ロシアは、ワシントンの挑戦に耐え抜けるだろうか?
Paul Craig Roberts
2016年8月21日
クーデター未遂の結果、トルコのエルドアン大統領は、ロシアと手を組もうとするのかどうか、外国の報道機関が、私に質問してくる。現時点では、私が答えるには十分な情報がない。情報に先立って憶測するのは、私のおはこではない。
しかも、モスクワが、トルコ大統領にクーデターを警告したというのが本当かどうか私は知らず、ワシントンが、クーデターの背後にいたのかどうかも私は知らない。それゆえ、私には、どうやって事の軽重を推し量るか見当がつかない。私の理解では、トルコが、ワシントンとの提携に留まるか、それともモスクワと組むことになるのかは、何より、モスクワがトルコに警告をしたのかどうか、そして、アメリカ政府がクーデターの背後にいたのかどうか次第だ。真実であろうとあるまいと、もしエルドアンがそう考えれば、エルドアンは、ロシアと手を組む可能性が高い。だが、他の要素も、エルドアンの判断に影響する。例えば、ワシントンに立ち向かうのに、プーチンがどこまで覚悟しているのかについての、エルドアンの考え方だ。
ロシアは、ワシントンの挑戦に耐えることができないと思えば、エルドアンは、ロシアと手を組みたがるまい。エルドアンは、プーチンが、いつまでもワシントンに協力を要求していると見ており、ワシントンが、これを、ロシアの弱さの印だと見ているのをエルドアンは理解している。ワシントンは、プーチンを侮辱しているのに、プーチンの対応は、ISISに対する協力要求だ。私はプーチンが、こういう対応をする理由がわかる。アメリカ/NATOと、ロシアとの間の、どちら側も勝てない戦争を、彼は避けたいのだ。プーチンは、平和の人なので、生命を救うためなら侮辱されるのも辞さない。これは実に立派なことだ。だが、それがエルドアンの見方とは限らない。エルドアンは、アメリカ政府と同じ見方をする可能性がある。弱さだ。
二番目に、検討すべきことは、ワシントン、モスクワ、どちらが、エルドアンに対して、一番良い取り引き条件を提示するかだ。ワシントンが、NATO解体を決して望んでおらず、何としてでも、トルコをNATO内に引き止めようとするのは確実だ。ワシントンは、例えば、ギュレンをエルドアンに引き渡すことが可能で、ワシントンは、10億ドルをエルドアンの銀行口座に振り込むことができる。ワシントンは、印刷したいと思うだけ、世界の準備通貨を印刷することができるのだから、ワシントンは簡単に実行できる。モスクワがギュレンを引き渡すことは不可能で、エリツィンが、IMF経由で伝えられたアメリカの助言を受け入れたために、ロシア・ルーブルはアメリカ・ドルの代わりにはなれない。
ワシントンは武力に依存しているので、ワシントンが勝つのを、世界は見慣れている。ジョージアの南オセチア攻撃に対するプーチンの反撃を除き、プーチンが外交に頼るのを、世界は見慣れている。毛沢東は「権力は銃口から生まれる」と言ったが、世界もそう考えている。クリミア住民の投票を受け入れ、クリミアをロシアに編入した際は、プーチンは断固としているように見えたが、分離したドネツクとルハンスクの共和国によるロシア編入要求を、プーチンは拒否し、ロシアを弱そうに見せることになった。これが紛争を長期化させることになり、死と破壊が続いている。
プーチンによるこの戦略的失敗は、欧米の一部にならない限り、ロシアは認められないのだと考える、ロシアの“汎大西洋主義統合派”連中による助言の結果だというのが、私の意見だ。あらゆる意味で、ロシア政府内部のこの親欧米派連中は、事実上、国家反逆党の党員なのだ。ところが連中は、ロシアの果断さに対する制約として機能している。ロシアが果断でないことが、ワシントンからの更なる圧力を引き起こしているのだ。自ら欧米からの圧力をまねいていれば、ロシア政府にとって、勝ち目のないゲームだ。
プーチンは、自立した中央銀行に率いられる、ロシア経済支配層も含む、大西洋主義統合派の影響力から脱することはできないと、ワシントンは見ている。それゆえ、ワシントンは、シリアにおける、ワシントンの、ロシアとの協力は“アサドは退任すべき”ことに、プーチンが同意するかどうか次第だと主張し続けているのだ。ISISが、ロシア連邦のイスラム教地域を汚染しかねないので、プーチンは、ISISを一掃したいのだ。だが、もし彼がアサド追い出しに同意すれば、イラクとリビアで混乱がはびこっているのと同様、シリアで、混乱がはびこることになり、ロシアは、ワシントンはいう最高君主を認めることになる。ロシアは、ワシントンがその収集品として追加する、もう一つの属国になる。
ロシアにとっての本当の危険は、欧米に受け入れられたいというロシアの願望にある。ロシア人がこの願望を持ち続ける限り、国民として命運は尽きている。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Order.が購入可能。
記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2016/08/21/can-russia-survive-washingtons-challenge-paul-craig-roberts/
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あらゆる意味で、ロシア政府内部のこの親欧米派連中は、事実上、国家反逆党の党員なのだ。ところが連中は、ロシアの果断さに対する制約として機能している。
という指摘で、彼の最近の別記事を思い出した。
ロシアの弱点は経済政策(ポール・クレイグ・ロバーツとマイケル・ハドソン)
更に、別の筆者の別の記事。
プーチン: ネオリベラルは、ニェット、国の発展は、ダー F. William Engdahl
“汎大西洋主義統合派”と、「アメリカ流経済学に洗脳されたマネタリスト」、同じ集団だろう。日本を牛耳っている集団とそっくり。
プーチン: ネオリベラルは、ニェット、国の発展は、ダーを読んで、中野剛志氏の本を思い出したと書いた。
『国力論 経済ナショナリズムの系譜』 ようやく、本を見つけ出して、思い出した。フリードリッヒ・リストの名前は、この本で読んだのだ。32ページから、悲劇の愛国者という小見出しで、リストについて書かれている。2008年5月20日初版発行。
健全な経済ナショナリズムからすれば、主権を巨大企業集団に差し出すTPPなど、決して許せるしろものではない。
ポール・クレイグ・ロバーツとマイケル・ハドソンの両氏、下記の記事も書いておられる。
日本にとっての本当の危険は、アメリカに受け入れられたいという日本の願望にある。日本人がこの願望を持ち続ける限り、国民として命運は尽きている。
植草一秀の『知られざる真実』
TPPの詳細を分かりやすく伝える最良ブックレット 2016年8月24日
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