トランプ大統領の‘アメリカ・ファースト’を試す世界の発火点
Finian CUNNINGHAM
2017年1月27日
今週、南シナ海で海上封鎖を実施しようとするワシントンによるいかなる動きも、武力紛争を引き起こすだろうという北京の警告で、中国とアメリカ間の言葉の戦争が再び燃え上がった。
だが、こうした中国との緊張は、ドナルド・トランプ大統領が宣言したアメリカ・ファースト政策を試しているいくつかの世界的発火点の一つに過ぎない。
アメリカ・ファーストというのは、賞賛に値する大志のように聞こえる。だが、アメリカが簡単に内向きに方向を変えて、世界的な良き隣人のように振る舞えるようになると考えるのは浅はかだろう。アメリカの経済権益は諸外国支配に依存しており、これは、つまり他の国々との紛争と戦争を意味している。どのような大統領がホワイト・ハウスの主になろうとも、これがアメリカが率いる資本主義の厳しい現実なのだ。
トランプは、アメリカ軍の海外介入を減らすという綱領で、選挙活動した。1月20日の就任演説で、大統領として、民族主義者主導型のアメリカ経済と社会の構築に注力するとして、彼は再度、アメリカ・ファーストの誓約を強調した。アメリカ国内での利益を最優先にするため、彼の前任者たち、バラク・オバマと、ジョージ・W・ブッシュや、彼ら以前の連中による海外での軍事的冒険主義は放棄するというのだ。
トランプは、連邦議会での就任宣誓で、アメリカは“世界の国々との間に友情、そして友好を求め”自分たちの生き方をほかの誰にも押し付けようとはせず、皆が見習うお手本として輝くようする”と宣言した。アメリカのインフラを“荒廃し衰退”させないため海外での軍国主義の時代は終わったと彼は述べたのだ。
ところが、こうした壮大な発言をしてから数日で、海外での紛争に進んで巻き込まれ続けようとしている点で、トランプ政権はこれまでのあらゆる政権と実に似て見える。
中国との緊張を、今週、ある際立つ見出し記事がまとめた。“トランプは南シナ海での戦争の用意はできているのか?”とワシントン・ポストは問うた。この記事の後、紛争中の戦略的海域にある埋め立てた島嶼への中国によるアクセスを阻止する用意ができているというホワイト・ハウスの声明が出された。アメリカによるそのような海上封鎖は、戦争行為にあたるはずだ。紛争中の領土を巡って中国に反撃する際にオバマ政権が賭をしたものを、これは遥かに超えている。
トランプ政権による南シナ海を巡る挑発的瀬戸際政策は、気味の悪いことながら、一連の北京に対する侮辱の最新のものに過ぎない。トランプは中国に対して、不当な貿易慣行という非難を繰り返し、中国の輸出に懲罰的関税を課すと威嚇し、ワシントンが長い間奉じてきた一つの中国政策をあざ笑い、北京の歴史的主張台湾を巡って中傷した。
アメリカ-中国にらみ合いの重大さは、中国の大陸間弾道ミサイルが、アメリカ本土を狙うことができる中国の北東地域に新たに配備されたニュース報道によって強調された。この動きは、当然、トランプ政権の好戦的な言辞に対する北京による対応と見なされる。
これだけではさほど困惑するものでないとしても、中国はトランプ大統領が火遊びをしているように見えるいくつかの他の世界的発火点の一つに過ぎない。北朝鮮、イラン、ベネズエラと、ロシア西部国境で進行中のNATO軍隊エスカレーションが他の主なリスクだ。
今月早々、北朝鮮指導者金正恩は、最終的にアメリカを攻撃する能力を得られるまで、北朝鮮はICBM技術開発を継続すると誓約した。(何百発ものアメリカ核ミサイルが、既に北朝鮮攻撃が可能だが、この非対称は、なぜか容認されている。) 典型的な曖昧な言葉で、トランプは、金正恩に“そんなことにはならない!”というツイッター発言で反撃した。この素っ気ないメッセージは、既に孤立し、酷く制裁されている北朝鮮に対するアメリカの先制攻撃を意味するものと受け止められかねない。そのような遠回しのアメリカの脅しは、更なる軍国主義を引き起こすに過ぎない。
もしトランプがアメリカ国内の事業や社会の面倒を見るのを本気で優先事項にしているのであれば、彼は朝鮮戦争が1953年に終わって以来、六十年間、朝鮮半島に配備されている何万人ものアメリカ軍兵士の削減を交渉しているはずだ。軍隊のみならず、アメリカの戦闘機、戦艦、ミサイルや懲罰的経済制裁も。トランプは外交関係正常化のプロセスを確立するため、平壌との多国間地域交渉を復活させているはずだ。逆にトランプは、平壌に対する軍国主義という、失敗してカチカチ時を刻んでいる時限爆弾政策を継続している。
イランに対しては、トランプは平和的な外交を推進するのではなく、混乱状態にまたしても油を注いだ。“これまでで最悪の協定”だと呼んで、国際核合意を破棄すると彼は威嚇した。今週、アメリカは、テヘランと、ロシア、中国や欧州連合を含む他の六者の間で昨年まとまった包括的共同作業計画(JCPOA)を実施し損ねているとイランは語った。アメリカによる協定実施妨害で、貿易の機会が失われ、イランは何十億ドルもの損害を被ることを考えれば、イランのいらだちはもっともだ。
トランプがジェームズ‘狂犬’マティス元大将を、国防長官に任命したことはbodes for イランに対する遥かに敵対的な姿勢。イラクで海兵隊司令官をつとめていた時期、マティスは、イランがイラク武装反抗勢力を支援しているとされることを巡って、イランに対するタカ派的見解で知られていた。新たなペンタゴン長官は、ペルシャ湾でイランとアメリカ海軍の艦船の間で継続している緊張を巡り、武力反撃もしたがっている。激変的な出来事がいつ何どきおこるかも知れず、トランプの短気な閣僚たちは、エスカレートしたくて、むずむずしているのだ。
イランとの間のこうした緊張に更に油を注いでいるのが、地域において“イラン脅威をいかに封じ込めるか”について、トランプが、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフと会談しているという報道だ。もしトランプが、イランとの核協定を破棄して、対策を進めれば、イランは核開発計画を再開し、ICBM実験を強化することが予想される。かくして、イランを攻撃するというトランプのタカ派徒党の願望を満たすことになる。
もう一つの潜在的発火点はベネズエラだ。トランプが国務長官に指名したレックス・ティラーソンは、先週、この南米の国の“無能で、機能不全の政府”に対する政権転覆を狙う意図を表明した。まだ承認されていないトランプ被任命者に対する議会での質問に答えて、ティラーソンはこう述べた。“もし承認されたら、半球の我々の友人たち、特にベネズエラの隣国ブラジルとコロンビアや、米州機構のような多国籍機関と緊密に協力して、交渉によるベネズエラの民主的統治への移行を目指すことを進めたい。”
“交渉による民主的統治”というのは、政権転覆の婉曲表現だ。トランプの外交最高幹部予定者によるこのような見解は、オバマ政権下でのものと比較して、ニコラス・マドゥロ政権に対する敵意の過激な強化を示すものだ。オバマ政権は、確かにカラカスに経済制裁を課し、ベネズエラ国内で、社会主義政府に対する政治的反対勢力を醸成した。だが、ティラーソンは、“民主的統治への移行”に対する一方的要求をして、今やあからさまに、ベネズエラ政府の正当性を疑問視しているのだ。
ベネズエラは、エクソン・モービル最高責任者ティラーソンが、アメリカ巨大企業の権益と、個人的復讐に巻き込まれている場所だ。トランプが彼を国務長官に指名したわずか数週間前まで、ティラーソンが率いていたエクソン・モービルは、アメリカの主要巨大石油企業だ。2007年に、マドゥロの前任者ウゴ・チャベスのベネズエラ政府が、同社を国有化した際、この会社は、不動産や他の資産160億ドルを失った。2014年に、国際仲裁裁判所は、ベネズエラに、石油会社に、16億ドル補償するよう裁定した。これは、エクソン・モービルが告訴した金額のわずか約10パーセントだ。業界内の一部はティラーソンは“煮え湯を飲ませた”ベネズエラを決して許さないと語っている。
もし、しかもそれはありそうに見えるのだが、来週、アメリカ上院が、国務長官としてのティラーソン承認を決定すれば、注目すべき主要問題は、ワシントンがベネズエラ政府に対して、前のオバマ政権によって既に課されているもの以上に、更なる経済制裁をするかどうかということになる。ワシントンは南米の供給国からの石油輸入を削減し、既に脆弱なベネズエラ経済に、更なる経済的圧力を加える可能性がある。またティラーソンが議会聴聞会で答えた通り、更なる挑発的な動きで、ワシントンが、ベネズエラにおける“民主的統治”への政治的移行を求めて、あからさまに動き始めることになろう。
ロシアに関しては、ドナルド・トランプが頻繁に、モスクワ、特にロシアのウラジーミル・プーチン大統領との正常な関係を回復すると呼びかけていることからすれば、これはありそうもない不安定な国際関係シナリオに見えるかも知れない。だが、より友好的な関係という個人的提案を除いては、全体的な地政学的状況は悪化し続けている。
今週、アメリカが率いるNATO軍事同盟のドイツとベルギーの軍隊が、ロシア領に隣接するリトアニアに陣を敷いた。これは今月始め、アメリカ軍兵士と、何百台もの戦車と装甲兵員輸送車か、アメリカから新たに送られた、ポーランドとバルト諸国において継続中のNATO増強の一環だ。このNATO軍のロシア国境における容赦ない増強は、モスクワにより“侵略”だと非難されている。ところが、NATOのエスカレーションは“ロシア侵略からヨーロッパを守る”ことを目指しているという空虚な公式正当化で継続している。
ジェームズ・マティス国防長官や、マイク・ポンペオ新CIA長官や、国務長官被任命者レックス・ティラーソンを含めトランプ閣僚全員が、東ヨーロッパへのNATOの拡張に対する度をこす支持を表明した。同じ閣僚メンバーが、クリミア併合とウクライナ内への侵入とされるものによる緊張を、偏向的にロシアのせいにしている。実際、ティラーソンは、南シナ海での中国の領土主張を“ロシアによるクリミア奪取”になぞらえた。
少なくとも、世界の五つの地域は、トランプ大統領の自称アメリカ・ファースト政策を試す燃え上がりやすい緊張をはらんでいる。こうした分野の全てで、トランプ政権が、懸念を更に掻き立てている責任を負っている。もし新大統領が、海外でのアメリカ軍国主義を縮小し、実業上での彼の洞察力とされるものを、アメリカ国内経済と社会の復活に捧げるという約束を本当に守っているなら、我々は国際的対立を和らげる断固とした取り組みを目にしているはずだ。中国、北朝鮮、イラン、ベネズエラとロシアに関しては、逆のことが進行中のように見える。
トランプ大統領に関する多くの好意的論評が、彼のアメリカ・ファースト政策は、アメリカの“グローバル主義者”や“ネオコン”や“ネオリベラル”からの歓迎すべき離脱だと主張している。その前提は、愛国主義的政治とされるトランプ・ブランドは戦争挑発というアメリカ政策からの新たな離脱だというものだ。
これはアメリカ政治に対する無邪気な見方、偽りの区別のように見える。言葉がどうであれ、アメリカ大企業資本主義は、帝国主義覇権、紛争と戦争が基礎なのだ。たとえトランプが、経済的生産をアメリカに戻すように変えても、アメリカには、天然資源を搾取し、商品を輸出するためには、依然、海外市場を支配する必要があるのだ。これはつまり、何十年もアメリカの特徴であり続けてきた、軍事力によって支えられた同じ外交政策を遂行することを意味する。
現代資本主義国家としてのアメリカ合州国の、生得的な攻撃的性格に留意されたい。いくつかの歴史に関する記述によれば、1776年の建国以来、241年間の存在期間のうち、そのほぼ90パーセント、アメリカは戦争をしてきた。アメリカは、何らかの戦争、クーデター、対クーデターや代理紛争に関与せずに十年と過ごしたことがないのだ。戦争はアメリカ資本主義の基本的な機能だ。
だから、ドナルド・トランプが当選し、言辞が変わったとて、この客観的事実が変わることはない。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2017/01/27/global-flashpoints-test-trump-america-first-presidency.html
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戦争こそ、あの国の歴史であることについては、下記記事を訳してある。
アメリカは、その歴史のうち93% - 1776年以来の239年中、222年間が戦争
大本営広報部には飽きたので、たまたま放送されていた映画『あん』を見た。数年前、今もある施設のひとつで、「重監房」遺構を見学したことがある。あの時聞こえたピアノ、どなたが弾いておられたのだろう。たしか「ゆうやけこやけ」だった。
孫崎享の今日のメルマガ、末尾の一部を引用させていただこう。
何もコメントできないというのは安倍首相が対米関係ではスネ夫以上の何物でもないことを示している。国際社会は安倍首相がどのような発信をしているかに無関心ではない。
ジャパン・タイムズは次を報じた。「トランプの移民禁止が世界的非難を引き起こしている中、東京は沈黙」
ビフのモデルはトランプ氏、「バック・トゥ・ザ…」脚本家明かす という記事を読んだことがある。
いじめっ子のビフだ。いわばスネ夫のような主人公の父親、ジョージ・マクフライが、好きな彼女、つまり母親と結婚できなければ、主人公のマーティが生れることはない。そこで写真中のマーティの姿は次第に消えかかる。マーティがギターを引く手にも力が入らない。幸い、弱虫な父親、ジョージ・マクフライが勇気を振り絞って、めでたしとなる。
実際の宗主国・属国関係では「あなたのアメリカ・ファーストはわかります。私もアメリカ・ファーストです。」と答え、一方的な条件丸飲みのFTAを締結することなり、我々の係累の影はうすくなるという、映画とは正反対の結果。
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