先細りの環太平洋連携協定: アメリカ選挙と自由貿易の政治駆け引き
Dr. Binoy Kampmark
Global Research
2016年8月12日
選挙戦の一方、ドナルド・J・トランプには酷評され、民主党大統領指名候補者ヒラリー・クリントンには、ほどほど、うちのめされ、環太平洋連携協定は、瀕死状態と、奇跡的生存の中間にある。この不幸な怪物を生かせ続けているのは、一体何が自由なのかを決して問うことなしに、自由貿易の神話を奉じている政治家連中だ。
オバマ大統領が最後の段階に入る中、TPPを急いで片づけるのを巡って、ホワイト・ハウス関係各所が大慌てになっているのは明らかだ。ぎくしゃくぶり、遅れ、不本意さが、協定を押し通して法令にするには、多くの作業、おそらく余りに多くの作業がなされねばならないことを意味している。
これがアメリカ政府の交渉相手諸国を不安にさせている。彼らは結局、本質的にアメリカ大企業の権益を狙って推進されている協定に、自分の国を、進んで無理やり引きずり込もうとしていたのだ。現実的な結果に対する、カルト風新自由主義信念の勝利に、さほどねり上げられていないペテンが有効なように見えていた。
シンガポールのリー・シェンロン首相はそうした人物の一人で、そのような協定を最も強く主張していた国をわざわざ訪問した。シンガポールのストレート・タイムズ紙で、オバマは“貿易を巡る政治は、極めて難しくなる可能性がある。特に選挙の年には。”と示唆していた。[1] 彼は、両国の密接なつながりと、新大統領就任前に、TPPを押し通す自分の力量に触れて、熱意のあまり、はしゃいでいるように見える。
そうした出来事の中、協定に関するトランプの選挙活動は、しぼみつつある。彼のこの協定の命運に関する言葉は終末論的だ。“トランプが勝つのが”“TPPの大惨事を止める唯一の方法だ”と巧妙に誘っている。この主題に関する最新の報道発表の一つは、オバマとシンガポール首相の取り組みは“環太平洋連携協定の最後の一般向けキャンペーン開始”で、大いに嘲笑すべき点だと強調している。
民主党の大部分と、ヒラリー・クリントン選挙活動も、彼女の場合には、オバマの国務長官として、かつて協定に熱心だった協定について、騒々しい疑念を主張しているので、極めて限定されている。長年彼女が醸成してきたことへの疑惑は、とりわけ、今や死に絶えたサンダース選挙活動の支持者を誘い込む策略と見なされているがゆえに一層残る。
木曜日、クリントンは、益々保護主義化する雰囲気に乗じるべく、クリントン政権は、大規模インフラ・プロジェクトには好意的だと主張して、更に一押しした。これは何よりも、同じ目的で膨大な政府借款をするという共和党指名者の約束、トランプの選挙活動に見習ったものだ。
民主党指名者が約束しているのは、富裕層に対する最低課税で連邦の金庫を満杯にすることから、借金のいらない授業料や、社会保障の増強にいたるまで、より多くの税金が詰まった新たな加速“経済計画”の話だ。
とは言え、耳に残ったのは、自由貿易に関するとげのある言葉だ。“アメリカ中の全ての労働者に対する私のメッセージはこうです。環太平洋連携協定を含め、雇用を潰したり、賃金をおしさげたりするあらゆる貿易協定を止めます。”聴衆が、彼女の姿勢を確実に理解するように、彼女は“現在、反対だし、選挙の後も反対するし、大統領になっても反対する”と繰り返した。[2]
自由貿易というテーマでのクリントンの投票実績が、よくわからないことを考えれば、これはまったく奇妙なことだ。中央アメリカ自由貿易連合には反対投票をしながら、二国間自由貿易協定という考え方には、相当な支持を示してきた。そうしたものの中には、オーストラリア自由貿易協定(2004年)、シンガポールとチリとの協定がある(2003年)。[3]
大統領夫人としては、個人的反対を主張したものの、北米自由貿易協定の利点を羅列した。[4] (我々はこの話題は、相変わらず理解できないのだ。) 2008年2月に“大統領に立候補するまでは、彼女は、NAFTAについて素晴らしいと言っていた”と指摘したのは、当時の候補者バラク・オバマだった。[5]
TPPを基本的に理解すれば、それが基本的にクリントン風の姿をしていることがわかる。グローバル企業の振る舞いに対する規制の面で、政府を排除するのではないにせよ、政府の束縛、利益狙いの動機を、公益より優先すること。そして大企業が公共の福祉の機関室だという誤った考え方。
Progressive Change Committeeの創設者アダム・グリーンは、感激で騙され、彼女の変心をうのみにしているように見える。彼の頭の中では、クリントンは熱心な進歩派になっている。“共和党員の一部に、ドナルド・トランプは大統領に不適格だと言わせることと、クリントンが、借金のいらない大学、社会保障給付の増大、ウオール街改革や、公的医療保険のオプションなどの大胆な進歩的な考えで選挙を進めることとが、互いに矛盾するわけではないことを今日の演説が示した。”
ここで指摘すべき点は、時間がたつと共に、アメリカ選挙政治の渦の中にしぼんでゆき、TPPが成立する可能性はそれほどないことだ。1月8日から、1月20日までの期間の窓はごく狭いとはいえ、まだ開いてはいる。
ここで、心強いのは、妨害活動の多くが、アメリカ政府自身内部から来るものだということで、このアイデアそのものが、そこから始まったことを考えれば実に適切な状態だ。だが、もしクリントンが勝利すれば、日和見的な心の変心がやがて起きる可能性がある。
Binoy Kampmark博士は、ケンブリッジのセルウィン・カレッジの元Commonwealth Scholar。メルボルンのロイヤルメルボルン工科大学RMITで講義している。Email: bkampmark@gmail.com
注記:
[1] http://www.straitstimes.com/world/united-states/singapore-an-anchor-for-us-presence-in-region-obama
[2] http://www.washingtontimes.com/news/2016/aug/11/hillary-clinton-vows-to-kill-trans-pacific-partner/
[3] http://www.huffingtonpost.com/ian-fletcher/unlike-clinton-sanders-re_b_9015000.html
[4] http://www.politifact.com/truth-o-meter/statements/2008/feb/25/barack-obama/clinton-has-changed-on-nafta/
[5] http://www.politifact.com/truth-o-meter/statements/2008/feb/25/barack-obama/clinton-has-changed-on-nafta/
The original source of this article is Global Research
Copyright Dr. Binoy Kampmark、Global Research、2016年
記事原文のurl:http://www.globalresearch.ca/the-flagging-trans-pacific-partnership-agreement-the-us-election-and-free-trade-politics/5540771
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植草一秀の『知られざる真実』2016年8月17日 (水)
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『アメリカも批准できないTPP協定の内容はこうだった!』山田正彦著
【特集】IWJが追ったTPP問題
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安心してください、おのまは生きています
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とはマンネリ
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終戦七十一年目に入ったことでもあり、たまには時事ネタ、ジジイ寝た、天下国家的記事を書いてみようと一念発起したほんじつです
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