テロの罪をなすりつける
2017年6月5日
Paul Craig Roberts
ブレジンスキーの死が、ブッシュ/ブレア/ネオコン/イスラエルによるテロを、ブレジンスキーになすりつけるのに利用されている。例えば、下記を参照 http://www.globalresearch.ca/the-real-story-of-zbigniew-brzezinski-that-the-media-isnt-telling/5593085 および http://www.globalresearch.ca/the-geopolitical-grand-chessmaster-the-legacy-of-zbigniew-brzezinski/5593298
こうした記事の主な効果は、憎悪の対象をもう一つ産み出すことだ。オーウェルの小説『1984年』のビッグ・ブラザーの世界同様、欧米世界は憎悪の対象なしでは済まないのだ。
ブレジンスキーに関する記事で、私は冷戦戦士とネオコンとの重要な違いを書いた。http://www.paulcraigroberts.org/2017/06/02/zbigniew-brzezinski-paul-craig-roberts/ (日本語訳は、こちら)冷戦戦士は、ソ連の脅威への対処に直面した。この脅威への対処方法は様々あり、冷戦戦士の間にも意見の相違があった。ブレジンスキーは、右翼の“撃退”政策、つまり、ソ連に政策を変更させ、前進をあきらめるよう強いるため、武力行使や脅すのに反対した。ブレジンスキーは、アメリカの強みは、自由民主主義としての評判にあり、冷戦における主要な武器として、アメリカ政府は人権や国際法など思想を活用すべきだと考えていた。
ソ連崩壊によって、アメリカの単独行動主義に対するあらゆる制約が無くなり、アメリカが単極覇権国となり、ネオコンが権力の座についた。ネオコンは、アメリカの世界覇権を実現するため、この力を利用することを主張している。これは、ブレジンスキーのアメリカの卓越という考え方とは違っている。卓越は覇権と同じではない。卓越は、他の大国の存在を許さなかったり、他のすべての国々に、ワシントンの命令をきかせたりすることを意味しない。卓越は、誰が最も評判が高いか、最も影響力があるかで決まる。ブレジンスキーにとっては、ロシアが卓越するより、アメリカが卓越する方が良かったのだ。
本質的に、冷戦戦士としてのブレジンスキーの人生は、ソ連崩壊で終わったのだ。しかし、著名な戦略決定者が、隠遁生活に引きこもるのは困難だ。ブレジンスキーは、ロシアの脅威なしには、意味ある重要人物ではいられなかった。ソ連崩壊後の六年後、1997年に刊行された『地政学で世界を読む――21世紀のユーラシア覇権ゲーム』などの後年の仕事で、ブレジンスキーは、ソ連後の規模に閉じ込めるため、アメリカによるユーラシア内への食い込みを実現して、ロシアの復活を防ぐことに注力した。彼の狙いは、アメリカの卓越にとってのライバルとして、世界の舞台にロシアが再起する可能性を防ぐことだった。
『地政学で世界を読む――21世紀のユーラシア覇権ゲーム』のために、彼は一種のネオコンであるように見えてしまう。しかし、これは当たらない。彼はネオコンによる2003年のイラク侵略に反対していた。彼は、ジョージ・W・ブッシュのネオコン外交政策を、アメリカの評判を深く傷つけた大災厄だと非難し、ブッシュが侵略の口実をでっち上げるのを支援したイギリスのトニー・ブレア首相への軽蔑の念を表明している。
ソ連のアフガニスタン侵略への対応として、カーター政権が、ムジャヒディンに武器を与えたのだから、ブレジンスキーが、テロを作り出した人物だという考え方は馬鹿げている。ムジャヒディンはテロリストではなかった。彼等は侵略者ソ連と戦うイスラム教徒だった。タリバンはテロリストではない。彼らは、アフガニスタンで、イスラム教国家を目指して戦っている。アメリカによるアフガニスタン侵略が、アメリカとタリバンの対立を引き起こしたのだ。
ブレジンスキーは、どのイスラム教徒に対しても、侵略も攻撃も殺害もしていない。ところが、ネオコンは、ブッシュと、ブレアを利用し、NATOは、七カ国の丸ごと、あるいは一部を破壊し、何百万人ものイスラム教徒を殺害し、四肢を損ない、強制退去させた。イスラム教徒に対するこの壮大な犯罪が、ごく僅かなテロしか引き起こしていないのは並外れたことだ。七カ国のイスラム教徒に対する欧米同盟のテロこそ、テロだ。
イスラエルによれば、1940年以来、パレスチナ人が無辜のユダヤ人を脅してきたという。パレスチナは文字通り存在していないのだから、到底、本当でありえない。実際、パレスチナは今や、イスラエルに年中脅迫されているゲットーだ。これもブレジンスキーが引き起こしたのだろうか?
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2017/06/05/shifting-blame-terrorism/
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孫崎享氏の今日のメルマガ、驚いた。戦時と戦後、そのままつながっていたのだ。新刊『日米開戦へのスパイ』が待ち遠しい。
記事題名は以下の通り。
『日米開戦へのスパイ』(7月発売予定)、ゾルゲはソ連のスパイだ。それは事実。だが日本への実害は、実はない。東條が近衛追い落としに使った大冤罪事件だ。問題はその時の担当検事井本台吉、布施健は戦後検事総長。井本は砂川事件の担当検事。
末尾を引用させていただこう。
井本台吉、布施健は戦後検事総長になっている。吉河光貞は公安調査庁長官である。
つまり、冤罪に加担した思想検事は戦後検察の中枢になったのである。
それだけではない。
砂川事件、伊達裁判官による米軍の日本駐留違憲判決に対する最高裁での裁判の時の担当検事が井本台吉である。そしてこの裁判の判決が、今日の集団的自衛権を支える法的根拠として使われた。
ゾルゲ事件は単なる戦前の事件ではない。
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