経済の実態は一体いつまで無視されるのだろう?
Paul Craig Roberts
2016年8月10日
トランプとヒットラリーは、“経済政策”を提示した。両者いずれも、また両者の顧問も、実際に何をなすべきかについて、何も分かっていないが、マスコミにとって、それは問題ではない。
“金がものを言う”が、売女マスコミの作動原理だ。連中は、それを言うように、金をもらっていること言うのだが、それは何であれ、大企業と政府のためになるものだ。つまり、売女マスコミは、ヒットラリーの経済政策がお気に入りで、トランプの経済政策はきにくわないのだ。
トランプは、自由貿易を支持しているふりをしているが、NAFTA、環太平洋連携協定などのあらゆる自由貿易協定に反対なので、本当は反対なのだとNPR売女マスコミが言うのを、昨日私は聞いた。売女マスコミは、こうしたものが貿易協定ではないことを知らないのだ。NAFTAは“アメリカの雇用を手放す”条約であり、いわゆる連携協定は、グローバル大企業に法律からの免責特権を与えるために、国々の主権を手放すものなのだ。
何度も報告させて頂いている通り、少数独裁政府は、経済統計を含め、あらゆることに関してウソをつく。例えば、2009年6月以来、我々は経済回復を享受していて、失業率は5%以下で、おおよそ完全雇用状態にあり、インフレはないのだと聞かされる。失業率は23%で、インフレはひどいのに、インフレ率の過小評価に基づく“回復”だという事実にもかかわらず、そう聞かされているのだ。
GDPは、現行の価格で計算される。もしGDPが、昨年よりも、今年3%増えれば、本当の製品とサービスの生産が、3%増えたのか、価格が、3%上がったのか、あるいは、本当の生産は減ったが、価格上昇によって見えなくされているかだ。実際に何が起きているのかを知るためには、名目GDP数値は、インフレ率分だけ、引き下げなければならない。
昔は、インフレ尺度が妥当だったので、経済状態が一体どうなのかについて妥当な考えを得ることができていた。今はもはや、そうではない。様々な“改革”で、インフレ尺度から、インフレが外されてしまったのだ。例えば、もしインフレ指標中の品物の価格が上がると、その品物は外され、代わりに、より安いもので置き換えられる。あるいは、価格上昇は“品質向上”と呼ばれ、価格上昇とは見なされない。
言い換えれば、インフレを定義上、排除することで、価格上昇を実際の生産の増大に変身させているのだ。
同じことが、失業の尺度についても起きている。報じられている失業率では、失業が数にいれられていない。失業者が、いくら長期間懸命に職を探しても、その人物が、過去四週間に職探しをしていなければ、その人は失業者と見なされないのだ。就業率が崩壊している中、失業率が5%だと言われている理由はこれで、25歳のアメリカ人の半数が両親と同居しており、更により多くの24-34歳のアメリカ人が、自立でなく、両親と同居している。
一体なぜ、政府統計が、経済の不正確な様相を示すよう作られているのかという質問を、経済記者連中は決してしない。食べ物や衣類を購入し、ホームセンターに行き、修理費や光熱費を支払っている人なら皆、大変なインフレであることを知っている。処方薬を例にとろう。全米退職者協会は、退職者が使う処方薬の年間経費が、2006年の5,571ドルから、2013年の11,341ドルに上昇したと報じているが、彼らの収入は追いついていない。実際、インフレ尺度“改革”の主な理由は、社会保障支給に対する生計費調整を無くすことだった。https://www.rt.com/usa/334004-drug-prices-doubled-years/
チャールズ・ヒュー・スミスは、本当のインフレ率を推計する賢い方法を考え出した。ブリート・インデックスだ。2001年から、2016年までに ブリートの値段は、2.50ドルから、6.50ドルへと、160パーセント上がった。ここ15年間、公式に測定されたインフレ率は35パーセントだ。
しかもメキシコ料理のブリートだけで済まない。2000年以来、高等教育の費用は137%上がった。ミリマン医学指標は、医療費が、2005年から2016年の間に、公式インフレよりはるかに上がっていることを示している。医療保険、ゴミ収集の費用、何もかも、公式インフレ率よりも劇的に高い。http://www.oftwominds.com/blogaug16/brito-index8-16.html
家計にとっては、食料と学費と医療費が主要支出だ。実質所得が停滞し下落する中、主要な経費増大に対処する問題に、貯蓄のゼロ金利が加わる。例えば、ゼロ金利で、高インフレの時代に、基本的に凍結されている社会保障支給を補うため、祖父母は自らの貯蓄を下ろさざるを得ず、祖父母は孫の学費ローン負債を助けてやることが出来ない。貯蓄は経済から外されている。多くの家族が、クレジットカードの未払い金の最低金額だけ支払ってやりくりしており、彼らの借金は、毎月増えてゆく。
本当の経済の姿を見つめている本物のエコノミストが、もしいるとすれば、彼らは、まん延した負債デフレと窮乏化へと経済が崩壊しつつあるのを目にしているはずだ。負債デフレというのは、消費者が負債を返済した後、購買をして経済を動かすための可処分所得が残っていない状態だ。
アメリカ人が、貯蓄から収入を得られないでいる理由は、当局が、ごく少数の“大き過ぎて潰せない銀行”の福祉を、アメリカ人の福祉より優先しているためだ。連邦準備金制度理事会が作り出した膨大な流動性は、金融体制の中に流れ込み、金融商品の価格を押し上げている。株式市場は回復しているが、経済は回復していない。
かつて、流動性は経済成長を意味していた。連邦準備金制度理事会が、金融政策を緩めると、消費者需要の増大が、商品やサービス生産の増大をひき起こした。利益増大を期待して株価も上がった。しかし近年、金融市場は、不調なファンダメンタルズによってではなく、その全てが潰れるままにされるべきだった、ごく少数の巨大過ぎる銀行や保険業の巨人AIGなどを救うために、連邦準備金制度理事会が金融体制に注ぎ込む流動性で動いている。流動性は、どこかに向かわざるをえず、それは株や債券へと向かい、大変な資産インフレをひき起こしている。
高インフレがお金の本当の価値を浸食している時に、ゼロ金利にして、一体何の意味があるのだろう? 消費者市場が拡大できない時に、高い株価収益率にして、一体何の意味があるのだろう? 経済が製品やサービスを作り出す以上に遥かに大量のドルを連邦準備金制度理事会が作るなかで、ドルを安定させておくのにどういう意味があるだろう? 株式市場に対する確定利益ヘッジを無くして、年金基金や保険会社の財政状態を、ゼロ金利によって悪化させて、一体何の意味があるのだろう?
全く意味などない。我々は、結論は崩壊しかないワナにはまっているように見える。もし金利が本当のインフレ率を反映すれば、何百兆ものデリバティブは吹き飛び、株式市場は崩壊し、過小評価で失業を隠蔽することもできなくなり、財政赤字は増大する。当局は一体どうするのだろう?
危機が見舞ったら、利益と借金を利用している大企業、つまり株価を高くしておいて、それで幹部のボーナスを上げ、株主を喜ばせ、企業買収支持の気を削ぐため、借金で自社株を買い戻している大企業に一体何がおきるだろう? 混乱と、それがもたらす恐怖が満足にとって代わる。大混乱が生じる。
更なる紙幣が印刷されるのだろうか? お金は消費者価格へと向かうのだろうか? 大インフレと大量失業を同時に経験することになるのだろうか?
こうした疑問のどれひとつとして、売女マスコミや政治家やウオール街が立ち向かうなどと期待してはならない。
危機が起きれば、ロシアか中国のせいにされるだろう。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2016/08/10/how-long-can-economic-reality-be-ignored-paul-craig-roberts/
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上演中の芝居『頭痛肩こり樋口一葉』「ぼんぼん盆の16日に地獄の釜の蓋があく」と子どもたちが歌う場面で始まる。樋口一葉一家での毎年のお盆を巡る物語。あの歌、耳に残る。
四国電力は12日午前9時、伊方原発3号機(愛媛県伊方町、出力89万キロワット)を再稼働させた。
ぼんぼん盆の12日に地獄の釜の蓋があく
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