対立の像: 反南部連合国闘争を遥かに超えて広がる記念建造物倒壊
公開日時: 2017年8月19日 19:01
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© Aaron Bernstein / ロイター
南部連合国のロバート・E・リー将軍像を巡る衝突で、アメリカにおける、過去の奴隷制度の象徴との戦いが浮き彫りにされた。論議を呼ぶ歴史的遺物への対処には、時に残虐で、時に愉快な長い歴史がある。
記念建造物の倒壊は、何世紀、いや千年にもわたって称賛されているならわしだ。悪名高い、2001年 タリバンによるアフガニスタン、バーミヤンの仏像破壊、あるいは「イスラム国」(IS、旧ISIS/ISIL)による、シリアのパルミラや他の場所での蛮行などのように、文化的、宗教的な争いと結びついていることが多い。
だが大半は、過去の記念建造物が、疎まれた支配者や、打倒された政府の姿であるがゆえに、標的にされてきた。ファラオのトトメスIII世は、前任者ハトシェプスト女王の跡を、時には彼女の名を彼女の姿から消すことで傷つけようとした。
古代エジプトで最も有名な女性のファラオ、ハトシェプスト女王 カイロ・エジプト博物館 © Khaled Desouki / AFP
時には、支配者たちの像は破壊されるだけでなく、新政権にとって都合の良いものに作り替えられることもある。1792年、フランス革命時に、ポン・ヌフの、ほぼ二世紀の歴史があるアンリ4世記念建造物が破壊され、その金属は大砲鋳造に使われた。1818年、王政復古後、ヴァンドームの円柱の頂上にあったナポレオン像からのブロンズも一部として利用して、再建された。現在も、パリの歴史的建造物だ。
乗馬姿のアンリ4世像 © Jacky Naegelen / ロイター
アメリカ合州国も、その存在のそもそも始まりから、記念碑倒壊を行ってきた。1776年に独立宣言が批准されてわずか五日後、マンハッタンにあったイギリス王、ジョージ三世の金箔鉛像が引き倒され、マスケット銃の銃弾作りに使われた。
ニューヨーク市でのジョージ三世像倒壊。アメリカ革命戦争 © Bettmann / Getty Images
マスコミが出現して以来、像倒壊は、1956年、ハンガリー動乱時のソ連独裁者ヨセフ・スターリン像倒壊のように、変革あるいは変革未遂の強力な象徴に変えられることが多い、。ところが、暴徒は高さ8メートルのブロンズ像まるごと倒壊するのに失敗し、暴動が鎮圧された後も、台座上に、スターリンの長靴が残った。この残骸のコピーが、社会主義ハンガリーという過去に捧げたブダペストのメメント・パークの一部となっている。
ハンガリー、ブダペストのソボルパーク【彫像公園】メメント・パークにあるスターリン像のブロンズ長靴像 © Akos Eleod / Getty Images
記念建造物の引き倒しがニュースで報道された様子が、行為自体よりも重要となった、初めての例は、2003年のアメリカによるイラク侵略時のものだろう。フィルドス広場でのサダム・フセイン像破壊が生放送され、イラク人が圧倒的に介入を歓迎している証明だとワシントンが吹聴した。当時の国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、ベルリンの壁崩壊になぞらえた。
像倒壊を目撃していた数十人の欧米ジャーナリストの一人であるピーター・マースによれば、現地の現実はいささか違っていた。出来事は、アメリカ軍兵士が、巧妙に引き起こしたもので、広場にいたイラク人は少数で、おそらく、当時のニュースが人々にそう思わせたほど熱狂してはいなかったと彼は言う。像倒壊を巡るマスコミの歪曲を考えれば、あれは、あの戦争にぴったりのシンボルとして役立ったのだ。
2003年4月9日、イラク、バグダッド中心部で、イラクのサダム・フセイン大統領像が倒壊されるのを見つめるアメリカ軍兵士、 © Goran Tomasevic / ロイター
白人至上主義が要点だが、それ自体何ら新味はない南部連合国記念建造物とその役割を巡るアメリカでの論議が、先週末シャーロッツビルでの暴力沙汰後、突然脚光を浴びるようになった。悲劇的出来事が、今年のアメリカの主要事件、アメリカ国内における大きな分裂の象徴となった。
ソーシャル・メディアで増幅されて、メッセージはこういうものになっている。あなたは我々の側なのか、それともトランプや彼が支持するあらゆる偏屈者、人種差別主義者や、殺人者の側なのか? 言い換えれば、あなたは我々の側なのか、それとも過激リベラル、偽ニュース売りや、我々の過去、我々の価値観、我々の大統領を汚そうとする他のあらゆる連中の側なのか?
神に逆らった悪魔ルシファーの話は多くのキリスト教徒の伝統の一部だ。悪魔ルシファーの像がある教会には行ったことがない。
- チェルシー・クリントン (@ChelseaClinton) 2017年8月18日
衝突がロバート・E・リー将軍像の撤去計画を巡って始まったという事実はそれほど重要ではないが、それは巨大な余波を引き起こすことに成功した - 怒れる群衆による、他の南部連合国記念建造物破壊や、シカゴでのリンカーン胸像放火。
感情的津波の、予想外の(可能性がある)犠牲者として、シアトルにあるボリシェビキ指導者レーニン像が、右翼抗議行動参加者とエド・マレー市長双方の標的になった。双方にとって、共産主義指導者の記念建造物は、レーク・ビュー墓地にある南部連合国記念碑の保存賛成、反対を論じるための小道具に過ぎず、いずれの側も、それを引き倒すために、レーニン像所有者から買い取るつもりはなさそうだ。
アメリカ、ワシントン州、シアトル、フリーモントにあるレーニン像。 © Danita Delimont / Global Look Press
皮肉にも、シアトルのレーニン像は、共産主義あるいはソ連の偶像ではなく、珍品だ。元々はチェコスロバキアにあったのを、収集家が、廃品置き場から購入し、アメリカに持ち込んだものだ。社会のしきたりにとらわれないフリーモントの共同体は、美術展示の一環として使って、ボロをまとわせたり、クリスマスに、赤い星を頭上につけたりしている。像の元々の象徴的意味は、毎日眺めている人々には気にならないようだ。
© Alex L. Fradkin / Getty Images
世界の反対側、ウクライナで、シアトルでの芸術的ハイジャックの奇妙な酷似がおきている。ウクライナ現政府と民族主義集団は、ロシアと一緒だった過去の象徴を根絶することが狙いであり、ソ連時代に残された何百ものレーニン記念建造物は主な標的だ。今週、当局はレーニンの像全てを含め、ウクライナ国内の2,389のソ連記念建造物を撤去すると報じた。
感傷なり、市当局が費用を負担することになるためなりで、この“レーニン打倒”を嬉しく思わないむきもある。そこで、一部の町村では、レーニン記念建造物は、論議の的であるウクライナ人ヘーチマン、イヴァン・マゼーパの部下だったフィリプ・オルリクのような無難な歴史的人物へと献呈先を変えられた。
更に読む: 邪悪な側に引き込まれたレーニン: ダース・ベイダーに変えられた革命家像
あるいは、ダース・ベイダーにさえ! オデッサのレーニン像は、現地の政治家によって、ダース・ベイダーの服をまとったスター・ウォーズの悪役姿に作りなおされ、名前まで、そうなった。
ソ連内でのレーニン同様、彼の国内で卓越して展示されていた別の指導者の像には、また違う運命が待っていた。サパルムラト・ニヤゾフは - あるいは、彼がそう呼ばれるのを好んだ、テュルクメンバシュ、全てのトルクメン人の父- 称賛されるのを好んでいた。支配していた二十年の間に、トルクメニスタン終身大統領は推計14,000の像と胸像を建てた。
最大のものは、トルクメニスタン非同盟政策の象徴、高さ約100メートルの「中立性のアーチ」の頂上におかれた。両手を空に向けて伸ばして、輝くテュルクメンバシュは、常に太陽に面するように回転していた(太陽が像の顔を見るために空を回っているのだというジョークが人気だった)。
「中立性のアーチ」 Therin-Weise / Global Look Press
ニヤゾフ死去から数年後、後継者が、アーチと記念建造物を、アシガバートの中心広場から撤去するよう命じ、多くの人々は、テュルクメンバシュの巨大記念建造物を二度と見ずに済むと期待した - ファラオのトトメスがそうしたのと同じ理由で。彼らは間違っていた。建造物丸ごと市の郊外に移転しただけだった。ただし、像はもはや回転していない -たぶん、国民に背中を向けることがないように。
記事原文のurl:https://www.rt.com/news/400274-toppling-monuments-historic-incidents/
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フィルドゥス広場での像引き倒しのヤラセについては、2008年の下記記事でも触れられている。
戦争物語の制作では、ペンタゴンはハリウッドの強敵-『戦勝文化の終焉』あとがき
2012年、シリアで取材中に銃撃で亡くなった日本人女性ジャーナリストも像倒壊現場にいあわせ、違和感を記事にしていた。
強権的独裁者ニヤゾフ、トルクメニスタン大統領在位15年。
今日選挙がおこなわれる現職茨城県知事は在位24年だという。
今回は官製候補ではなく、反原発派に勝ってもらいたいもの。
※【IWJブログ・特別寄稿】10月の「トリプル補選」への布石で勝利を狙う自民党が大物国会議員を次々と投入!7期目を狙う現職候補と一騎討ち!「再稼動阻止」を託せるのは誰だ!?(ジャーナリスト・横田一) 2017.8.26
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/396404
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ISISによる破壊対象ファ-ストは何か?
記念建造物破壊について面白い記事でした。ご紹介,感謝申し上げます。
永遠の都バグダッドが米英軍によって破壊されてしまいました。小生が訪れる前にバグダッド国立博物館が破壊され,貴重な品々が盗まれたことは非常に残念でした。古都ニネベも同じでしょう(もちろん小生の訪問後に破壊されてもいいというわけではありませんので念のため申し上げておきたいと思います)。
いずれにしても,平山画伯らが大反対したバ-ミャンの立像にして仏像破壊。破壊すると予言し,破壊したタリバンを恨んでも恨みきれないと思います。パルミラに至っては,破壊または崩壊がすでに進んでいるので,これ以上破壊する必要がないと思われます。それにも関わらず,ISISはパルミラを破壊しました。
バグダッド,バ-ミャン,パルミラ等の蛮行を考えたわけですが,藤永茂先生の『IS最後の謎が解けた(2)』(25 Jun.,2017)の一節を思い出しました;
・・・・・しかし、前回の終わりに書きましたように、ISにリクルートされた若者たちが、これ見よがしに顕示する異様なまでの残忍性が何処からやってくるのか、これが私にとっての最後の謎でした。この謎が、ディラー・ディリクの最近の論考を読んだおかげで、解けたような気がします。
「イスラム教の信仰者であるかないかに関わらず、議会民主主義の政治形態を持ち、一応の安定性を示している、例えばドイツとかフランスとかイギリスといった国々から、何千人という数の若者たちが遥々とシリアやイラクまで出かけて行って、女性や子供たちを含む他の人間たちにおぞましい暴力をふるう殺人者に成り果てるのは何故か?」 これが設問です。私にとってのISの謎です。
謎の答えを一口で言えば、現代社会に生きる若者たちに覆いかぶさっている閉塞感、疎外感、無力感がその原因でしょう。・・・・・(藤永先生はD.ディリク氏の論文を読んでこの結論に至ったようです)
記念建造物は人間ではありませんが,ポ-ランドやウクライナの場合は,『(「疎まれた)支配者』に対する反発から,破壊されたと思われます。しかしパルミラは,すでに破壊され,あるいは自然風化しているのですから,ISISが改めて破壊する必要はないので,宗教的な争いでもなさそうなので,判断に迷っているところです。ただどちらかと言えば,それまでの象徴を全て壊すという考えがあったのかも知れません。
チェルノブイリ原発が炉心溶解した後,商談でハンガリ-を訪れたことがあります。その時,「メイド.イン.ドイツ」と裏に表示された商品がありました。ベルリンの壁が崩れる前でしたから,ドイツという国はまだ存在しないので,この表記「ドイツ製」は正しくはないのです。しかし,ベルリンの壁があろうとなかろうと彼には「ドイツ」しかないのでしょう。同様に,アメリカ南部人にとって,いくら北部に戦争で負けたからといっても,南部アメリカというより,われわれの南部の「アメリカ」しかあり得ないわけです。
ところで翻って思うに日本では,京都・奈良・鎌倉の仏像,二宮尊徳の像,西郷隆盛の像,田中角栄の像,籠池・加計孝太郎の疑惑全体像などいろいろあると思いますが,ISISによる破壊対象ファ-ストはどれでございましょうや。
追記: 秦の始皇帝の焚書坑儒も一種の文化破壊でしょう。旧日本軍が敗戦を迎えると,内務省による文書隠し,つまり,内務省関連の文書をほととんど全て焼いたそうです。自分達の犯罪を隠そう,隠そうと日夜焼いたに違いありません。しかしその一部がどこかに残っているような気がしてなりません。
投稿: 箒川 兵庫助 | 2017年8月29日 (火) 00時05分