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2016年6月30日 (木)

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』と、ハリウッド・ブラック・リストの歴史

Fred Mazelis
2015年11月30日
wsws

ジェイ・ローチ監督、ブルース・クックの著書に基づき、ジョン・マクナマラ脚本

職業生活を破壊し、結婚を壊し、一部の人々を早死にさせ、映画産業における左翼思想を事実上犯罪化させた、1940年代末から1950年代始めの反共産主義ハリウッド魔女狩りの物語は、これまでも書籍でも、概してさほど成功しなかったものの映画でも語られてきた。

ジョン・マクナマラと、ジェイ・ローチ監督(映画『オースティン・パワーズ』で良く知られている)による新作映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、この主題を、1940年代で最も才能のあった脚本家の一人、ダルトン・トランボの職業生活を通して見ている。彼は、下院非米活動委員会(HUAC)に引きずりだされ、最終的に議会侮辱罪のかどで投獄された、脚本家と監督の集団ハリウッド・テンの一人だった。


『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』のブライアン・クランストン

トランボ (ブライアン・クランストン)は、ハリウッド魔女狩り最初の犠牲者で、この集団の最も主要なメンバーだった。反共産主義キャンペーンが本格的に始まった時には、彼は既に、A Bill of Divorcement (1940)、『恋愛手帖』(1940)、『ジョーという名の男』 (1943)、Tender Comrade (1943)、『東京上空三十秒』 (1944) や、『緑のそよ風』(1945)などの映画で知られていた。

映画は、主に、1947年の魔女狩りの始まりから、1960年に、ハリウッド・ブラックリストが終わるまでのトランボの人生と、職業生活に焦点をあて、更に、1976年に脚本家が亡くなるまでの短い期間へと話を進める。いくつか、明らかな、かつ重大な限界がある。

これは、1930年代と、1940年代のアメリカ合州国における、左翼や社会主義者の政治の複雑さを認めたり、まして検討したりする映画ではない。革命勢力としての共産党を破壊し、きわめて犯罪的な意味で、ソ連官僚主義の共犯者に変えてしまったスターリン主義に対する映画の姿勢は、benignとは言わないまでも、中立的だ。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、大胆に言えば、アメリカ左翼の運命の本格的な検討としては決して受け止めることはできない。この映画を制作した人々は、歴史を徹底的に掘り下げてはいるまいという印象を受ける。

それでも、この映画には、埋め合わせる重要な長所がいくつかある。その理由から『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』の出現は重要で、時宜を得てもいる。

冒頭に表示される字幕は、ハリウッド映画としては、きわめて例外的だ。一部は、1930年代の大恐慌のさなかに、他の人々は、ソ連がアメリカの同盟国だった第二次世界大戦中に、多くの映画俳優が共産党に入党したというのだ。

左翼的な政治組織への加盟が、普通のアメリカ映画の歴史では、これほど明らかに認められることはまれで、まして画面そのものに現れることはまずない。その影響が、現在も依然として感じられる、アメリカの文化的、政治的生活の重要な時期に関する重要な問題を提起している。

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』には、多くの注目に値する場面や、素晴らしい演技や、陰鬱な状況にあっても場違いでないユーモアがある。悪名高いニュージャージー州出身J・パーネル ・トーマス下院議員が議長をつとめた下院非米活動委員会聴聞会での脚本家の尋問を含め重要な瞬間を表現するのに、ニュース映画映像と再現が併用されている。

リチャード・ ニクソン、俳優のロバート・テイラーや、ジョセフ・マッカーシー上院議員の短い記録画像もある。背景に、反ユダヤ・ゴシップ記事コラムニスト、ヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)や、ハリウッドの右翼連中がおり、そこで、ジョン・ウエインと、ロナルド・レーガンが目立っていた。トランボが、ウエインと対決し、画面上でまやかしの英雄を演じている俳優をへこませる場面は、映画の山場の一つだ。

1945-46年の映画セット担当者による激しいストライキで示された、労働者の闘志に憤慨したMGMプロデューサー、ルイス・B・メイヤーが、何百万人もの読者に、プロデューサーがユダヤ人だという背景を思い起こさせるぞと、ヘッダ・ホッパーに脅される効果的場面もある。こうしたこと全てが、エスカレートする対ソ連冷戦という政治的背景にして起きたのだ。

トランボは、米国憲法修正第1項「言論の自由」条項が、彼や共産党の仲間を守ってくれるという幻想を強くもっていた。しかし、彼が下院非米活動委員会に出席したのは、大失敗だった。彼は議会侮辱罪で、告訴され、有罪となり、禁固刑を宣告されるa。トランボは、1950年6月から、11カ月間、投獄された。映画は彼の屈辱的な刑務所生活開始を記録している。一見永遠に続きそうに見えるブラック・リスト支配のさなか、彼は刑務所を出所する。マッカーシー上院議員は絶好調で、ジュリアスと、エセル・ローゼンバーグの夫妻はスパイ策謀の罪で裁判を受け、処刑される。

釈放された後、脚本家は、彼によれば、一日18時間、週7日間、一日30ページのB級映画脚本を量産する仕事にありつく。驚くべきことに、そうした映画の一本『The Heist』は、映画の歴史に残っている。これにともなうストレスが、結婚と、家庭生活を脅かす。そうした中でも、彼はアカデミー賞を獲得した脚本をいくつか書くことができた。1953年の『ローマの休日』と1957年の『黒い牡牛』だ。こうした作品は、もちろんトランボの名前で出品するわけにはゆかなかった。1953年の映画では、彼は友人の脚本家イアン・マクレラン・ハンターを“代役”にたて、 『黒い牡牛』の賞はペンネーム、ロバート・リッチが受賞と発表された。

この二つのオスカー授賞の瞬間が、画面上では記録映像で示され、それを再現したトランボ一家が、喜びと、フラストレーションがあい混じる感情で見つめている。これは、ブラックリストと、それを克服しようという長年にわたる戦いの痛ましい現実の効果的な描写だ。

名高いオットー・プレミンジャー監督と、俳優のカーク・ダグラスが、1960年に公開された彼らの映画、まずプレミンジャーが監督した『栄光への脱出』、さらにダグラスが主演し、スタンリー・キューブリックが監督した『スパルタカス』における、トランボの役割を公表して、ハリウッド追放は終わった。

先に述べた通り『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、特にブライアン・クランストンなどの素晴らしい演技の恩恵を受けている。クランストンは、特にケーブル・テレビ・シリーズのBreaking Badで知られている。彼の演技は映画題名になっている主人公として、映画では明らかにきわめて重要で、この脚本家の痛烈なウィット、敵と戦う際のある種の戦術的才能や、楽観主義と、確固たる現実主義の両方を表現する言葉の使い方を、彼は実に巧みに演じている。

ひたすら事業上の理由で、トランボを雇っているのだが、魔女狩り連中に進んで立ち向かう根性を見せるB級映画プロデューサー、フランク・キングの誇張した役を演じるジョン・グッドマンは愉快だ。これは緊張を和らげるためのコミカルな場面ではあるが、グッドマンの性格描写には、少なくとも多少の真実があるだろう。


ヘレン・ミレンと、ブライアン・クランストン

ヘレン・ミレンは、いかにも不道徳で不誠実なフーパーらしく、俳優としての生活を守るため最終的には魔女狩りに屈したが、以後罪悪感を抱きながら生きた有名な俳優エドワード・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーグによる感動的演技を是非とも指摘しておこう。彼は魔女狩りの初期の犠牲者たちに対し、かなり財政的支援をしていたのだから、ロビンソンの運命はとりわけ悲劇的だ。

彼の政治的な甘さと見なすものを巡り、トランボと衝突する、何人かのハリウッド・テンをまとめた、架空の合成された役柄、アーレン・ハードをルイス・C・Kが演じる。ダイアン・レインは、クレオ・トランボ、脚本家の妻を演じている。端役のニュージーランド人俳優ディーン・オゴーマンは、若い頃のカーク・ダグラスと驚くほど良く似ている。ダグラスは、嬉しいことに今も存命で、あとわずか数週間で99歳の誕生日を迎えるとご報告しておこう。


『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

映画の中で描かれるハードとトランボとの間の短期間の不和は、更に深く描かれることはない。これは確かに困難な仕事になっていたろう。人民戦線時代と戦時同盟時のスターリン主義は、労働者階級の政治的自立のための戦いを、あからさまに、すっかり放棄していた。共産党が、超愛国的方針を採用し、リベラリズムと区別不能になっていたのだから、ハリウッドで、スターリン主義を支持していた人々は、この精神について、間違って教えられていたのだ。こうした様子の一部は、トランボが娘に、共産主義は、何も食べるものがない同級生と、サンドイッチを分けて食べることと同じだと説明しようとする際の対話に反映されている。

だがトランボが対処した戦後の魔女狩りは、権利章典とアメリカ憲法に対する悪意に満ちた攻撃だった。右翼による共産党攻撃は、労働者階級に向けられていたが、それは、社会的、政治的テーマを探求した戦後映画の弱点が何であれ、そうした映画に対する怒りによって、かきたてられていた部分もある。

クランストンや、ミレン、グッドマンらを含む、何人かの著名俳優が『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』に出演していることが、ブラック・リストの遺産に対する彼らの懸念や、この物語が現代にとって、時宜にかなっていることを反映しているのは確実だ。ジェイ・ローチ監督は映画を“教訓的な物語”と呼んで、言論の自由に対する現在の攻撃を指摘している。

ダルトン・トランボは、この反民主的キャンペーンに対し、長く信念に基づいた戦いをしたのだが、この歴史をほとんど、あるいは全く知らない何世代もの映画ファンは、特にこの文化的、政治的歴史を更に詳しく調べれば、この映画を見ることで得るものは大きいだろう。

筆者は下記もおすすめする。

トランボと、ハリウッド・ブラック・リスト(英語原文)
[2008年6月26日]

裁判にかけられたハリウッド: 重要なことを思い出させる時宜を得たこと(英語原文)
[2009年12月10日]

記事原文のurl:https://www.wsws.org/en/articles/2015/11/30/trum-n30.html

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「ハリウッド」、いわゆる「テレビ・新聞を含むマスコミ」に置き換えて解釈すべきだろう。

7月22日公開は残念。一カ月早ければ、自民・公明や、野党モドキ与党分派による共産党攻撃の卑劣さ・陳腐さを多くの方が実感を持って受け止められたろう。

同じ話題を扱った記事を、いくつか訳してある。

NHKや、TBSや、テレビ朝日で、普通の庶民感覚に近い発言をするキャスターが排除され、ことごとく寿司友に置き換えられるのは、宗主国では日常茶飯事。それが通常だ。

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