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2016年3月19日 (土)

サルタンとヨーロッパのファウスト的契約

Pepe ESCOBAR
2016年3月14日

トルコのバザールで、絨毯の値段交渉をしたことがある人なら誰でも、そこの商人たちがヘンリー・キッシンジャーより遥かに卑劣なことを知っている。最初に支払おうと思っていたよりもずっと高い値段で、欲しがっていた商品を手に入れた気分にさせておいて、連中は常に、自分たちが望んでいるものを得るのだ。

Cue to愚かなヨーロッパ人観光客の一団が  絨毯バザールのエース、トルコ首相で、エルドアン皇帝の首相アフメト・ダウトオールと、難民取り引きで値段交渉を。下品な取り引き確定など遥かに超えて、EUは、わずかながら残された人道的、民主的“原則”とされるもの、別名「魂」までも絨毯商人に売り払っておしまいということになりかねない。このEU幹部連中の誰一人、ゲーテの『ファウスト』は読んだことがないのだろうか?

そこで、EUが、アンカラの手練のゆすり屋から一体何を得るのか要約しよう。難民“絨毯”に、30億ユーロではなく、66億ユーロ支払う。シェンゲン協定では抜けていた、7500万人のトルコ人のビザ無し旅行を容易にする。トルコのEU事前加入のための官僚的ロードマップを加速する。そして、ギリシャからトルコに追い返されたシリア人一人につき - こうしているうちにも、毎日2,000人以上いるのだが - トルコ人一人の、EUの緊縮政策煉獄への定住を認める、というアンカラの要求を飲む。

これは、まさに、マフィアが良く言う“断ることの出来ない申し出だ”。

ヨーロッパ観光客の一団

EU幹部は、今週始め、3月7日の重大なブリュッセル・サミット前に、いわゆるEU-トルコ行動計画の一環として、取り引きできると思っていた。EU - 主としてドイツ - の全くの捨て鉢状態は既にしっかり決まっていた。アンカラと取り引き出来なければ、代わりはシェンゲン協定崩壊(いずれにせよ既に起きているが)と、EU機構に対する大衆の信頼の崩壊だ(これも既に起きた)。

シリアでの戦争と“戦略地政学的”状況ゆえ、トルコとの取り引きは“絶対ヨーロッパの利益になる”というのがメルケル首相の言葉だ。うさんくさいやり手の欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケルは“状況を一気に良い方向に変えるものだ”と述べた。

そう、確実に、トルコにとって、状況を一気に良い方向に変えるものだ。意気地のないヨーロッパ人観光客の一団を、アンカラは徹底的に軽蔑していて、トルコ政権は、トルコ最大の新聞ザマンを襲撃し、催涙弾まで使って占拠し、親AKPマスゴミに変えても何の罰も受けずに済んでいる。経済制裁? 制裁相手はシリアとイランだ。トルコは、新聞を粉砕しながら、交渉で、EU加盟の加速という報酬をえた。“報道の自由”も独立した司法ももはやこれまで。

ひどくできの悪い歴史学科の学生のような態度で、EU高官連中は、サルタンと部下の首相は当初の取り引き 連中自らが生み出した、ロシアとのひどい対決で、EU支援を大いに必要としているのだから、トルコ-シリア国境沿いに対する更なる支援(サルタンの有名な“安全地帯”の夢)や、NATO船舶を沿岸警備に使用すれば、更になだめられると思い込んでいたのだ。

ところが、そこで絨毯商人は奥の手を持ち出し、最上のお客を夕食に招いたのだ。

3月6日、日曜夕方、ブリュッセルのトルコ大使館で、狡猾なダウトオールが、メルケルをはるかにしのぐ様相を想像願いたい。輪番制のEU議長国オランダのマルク・ルッテ首相も、招かれたお客の一人だった。

ダウトオールは魔法の絨毯飛行を繰り広げた。何事も、何週間も話し合ったこと何一つ、全く適用されないのだ。アンカラは、新しい、ずっと手のこんだ“拒めない申し出”をし、EUサミットは翌日に予定されていた。

哀れな、怒り狂う首相が出来る唯一のこと言えば、月曜朝早く起きて、予告もなく突然に、これは掘り出し物だと全員の説得を試みるだけだ。必ずてんやわんやの大騒動になる。かなり多くの国の代表団は、首相のだまされやすさをあからさまに非難した。最終的同意はえられず、首相は意気地なく曖昧に取り引きは間もなくまとまると約束しただけだった。

『怒りの葡萄』バルカン版リミックス

ブリュッセルは、次のEUサミット中、来週末までに取り引きをまとめなければならない。これは大変な過程になる。これで厄介ごと/司法の悪夢の蓋を開けることにる。

そもそも、“道義に基づいた”EUが、ほぼ確実に当てにならない法的保護を受けることになる国々への一種の難民大量強制送還に直面する可能性がある。そこでEU弁護士が抜け穴を見つけるよう期待しよう。連中はトルコを“安全な第三国”の地位に格上げするだろう。アムネスティー・インターナショナルは既に怒っているが、かまうことはない。

難民一人につきトルコ人一人という交換は、もっと信用ならないが、抜け穴もない。バルト諸国、ハンガリー、ポーランド、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、スロベニアを、各国境内部に将来、難民移住を受け入れるように説得できるのはワルハラによる奇跡しかあるまい。バルカン・ルートは、スロベニアが閉鎖して、実際上、葬り去られた。ベルリンは一体どうするのだろう? 電撃戦で再開させるのだろうか?

しかも、EUのドアをトルコに開くのは危機を緩和するために支払う適正価格だと、フランスやイタリアは言うまでもなく、ギリシャやキプロスを説得するのはゼウスの奇跡にしかできまい。

だから取り引きがまとまったとすると、現代の大きな悲劇の一つのまた次の章が始まることになる。次は『怒りの葡萄』シナリオで、多くの家族を含め、途方に暮れた人々が、せっせバルカン・ルートに向かい、トルコに強制送還されまいと必死で戦うことになる。

しかも、もう一つの“ミステリー”が未解決のままになる。そもそも、この大量難民は一体どうやってそこに辿りついたのだろう。

大半はミティリーニ島とコス島だが、ヒオス島とカステロリゾ島も含む、少数のギリシャの島々に辿りつくには、彼らはまず、大都市は僅かで、ごく少ない地方バス路線しかない西トルコのきわめて入り組んだ海岸をこっそり回り込まなければならなかった。彼らは、多くの人々が脱落してしまう、トルコ-シリア国境から1000キロ以上もの距離を、旅しなければならない。

アンカラが、彼らにそうしろと言ったがゆえに彼らは出発したのだ。彼らは、次から次のバスに乗れるようにという、何らかのアンカラの“支援”を直接、間接に享受していた可能性さえある。サルタンのネットワークが、彼らの膨大な陸路のゆすり用貨物をバスで、適切なコネがあり、エーゲ海を越えて、ギリシャへと、彼らを船に乗せて運ぶ準備ができた密航業者の戸口まで届けて、出荷する構図を想像願いたい。

貴重な貨物について話そう。この貨物は、66億もの額で、膨大な特典のおまけつきで、アンカラを、まさに大儲けさせようとしている。それでも依然、この哀れなEU幹部観光客連中は、世紀の取り引きをまとめつつあるのだと信じている。持ち帰ろうとしている“絨毯”は実に酷い代物だ。

記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2016/03/14/europes-faustian-pact-with-the-sultan.html
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数年前に見た映画「ファウスト」を思い出した。

19世紀初頭のドイツ、ファウスト博士(ヨハネス・ツァイラー)は、助手(ゲオルク・フリードリヒ」と共に「魂」のありかを追い求めていた。だが、人体のどこにも魂は見つからず、落胆する博士に助手は人々に悪魔だとささやかれている男(アントン・アダシンスキー)の存在を伝える。研究費も使い果たした博士はうわさの高利貸しの元を訪れると、金は貸せないが違う形で協力をすると言われ……。

『イスラムとの講和 文明の共存をめざして』内藤正典 中田孝両氏の対談を読書中。
読みながら、この記事を連想したごく一部だけ、引用させていただく。

106ページ

内藤 チャンスだと見て、もう一儲けしようと。
中田 そう、我々日本人の感覚だと「こちらがこれまで譲歩したんだから相手も引くだろう」と思いますが、逆なのです。イスラームの人は「そこまで引いてくれたんだから、もっと言えばさらに引いてくれるだろう」と考える。要求がどんどん増えていくのが商業文化なので、ヨーロッパのような権利の文化の中では当然さらにエスカレートして行く。

148ページ

中田 ええ、おっしゃるとおり、エルドアンはリアル・ポリティクスの政治家としては問題がたくさんありますが、イスラーム主義者としては大変な逸材なのです。西欧の理念ではとうてい解決できない中東の問題をイスラームの法や理念で講和に結び付けるには、エルドアンのトルコが重要であると私は考えています。これは後でも触れますが、そもそも「アラブの春」がうまくいっていたら、エルドアン自身、スルタンかカリフになってイスラーム世界をまとめるつもりでいたはずなのですけどね。

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