愚かなギリシャ、今度はNATOガス戦争に参戦
2016年6月10日
F. William Engdahl
New Eastern Outlook
わずか18カ月前には、ロシア・ガス田から、黒海を横切って、トルコに入り、更にギリシャ-トルコ国境へと向かう大規模南ヨーロッパ天然ガス・パイプラインの可能性が、ロシアのプーチン大統領と、トルコのエルドアン大統領との間で交渉されていた。EUの経済的妨害で、ブルガリアに入り、更に東南、南ヨーロッパに向けるサウス・ストリーム・パイプライン計画キャンセルをロシアに強いた後、トルコ・ストリームと呼ばれるものが、2014年12月、アンカラでのプーチンと、レジェップ・タイイップ・エルドアンとの会談中に提案されていた。今やギリシャは、ガスを、バクーのシャー・デニスII海洋ガス田からギリシャを横切り、アルバニアを通り、アドリア海の海底を通り、イタリアへ輸送するいわゆるトランス-アドリア海パイプラインを建設するという遥かに経費のかかる協定に調印し、愚かにも、NATOの対ロシア“ガス戦争”に参加するという決断をした。ヨーロッパのガス地政学は、石油地政学同様、急速にリスクの高いものになりつつある。
5月17日、ギリシャの最高日和見主義者、兼首相のアレクシス・ツィプラスは、テサロニキで、ギリシャを通る550 kmのトランス-アドリア海パイプライン(TAP)建設開始に着手する協定に署名した。ツィプラスは、推計15億ドルのプロジェクトを“ギリシャ国内で実行される最大の外国投資プロジェクトの一つ”だと、マスコミに売り込んだ。式典出席者は、欧州連合官僚と、ギリシャ、トルコ、アルバニア、イタリアとブルガリアの高官だ。
実に奇妙なことに、EU内のエネルギー協定の直接当事者ではないにもかかわらず、アメリカ国務省も出席していた。ところが間接的に、1990年代始めのソ連解体以来、あらゆる機会に、ロシアのガスプロムを妨害しようと、アメリカは、EUエネルギー戦略の真っ只中にいた。EU“ガス戦争”の本質は、直接的には、アメリカの圧力やNATOの圧力、そして間接的には、欧州委員会の“お友達”を通した、ロシア・ガスプロムのEU市場への輸出を弱体化させるか、露骨な妨害工作をするアメリカの取り組みなのだ。
EUの“温室化ガス”規制や、ドイツにおける原子力段階的廃止のため、欧州連合の諸国において、石炭や他の燃料に置き換わる天然ガスへの需要は劇的に増え、輸入の必要性も増えている。今後四年間で、ガス輸入は、EU全ガス消費のうち、現在の45%から、2020年には、約65%へと増加する予定だ。
ばかげたTAP
トランス・アドリア海パイプラインは、ロシア・ガスという選択肢を回避し、アゼルバイジャンのシャー・デニス II海洋ガス田を、EUと結びつける遥かに高価で長距離のパイプライン・チェーンの一部だ。TAPは、アゼルバイジャン・ガスを、シャー・デニス-2から、ギリシャとアルバニア経由で、EU市場に送ることになっている。TAPの株主は、アゼルバイジャンの国営エネルギー集団、Socar (20%)、BP (20%)、イタリアのSnam (20%)、Fluxys (19%)、Enagas (16%)と、Axpo (5%)だ。TAP全長878kmのうち、550 kmがギリシャ北部を、215 kmは、アルバニア、105 kmは、アドリア海、そして、8 kmがイタリアを通る。負債で身動きのとれない、経済的に落ち込んだギリシャ政府は、ガス会社、TAP AGに、25年間の税控除を与えることを強いられた。
TAPは、トランス・アナトリア・パイプライン (Tanap)と呼ばれる遥かに長いパイプラインで、アゼルバイジャン・ガスを輸送する。Tanapの1,850-km パイプラインは、100億ドルという途方もない推定費用で、BPが運営するカスピ海のシャー・デニス IIガス田から、年間160億立方メートルを輸送することになっている。ジョージア-トルコ国境から、トルコのギリシャ国境に向かう予定だ。そこでTAPとつながり、ギリシャとアルバニアを横切り、アドリア海の海底を通って、南イタリアのガス・ハブに到る。
ギリシャ部分を建設するTAP AGコンソーシアムによれば、TAPとTanapは、これまで世界で建設された中では最も複雑なガス・バリュー・チェーンで、欧州委員会のいわゆる南ガス回廊の一部だ。長さは3,500キロにおよび、7か国を横切り、一ダース以上の大手エネルギー企業が関与している。2020年までに完成した暁には、年間約100億立方メートルのアゼルバイジャン・ガスをEUに送ることになっている.
ガスプロムのポセイドン
2016年の2月、同じアレクシス・ツィプラスは、全く別の調印式の当事者だった。ヨーロッパへのロシア・ガス供給用の南部ルート実現を可能にする、ギリシャとイタリア間のガス・パイプライン・プロジェクト開発“覚書”は、2月24日に調印された。協定は、ガスプロムCEOのアレクセイ・ミラー、イタリアのEdison CEO、マルク・ベナヨウンと、ギリシャの公営ガス供給会社DEPAのCEO、テオドロス・キツァコスが署名した。
2014年12月、ワシントンが、ブリュッセルの欧州委員会に圧力をかけ、サウス・ストリームという名前のプロジェクトのパイプライン経路で、TAP-Tanap-南ガス回廊よりずっと安い経費で、ロシア・ガス経路を通す計画をブルガリアに放棄させた後、南部のEU諸国にロシア・ガスを送る代替案として、ガスプロムのギリシャ-イタリア経路のポセイドンがが設計された。
サウス・ストリーム・パイプラインは、年間630億立方メートルのロシア・ガスを、黒海を渡って、ブルガリア、また、セルビア、ハンガリーと、スロベニア経由で、イタリアへ送るよう設計されていた。対照的に、TAPというEUの代案は、年間僅か100億立方メートルしかおくれず、それすらも疑わしいのだ。深刻な経済危機のさなかにあるEUにとっては、奇妙な経済計算だ。提案されているロシアの代替案は、経費155億ユーロで、年間約630億立方メートル輸送できるが、アメリカが支援するTAP-南ガス回廊は、450億ドルもの建設費で、年間わずか100億立方メートルしか輸送できない。
2014年12月、ロシアがサウス・ストリーム中止を発表した同じ月、プーチンとエルドアンは:東南ヨーロッパとイタリアのガス需要問題を解消する別のガスプロム代替案を話し合うことに合意した。それはトルコ・ストリームと呼ばれ、ロシア・ガスを、黒海海底のパイプラインから、トルコ内を短距離通って、ギリシャ国境へと輸送するはずだった。2015年11月、シリア領空でのトルコ空軍によるロシア戦闘機撃墜で、ロシアとトルコとの関係が凍結され、少なくとも、当面、サウス・ストリームの話も終わった。
アメリカが妨害したロシア提案のサウス・ストリームと、その代替案トルコ・ストリームの推定費用は、いずれも、約155億ユーロで、TAP-南ガス回廊で予想されている経費、膨大な450億ドルの三分の一だ。国務省の駐在ネオコン、ビクトリア・ヌーランドを含むアメリカの経済戦争戦略家にとって、EU諸国が支払う限りはコストは不問なのだ。
2016年2月、ガスプロムは、ギリシャと南ヨーロッパに、ロシア・ガスを輸送する新たな選択肢となる構想ポセイドン・プロジェクトを発表した。ロシア・マスコミ報道によれば、ポセイドンは、ブルガリア経由でガスプロム・ガスを輸送するためブルガリアとの新協定も結ぶ可能性がある。
ロシア国家エネルギー研究所所長のセルゲイ・プラボスードフは、ブルガリア・ルートは、ロシア・ガス輸送のための最も先進的な選択肢だったと語っている。
ポセイドンを阻止するための新たなギリシャ‘緊急支援’
アメリカは、ガス戦争での新たなロシア・ガス輸入の脅威に素早く反応した。大半の交渉がおこなわれるヨーロッパ政治の舞台裏で、メルケル政権や他のEU諸国に、アメリカが大変な圧力をかけ、ギリシャ向けの緊急支援金をかき集めさせたのだ。
5月25日、ドイツと他のEU諸国政府は、ギリシャに、新たな103億ユーロの緊急支援を与える決定を発表した。ツィプラス政権のもと、ギリシャ国民は、更なる緊縮策にあい、生活水準が下げられるばかりで、一銭たりとも目にするわけではない。金はすべて、欧州中央銀行や他の外国債権者へのギリシャ借金返済に使われる。ドイツ・マスコミの報道によれば、ロシア・ポセイドン・ガス・プロジェクトで、ギリシャがモスクワとより親密になるのを防ぐため、緊急援助をするようアメリカがEUに圧力をかけたのだという。
どうやら、それが効いたようだ。アメリカが支援するTAP協定に調印した翌日、ツィプラスは、ポセイドン代替案に関するロシアとの交渉は凍結すると発表した。アメリカは満足なようだ。アメリカ国務長官ジョン・ケリーは、ツィプラス首相を慶賀して、TAPを“ヨーロッパのエネルギー安全保障を強化するインフラの最高の見本”と呼んだ。この発言で、彼は、ロシア・ガスからの安全保障のことを言ったのだ。アゼルバイジャン海洋ガス田からのガスの唯一問題は、それがないことだ。アゼルバイジャン海洋ガス田のガス供給の深刻な不足から、アゼルバイジャン政府と国営石油・ガス企業Socarは、 ガス輸入の可能性…ロシアのガスプロムからのを検討せざるを得なくなっている。BPが運営するシャー・デニスの巨大な海洋ガス田輸出の主要なアゼルバイジャンのガス田は、既にトルコとジョージア向けに契約されている。ガス生産は、今後数年間は停滞したままだろうと、BPは言っている。ギリシャとイタリア向けガスはない。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書。本記事はオンライン誌“New Eastern Outlook”独占。
記事原文のurl:http://journal-neo.org/2016/06/10/foolish-greece-now-joins-nato-gas-war/
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孫崎 享氏のツイッター @magosaki_ukeru 3 時間前 全く同感。
参議院選:24日朝日「改憲勢力三分の二うかがう。78議席とればいい。改憲4党で70議席後半になりそうだ」。本当にこんな状況作っていいのか。「嘘をつく。騙す。そして隠す(「改憲」の意図)。最悪の政権なのに国民は支持を与える。どうなっているのだ、この国の国民!!!
救いがたいほど、阿呆なのは、数人のおさななじみだけ、と思いたいのだが。
知事問題だけでは、あきられる、と思ったのだろうか。昼間の洗脳白痴製造番組、一瞬見たところ、今度は五体不満足氏の別居問題。
問題なのは、扱われ、さらしものにされている人々ではなく、上から目線でこきおろしている連中そのものだろうに。
ああいうものを見ていれば、頭脳は、精神はスカスカになるだろう。
白痴にならないよう、下記の講演を拝聴予定。
特別講演会「シリア内戦」はどう理解してはいけないか? ―東京外国語大学・青山弘之教授×中東調査会上席研究員・高岡豊氏 対談講演会 2016.6.23
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こうした海外から齎される真実の情報に、もっと多くの日本国民が触れてくれたなら、安部の詭弁に惑わされる事なく、正しい選挙行動が執れるのに、と何時も思っています。
残念な事に、私の周辺に居る人々も皆、政治無関心または昔からの慣習というか、田舎ですから尚更、周囲の特に有力者の考えに合わせるといった風習が強く残っていますから、名目上に成り下がったと言えども保守地盤は固い土地柄です。
そして未だ自民党が小泉改革以来、変質してしまった政党である事に気づかぬまま、保守とは現状維持という意味であるかの様に思い、相変わらず支持を止めようとはしないのです。
ネット内の世論との乖離に驚くばかりですが、これが実態です。
皮肉な事に、今や最も保守的な政党は日本共産党になってしまった感ありで、今の自民党は全くの左翼も左翼、超極左政党であるにも拘わらず、看板だけが保守面していて、それを更に日本会議という右翼モドキがラッピングしている為、未だ自民党を保守政党であると勘違いしている人の、何と多い事でありましょう。
その判断の過ちによって、自殺願望の強い彼らだけが被害を蒙るならばよいのですが、絶対拒絶を叫んでいるこちらまで巻き添えにされるのですから堪ったものではありません。
そこで何時も脳裏に浮かぶのは、何年か前に見た、戦場のピアニストという映画です。
あの映画で特に印象に残っているのは、ホロコーストへと向かうユダヤ人たちの群れが待機する場面で、一人の少年がキャラメルを売っているシーンです。
あのシーンで、主人公の家族がその少年からキャラメルを買おうとして「幾らだ」と聞いたところ、とんでもない値をふっかけてきたので、主人公の父親が「正気か?」というセリフ。
しかし少年は無表情のまま意に介さず、尚も「○○マルク」と答えるだけ。
というワンシーンが、今の我々日本国民が置かれている境遇と重なって見えて、あれ以来、脳裏を離れません。
同じホロコーストへと向かう運命の人々にキャラメルを売って、如何ほど儲けようとも、強制収容所では何の価値も無いというのに、全く馬鹿げた行為なのに、それが少年には解らないのか、地獄の沙汰も何とやら、と思っているのか、・・・何とも考えさせられるワンシーンです。
日本国民は今、TPPというホロコーストへと向かう囚人の群れの様なものです。
TPPとは見えない檻に入れられる様なもの、或いは姿形は見えないけれど人々を迫害するホロコーストそのものです。
少し見方を変えれば、安部晋三やマスコミはキャラメル(アメ)売りの少年です。
「そうれそれっ、やるぞやるぞ売ってやるぞ、アメ屋のアメは旨いぞ旨いぞ、アメノミクスはまだ道半ばだ、この先にはもっと旨いアメがあるぞ」
と言って、安部晋三という狂人は人々を誑かし、国民をアメ屋(ネオコン勢力)に売り飛ばすのです。
しかし極端に愚民化洗脳された人々には、そのアメを食べたら地獄が待っているであろう事が想像できないのです。
TPP後の社会では、人々は人権を剥奪され、毒餌を与え続けられ、奴隷労働を強いられ、人体実験に供され、持っているものすべてを没収されるというのに・・・。。
どこの世界に自国民の生命財産を売り渡し、国土を荒廃させ、または二束三文で売り渡す政府があるでしょうか。
安部晋三という一人の狂人の為に、今後、特にTPP発効後は、日本人国民は加速度的に餓死、凍死、過労死、病死、自殺者、或いは暴動、強奪、陵辱などが増加していく事になるでしょう。
これはあのスターリンやポルポトが行った大粛清、大虐殺と大差の無い悪行です。
はたまた、文化大革命で犠牲になった4000万人ともいわれる人々の記録をも塗り替えるかもしれません。
これは軍事や原発の惨事に拘わらず、大衆の無知、無関心に拘わらず、無理やり参加させられる死の行軍です。
日本国民に突きつけられた罪状は、民族的劣化です。
せめて今選挙では、国民投票で見せたイギリス人位の関心の高さや真剣さを、日本人も見習ってほしいところです。
投稿: びいとるさいとう | 2016年6月24日 (金) 20時45分