欧米は経済的破滅への道を歩んでいる
Paul Craig Roberts
2016年2月1日
マイケル・ハドソンは世界最高の経済学者だ。実際、彼は世界でたった一人の経済学者だと言って良いと思う。それ以外のほとんど全員、経済学者ではなく、金融業界の権益のための宣伝係ネオリベラルだ。
もし読者がマイケル・ハドソンのことをお聞きになったことがなければ、それは単に「マトリックス」の威力を示しているにすぎない。ハドソンは、いくつかノーベル経済学賞を受賞していて当然なのだが、彼は一つも受賞することはあるまい。
ハドソンは意図して経済学者になったわけではない。著名な経済学部があるシカゴ大学で、ハドソンは音楽と文化史を学んだ。彼はニューヨーク市に出て、出版社で働いた。ジョルジ・ルカーチとレオン・トロツキーの著作とアーカイブの権利担当になるよう命じられた際、自分でやってゆけると思ったのだが、出版社は二十世紀に大きな影響を与えたこの二人のユダヤ人マルクス主義者の著作に関心を持ってはいなかった。
知人がハドソンに紹介してくれたゼネラル・エレクトリックの元エコノミストが、経済制度をめぐる資金の流れを教え、債務が経済より大きくなると、どのように危機が進展するかを説明してくれた。これにはまったハドソンは、ニューヨーク大学の経済学大学院課程に入学し、貯蓄がいかにして新たな抵当権付き住宅ローンへと変わるのかを計算する金融部門の仕事についた。
ハドソンは、博士号課程よりも、実務経験で、経済について、はるかに多くを学んだ。ウオール街で、銀行貸し出しが、どのように土地価格をつり上げ、それによって、金融部門への利子支払いをつり上げるかを彼は学んだ。銀行が貸し出せば貸し出すほど、不動産価格はあがり、銀行が益々多く貸すのを奨励することになる。抵当権支払いが上がれば、家計所得のより多くと、不動産賃貸価格のより多くが金融部門に支払われる。不均衡が大きくなりすぎると、バブルが破裂する。その重要性にもかかわらず、地代と資産評価の分析は、経済学の博士課程の一部ではなかった。
ハドソンの次の仕事は、チェース・マンハッタンで、各国がどれだけの債務返済をアメリカの銀行に支払う余裕があるのかを計算するのに、彼は南米諸国の輸出収入を使った。住宅ローンの貸し手が、物件からの賃貸料所得を、利子支払いに向けられる金の流れと見なしているのと同様に、国際銀行が外国の輸出収入を、外国ローンに対する利子支払いに使える収入と見なしていることを、ハドソンは学んだ。債権者の狙いは、債務返済支払いとして、ある国の経済的剰余を丸ごと獲得することであることをハドソンは学んだ。
まもなくアメリカの債権者とIMFは、債務国に、それで利子を支払うため、更なる金を貸し出すようになった。これにより諸国の外国債務は複利で増えることになった。ハドソンは、債務諸国は債務を返済することはできるまいと予言し、歓迎されざる予言だったが、メキシコが支払えないことを発表して、本当であったことが確認された。この危機は、アメリカ財務長官にちなんで名付けられた“ブラディー・ボンド”によって解決されたが、ハドソンが予言した通り、2008年にアメリカ住宅ローン危機がおきた際、アメリカ人住宅所有者に対してはなにもなされなかった。超巨大銀行でなければ、アメリカ経済政策の焦点にはなれないのだ。
チェース・マンハッタンは、次はハドソンに、アメリカ石油業界の収支を分析するための計算式を開発させた。ここでハドソンは、公式統計と現実との間の違いに関する別の教訓を学んだ。“振替価格操作”によって、石油会社は、ゼロ利潤の幻想を作り出すことで、税金支払いをまんまと免れていた。税金回避ができる場所にある石油会社子会社が、石油を生産者から、安い価格で購入する。利益に対して税金がかからない、こうした都合の良い国の場所から、利益が出ないように嵩上げした価格で、欧米の精油業者に石油が販売される。利益は非課税管轄圏にある石油会社子会社が計上する。(税務当局は、課税を逃れるための振替価格の利用に対し、ある程度厳しく取り締まるようになっている。)
ハドソンの次の課題は、スイスの秘密銀行制度に流れる犯罪で得た金額を推計することだった。チェースのための彼最後のこの研究で、ワシントンの外国における軍事活動によるドル流出を相殺するべく、ドルを維持するため (犯罪人によるドル需要を増やすことで)麻薬密売人から手持ちドルを惹きつける目的で、アメリカ国務省による指令のもとで、チェースや他の巨大銀行が、カリブ海諸国に銀行を設立したことをハドソンは発見した。もしドルがアメリカから流出しても、需要がドルの膨大な供給を吸収するほど十分に増えないと、ドルの為替レートは下がり、アメリカの権力基盤を脅かすことになる。犯罪人連中が違法なドルを預けることができるオフショア銀行を作ることによって、アメリカ政府は、ドルの為替価値を維持しているのだ。
ハドソンは、アメリカ・ドルの価値に対する圧力の源であるアメリカ国際収支赤字は、性格的に丸々軍事的なものであるのを発見した。海外におけるアメリカ軍作戦の、アメリカ国際収支に対する悪影響を相殺するために、アメリカ財務省と国務省は、違法な利益のためのカリブのタックス・ヘイヴンを支持している。言い換えれば、もしアメリカ・ドルを支えるのに、犯罪行為が利用できるのであれば、アメリカ政府は、犯罪行為を全面的に支持するのだ。
現在の経済学でいうと、経済理論では何もわからない。貿易の流れも直接投資も、為替レートを決定する上で重要ではない。重要なのは“誤差脱漏”つまり、ハドソンが発見した麻薬密売人や政府幹部自国が輸出収入を横領して不正に得た現金に対する婉曲表現だ。
アメリカ人にとっての問題は、二大政党がアメリカ国民のニーズを重荷として、そして、軍安保複合体、ウオール街や巨大銀行の利益や、ワシントンの世界覇権の障害と見なしていることだ。ワシントンにある政府は、アメリカ国民ではなく、強力な既得権益集団を代表している。これが一体なぜ21世紀に、帝国とその受益者のニーズの邪魔にならないところに国民をおいやることができによう、国民の憲法上の保護に対する攻撃が続いているのかという理由だ。
経済理論は、実際は、劣等人種から金をまきあげるための道具であることを、ハドソンは学んだ。国際貿易理論は、国々は、債権者に支払うために、国内賃金を引き下げさえすることで、膨大な債務を返済できると結論づけている。これが現在ギリシャに適用されている政策で、債務国に押しつけられるIMFの構造調整や緊縮政策の基本で、本質的に、国家資源を、外国の貸し手に引き渡す略奪の一形態だ。
貨幣理論は、資産価格不動産や株などのインフレではなく、賃金と消費者価格だけにしかかかわらないことを、ハドソンは学んだ。経済理論は、世界経済が金持ちと貧乏人へ両極化することへの隠れ蓑として機能していると彼は考えている。グローバリズムのお約束は作り話だ。左翼やマルクス主義経済学者でさえ、賃金面の搾取だけを考えていて、搾取の主要手段が、金融体制による、利子支払いでの価値抽出であることに気がつかない。
経済理論が、債務が搾取手段であるのを無視しているので、ハドソンは初期の文明が債務増大にいかに対処したかという歴史を研究した。彼の研究が余りに画期的だったので、ハーバード大学は彼をピーボディー博物館のバビロニア経済史主任研究員に任命した。
一方、彼は金融会社からも引っ張りだこだ。彼は長年アルゼンチン、ブラジルとメキシコ、債券の極端に高い金利を支払うことができるかどうかを計算するよう雇われていた。ハドソンの研究を基に、スカッダー・ファンドは、1990年、世界で二番目に高い利益率を実現した。
ハドソンは現代の問題を調査するうちに経済思想史を研究するに至った。彼は18世紀と、19世紀の経済学者たちが、金融部門の利益により奉仕できるようこれを無視している現在のネオリベラル経済学者より、債務が債務を負う側を無力化してしまう力を基本的に遥かに良く理解していることを見いだした。
欧米経済が略奪的な形で大衆の利益を犠牲にし、金融部門が儲かるよう金融化していることをハドソンは示している。それが、一体なぜ経済が、もはや一般庶民のためにならないのか。 金融はもはや生産的ではないのだ。金融は経済の寄生虫となってしまった。ハドソンは、この話を新刊「Killing the Host(宿主を殺す)」(2015年)で説明している。
読者の方々から、一体どうすれば経済学を学べるかというご質問を頂くことがよくある。長時間、ハドソンの書物を読むというのが私のお答えだ。まず、どういうことが書かれているのかという概要を把握するために、一度か二度通読する。次に、章ごとに、じっくり学ぶのだ。彼の本が理解できれば、どのノーベル賞を受賞したどの経済学者よりも、経済学を良く理解しておられることになる。
このコラムは、彼の本の「はじめに」と見なして頂きたい。私は状況と時間がゆるす限り、この本について、更に書くつもりだ。私の関心事について言えば、現在の多くの出来事は、欧米経済の金融化というハドソンの説明と切り離して理解することは不可能だ。実際、大半のロシアと中国のと経済学者も、皆ネオリベラル経済学教育を受けているので、両国とも、欧米と同じような衰亡の道を辿りかねない。
ハドソンの金融化に関する分析と、私の雇用の海外移転による悪影響の分析を総合されれば、現在の欧米世界の経済的進路が、破滅への道であることをご理解頂けよう。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
ご寄付はここで。https://www.paulcraigroberts.org/pages/donate/
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マイケル・ハドソン氏は、素晴らしい経済学者なのだろう。しかし、残念ながら、日本語に訳されている著作をほとんど知らない。
日本には、今の経済的・政治的現状を適格に分析・批判しておられる碩学がおられる。
硬骨の経済学者、「アベノミクス」四本の矢をへし折る! 2015年6月7日
電気洗脳箱、大本営広報部、またまた民心攪乱のため、とっておきの話題を報道。
野球選手の覚醒剤使用問題。
呆導機関にとっては、日本の国家主権を売り渡すTPPより、元野球選手の非行が重要。
小生とは全く違う、何とも不思議な価値観。
翻訳しながら、大本営広報部の電気洗脳箱、定時ニュースを見てしまった。
後任大臣インタビュー。
北朝鮮電気洗脳箱で登場するのは、「ベテラン」の「おばさま」。
こちらでは、「若い」「美女」。
双方の違いは、その年齢と容貌に留まる。内容が政府広報ということでは100%同じ。
彼がせっかく推進したものの「旗をきちんとかかげたい」というような妄言を述べた。
彼が推進したTPP、れっきとした売国行為で、日本庶民の幸せを増す立派な制度ではない。
硫黄島の星条旗ではあるまい。いや、傀儡は宗主国のため政治生命をかけている。
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僕の住むこの町はロシア人に市営住宅と健保を提供している。美しい娘さんにおそるおそるロシア語で話しをしてみた。非正規で解体屋さんの経理をしているのだが、なんとモスクワ大学で数理経済学を学び、今は独学で古代中国の商という国の富国政策を分析しているのだと。商人とは「商」のくにびとという意味なのだそうだ。彼女曰く「資本主義は悪故に崩壊しますよ、今中国人経済学者は自国の古代経済史に目を向けています、文治主義の宋の時代に流行しましたね」。人文系の学部は廃止されるようだ、文治主義は中国と露西亜で花開くのでしょうか。
投稿: 熱心な読者 | 2016年2月 4日 (木) 02時16分
Democracy Now での映像(2015・8・21)で、民主党大統領候補バーニー・サンダース議員がギリシャを例にしながら、わかりやすく現在の国際金融ルールを糾弾し、是正を呼びかけています。
”ギリシャで過大な債務を作り出したのは、米国投資会社ゴールドマン・サックスである。現在プエルトリコも、ヘッジファンドの巨額の利益の犠牲になっている。今の国際金融ルールは、金持ちと権力者が残りの全員をくいものにして利益を得る仕組みです。来年には上位1%の資産が残り99%の資産合計を上回る。今こそ国際ルールをいかに変更し、格差を是正することを考えましょう。”
http://democracynow.jp/video/20150821-2
日本でも、一生派遣法 年金削減 消費税10% とじわじわ格差ルールが作られ、トドメのTPPも結ばれようとしています。、人々の暮らしは豊かになったとうそぶく首相の演説をマスコミは従順に垂れ流し、知らないうちに下流老人 貧困層が作られています。日本のサンダースさんの出現を切望します。
投稿: 赤胴鈴之助 | 2016年2月 3日 (水) 21時35分
お久しぶりです。今、堤未果さんの『沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ!日本の医療』を読んでいるところです。
私の周りではTPPが医療分野とどうかかわっているか、知っている人はまだほとんどいません。堤さんの著書や記事などを読んでいますと、日本のマスコミ、とくに某公共放送がTPPについて語るのを聞くと、私たちにとってのその恐ろしい側面を言わず、ほとんど良いことのようにしか紹介しないので腹が立ちます。(ですから近頃はあまり見ないようにしています)
今はむしろ、アメリカ市民の方が反対しているようで、二月四日に締結など、成らないことを祈るばかりです。
マイケル・ハドソン氏といえば、以前、ハドソン氏の古い御友人だというビル・トッテン氏のブログ、Our World でそのお名前を何度も見た覚えがあります。今は Our Worldはありませんが、メタボカモ様もこのブログの右欄のリンクで挙げられている「耕助のブログ」(トッテン氏が賀茂川耕助のペンネームで新た書かれているブログ)にすべて、転載されています。トッテン氏がハドソン氏の書かれた論文を転載されている記事も多く、日本に言及されているものも多いです。
耕助のブログ
http://kamogawakosuke.info/
(「耕助のブログ」の右上の検索欄に「マイケル・ハドソン」と入れるとハドソン氏関係の記事が全て出てきますが、古いものは1996年からのの記事です)
No.82 日本はなぜ借金大国になったか(前編)
http://kamogawakosuke.info/1996/10/30/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%af%e3%81%aa%e3%81%9c%e5%80%9f%e9%87%91%e5%a4%a7%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%aa%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%8b%ef%bc%88%e5%89%8d%e7%b7%a8%ef%bc%89/
No.83 日本はなぜ借金大国になったか(後編)
http://kamogawakosuke.info/1996/11/06/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%af%e3%81%aa%e3%81%9c%e5%80%9f%e9%87%91%e5%a4%a7%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%aa%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%8b%e5%be%8c%e7%b7%a8/
正直、私などには難しくてわからないところもあるお話も多いのですが、少しは勉強させていただきました。
投稿: 黒曜石 | 2016年2月 3日 (水) 01時48分