模講堂で行ったプレゼン後、質問皆無なのに驚いた。
パタヤ出張時、ナイト・クラブで女性と話した際は、さすがに英語はそれなり通じた。
ドリアンが懐かしい。
三つ巴の戦いのようなことをいう大本営広報部呆導、見る気にならない。
一方、タブロイドの一紙、購入したくなってきた。もう一紙は決して買わない。
孫崎享氏による『新聞記者』 (角川新書)の紹介を今日のメルマガで拝読。
巨大書店では、おかしな連中がくさしている。つまり良い本だという証明のようなもの。
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ミンダナオ島マラウイ市-イスラム過激派掃討作戦の結末
東京新聞バンコク特派員山上隆之氏がマラウイ市で五か月にわたるイスラム過激派掃討作戦が終結したと報じた(10.24朝刊)。実は先週,衆議院選たけなわの時,例によって海辺の町の食堂に入って現地新聞を読んで過激派40数名が壊滅したことを知った。過激派も17の種類に分類できるそうだが,人質250人についてはどうなったか小生にははっきりと理解できなかった。
いずれにしても各新聞社ともフィリピンに現地取材したわけではない。アンドレ・ヴェルチェク氏が大好きだというバンコクで情報を取ったに過ぎない,と思っていたら,山上特派員の最後の文章が気になった:
・・・・・・ドゥテルテ大統領は戒厳令を布告し、米国などから支援を受けて作戦を展開。武装勢力は市民を「人間の盾」にするなど抵抗した。・・・・
NHK解説文でも米軍の「支援」をフィリピン政府軍が受けているというアメリカ大使館発表に対して,ドゥテルテ大統領は「即座に」これを否定していた(スプトニク日本語版)。今また「米国などから支援を受けて作戦を展開」したと山上氏は,東京に記事を送った。バンコク・大本営プレスセンターそのままの発表である。どういう風に支援したか,書いていない。
どうも米国はフィリピンの支援・援助の国になりたいと考えているようだ。海軍基地使用の問題もあるのだろう。3か月以内の米艦の滞在は憲法違反ではないと制限すれすれであるが,いつかは常時滞在を狙っているのであろう。
しかし問題は米軍の「支援」である。シリアやイラクでは米軍の「支援」でISISはシリア・イラクを侵略・破壊し,負けると最近では一部がトルコに逃げ込むことができたそうだ(ブログ『桜井ジャーナル』)。
フィリピン・マラウイ市における米軍の「支援」とは「邪魔をしなかった」ということに過ぎないのではないだろか。中東の米軍はシリア政府軍を攻撃しISISや反政府軍を助けたが,フィリピンでは政府軍による過激派掃討作戦を邪魔しなかった,ということだろう。
東アジアの情報が集まるバンコクを再び訪れてみたい。
追記: 殲滅された立てこもり過激派42人のうち,外国人は5名であった。ということは小生の予測がまた外れたことを意味する。サウジのサルマン国王や米空母C.ヴィンソンはISISを南ミンダナオのマラウィ市に運んでいなかった。また外国人5人のうち4人がマレーシア人であったという。
投稿: 箒川 兵庫助 | 2017年10月25日 (水) 17時46分
お邪魔いたします!
久々に訪問しましたが、いつも興味深い記事の翻訳、ありがたいです!!
で、今回の記事、おもしろかったです♪
なんか20年前の自分と完全に重なってて、、、
で、
「あー、だから英語を母語とする者たちは、英語が使えないアラブ世界なども嫌うんだなぁ」と、再度♪
言語だけではなく、米国人は「不便、危険」等だという理由(だそう)でアフリカに来ていませんでした。
英国人は若い子もいて、違ったんですけどね。
(エジプトは結構英語通じるみたいですが、英語だけだと見下され、仏語できると一目おかれる、って聞いた事あります。土地土地で、結構いろいろ面白いもんですね)
ちなみに日本食屋で日本人相手の店は、結構日本語通じます。日本語だけしかできない友人も、そこなら喜んで一人で行っていますw
エリート階級では無い者達は、
「気に居たら、その言葉を覚える」
んだと思いますね、今迄からすると。
ちなみに、我が嫁は、
日本語をちっとも覚えようとしません!!(英語もだけどwでもカンボジア語ネイティブレベルwカンボジア語はタイ語と全然違うのか、聴いても全く、見当すらつかないっすw)
投稿: unimaro | 2017年10月16日 (月) 03時58分