ワシントンを揺さぶるドゥテルテと多極戦略
Federico PIERACCINI
2016年9月25日
Strategic Cultural Foundation
2016年5月30日、選挙でライバルのマル・ロハスに700万票以上の差で勝利した後、マニラ議会は、ロドリゴ・ロア・ドゥテルテを、第十六代フィリピン大統領に任命した。71年前、マアシン に生まれたドゥテルテは、長い行政経験があり、ダバオ市長を22年以上、七期つとめた。ドゥテルテの選挙マラソンは、世界中の人々の間で益々広がる反体制感情の結果による本当の勝利だ。マニラの政治支配階級と対照的なドゥテルテが、予想外の勝利を得たのだ。
新大統領の成功とつながる基本的側面に選挙綱領があるが、四つの大綱は単純で効果的だ。
- 麻薬密売人と軽犯罪との戦い(フィリピンを悩ませている災厄)。
- 自立したマニラにとって有利な外交政策(アメリカ政府の利益を第一番にしない)。
- 素早く維持可能な経済回復のために必要な条件の醸成。
- テロ組織アブ・サヤフの根絶。
ドゥテルテの勝利後、マニラとワシントン間の緊張を我々は目の当たりにしている。予想通り、ドゥテルテの四点は、地域におけるワシントンの戦略目標とあからさまに対抗している。アメリカ合州国は増大する中国の影響力を封じ込めたがっている。しかし地域内の伝統的な貴重な同盟国、特に、日本とフィリピン無しには、この既にして困難な課題は不可能に見える。この意味で、歴史的な違いや、北京との最近の緊張を、何とかひとまず脇におこうとしているマニラの態度はさほど驚くべきものではない。
多極構造への移行手段としての経済
フィリピンの経済再構築を目指す前進策は、中華人民共和国との完全な協力無しには不可能だ。これを念頭に、大統領に選ばれる前から、ドゥテルテは、フィリピン国内での高速鉄道建設と引き換えに、南シナ海における、アメリカ海軍との共同パトロールの中止を提案していた。北京にとって、フィリピンの提案は、中国が、外部勢力(アメリカ)が原動力となっている地域における紛争を減少し、経済繁栄をもたらす産業上の協力を強化しようと主張し、外交活動で常に推進している、お互いの利益をめざす戦略と完全に合致する。高速鉄道建設プロジェクトは、この行動計画に完全に対応し、新たな地域政治バランスの仕組みともなりうるのだ。
マニラの要求を起動するための理想的な基盤が、創設諸国間で長年議論した後、最近実現したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)だ。この経済組織の重要な特徴に、投資承認メカニズムがある。全メンバーが署名した、この極めて具体的な条項は、資金を出したプロジェクトの政治的利用と、インフラ開発プロセスに影響を与えようとする外部の介入を防ぐことを狙った重要な要素で、AIIBの中心基軸だ。
残された大きな障害は、フィリピンのAIIB参加に関するマニラの上院における最終的批准だ。具体的には、AIIB調印のような国際協定で決められた国内政策を実施できるようにするには、上院で三分の二の多数の賛成票がなければならない。
圧力と影響力行使の手段としてのテロ
地政学的、戦略的な意味から明らかな通り、オバマの有名なアジア基軸は、北京との協力に基づく、自立した有益な外交政策の追求を目指しているマニラにとって、多くの問題を生み出している。
フィリピンのように戦略的に重要な国々を脅し、不安定化するため、ワシントンが最も良く利用する手段の一つはテロだ。1980年から今日までの間に、過激派イスラムは、極めて限られた地域に限定されたものから、フィリピンを含め、地球上のほとんどあらゆる場所に存在するものになった。イスラム・テロの拡大が、アメリカ政府の益々強まる世界支配の野望と同期していると、反対意見をおそれずに言えるだろう。アブ・サヤフ集団の例は、直接関係があり、実態を明らかにするものだ。
アブ・サヤフは、レーガン時代のアフガニスタン自由戦士(タリバン)メンバーによって設立され、後に、2000年にアルカイダによって訓練された、南フィリピンに潜むイスラム主義集団だ。彼らは、マニラからの領土的独立を目指し、地域で、20年以上活動しているが、外国政府に圧力をかけるための典型的で有名なアメリカの策謀だ。
アメリカの計画をめちゃめちゃにするドゥテルテ
最近、ドゥテルテ大統領は、アブ・サヤフ過激派イスラム集団に対する近々の対テロ作戦を発表した。新大統領就任後の解決策の特徴が、ワシントンを激怒させた。アメリカ軍は、フィリピン南部にあるアメリカ軍事基地を一時的に放棄することを強いられるのだ。アメリカ軍が一体いつ帰還を認められるのかも、ワシントンとマニラ間の戦略的提携を再定義する交渉の一環だ。
戦略国際問題研究所(CSIS)で最近開催された会合で、フィリピンのペルフェクト・ヤサイ外務大臣は、提案されている軍事作戦の間、アメリカ兵士に保護と安全保障を提供することは困難だと説明した。もちろん、これは外交的な口実にすぎず、本当の理由はずっと深遠で、地政学に基づくアメリカの戦略目標を達成するため、テロを利用するアメリカの戦略と本質的に結びついている。マニラは、アブ・サヤフに対する取り組みは、アメリカ軍要員の厄介な駐留がない方がより効果的なことを知っているのだ。言い換えれば、ドゥテルテは、ワシントンを信じておらず、テロリストがアメリカの駐留から恩恵を受けるのを知っているのだ。
止められない革命
わずか数カ月のうちに、フィリピンは、太平洋における歴史的なアメリカ政府の足掛かり(アメリカは、フィリピンに5つの軍事基地を保有している)から、北京との関係修復に極めて熱心な国の一つへと転換した。これは、つまりアメリカ合州国による一極支配から、世界覇権を押しつけるための必要性によって、地域の利益が犠牲にされないような完全に多極的な環境への、ゆっくりとした世界の姿を作り替える転換の一歩だ。ドゥテルテの言葉と約束から、フィリピンには、ワシントンとの関係を絶ち、アメリカにあからさまに反対している国々に加わるという意図は皆無であることを我々は知っている。そうではなく、フィリピンの経済回復にとって最も重要な要素である中国との関係を修復したいという希望を公表している。
もしワシントンが、マニラが追求している多極化への転換を受け入れるのを拒否すれば、アメリカのアジア戦略の大黒柱を完全に離反させることになろう。再三繰り返されるのを目にしている、アメリカが損害をこうむる一連の出来事なのだ。既にドゥテルテは、第一番の優先事項は、アメリカが拒否しがちな、フィリピンの絶対的な主権と国益という二つであることを十分示唆してきた。対立で、必然的に両国間の関係悪化という結果となり、マニラと北京の関係を益々緊密にして、アジアにおけるアメリカ戦略の大きな失点となろう。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2016/09/25/duterte-multipolar-strategy-that-shakes-washington.html
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たまたま、大本営広報部番組を見ていたら、ドゥテルテ大統領を特集していた。
過激発言は、自信がある対麻薬取り締まりにケチをつけられた憤りである、というような趣旨で、アメリカとの関係悪化を懸念する雰囲気。
「フィリピンは属国ではない」「ルビコンを渡る可能性」「アメリカ特殊部隊の撤退要求」など、いずれも実にもっとも。希望がつきはてる属国、あるいは、絶望がゆきわたる属国の国民としては、うらやましくなる。
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安倍首相が日本丸ごとアメリカに差し出しているおかげで日本がイスラム過激派のテロのターゲットにならずに済んでいるのですから、「日本が海外の戦争に参加するようになったら日本がテロに巻き込まれるようになるぞ〜」なんて言ってる人にはまさしく「その指摘は当たらない!」と言うべきでしょう。日本をテロから守ってくれる安倍首相に日本人は皆感謝すべきですね!
まあ冗談はともかくとして、ついでにもう一つ冗談として予言をしておきます。それは近く「フィリピンで軍内部の親米派グループによるクーデタが起き、ドゥテルテが側近幹部らと共に逮捕あるいは暗殺・処刑され、その家や勤務先から中国との繋がりを示す証拠が見つかり、かくしてドゥテルテ以下売国奴から祖国を救うためだったとしてクーデタが正当化される」というものです。その後はクーデタに異議を唱える者を片端から「ドゥテルテ支持者のテロリスト」扱いして殺害する恐怖政治が来るのももちろんセットで。まあ当たらないでしょうが、万一当たっちゃったらやだなぁ…。
投稿: 一読者 | 2016年10月 2日 (日) 02時37分
マレ-シア旅客機MH17機撃墜の原因がロシアから持ち込まれたというBuk-M1ミサイルだという最終報告をオランダ事故調査委員会が最近,出した。これに対してロシア政府はロシア側が提出した証拠を採用していない「相変わらず」の報告書であると批判している。
おそらくロシア政府の言い分が正しいのであろう。しかしロシアはまどろこしい。宇宙からの衛星写真を直截に提出すれば,ことは簡単に片付くはずなのに,『ためらうもの』になっている。しかしワシントン政府がオバマ-ケリ-,カ-タ-国防長官,そしてCIA-ネオコンに別れていて一筋縄に問題解決できない。ゆえにプ-チンのロシアは,『ためらうものは負けるというが、ロシアはためらった』選択をしているのであろう。
他方,ドゥテルテ大統領は,ベトナムでのフランス軍の敗北を知っているだろうし,アルジェリアから撤退したド・ゴ-ル将軍の決断に学んでいるのであろう。アメリカ合衆国との戦いは,ゴ-ル主義が必要である事を自覚している。
一方,大統領ドゥテルテ氏は暗殺される可能性がある。しかしオバマの父親がCIAの手先として働き,インドネシア人民を大量に虐殺に関連したことを,彼は忘れない。原発再稼動反対の泉田新潟県知事と同様歴史に名を残すであろう。前者は過激な発言と批判されるが内容は歴史的真実であり,後者は温厚な発言であるが,東電・日本政府官僚に対する激しい怒りが込められている。
それにつけてもだらしないのが,マレ-シア政府である。なぜロシアの証拠を採用せず,MH17機の墜落原因をBuk-M1にするのか。3回民間機が撃墜され4回目の撃墜事件が発生すれば,確率・統計学者がいくら何でも黙ってはいまい。恐れることは何もないだろう。
IMDB問題と6.8億米ドル喜捨(サウジ王家の寄付)でナジブ首相はいよいよ辞任しそうであるが,新聞は報じない。奥方がアメリカで600万ドル相当の買い物をしたそうだ。首相の年俸が10万ドル相当としてその60倍の買い物をするためには,年俸以外の,何らかの金の動きがあっておかしくない。
現在マレ-シア通貨は下落をし続けている。原油の値段の下落もあるが,首相の辞任を暗示しているようにも思える。ナジブ首相退陣の声も大きくなってきたようだ。
もともと警察の権威が絶大な国である。昨年12月発効の緊急事態法はあってもなくても警察力は絶大であるとおもう。インドネシアの入国管理官のように威張ってはいないし,外国人には優しい。道路は渋滞することが多いが,救急車両以外に政府役人が乗る車は白バイが先導する。一般車両は,道路脇に車を停める。そういう風景は日常茶飯ではないが,アブ・サヤフなどのテロ組織から身を守るためには致し方ない面もある(不穏組織にサウジアラビアやイスラエルが資金援助しているとしても)。
今月下旬,ある海辺の町にやって来た。路線バスがないから,交通渋滞は前に住んでいた町よりひどい。警察官を見ること少なく,私的な警備員が道路の交通整理をあちこちでしている。この国にはこの国の特性があるのであろう。小生の放浪はまだ続く。
追記: 「niftyに外国からは登録できない」という表示が出てしばらく本欄コメントに投稿して出来なかった。IT不虞なので日本に行ったとき登録し直すかと諦めていたが,この海辺の町に来たら,どうも投稿できる,ことを発見して大いに喜んだところ。
兵庫助の文章を読むと朝飯がまずくなる方には申し訳ないが,。小生の投稿はまだ続くので,よろしくお願いします。近況報告まで。
投稿: 箒川 兵庫助 | 2016年9月30日 (金) 13時12分