オバマは一体なぜ、シリアの聖戦士打倒より、アサド打倒を優先しているのか(II)
Eric ZUESSE
2016年4月17日
Strategic Culture Foundation
第I部を読む。
今年のアメリカ大統領選挙戦、片やバーニー・サンダースとドナルド・トランプ、片や他の全ての候補者を分ける重要な外交問題は、アサドや他のあらゆるロシア同盟国を打ち負かすより、聖戦士殺害を優先するかどうかだ。
サンダースもトランプも、聖戦士殺害が絶対に最優先だと言っている。ヒラリー・クリントンや他の共和党候補は、両方の優先順位は等しく、例えそれが、ロシア、あるいはシリアのアサドのようなロシアの同盟者に対し、連中が損害をもたらしている時には、聖戦士を支援することを意味しようとも、同じ熱意で追求すべきだと言っている。彼の(ウソの)言葉ではなく、行動で、オバマを判断すれば、彼はクリントンや他の共和党候補の側だ。現実は(クリントン、クルスや、ケーシックなど)両方の優先順位は同じだという連中は、皆、実際、ロシアを打ち負かすのを、聖戦士殺害より高い優先度にするのを支持しているのだが、政治的理由から、それを公然と認めるわけにはゆかない。これら候補者全員、実際(ブッシュ家やクリントン家同様に)、9/11以前に、アルカイダに資金提供し、9/11後も資金を提供し続けており、お仲間の他のアラブ王家が他の聖戦戦士集団に資金提供している、サウド王家を代理する候補者連中だ。
続行中の国際戦争の片方は、ロシアと、シーア派で世俗派のシリアのアサドと、イランの原理主義者ハメネイを含む少数の同盟諸国で、もう一方は、アメリカ合州国と、サウジアラビア、カタール、クウェート、UAE、バーレーンとオマーンの原理主義スンナ派の諸王家もいるが、原理主義スンナ派で、アメリカが率いるNATO反ロシア軍事クラブ員で、サウド王家の手先をつとめるトルコのタイイップ・エルドアンも仲間という同盟諸国だ。そして、もちろん、NATOと日本もアメリカ・チームだ。イスラエルも、そうだ。
これは地政学で、片やアメリカ-サウジアラビアが率いる連合、対 片や、ロシアが率いるずっと小規模な連合という、二つの支配層連合間の権力争いだ。
著書『グランド・チェスボード』原書46ページ(翻訳『ブレジンスキーの世界はこううごく 21世紀の戦略ゲーム』68ページ)の、アメリカ-サウジアラビアが率いる連合の立場に関する彼の古典的な1997年の発言で、ブレジンスキーは、特にウクライナについて論じて、一体なぜ欧米は、ロシアを分裂させ弱体化させるか、破壊すると脅迫している集団、原理主義スンナ派、あるいは聖戦戦士を支援しなければならないのかも説明している。
“ウクライナは、ユーラシアというチェス盤の上で、新たに重要な位置を占めるようになった国であり、地政上の要衝である。ウクライナが独立国になったこと自体が、ロシアの変化の一因になっているからだ。ウクライナの分離によって、ロシアは、ユーラシア帝国ではなくなった。ウクライナを失っても、ロシア、帝国の地位を目指すことができるが、、アジアの帝国という性格が強くなり、独立したばかりの中央アジア諸国への進出をはかる可能性が高い。そうなれば再度植民地化を嫌い、南の 「イスラム国」諸国の支援を受ける連中よって支援されるこれら諸国と泥沼の戦いなり、国力を弱めていくだろう … しかし、ロシアが、ウクライナに対する支配を取り戻せば、5200万人の人口、豊富な資源、黒海へのアクセスを手に入れ、ヨーロッパからアジアにわたる大帝国となる手段を回復することになる。”
ロシア人によって追い出されたポーランド貴族の家に生まれたブレジンスキーは、ロシア人に対する憎悪を失っていない。1973年、彼と友人のデイヴィッド・ロックフェラー(アラブの王族同様、世襲石油億万長者)が、古典的な分割して統治という支配者思考で、ロシアを分割し、征服するため、アメリカとヨーロッパと日本を協調させるべく、三極委員会を設立した。これが彼のグランド・チェスボードの全てだ。世界支配のための征服だ。オバマのみならず、ブッシュ家やクリントン家を理解するためには、あの本は古典だ。そして、アメリカ支配層が、一体なぜサンダースもトランプも大嫌いなのかという理由は、二人の候補者は、お互い違いはあるが、両候補者が、1991年のソ連とワルシャワ条約終焉以来、ロシアを征服するため、継続している、(大衆は自分たちの税金で、それに資金を与え、リビア、ウクライナ、シリアや、いくつかの他の場所で、自分たちの死体を提供している)純粋に支配層のための戦争を、初めて終わらせる可能性があるためだ。
国家指導者としてのいかなる欠陥にもかかわらず、オバマは並外れて才能ある政治家だが、フォックス・ニューズのクリス・ウォーレスとの対話で、4月10日に放送された大統領としての、彼の最大の実績と、彼の最大の過ちに関する彼の短いやりとりがここにある(この質問の補足質問はなかった)。
“ウォーレス: 最大の過ちは?
オバマ: 多分、リビア介入で、正しい行動だったと私が思った日以後を計画し損ねたことです”。
しかし、たとえまったく補足質問がなくとも、多くを物語っている。オバマは“殺害後の計画さえしていなかった”のに(衝撃的な告白であり、実際この人物の奈落のような度量を示している)、ムアマル・カダフィが殺害されるまでの彼のリビア爆撃“は正しい行動だった”のだ。(ジョージ・W・ブッシュも、別のロシア同盟者、サダム・フセインを処分したのを同じように感じていた。) ここで尋ねられなかった質問はこうだ。なぜですか? なぜそれが“正しい行動”だったのですか? しかし、もし彼の外交政策が、ロシアに対して友好的なあらゆる国の指導者を打倒するという目標によって、執拗に突き動かされているのであれば、それなり筋は通っている。結局、オバマが、ウクライナで、ヤヌコヴィッチに対してしたのと同じ意味で、シリアでも、アサドに対し、依然、実にしつこく実行しようとしているのだ。(そして、クリス・ウォーレスが、あの時、オバマから、オバマの全大統領職期間で最も衝撃的な発言を引き出したことに気づきさえしなかったことが、精神病質者連中のTV局が、いつも通り機能しており、インタビュアーは、アメリカ大統領が、ロシアに友好的な指導者を追放するということ以外、どういう結果になるのか意識もせずに、大規模爆撃作戦をしでかしたことさえ全く気にかけていないことを示している。)
将来のアメリカの国際関係に関し、この精神病質的目標の継続(か、そうでないか)が、現在のアメリカ大統領選挙戦における最大争点なのだ。アメリカ国民は、それについて余り考えないが、アメリカの億万長者は確実に考えており、それこそが、この目標(ロシア支配権の掌握)を、オバマがやってきたより、ずっと激しく継続したがっている、ヒラリー・クリントン、テッド・クルスや他の候補者の選挙運動に連中が、何十億ドルも注ぎ込んでいる理由だ。
歴史は単に、過去だけのものではないという理解こそ正しい。歴史は、未来に関するものとして、遥かに重要だ。これこそが、支配層が、誠実な歴史学者の出世に資金を提供しない理由だ。大衆は、過去に支配層が作り上げた神話を信じるべきことになっている。誠実な歴史は支配層を危険にさらす。そして、それこそが、“オバマは一体なぜ、シリアの聖戦士打倒より、アサド打倒を優先しているのか”というようなことを、あるいは、彼がそうしていることすらも、大衆が知らないことになっている理由だ。しかし彼はそうしている。そして、これが、彼が一体なぜそうしているのかという説明だ(ほとんどどのマスコミがこれを記事にしない理由は、それが、支配層にとって、より大きな脅威となるのを理解しているからだ)。
詐欺は、知られてはならない。あるいは、もし知られた場合、気づかれてはならない。
“オバマ: 多分、リビア介入で、正しい行動だったと私が思った日以後を、計画し損ねたことです。”
そして、これも“オバマが一体なぜ、シリアの聖戦士打倒より、アサド打倒を優先しているのか”という理由だ。彼はこう言っている。リビアであれをしたのは、彼の“最悪の過ち”だった。ところが、彼はほとんど気にせずに、シリアで、またそれをしようとしている。彼は、いつも通りの精神病質者だ。
そして、これが疑問の答えだ。彼にとって、死体や、流血や、悲惨な状態にされた国民は問題ではない。それは“グランド・チェスボード”なのだ。たとえそれが死体の山であっても、彼は単にお山のてっぺんに立つ人物でありたいだけだ。あるいは特にもし、それが死体の山であればこそかも。これが何千年間も、支配層のやり方で、彼はそれに、うってつけなのだ。実にうってつけなのだ。特にCIAは、少なくとも1957年以来、シリア指導部としてのバース党打倒を狙っていた。現在のシリアは、分割されたシリアで置き換えられ、その主要な石油とガス・パイプライン経路は、サウド王家の同盟者、原理主義スンナ派によって支配されることになる。
結局、グランド・チェスボードも、単なるゲームなのかも知れないが、ふさわしい人々にとっては、極めて儲かるゲームとなりうるのだ。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2016/04/17/why-obama-prioritizes-ousting-assad-over-defeating-syria-jihadists-ii.html
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文中で触れられている古典的著作Grand Chessboard、翻訳が二度刊行されている。
『ブレジンスキーの世界はこう動く――21世紀の地政戦略ゲーム』
『地政学で世界を読む――21世紀のユーラシア覇権ゲーム』
いずれも書店には見当たらず、古書しかない。
『ブッシュが壊したアメリカ――2008年民主党大統領誕生でアメリカは巻き返す』は興味深かった。
『北大西洋共同体(NATO)に日本を組み込む ブレジンスキー』戦争法案の予言と思えた。
Strategic Vision: America and the Crisis of Global Powerは翻訳がない。売れるだろうに。属国支配上、肝心な政策を書いたものは、意図的に外すのだろうか。
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト 改訂増補版』307ページで初めて知ったことがある。
福澤諭吉は、『明治十年 丁丑公論』で書いていた。一斉に西郷非難を開始した新聞を批判して言っていた。講談社学術文庫に収録されている。Webでも読める。
新聞記者は政府の飼犬に似たり
原田伊織氏は書いている。
更にいえは、社会をミスリードするという点においては平成の今日のメディアにもあてはまるのではないか。
メディアの種類が増えているので追加が不可欠。
新聞記者とテレビ記者やタレントは政府の飼犬に似たり
今も、どうでも良い話題を、よってたかって語っている。どうでも良くない話題は、絶対に電気洗脳箱の話題にはならない。
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト 改訂増補版』の中の、薩摩・長州部隊による乱暴狼藉の記述を読んでいて、イスラム国の暴虐を連想した。同じ背景をもった殺人集団は、同じことをするようだ。
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