自家製で、目新しくはないアメリカの‘偽ニュース’
Chris Hedges
2016年12月18日
Truth Dig
アメリカのマスメディア界は“偽ニュース”が圧倒している。何十年もそうだ。この偽ニュースはクレムリンが発しているわけではない。この年商何十億ドルの産業は、個人や政府や企業のために、世論を操作すべく、広告代理店、広報係や、広報部が巧妙に仕組み、運営されているのだ。この我々が現実を認識する仕方を形成すべく、プロパガンダ産業は、疑似イベントを仕組む。大衆はテレビやパソコンや印刷媒体経由で一日24時間流されるこれらのウソにどっぷり浸かっているため、視聴者や読者は、もはや真実と虚構を区別出来なくなっている。
ドナルド・トランプと、彼を取り巻く人種差別主義の陰謀論者、将官や億万長者連中は、市民的自由の破壊や、民主的諸組織機の崩壊を継承し、活用したように、この状態を継承し、活用した。トランプがこの政治的、道徳的、知的真空を作り出したのではない。それが彼を生み出したのだ。それが、事実が意見と交換できる、有名人であるということだけで、有名人が巨大な拡声器を享受し、情報はおもしろいものでなければならず、真実かどうかと無関係に、我々が信じたいと思うことだけを信じられる世界を作り出したのだ。文化や報道機関をバラエティーショーに変えれば、トランプのような煽動政治家が現れるのだ。
ジャーナリストは、客観的な世界を説明したり、普通の男女に発言させたりしようとすることを、とうの昔にあきらめたのだ。連中は、大企業の要求に迎合するよう条件付けられている。年何百万ドルも稼ぐことが多いニュースキャスター連中は廷臣と化した。連中はゴシップを広めている。連中は消費主義と帝国主義を推進している。今後の閣僚メンバー指名に関する世論調査や、戦略、プレゼンや、戦術や憶測を連中は止めどもなく話し続ける。連中はニュースの穴を、自分は良かったと、我々が感じられるような、ささいな感情的な話題で埋める。連中には本当の報道をする能力は皆無だ。連中は、あらゆる議論を組み立てる上で、専門の宣伝屋に依存している。
プレス・リリースをちっと手直ししたり、公式ブリーフィングや記者会見に出席したりするのが経歴の全てだという著名ジャーナリスト連中がいる。私がニューヨーク・タイムズで働いていた頃、そういう連中を何人か知っている。連中は、権力者の速記者として働いている。そうした記者の多くが、業界では大いに尊敬されているのだ。
マスメディアを所有する大企業は、かつての新聞帝国とは違って、ニュースを単なる収入源の一つと見なしている。企業内で、複数の収入源が競合しているのだ。ニュース部門が十分な利益と見られるものを生み出さないと、斧が振り下ろされる。内容は無関係なのだ。連中の大企業大君主に恩義を受けているマスコミの廷臣連中は、連中の特権的な高給の地位に必死でしがみついている。連中が、大企業権力の権益に奴隷のように仕えるので、連中が見えない存在にしてしまったアメリカ人労働者たちから憎悪されている。連中は、憎まれるに値するのだ。
新聞の大半の部分、とりわけ“ライフ・スタイル”旅行、不動産やファッションは“1 パーセント”に受けるように構成されている。こうしたものは広告用の餌だ。あらゆる新聞で、わずか約15パーセントがニュースだ。政府内外のPR業界が提供する15パーセントを引くと、ニュースの量は一桁に落ちる。テレビや、ケーブル・ニュースでは、本当の独自に報じられるニュースの値はほぼゼロに近い。
偽ニュースの目的は、現実を圧倒する架空の役柄や感情を作り出して、世論を形成することだ。ヒラリー・クリントンは、今回の大統領選挙運動中に度々描かれていたのとは違い、女性や子供のためになど戦っていなかった。彼女は受給者の70パーセントが子供である福祉制度の破壊を擁護していた。彼女は巨大銀行、ウオール街と戦争産業の手先なのだ。女性や子供に対する彼女の気遣い、普通の人々に対する共感や連携という虚構を維持するため、疑似イベントがでっち上げられていた。トランプは決して偉大な実業家などではない。彼は破産やいかがわしい事業行為経験が豊富だ。だが彼のリアリティー番組“アプレンティス(見習い)”で虚構の金融の大物を演じていた。
“我々の意識を満たしている疑似イベントは、かつて馴染んでいた意味での真実でも、ニセでもない”と、ダニエル・ブーアスティンは著書“幻影の時代 アメリカにおける疑似イベント・ガイド”で書いている。“イメージを可能にした、まさに同じ進歩が、いくら計画されたり、企まれたり、あるいは歪曲されたりしたものであろうと、イメージを現実そのものより、もっと生き生きし、もっとより魅力的で、より印象的で、より説得力があるものにすることを可能にしたのだ”
現実は、容易に理解できるキャッチフレーズや説明へと故意に歪曲される。広報、政治キャンペーンや政府に関わっている連中は、同じメッセージを情け容赦なく守り続ける。連中は、単純なキャッチフレーズや繰り返すよう指示されている決まり文句から決して外れることはない。絶え間ない赤ちゃん言葉の類だ。そして、そういうものが、放送されるニュースや、トーク・ショーを支配している。
“道理を精緻化したり、感情を共有したりしても、多くの大衆には届かない” 現代の広報の父、エドワード・バーネイズは、皮肉にもそう書いている。
早口の、短縮されたテレビの様式は、複雑さや微妙な差異を排除する。テレビは、善と悪、白と黒、勇者と悪漢の世界だ。テレビは、我々に、引き起こされた感情と知識とを混同させる。テレビは、アメリカの徳や善という架空の言辞を強化する。テレビは、慎重に選んだ“専門家”や“スペシャリスト”を通して、パワー・エリートや君臨するイデオロギーを称賛する。テレビは、異議を唱える人々全員を締め出し、評判を傷つけたり、嘲笑したりする。
民主党支配層連中は、全くの無知ゆえに、漏洩したジョン・ポデスタの電子メールや、投票直前、議会クリントンの私用電子メール・サーバーに関連する書簡を送るというFBI長官ジェームズ・コミーの決定のおかげで、同党が大統領選挙に負けたと信じているのだろうか? 民主党指導部は、敗北の本当の原因は、同党が大企業権益を推進するため、労働者を放棄したことなのが理解できないのだろうか? 同党のウソとプロパガンダが、三十年間は機能したが、最終的には、民主党が、裏切った人々の間で信頼を失ったことを理解できないのだろうか?
ウイキリークスへの電子メール漏洩を巡る民主党支配層の激怒は、そのような不利な情報の暴露は、個人や組織の評判を損ねるため、アメリカ政府や、ロシアを含む他の政府によって良く利用される戦術だという事実を無視している。マスコミ報道におきまりのものだ。誰も、民主党内の人間でさえ、ポデスタの電子メールがでっち上げだったという説得力のある主張をしていない。電子メールは本物だった。メールに偽ニュースというレッテルを貼ることはできない。
私は、海外特派員として、特定標的に損害与えることを狙う様々な集団や政府から、漏洩情報、時には機密の情報を貰うことがよくあった。イスラエルの国家諜報機関モサドが、ドイツ、ハンブルク郊外のイラン政府が所有している小さな空港について教えてくれた。私は空港に行き、イスラエルがまさに教えてくれた通り、イランは、その空港を、核用機器を分解し、ポーランドに輸送し、それを再度組み立て、輸送機でイランに送るのに利用していたのを見いだした調査記事を書いた。私の暴露記事後、空港は閉鎖された。
別の例では、キプロス議会の大物議員と、彼の弁護士事務所が、ロシア・マフィアのために、資金洗浄をしていることを示す文書を、アメリカ政府が私にくれた。私の記事で、弁護士事務所は正当な事業ができなくなり、その政治家は、ニューヨーク・タイムズと私を訴えた。タイムズの弁護士連中は、そこでは、公正な裁判は受けられないと言って、キブロスの裁判所での訴訟はしないことに決めた。弁護士たちは、逮捕を避ける為、二度とキプロスには行くなと私に言った。
こうした例で、私は何回分かコラムが書ける。
政府は、民主主義や報道の自由に配慮して漏洩するわけではない。誰か、あるいは何事かを引きずり下ろすことが連中の利益になるので、連中は漏洩する。たいていは、記者が漏洩された情報を検証するので、ニュースは偽ではない。ニューヨーク・タイムズが、無批判に、サダム・フセインがイラクで大量破壊兵器を保有しているという、ブッシュ政権の偽りの主張を報じた例のように、記者が情報を検証しない場合、その記者は、巨大な偽ニュース産業の一部になる。
偽ニュースは、Truthdigを含む自立したニュース・サイトや自立したジャーナリストを、知ってか、知らずかのロシアの手先として描き出す企みで利用されている。共和党と民主党幹部は、トランプを、クレムリンの傀儡として描き出し、選挙を無効にすることを狙って、偽ニュースを利用している。そのような非難のいかなる有力な証拠も公表されていない。だが、偽ニュースは、最新の赤狩りにおける破壊槌になっている。
12月7日付けのTruthdig宛て書簡で、ワシントン・ポストの弁護士、Truthdigと他の200のウェブサイトがロシア・プロパガンダの手段だという主張に関して報道した11月24日記事で、記事の著者クレイグ・ティンバーグは、告発をしている集団PropOrNot匿名の告発者たちの正体を知っている。[編集者注: 11月24日の記事とPropOrNotに関し弁護士はこう書いている。“記事中の記述は、無数のインタビュー、集団に関わっている具体的な個人の身元確認(あなたの憶測と違い、ティンバーグは彼らの正体を知っている)を含め、ティンバーグ氏によるしっかりした報道に基づいている。”] ポストは、PropOrNotの匿名性を守らなければならないと主張している。ポストは、証拠無しに、偽の非難を伝えているのだ。この場合、告発者たちが匿名なので、被害者たちは十分に反撃することができない。中傷された人々は、彼らは、PropOrNotに、自分たちの名前を、この集団の“ブラックリスト”から削除するよう訴えるべきだと言われたという循環論法が、ブラックリストと偽ニュースを作り上げている匿名集団と、連中が広めているウソに信ぴょう性を与えている。
E.P. トンプソンは、彼のエッセイ“時間、労働規律と産業資本主義”で書いているが、二十世紀の文化と社会的変容は、経済制度の受け入れや愛国心の慶賀よりも遥かに大きいものであることがわかった。それは現実の革命的再解釈の一環だと彼は指摘している。これは、大衆文化の優勢化と、本当の文化と本当の知的生活の破壊を意味している。
リチャード・セネットは、著書“公共性の喪失”で、大衆文化の勃興が、新たな“共通幻想によって産み出される集団的人格”と彼が呼ぶものの背後にある主要な力の一つだと特定した。今世紀の偉大な宣伝屋たちは、同意するのみならず、人々は“集団的人格”がとる方向を決定できるこうした幻想を操作し、形作ることが可能だと補足するだろう。
大衆の目からは隠された、この膨大な内部の圧力が、良きジャーナリズムや良き学者の出現を非常に困難にしている。真実を大切にし、引き下がらない記者や学者たちは、隠微な、時には露骨な弾圧を受け、組織から追放されることもままある。
現在、大半の人々がそれで情報を得ているイメージは、特に偽ニュースにされやすい。言語は、文化評論家のニール・ポストマンが書いている通り、“一連の命題として提示された場合にのみ、意味をなす。単語や文章が、文脈の外に取り出された場合には、意味は歪められる。読者や、聞き手が、前後に言われていることを奪われた場合。”イメージには文脈がない。イメージは“違った形で見える。”イメージは、特にそれが、長い、矢継ぎばやの断片で送られると、現実をばらばらにし、歪めてしまう。この条件が“一連の特異な出来事で、世界を再創造する。”
エスクワイア誌で、ベトナム戦争を報じていたマイケル・ヘールは、写真やテレビで示される戦争のイメージは、印刷された言葉と違い、戦闘の残酷さを曖昧にしてしまうと述べている。“テレビとニュースが戦争を終わらせたといつも言われる。”とヘールは言う。“私には逆に思える。こうしたイメージは、常に違う文脈で、コマーシャルにサンドイッチ状に挟まれて見られるため、イメージは人々の心の中で、ブラマンジェ になってしまう。それどころか、ブラマンジェ報道が、戦争を長引かせたのだと思う。”
印刷媒体から離れ、非調和的で、手当たりしだいのイメージで爆撃される大衆は、現実を明確に表現するための語彙も、歴史的、文化的文脈も奪われてしまう。幻覚が真実になる。感情に突き動かされた御託の嵐が、我々の歴史的健忘症を養っている。
インターネットがこの過程を加速した。インターネットは、ケーブル・テレビのニュース・ショーと共に、アメリカを、敵対する党派に分裂させた。党派メンバーは、同じイメージを見て、同じ言辞を聞き、集団的“現実”を作り出す。こうしたバーチャル・スラムでは、偽ニュースがあふれている。対話は停止される。敵対する党派への憎悪が群集心理を醸成する。“敵”に共感を示す人々は、不純さとされることで、党派仲間から非難される。これは、左派にも、右派にもあてはまる。こうした党派と群衆が、感情に突き動かされた偽ニュースを当たり前のものとして与えられて、トランプを産み出したのだ。
トランプはイメージ、キャッチフレーズや見せ物を通してやりとりするのに長けている。彼の政権下では、既に印刷やテレビ報道を支配している偽ニュースが、マスコミの特徴となる。偽ニュースの虚偽を主張する人々は中傷され追放されよう。大企業国家がこの怪物のようなプロパガンダ装置を作り出して、トランプに譲ったのだ。彼は活用するだろう。
クリス・ヘッジズは、中米、中東、アフリカやバルカン半島で、約二十年間、海外特派員として過ごした。彼は50カ国以上から報道し、クリスチャン・サイエンス・モニター、ナショナル・パブリック・ラジオ、ダラス・モーニング・ニューズや、ニューヨーク・タイムズで働き、15年間、海外特派員をつとめた。
記事原文のurl:http://www.truthdig.com/report/item/fake_news_homegrown_and_far_from_new_20161218
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宗主国、自分がしている犯罪を、人になすりつけるのが基本方針なのだろうか。自分が偽ニュースを流しながら、本当の情報を伝えようとしているTruthdigを含め、200のサイトを、ロシアの手先の偽ニュース・サイトと報じる愚。
国名を入れ替えれば、宗主国の偽ニュース状況、そのままこの属国呆導世界の状況。
訓練場返還式典 vs 抗議集会
大本営広報部電気洗脳箱、音声を消して眺めれば、見えるのは71年目の属国の現状。
ダニエル・ブーアスティンの著書名、文章のつながりを考えて、あえて“幻影の時代 アメリカにおける疑似イベント・ガイド”としたが、日本での翻訳書題名は「幻影(イメージ)の時代―マスコミが製造する事実」目からうろこ体験の読書だった。世界最初の団体旅行は公開処刑見物だった、という記述があったような記憶がある。記憶、とんでもない間違いである可能性はある。
ニール・ポストマンの本、「TVニュース 七つの大罪―なぜ、見れば見るほど罠にはまるのか」しか読んだことがない。残念ながら絶版。「愉しみながら死んでいく ―思考停止をもたらすテレビの恐怖」という本がある。
“私には逆に思える。こうしたイメージは、常に違う文脈で、コマーシャルにサンドイッチ状に挟まれて見られるため、イメージは人々の心の中で、ブラマンジェ になってしまう。それどころか、ブラマンジェ報道が、戦争を長引かせたのだと思う。”
という説はどうだろう?「イメージを悪用した組織的虚報が戦争を長引かせたのだと思う」というなら同意できるが。
【IWJルポルタージュ】「規制線の内側」から見たバラバラのオスプレイの残骸!事故直後、現場から生リポートした大袈裟太郎氏と事故現場を歩く! 2016.12.17
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/352807
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