略奪段階に入った資本主義
Paul Craig Roberts
2016年5月25日
ドイツのIMF攻撃
ギリシャ“左翼”政権をドイツの銀行の手駒に変えることで、ギリシャ国民をまんまと征服するのに、EUを利用したが、今やドイツは、IMFが、ギリシャを略奪し、忘却のかなた追いやる計画の妨げになっていると見なしている。
IMFの規則は、債務を返済できない国に、IMFが貸し出しをするのを禁じている。IMFは、事実と分析を基に、ギリシャは返済できないという結論を出した。それゆえ、IMFは、民間銀行に返済するための金をギリシャに貸したがらない。
ギリシャ債権者は、実はその多くは債権者でなく、儲けを狙って、安値でギリシャ債務を買い込んだだけなのだから、ギリシャ経済が返済可能な金額にまで債務を減額するため、ギリシャ債務の一部を損金処理するすべきだと、IMFは主張している。
銀行は、ギリシャが債務を返済できないのを利用して、ギリシャの資産や資源を略奪し、二十世紀に導入された社会保障制度を後退させるつもりなので、銀行は、ギリシャに債務を返済できて欲しくはないのだ。新自由主義は、封建制度を復興するもりだ。ごく少数の悪徳資本家と多くの農奴。1パーセントと99パーセントだ。
ドイツは、IMFはドイツ民間銀行に返済するための金を、ギリシャに貸すはずだと考えている。そこでIMFは、ギリシャに、老齢年金を引き下げるか廃絶し、公共サービスと、雇用を引き下げ、節約された歳入をIMF返済に使うよう強制し、返済を受けることになる。
こうした金額だけでは不十分なので、公営水道企業や港湾や保護されてきたギリシャの島々などの国有財産を、外国人投資家、主として銀行そのものか、銀行の主要顧客に、ギリシャが売却することが必要になるような更なる緊縮政策が押し付けられた。
これまでのところ、いわゆる“債権者連中”は、2年後にはじまる、何らか未確定の債務軽減を約束したにすぎない。その頃には、若い世代のギリシャ国民は移民してしまい、アメリカによる中東とアフリカの戦争から逃れて来る移民に置き換わってしまっていて、彼らが、ギリシャの積立金不足の福祉制度に対する負荷になっているだろう。
言い換えれば、ギリシャは愚かにも加入し、信頼してしまったEUに破壊されつつあるのだ。同じことがポルトガルでもおきており、スペインとイタリアでも進行中だ。略奪は既にアイルランドとラトビア(と多くの中南米諸国)を破滅させ、ウクライナでも進行中だ。
ギリシャ債務を返済可能な水準に減額することに関し、IMFとドイツの間で合意がまとまりつつあるという現在の新聞見出し報道はいつわりだ。“債権者”の誰一人、債務の一セントたりとも減額には依然同意していない。IMFがいわゆる“債権者連中”から得たことと言えば、今後二年で未確定額の債務減額をするという曖昧な“約束”にすぎない。
新聞の見出しは、IMFが圧力に屈して、自らのルールに違反するための偽装用のくずに過ぎない。この偽装で、IMFは、(将来の未確定の)債務減額で、ギリシャが残りの債務を返済できるようになり、それゆえ、IMFは、ギリシャに、民間銀行に返済するための金を貸せるようになると言えるようになるのだ。
言い換えれば、IMFは、その設立趣意書が、アメリカ憲法や、ワシントンのアメリカ政府の約束以上のものではない、もう一つの無法な欧米機関なのだ。
マスコミは、ギリシャの略奪を“緊急救済”としつこく呼び続けている。
国家とその国民を略奪することを“緊急救済”と呼ぶのは、オーウェル風だ。洗脳が実に成功しているおかげで、略奪されているギリシャのマスコミや政治家連中さえもが、ギリシャが苦しめられている金融帝国主義 を“緊急救済”と呼んでいる。
欧米世界のいたる所で、大企業なり、政府なりの様々な施策が、所得拡大の低迷を招いてしまった。利益を計上し続けるために、巨大銀行や多国籍企業は、略奪に取りかかった。社会保障制度や、公共サービス-アメリカでは、TSAの航空機手荷物検査すらもが民営化の標的にされており、ジョン・パーキンスが著書『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』で実に正確に説明している負債が、国丸ごと略奪のお膳立てをするのに利用されているのだ。
我々は資本主義の略奪段階に入っている。その結果は荒廃だろう。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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コメント
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ポール•クレイグ•ロバーツ氏が描く、ギリシャ国民と民間銀行及びIMFとの関係は、「現代資本主義における略奪」というものを端的に表現していると考えられる。IMFは返済できるあてのない金をギリシャに貸したがらず、ドイツ民間銀行はギリシャの資源、資産の略奪、社会保障制度の後退を狙っているため、ギリシャに債務返済してほしくないと考えている。IMFはギリシャの老齢年金引き下げ、公共サービス低下、労働者給与の引き下げによる、IMFへの返金を強制しており、国有財産の売却をうながす緊縮財政をもギリシャに強制している。似たような出来事が、ギリシャのみならず、ポルトガル、スペイン、イタリア、ラトビア、中南米諸国、ウクライナでも進行中。我が国も、EUと米国との違いはあるものの、同じような道筋を辿るんだろうなあ。
投稿: コメット | 2016年5月31日 (火) 08時14分