トルコ・クーデター未遂の背後に何があったのか?
Eric ZUESSE
2016年8月18日
Strategic Culture Foundation
2016年7月15日のトルコ・クーデター未遂の背後にあったものを現時点で再現するのに使える、たった二つの合理的手段は、証拠と、信頼できる筋からの情報による推測だ。
どこかの国の諜報工作が関与していただろうと推測しても当然だろうが、その場合、アメリカのCIA、あるいは、トルコのそれにあたる、MIT、トルコ国家情報機構のいずれか、あるいは、その両方の関与があったろうということになる。アメリカのCIAは“50カ国以上”のクーデターの黒幕だった。CIAは、設立以来、自ら世界の大半のクーデターを画策したり、他の連中がクーデターを計画するのを手伝ったりしてきた。それ以前の帝国(つまり、それ以前の世界独裁)が、主に公然の侵略(軍を用いた)によって機能していたのに対して、アメリカの世界独裁は、主にクーデター(諜報工作員を用いた)によって機能しており、クーデターは、アメリカ支配層のおはこだ。この分野で、CIAは世界チャンピォンの専門家で、どこの、どの諜報機関も、連中の工作には到底かなわない。
実際アメリカは、あからさまな(つまり軍事)侵略のかわりに、主として、クーデターによって機能している最初の帝国だ。この理由は、第二次世界大戦後、明らかに軍事的手法(侵略)で帝国構築を狙っていたファシスト諸国、枢軸国を連合国軍が打ち破った後、大衆が、軍事的手法は民主主義と両立しないと至る所で認識するようになり、第二次世界大戦後、ある国が、実際侵略をしている他の国に、防衛、つまり、その侵略に対する明らかな反撃でない侵略を行えば、いかなる国も、説得力を持って“民主主義”と主張できなくなった。アメリカの(そしてイギリスの) 2003年イラク侵略でさえ、‘防衛的’な性格のものだという主張だった。(あの侵略以降、一体なぜ、欧米を信頼する人がいるのかは、大衆心理学専門家が検討すべき問題だ。ここで議論すべき話題ではない。だが、2003年のイラク侵略後、クーデターが、事実上、アメリカ政府が外交政策を実施するために使える唯一の手段になった。結果的に、アメリカ・クーデター機構は、2003年以前にそうであったよりも、2003年後、より重要になった可能性が高い。そして、バラク・オバマ大統領が、それを認識しているのは確実だ。)
今回のトルコでのクーデター未遂は、トルコにおける全てのクーデター未遂同様、トルコ軍が実行したことに疑問の余地はない。MITに関するWikipedia記事は、says、“元外国作戦局長ヤウズ・アタッチによれば、組織における軍の影響力は、ごくわずかだ。諜報機関には、軍事的伝統があるので、これは最近の進展だ… MITはクーデターのたびに、苦しんできた。”トルコにおける軍事クーデターの長い歴史と、1922年に、ムスタファ・アタチュルクが、将来のトルコにとって、非宗教的民主主義という理念を、トルコで確立したことからして、これは理解できる。1922年以後、トルコ軍は、それ以前のオスマン帝国における外国征服という機能をやめ、将来の機能を、トルコ国内の非宗教的な民主的な未来の守護者役をつとめることに重点を変更した。第二次世界大戦後、1952年に、トルコはNATO加盟国になったので、トルコ軍が、全てではないにせよ、クーデターの多くを、おそらく、CIAと連携してきたと想定するのは理にかなっているだろう.
結果的に、もしCIAが最近のクーデター未遂に関与していたのであれば(トルコ政府は、そうだったと主張している)、何か、トルコ諜報機関の代わりになるものが、おそらく、CIAとトルコ軍との間の通信手段だったはずだ。MITは、特に今回の軍事クーデターのまとめ役だった可能性は少ない。
すると、仲介役だった可能性が高いものは、一体何だろう?
トルコ政府は、フェトフッラー・ギュレンのトルコ国際イスラム主義運動が、今回のクーデターの背後にいたと主張している。しかしながら、トルコ軍は、ギュレンの組織も含め、イスラム組織とのあらゆる関係を避けることで有名だ。しかし、MITと軍とのつながりが、かつてより弱くなっている今、非関与の方針は、必ずしもあてはまらない可能性がある。少なくとも、MITが軍から離れた時に、ギュレン運動が軍に潜入した可能性はある。
2010年2月25日、トルコの二人の主要イスラム主義政治家、フェトフッラー・ギュレンと、タイイップ・エルドアンが、敵としてではなく、同盟した際、アメリカ支配層(つまり、CIAとつながる) 『フォーリン・ポリシー』誌は“トルコのクーデター逮捕の背後に本当は何があるのか? あらゆることが、トルコ政治のあらゆる部分に触腕を急速に拡大している得体の知れないイスラム主義運動を率いるフェトフッラー・ギュレンを指し示している。”という見出しの記事を載せた。この親CIA雑誌は、当時こう書いていた。
“トルコ政治の山が動いた。軍は、反則のものを含めあらゆる攻撃の格好の的だ[アメリカ支配体制派の親CIA雑誌として、『フォーリン・ポリシー』は、トルコ軍は、トルコにおける、民主主義の基盤という考え方を推進しているので、‘反則のもの’というのは、トルコ軍に対する、どのような本格的な批判も検討に値しないということを意味している]。この劇的な変化の背後の力[トルコ政治に対するトルコ軍の影響力の弱体化とされるもの]は、与党の公正発展党(AKP)を支持する超保守的派閥たるフェトフッラー・ギュレン運動(FGH)だ。FGHは、現在はアメリカ合州国在住だが、トルコでも人気があるカリスマ的説教師フェトフッラー・ギュレンによって、1970年に設立された。政治、政府、教育、マスコミ、実業や公的、私的生活に対するギュレン版宗教の優位を確保することによって、彼自身のイメージ通りの非宗教的なトルコ再編を目指す保守派の運動である”。この記事は、明らかに、FGHに対して敵対的だ。記事は反ギュレンだ。
当時、アメリカ支配体制は、明らかに、エルドアンの方を、ギュレンより好んでいた。それで、あの当時、ギュレンは、エルドアンと軍に対するこのクーデター未遂において、悪漢として描かれていた(軍は、もちろん、トルコにおける、あらゆるクーデターの核だ。だから、クーデターの標的として、エルドアンと並んで、軍を含めるのは明らかに間違いだ。これは、そうではなく、もっぱら対エルドアン・クーデター未遂なのだ。)
1999年に、ギュレンはアメリカ合州国に移り、当時彼は“立法府や行政府に席を置く我が仲間たちは、その組織の詳細を学び、組織を変え、イスラム教のために[宗教に基づく帝国オスマン国家の]より有意義な全国的復興を実行するため、常時怠らないようにすべきだ。しかしながら、彼らは、条件がより有利になるまで待たねばならない。言い換えれば、尚早に正体を現わしてはならない”という説教ビデオを、トルコ国内の彼の信奉者に送った。説教はこうも説いている。“あらゆる権力の中枢に到るまでは、誰にも、自分の存在を気づかれることなく、体制の動脈内を動かねばならない… あらゆる国家権力を掌握し、トルコのあらゆる政府機関を我々側に引きつける時まで、待たなければならない。”ドイツのシュピーゲル誌は、ギュレンの組織には“住所がなく、郵便受けがなく、登記もなく、中央銀行口座もない”と報じた。秘密性と欺瞞が連中の手口で、それはCIAや、他のあらゆる諜報機関の手口と同じだ。7月15日クーデター未遂の背後で、そういう機能を果たすのは、ぴったりのようだ。
1999年、彼は、ペンシルベニア州に、繁盛する数十億ドルのリベラル-イスラム主義慈善団体“ヒズメット”、訳せば “サービス”の世界本部を設立した(『フォーリン・ポリシー』に“超保守”と呼ばれたが、実際そうなのだ)。ギュレンもエルドアンも - 両者とも賄賂によって億万長者になり(自分の膨大な富を築きあげるために、政府を利用して) - お互いを賄賂で非難しあっているが、バラク・オバマ支配下のアメリカ政府は、裁判のために、ギュレンを送還するようにという、エルドアン大統領の要求を拒否した。
トルコの与党AKP党は、1922年にムスタファ・ケマル・アタチュルクがトルコに押しつけた軍事的に強制された非宗教主義からトルコ政府を次第に離反させ、2013年に、ギュレンとエルドアンが決裂し、AKPとFGHは、お互い敵となり、今度、ワシントン内で“超保守”として、悪魔化されているのは、ギュレンでなく、エルドアンだ。
エドワード・ルトワックは、ウクライナの民主的に選ばれた大統領を打倒した、アメリカによる2014年2月の残虐なクーデターは問題がないが、翌月、オバマが据えたクーデター政権から、クリミア住民を守るため、ロシアがとった行動を欧米が認めれば、“プーチンの武力使用を正当化”することになると考えている著名アメリカ人政治‘学者’だ。『フォーリン・ポリシー』誌の8月3日号の“エルドアンの粛清は宗派戦争”という見出しの記事で、アメリカ合州国は、ギュレンをエルドアンから守り続けるべきだと彼は主張している。彼はエルドアンを非難し、彼の“さほど教育を受けてもいない、元サッカー選手レジェップ・タイイップ・エルドアンに率いられる、ポピュリスト・イスラム主義者たちと、フェトフッラー・ギュレンの大学教育を受けた信奉者たち”を対比している.
ギュレンとCIAとの関係を、遥かに深く調査したのは、FBIで働いていた時期に、彼女がアクセスできた、最も不利な情報を公開せぬように、アメリカ政府が要求した、元FBIトルコ通訳で、後に、“陰の政府”情報サイト、Boiling Frogs Postの発行者になった、シーベル・エドモンズだ。あるライターが、この話題をうまく要約しているが、ソースへのリンクがない。:
“エドモンズは、フェトフッラー・ギュレンと彼の運動と、CIAを結びつけている主要な接点は、 RAND社の著名な諜報専門家で、元CIAカーブル局長、国家情報会議副議長だったグラハム・フラーだと主張していた。
フラーは、CIA工作員を匿うギュレンの学校の役割に関する主張ははねつけたものの、2006年に、アメリカの移民当局が、彼の国外追放を計画した際、ギュレンの信用紹介先になったことを認めている。フラーは、FBIとアメリカ国土安全保障省にギュレン擁護の手紙を書いた。フラーは、ギュレンは、アメリカに対する脅威ではないと信じると書いた。この支持のおかげで、ギュレンはアメリカ合州国滞在を認められたのだ。同様なギュレン擁護の手紙を書いた、もう一人の人物は、トルコにおける元CIA工作員で、後に駐トルコ・アメリカ大使をつとめたモートン・アブラモウィッツだった。”
エドモンズの著作にいくつかリンクがあるが、2013年5月22日の、Boiling Frogs Postの“CIAのグラハム・フラー - 陰の政府のならず者”という見出しの、William Engdahl記事のより包括的な要約で、ロシアを弱体化するための、ギュレンを使ったCIA工作に関する総合的説明を読むことができる。要するに、ロシアを征服するという何十年もの取り組みにおいて、アメリカ支配階級にとって、ギュレン主要なCIA資産なのだ。結果として、もし、オバマが彼をトルコに送還するようなことになれば、アメリカ支配階級はロシアに対する主要諜報工作員を失うのみならず、ギュレンの秘密の宝庫がロシア諜報機関に知られてしまい、ロシアを占領するNATOの作戦丸ごと、致命的に損なわれかねない。
もしロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、数時間前にエルドアンに連絡して、それが起きると警告していなければほぼ確実に成功していたであろうクーデターの真相に迫ろうとしているトルコ政府への協力を、アメリカは渋っている。
8月11日、ロシア・トゥディは、“エルドアンの最後通牒: ‘アメリカは、トルコか、ギュレンかのいずれかを選ばねばならない’”という見出しで、こう報じている。“‘クーデターを策謀したテロリストFETO [ギュレン主義者のテロ組織の意味、ギュレン主義者でない人々が使かう言葉]か、民主的国家トルコのいずれかを[アメリカ]は選択しなければならない’水曜日、アンカラでの演説で、エルドアンが述べたという国営アナドル通信を引用している”
トルコ大統領は、今や、もしアメリカ支配層が、今回のクーデター未遂に対するアメリカ政府の支援だと彼が主張するものを続けるのであれば、トルコは、アメリカ支配層との同盟をやめて、代わりにロシアと同盟すると、警告しているのだ。彼は明示的に、アメリカ支配層を恫喝している。彼は、トルコが1952年以来、加盟国であるNATOをも、間接的に恫喝しているのだ。これまで、反ロシア軍事同盟を離脱したり、離脱すると脅したりなどしたNATO加盟国はない。
8月14日の時点で、アメリカのホワイト・ハウスウェブサイトで、“わが国の政府には、フェトフッラー・ギュレンに、安全な避難所を提供するのをやめて欲しいし、彼はトルコに送還して欲しい”という結びの、トルコ人が組織した請願は、大統領が、請願された事項に、公式に対応することが要求されるのに必要な数、100,000筆に達している。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2016/08/18/what-was-behind-the-turkish-coup-attempt.html
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エドワード・ルトワック教授という名前、うろ覚えで記憶がある。著書翻訳も出ている。読むようにお勧めしているわけではない。翻訳者の所属に、多少興味をそそられただけ。
貧しい年金生活者、購入する予定もなければ、万一頂いても読書時間全くない。
『自滅する中国――なぜ世界帝国になれないのか』(芙蓉書房出版、2013年)
『中国4.0 暴発する中華帝国』(文春新書) 、2016年
数年前のIWJインタビュー、非常に示唆的に思える。
日本・トルコの「復古主義の仮面を被った新自由主義」体制を批判 ~日本女子大学教授・臼杵陽氏インタビュー 2013.6.21
新たなインタビューを期待したいもの。
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