簡単な10のステップで実現できるファシスト日本
1 国内と国外に恐ろしい敵を作り上げる
2 政治犯収容所を作る
3 暴漢カーストを育成する
4 国内監視制度を作り上げる
5 市民団体に嫌がらせをする
6 専断的な拘留と釈放を行う
7 主要人物を攻撃する
8 マスコミを支配する
9 反対は反逆に等しい
10 法の支配を停止する
いささか長い文章だが、再読ねがいたいもの。
2007年4月 24日火曜日 9:50 am
ナオミ・ウルフ著、ガーディアン掲載、 2007年4月 24日火曜日
昨年秋、タイで軍事クーデターがあった。クーデター指導者は、まるで買い物リストでももっているかのように、むしろ計画的に、複数の対策を講じた。ある意味で、彼らは「買い物リスト」をもっていたのだ。数日の内に、デモクラシーが閉ざされた。クーデター指導者は戒厳令を宣言し、武装兵を住宅地に送り込み、ラジオ放送局とテレビ局を占拠し、報道制限を発表し、旅行に対する制限を強化し、活動家たちを収監した。
連中は、やりながらこうしたことを思いついたわけではない。歴史をみれば、開かれた社会を独裁制度に変えるための、事実上の青写真が存在していることがわかる。その青写真はこれまで何度も使われてきた。時にひどく残酷に、あるいはさほど残酷でなく、時にひどく恐ろしく、あるいはさほど恐ろしくはなく。だがそれは有効だった。デモクラシーを作り出し、維持することは極めて困難で、骨が折れる。だがデモクラシーを廃止するのはずっと簡単であることを歴史は示している。単純に10の対策さえ講じればよいのだ。
直視することはむずかしいが、あえて目を向ける意志さえあれば、こうした10の対策のいずれもが、現代のアメリカ合州国で、ブッシュ政権によって既に開始されているのは明らかだ。
私のようなアメリカ人は自由の中に生まれているので、アメリカの国内が他の国々のように、不自由になるということを想像することすら、困難だ。なぜならアメリカ人はもはや自分たちの権利や政府制度についてさほど勉強しなくなっているためだ。憲法を意識し続けるという課題は、もともと国民の所有物だったのが、弁護士や大学教授のような専門家に委託されてしまった- 建国者たちが、整備してくれた抑制と均衡が、今や意図的に解体されつつあることにアメリカ人はほとんど気づかずにいる。アメリカ人は、ヨーロッパの歴史をほとんど勉強していないので、「国土」安全保障省が作られても、そもそも誰が「国土=祖国」という言葉に熱心だったか考えてみるべきだが、当然起こるはずだったこれを警戒する世論は沸き上がらなかった。
我々の目の前で、ジョージ・ブッシュと彼の政権が、開かれた社会を閉ざすために、長年かけて有効性が実証されている戦術を活用している、というのが私のいいたいことだ。想像を超えることを、我々も進んで考えるべき時期なのだ。作家で政治ジャーナリストのジョー・コナソンが言っているように、アメリカでも、そういうことがおき得る。しかも、考えている以上に事態は進んでしまっている。
コナソンは、雄弁にアメリカの独裁主義の危険を警告している。アメリカ国内で今おきつつある出来事の潜在的な深刻さを把握するには、ヨーロッパや他のファシズムの教訓を学ぶべきだと私は主張しているのだ。
1 国内と国外に、恐ろしい敵を作り上げる
2001年9月11日に攻撃されて以来、アメリカは国家的ショック状態だった。6週間もしないうちに、2001年10月26日、アメリカ愛国者法が議会でほとんど論議もなしに通ってしまった。読む時間すらなかったと言っている連中も多い。アメリカ人は、アメリカは「戦時体制」にある、と言われたのだ。アメリカは「文明を一掃しよう」としている「グローバルなカリフ支配」に対する「世界規模の戦争」中なのだ。アメリカが市民的自由を制限した危機の時代はこれまでにもあった。南北戦争の間、リンカーンが戒厳令を宣言した時、そして第二次世界大戦で、何千人という日系アメリカ国民が抑留された時。だが今回のものは、アメリカカン・フリーダム・アジェンダのブルース・フェインが言うように、前例がない。アメリカのこれまでの全ての戦争には終点があったので、振り子が自由に向かって振れ戻ることができた。今の戦争は、時間的には無限であり、空間的には国境がないもので、世界全体がそのまま戦場なのだと定義されている。フェインは言う、「今回は 終わりが決まっていないのです。」
恐ろしい脅威、たとえばギリシャ神話のヒドラのような、秘密主義的な悪を作り出すのは、常套手段だ。これは、国家の安全に対する共産主義の脅威、というヒトラーの呪文のように、実際の出来事に基づく場合もある(あるウイスコンシンの学者は、何より、ナチス・ドイツでは、共産主義者の放火だとされた1933年2月の国会議事堂火災の後に、憲法を無制限の非常事態と置き換える、全権委任法(授権法)の通過が素早く起きたことに言及したために、解雇要求をされることになった)。恐ろしい脅威は、ナチスが「世界のユダヤ人世界による世界的な陰謀」を喚起したように、神話に基づく場合もある。
世界的なイスラム教徒のテロリズムが深刻な脅威でないというのではない。もちろん脅威だ。脅威の性格を伝えるのに用いられる言語は、アメリカと同様に凶暴なテロ攻撃を受けた、例えばスペインのような国では、違うのではないか、と主張しているのだ。スペイン国民は、重大な治安上の脅威に直面していることを知っている。アメリカ国民が信じているのは、我々が知っている形の文明が、終焉という脅威にさらされているということだ。もちろん、おかげで、アメリカ人は、益々進んでアメリカ人の自由に対する制限を受け入れるようになっている。
2 政治犯収容所を作る
皆を怯えさせるのに成功したら、次のステップは、法律の埒外の監獄制度を作り出すことだ(ブッシュの言い分では、グアンタナモ湾にあるアメリカの監禁センターは、合法的「外部空間」にあるのだという) そこで拷問が行われるわけだ。
最初、そこに送り込まれる人々は、国民から部外者と見なされる人々だ。トラブル・メーカー、スパイ、「人民の敵」あるいは「犯罪人」。当初、国民は、秘密監獄制度を支持しがちだ。その方が安全なように思えたり、囚人と国民が別物のように考えたりするためだ。だがじきに、市民社会の指導者たち、反体制派、労働運動家、聖職者やジャーナリストが逮捕されて、同じようにそこに送られる。
1920年代、1930年代のイタリアやドイツのファシスト策略あるいは反デモクラシー弾圧から、中南米における1970年代のクーデター、そしてそれ以降の出来事で、この過程があった。これは、開かれた社会を閉じてしまうための、あるいは、民主化運動弾圧のための標準的な手法だ。
イラクやアフガニスタンにおけるアメリカの監獄、そして、もちろん、キューバのグアンタナモでは、抑留者は、虐待され、裁判無しで、正当な法の手続きによることもできず、いつまでも拘留されたままで、アメリカは今や確実に政治犯収容所を所有している。ブッシュと議会における彼の仲間は、最近、市街から連れ去られた人々を監禁するのに使われている、世界中にある秘密のCIA「暗黒サイト」刑務所に関する情報は、何も公開しないと宣言した。
政治犯収容所は、歴史的に転移しがちで、ますます巨大化し、ますます秘密化し、ますますひどい、正式なものとなっている。目撃者の話、写真、ビデオや政府書類から、アメリカが運営しているが、我々が十分には調査することができない監獄で、無辜の人も、有罪の人も、拷問されていることを、我々は知っている。
だがアメリカ人は依然として、この体制や抑留者虐待は、自分たちと同じ人間だと普通は考えていない、恐ろしい肌の色が濃い人々だけにしか関係ないのだと思い込んでい。保守派の評論家ウイリアム・サフィアが、政治囚として捕らえられた反ナチス牧師マルチン・ニーメラーの言葉を引用したのは勇気のあることだった。「最初はユダヤ人を捕らえにやってきた」大半のアメリカ人は、グアンタナモにおける法支配の破壊が、彼らにとっての危険な先例になりうることを未だに理解していない。
ちなみに、囚人に対する正当な法の手続きを否定する軍事法廷の設置というものは、ファシスト化策略の初期になされる傾向がある。ムッソリーニやスターリンは、そうした軍事法廷を設置した。1934年4月24日、ナチスも人民裁判所を設置したが、これも司法制度を無視していた。囚人の多くは、罪状の告発なしに、独房で、無期限に拘留され、拷問され、公開裁判にかけられた。最終的に、特別裁判は、判決をする際に、ナチス・イデオロギーに味方し、法の支配を放棄するよう通常の裁判に圧力をかける為の、並列制度となった。
3 暴漢カーストを育成する
私が「ファシスト移行策」と名付けたものを狙う指導者が、開かれた社会を閉じようと望む場合、連中は恐ろしい若者で構成された民兵組織を送り出し、国民を威嚇する。黒シャツ隊員は、イタリアの田舎を歩き回って共産主義者をぶちのめしていた。ナチ突撃隊員は、ドイツ中で、暴力的な集会を開いた。こうした準軍事的組織は、デモクラシーにおいて、特に重要だ。為政者は、国民が暴漢の暴力を恐れることを必要としているので、為政者には、告発の恐れがない暴漢が必要なのだ。
9/11以後の年月、アメリカの警備業者にとって大当たりで、それまではアメリカ軍が担当してきたような仕事を、ブッシュ政権が彼らに外注している。その過程で、国内でも、海外でも、傭兵による治安維持に対する何億ドルもの契約が発注された。イラクでは、こうした外注企業の工作員の中には囚人の拷問や、ジャーナリストへの嫌がらせ、イラクの民間人に対する砲撃への関与のかどで訴えられている人々がいる。イラクの外注業者を規制するため、アメリカの元バグダッド総督、ポール・ブレマーによって発布された命令第17号のもと、こうした業者は、刑事訴追を受ける恐れがない。
そうだ、だが、それはイラクでのことだ、と読者はおっしゃるだろう。だがしかし、ハリケーン・カトリーナの後で、米国国土安全保障省は、何百人もの武装民間保安要員をニュー・オリンズで採用し、配置したのだ。調査ジャーナリストのジェレミー・スカヒルは、市内で武器を持たない民間人をめがけて発砲したと言う、一人の匿名の警備員にインタビューした。このエピソードは、自然災害時のものだ。だが政権の果てしないテロに対する戦争というのは、実際は非公式に契約した部隊が、アメリカ国内の都市で、危機管理を引き受けるという方式が継続することを意味している。
アメリカにおける暴力団、怒れる若い共和党員男性の集団が、同じようなシャツとズボンを身につけて、2000年フロリダで、投票を集計する作業員を脅迫した。読者が歴史を学んでいれば、次の投票日には「公の秩序」維持の必要性が生じる可能性を想像できるだろう。投票日に、例えば、抗議、あるいは、脅威があれば、どうなるかだ。歴史から見て、投票所の「治安回復のため」に民間警備会社が立ち会う可能性がないとは言えまい。
4 国内監視制度を作り上げる
ムッソリーニのイタリアで、ナチス・ドイツで、共産党東ドイツで、共産党中国で、つまりあらゆる閉鎖社会で、秘密警察は普通の人々をスパイし、隣人同士がお互いをスパイするよう奨励した。東ドイツの秘密警察、シュタージは、大多数の人々に自分たちが監視されていると思い込ませるため、ごく少数の東ドイツ国民を監視するだけでよかったのだ。
2005年と2006年、ジェームズ・ライズンとエリック・リヒトブラウが、ニューヨーク・タイムズに、国民の電話を盗聴し、電子メールを読み、国際的な金融取引を追跡するという秘密の国家計画について書いてから、一般のアメリカ人も、自分たちも、国家による監視下におかれ得ることが分かるようになった。
閉鎖社会では、この監視は「国家の安全」のためだという建前でなされるが、本当の機能は、国民を従順にしておいて、実力行使や反体制行動を禁じることだ。
5 市民団体に嫌がらせをする
五番目にすべきことは第四ステップと関連している。市民団体に潜入して、嫌がらせをするのだ。瑣末な場合もある。あるパサデナの教会で、牧師がイエスは平和に賛成していたと説教したところ、国税庁によって査察されてしまった。一方、共和党への投票を呼びかけた教会は、アメリカの税法の元では同様に非合法だが、放置されている。
もっと深刻な嫌がらせもある。何千もの普通のアメリカの反戦、環境や他の団体に、スパイが潜入していると、米国自由人権協会は報告している。秘密のペンタゴン・データーベースには、その1,500の「疑わしい出来事」という範疇の中に、アメリカ国民による、40以上の平和な反戦集会、会合、あるいは行進を含めている。同様に国防省機関で、秘密組織、対諜報現地活動局(CIFA)は、平和的な政治活動に関与している国内団体に関する情報を収集している。CIFAは、「潜在的なテロリストの脅威」を追跡し、普通のアメリカ国民の活動家も監視しているものと考えられている。ほとんど目立たない新たな法律が、「動物の権利」抗議のような行動を、「テロリズム」として再定義した。こうして「テロリスト」の定義はじわじわと拡大して、反対勢力をも含むようになってゆく。
6 専断的な拘留と釈放を行う
これは人々を怯えさせる。これはいわば、追いつ追われつゲームのようなものだ。「新中国人」の著者、調査記者ニコラス・D・クリストフとシェリル・ウーダンは、魏京生のような中国の民主化要求活動家は、何度も逮捕され、保釈されている、と書いている。閉ざされつつある、あるいは、閉ざされた社会には、反体制派と反対派指導者の「リスト」が存在する。こうして一度リストに載せられてしまえば、誰もが標的とされ、リストからはずしてもらうのは困難なのだ。
2004年、アメリカ運輸保安局は、飛行機に乗ろうとした場合、警備の検査、あるいは、それ以上厳しい扱いをする対象となる乗客のリストがあることを認めだ。自分がそのリストに載っていることを発見した人々の中には、サンフランシスコの二人の中年平和活動家女性、リベラルなエドワード・ケネディー上院議員、ベネズエラ大統領が、ブッシュ大統領を批判して以降の、ベネズエラ政府職員、そして、何千人もの普通のアメリカ国民がいる。
ウォルター・F・マーフィー教授は、プリンストン大学名誉教授だ。わが国の主要な憲法学者の一人で、名著「Constitutional Democracy(憲法によるデモクラシー)」の著者である。マーフィー教授は勲章を受けた元海兵隊員でもあり、とりたてて政治的にリベラルというわけですらない。しかし今年の3月1日、彼はニューアークで搭乗券を拒否された。「テロリスト監視リストに載っていたからです」。
「いかなる平和行進にも参加しなかったのですか? それを理由として、我々が搭乗を禁じている人はたくさんいますよ」と航空会社の社員が尋ねた。
「私は説明しました」マーフィー教授は言う。「行進はしなかったが、2006年九月に、プリンストンで講義をした、それはテレビ放送され、ウエブに載せたが、大統領の数々の憲法違反に対して、ジョージ・ブッシュにはきわめて批判的なものだ。」
「それで十分ですよ」と担当の男は言った。
反戦行進参加者は潜在的テロリストだ。憲法を守る連中は潜在的テロリストだ。歴史をみれば、「人民の敵」の範疇は国民生活の中を益々深く広がるものだ。
アメリカ国民ジェームズ・イーは、グアンタナモにおけるイスラム教の従軍宗教者で、秘密書類の扱いを誤ったかどで、告訴されていた。彼に対する告訴が取り下げられる前、アメリカ軍によって、嫌がらせをされた。イーは何度も拘留され、釈放されてきた。彼は依然として、国家から関心をもたれているのだ。
アメリカ国民でオレゴンの弁護士ブランドン・メイフィールドは、間違ってテロリスト容疑者として特定された。彼の家は密かに侵入され、彼のコンピューターは没収された。告訴されていることについては無罪なのに、彼は依然としてリストに載っている。
これはファシスト社会の標準的な習慣だ。一度リストに載ってしまえば、外して貰えない。
7 主要人物を攻撃する
言うことをきかなければ、公務員、芸術家や学者を失業で脅すのだ。ムッソリーニは、ファシストの方針に従わない国立大学の学長を追い回した。親ナチではない学者を追放した、ヨセフ・ゲッベルスもそうだ。チリのアウグスト・ピノチェトもそうだった。中国共産党政治局も民主化運動家の学生や教授を懲罰している。
大学は積極行動主義の火口箱なので、ファシスト化策を進めようとした連中は、ゲッベルスの用語だが、万一イデオロギー的に「協力」しない場合、失業させることで、学者や学生を罰した。公務員というのは、社会の中でも、その政権によって最も首にされやすい部分なので、ファシストどもが、「早いうちから」「協力」を狙う格好の標的集団だ。ドイツの職業官吏再建法は、1933年4月7日に公布された。
ブッシュ支持派州議会員は、いくつかの州で政権に批判的な学者を罰したり、解雇したりするよう、州立大学の評議員に圧力をかけた。公務員について言えば、ブッシュ政権は、抑留者に対する公正な裁判をはっきり主張した、ある軍弁護士の出世の道をふさぎ、政権幹部は、無償で抑留者の代理人になっている弁護士事務所を、事務所の主要な企業顧客に、事務所をボイコットするよう呼びかけるぞと、公然と脅した。
この他、非公開のブログで「水攻めは拷問だ」と発言したCIAの契約従業員は、仕事をするのに必要な、機密取扱者資格を奪われた。
ごく最近では、現政権は、政治的忠誠度が不十分と見えるような8人の検事を追放した。ゲッベルスが公務員を1933年四月に追放した時には、検事も「協力」させられたが、それは、ますます厳しい法律を作る為の「道慣らし」段階だった。
8 マスコミを支配する
1920年代のイタリア、30年代のドイツ、50年代の東ドイツ、60年代のチェコスロバキア、70年代のラテンアメリカの独裁政権、80年代と90年代の中国、あらゆる独裁政権と、独裁者になろうとしている連中が、新聞とジャーナリストを標的にする。彼らは、自分たちが閉じようとしている、開かれた社会のジャーナリストを脅し、嫌がらせをし、逮捕するが、すでに閉ざされた社会の中では、これは更にひどいものだ。
ジャーナリスト保護委員会は、アメリカ人ジャーナリストの逮捕の数は、これまでで最高だと言う。サンフランシスコのブロガー、ジョン・ウォルフは、反戦デモのビデオを提出することを拒否したため、一年間監獄に入れられた。米国国土安全保障省は、「極めて重要なインフラストラクチャー」を危険にさらしたかどで、グレッグ・パラスト記者を刑事告発した。彼とTVプロデューサーはルイジアナのハリケーン・カトリーナの犠牲者を撮影していた。パラストはブッシュ政権に批判的なベストセラーを書いている。
他の記者や作家たちは違うやり方で懲罰されている。ジョセフ・C・ウイルソンは、サダム・フセインがイエローケーキ,・ウランをニジェールで購入したという濡れ衣に基づいて、アメリカを戦争状態に引きずり込んだとして、ニューヨーク・タイムズの論説で、ブッシュを非難した。すると、彼の妻バレリー・プレームがCIAスパイであることが暴露された。こうした形の報復で彼女のキャリアは終わらされた。
とはいえ、訴追や失業など、イラクにおける戦争を公平に報道しようとしているジャーナリストに対するアメリカの扱いと比べれば、たいしたことではない。ジャーナリスト保護委員会は、アメリカ軍がイラクで、アル-ジャジーラからBBCにいたる組織の、エンベッドされていない(つまり独立の)記者やカメラマンに対して射撃したり、射撃するぞと威嚇したりという複数の事例について記録をまとめている。西欧の人々はアル-ジャジーラの報道には疑念をもっても、BBCのケート・アディのような記者の説明耳をかたむける。2003年のITNのテリー・ロイドを含め、時に、記者は負傷させられたり、殺害されたりもする。イラク内のCBSもアソシエーテッド・プレスも、社員をアメリカ軍に逮捕され、暴力的な監獄に入れられた。報道機関は、社員に対する証拠を見られずにいる。
時と共に、閉ざされつつある社会では、本当のニュースは、偽のニュースや偽の文書に取って代わられる。ピノチェトは、テロリストが国家を攻撃しようとしているという自分の主張を裏付けるのに、偽造した文書をチリ国民に示した。イエローケーキ嫌疑も偽造文書に基づいていた。
現代アメリカで、ニュースが止まるということはあるまい-それはありえない。しかし、フランク・リッチとシドニー・ブルーメンソールが指摘したように、嘘の絶え間ない流れが、ニュース源を汚染している。今アメリカにあるのは、ホワイト・ハウスが指揮をしている偽情報の流れで、余りに絶え間ないものであるため、嘘から真実を選び出すことがますます困難になっている。ファシスト体制で大切なのは、嘘ではなく、曖昧にしてしまうことだ。国民は、偽物と真のニュースとを見分けられなくなると、説明責任に対する要求を、少しずつあきらめてゆく。
9 反対は反逆に等しい
反対者を「反逆者」に、批判を「スパイ」に仕立て上げる。閉鎖しつつある社会は、ますます、ある種の発言を処罰の対象とし、「スパイ」や「反逆者」の定義を拡張する法律を巧妙に仕立て上げながら、必ずこれをやる。ニューヨーク・タイムズの発行人ビル・ケラーが、リヒトブラウ/リーゼンの記事を掲載した時、ブッシュは、タイムズが「不名誉な」機密情報を漏らしていると言い、また議会では共和党がケラーを反逆罪で告訴すべきだと要求し、右翼の解説者や報道機関は「反逆罪」という非難攻撃を続けていた。解説者の中には、コナソンのように、諜報活動取締法違反に対する罪の一つは死刑だと、読者にすました顔をして指摘したものまでいる。
この攻撃が意味する脅威がどれだけ深刻かを指摘したコナソンは正しい。1938年のモスクワの公開裁判で、イズベスチア紙編集長ニコライ・ブハーリンが、反逆罪に問われたことを思い出すことも重要だ。ブハーリンは実際に処刑された。1917年にスパイ法が最後に広範に発動され、悪名高い1919年のパーマー・ レイドの間に、左翼活動家が、逮捕令状なしに、一斉検挙され、五カ月間も監獄に留め置かれ、「打擲され、飢えさせられ、窒息させられ、拷問され、殺すと脅された」事を、アメリカ人は思い出すことが重要だ。歴史学者マイラ・マクファーソンによると。それ以来、反体意見の人々は、アメリカ国内で10年間、沈黙させられた。
スターリンのソ連では、反体制派は「人民の敵」だった。ナチスはワイマール・デモクラシーを支持した人々を「十一月の裏切り者」と呼んだ。
ここで「輪は閉じる」のだ。昨年九月以来、議会が誤って、愚かにも、2006年軍事委員会法を通した時に、大統領が、いかなるアメリカ国民をも「敵性戦闘員」と呼べる権力を持ってしまったということを、ほとんどのアメリカ人は分かっていない。大統領は「敵性戦闘員」が何を意味するかを規定する権力を持っている。大統領はまた、自分が選んだ行政機関の誰にでも、その連中の好きなやり方で「敵性戦闘員」を定義し、それによってアメリカ人をする拘束する権力を委譲できるのだ。
たとえ読者や私がアメリカ国民であっても、たとえ我々が行っていると彼が称し、訴えている事に対して、全く無罪であることが判明しても、あなたが明日ニューアークで飛行機を乗り換えている所を捕まえ、あるいは、ドアをノックして我々を捕まえ、あなたや私を軍の営倉に送り出し、そして、あなたや私を、裁判を待つ間、おそらく何カ月も隔離拘禁する権力を大統領は持っている。(長期的な隔離は、精神科医は知っていることだが、本来精神的に健康な囚人に精神病を引き起こす。これこそが、スターリンの収容所列島に独房があり、グアンタナモのような、あらゆるサテライト監獄施設がある理由だ。キャンプ6、つまりグアンタナモの最新かつ最も残酷な施設は、全て独房だ。)
アメリカ国民は、最終的には裁判を受けられることになっている。少なくとも今のところは。「憲法に保証された人権擁護センター」の活動家は、ブッシュ政権は、アメリカ国民にさえ公正な裁判の機会を与えずに済むような方法を益々積極的に探し求めようとしている、と言う。「敵性戦闘員」というのは、虞犯、つまり、罪を犯すおそれのあることを言うのであって、「何か既に行ってしまったこと」とは無関係だ。「アメリカは、すっかり予防拘禁モデルに移行ししてしまった - お前は何か悪いことをしそうに見える、お前は何か悪いことをしそうだ、だから我々はお前を捕まえるのだ」と、「憲法に保証された人権擁護センター」のスポークスマンは言う。
ほとんどのアメリカ人は、まだこれをしっかりと理解していない。それも当然だ。たとえ真実であっても、信じがたいから。いかなる閉鎖社会でも、ある時点で、何人か目立つ人物が逮捕される。通常、反対派の指導者、聖職者やジャーナリストだ。すると万事が静まりかえる。そうした逮捕の後でも、依然として新聞、裁判所、TVやラジオや、他の市民社会のみかけは残る。その時、本当の反対意見はもはや存在しない。そこには自由は存在していない。歴史を見れば、そうした逮捕のすぐ前までに、まさにアメリカが今ある状況になっている。
10 法の支配を停止する
2007年のジョン・ワーナー国防認可法令は、大統領に、州兵に対する新たな権力を与えた。これはつまり、国家の有事において、大統領は今や、オレゴンで宣言した非常事態を執行するために、州知事や州民の反対があっても、ミシガン州兵の派遣を宣言することができる、より強い権力を持つようになった。
アメリカ人が、ブリトニー・スピアーズの破滅的な状態やら、誰がアンナ・ニコルの赤ん坊の父親だったかに目を向けている中で、ニューヨーク・タイムズはこうした傾向について社説を書いている。「ワシントンにおける気がかりな近年の現象は、アメリカ・デモクラシーの心臓を射抜くような法律が、真夜中に、通過したことだ。実際の暴動以外に、大統領は、自然災害、疫病の大発生、テロリスト攻撃、あるいは、いかなる「他の条件」に対応して、軍隊を国内警察力として使うことができるのだ。
評論家は、これを、連邦政府が、軍隊を国内での法執行に使うことを抑止することを意図した、民兵隊壮年団制定法(Posse Comitatus Act)に対する、明らかな侵犯と見なしている。民主党の上院議員パトリック・リーヒーは、法案は、大統領が連邦戒厳令を宣言することを奨励している、と言う。それはまた、建国の父たちが、そもそものアメリカの政府制度を作り上げた理由そのものの侵害でもある。絶対君主制度の兵士によって、国民がいじめられるのを見ていた建国の父たちは、まさにこの種の、抑圧的な為政者や党派の手中への、アメリカ国民に対する在郷軍兵力の集中を恐れていたのだ。
もちろん、アメリカ合州国は、ムッソリーニのローマへの行進や、ヒトラーによるの政治犯の一斉逮捕に続いておきた、暴力的な、全面的な制度の閉鎖を被りやすいわけではない。アメリカの民主主義的な慣習は、反発力がしっかりしており、いかなるそうした筋書きに対しても、アメリカの軍事と司法は非常に独立している。
それよりも、他の評論家たちが書いているように、アメリカにおけるデモクラシーの実験は、浸食という過程によって、終わりかねない。
ファシスト体制へ移行する当初、空に張られた鉄条網の姿が見えるなどと考えるのは間違えだ。当初、物事は一見、何事もないのだ。1922年カンブリアで、農民は収穫祭を祝っていた。1931年のベルリンで、人々は買い物に、映画にでかけていた。昔、W・H・オーデンが「Musee des Beaux Arts(ボザール美術館)」という詩で書いたように、恐怖はいたるところにある。誰かが災難にあっている間も、子供たちはスケートをし、船は出帆する。「犬は惨めな暮らしを続け … 何もかもまったくのんびりして イカロスの災難を顧みようともせぬ。」
アメリカ人が実にのんびりとくらし、インターネットでの買い物やら、著名アイドルに夢中になっているうちに、デモクラシーの基盤は致命的なまでに蝕まれつつある。何かが大きく変わってしまい、アメリカ国民は、これまでになく弱体化した。今や、終わりのない戦争、世界という名の戦場で「長い戦争」という「戦争状態」にあるという文脈の中で、いまだアメリカ国民はそうと自覚していないが、一言で発言するだけで、アメリカ国民の自由や、長期の独房監禁に対して、影響を与える力を、大統領に対して与えているという文脈の中で、アメリカのデモクラシーの伝統、独立した司法、出版報道の自由は、動いているのだ。
つまり、こうした全ての基盤の下に、いまだ自由に見えている制度の下では、空洞が広がっていることを意味している。そしてこの基盤は、ある種の圧力の元では崩壊しかねない。そのような結末を防ぐには、「もし、...たらどうだろう」と考える必要があるのだ。
もし一年半後に、別のテロ攻撃があったら、たとえば、そんなことがあってはならないが、放射性物質をまき散らす爆弾攻撃があったらどうだろう? 為政者は非常事態を宣言できる。歴史的に、どの指導者でも、どの党の人間でも、危機が去った後も、非常権限を維持したいという思いにかられることが分かっている。伝統的な抑制と均衡は骨抜きにされており、私たちは、ヒラリー大統領であれ、ジュリアーニ大統領であれ、為政者による危機にさらされている。あらゆる為政者は、民主主義的な交渉と妥協という、骨の折れる、不確実な手順よりも、政令によって、彼なり彼女の意志を実行したいという誘惑にかられるのだから。
昨年ケラーを脅した様な右翼の努力で、もしも主要なアメリカ新聞の発行人が、反逆罪やスパイで訴えられたとしたら、どうだろう? 彼なり彼女が10年間の投獄となったらどうだろう? 翌日の新聞はどうなるだろう? 歴史から判断すると、発行を停止することはあるまい。しかし、新聞は、突然従順になるだろう。
今のところは、ごく少数の愛国者が、私たちのために暴政の流れを食い止めるようとしている。「憲法に保証された人権擁護センター」のスタッフ、抑留者の代理をして、殺しの脅迫に会っていながらも、最高裁に至るまで戦い続けている、米国自由人権協会の活動家たち。また、American Freedom Agendaという名の新集団の旗じるしのもと、高名な保守派の人々が、蝕むような新たな法律を押し返そうとしている。この小さな、異なる人々の集団は、国際的に アメリカ国内における本当のデモクラシーによって抑制されていないアメリカが、アメリカ以外の世界にとって、一体何を意味するのかということを理解して、進んで政権に圧力をかけようとする、ヨーロッパ人や、他の国際的な人々を含め、あらゆる人々の援助を必要としている。
我々は歴史を学び、「もし、こうだったら」という考え方に直面する必要がある。今の方向で進み続ければ、様々な形で、異なる時期に「アメリカの終焉」が私たちの身に降りかかるだろう。私たちは、皆それぞれが、異なる時点で、昔を思い返して、考えざるを得なくなるようになるだろう。「昔はああだったのに、今はこうなってしまった」と。
「立法、行政、司法の、あらゆる権力を同じ人物に集中すること …が、独裁の定義だ」とジェームズ・マジソンは書いた。我々は、まだ今なら、この破滅の道を進むのを止めるという選択が可能だ。我々の立場を守り、国民のために闘い、建国者たちが我々に掲げ続けるよう願った旗を掲げるのだ。
簡単な10のステップで実現できるファシスト・アメリカ
記事原文url:www.guardian.co.uk/world/2007/apr/24/usa.comment
http://kurtnimmo.com/?p=843
この記事、当然、ナオミ・ウルフの新著"The END of AMERICA: Letter of Warning to a Yound Patriot"にゆきつく。176ページ。Chelsea Green刊。New York Timesベストセラー。$13.95 USD
とても小さな本で、大学二年までの教養過程の英語(=訳者)で読めるのでは?
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下記に移転に関する追記を書いたが、今の所HTML を全て手入力し、何とかNiftyココログを継続している。
2024年7月23日、追記
益々使いにくくなるココログに辟易、というか追い出されたようなものだが、以後下記に移行する。
https://eigokiji.livedoor.blog/
2007年4月、九年前の翻訳記事ながら、今の属国の状況そのままの素晴らしい記事。文字強調は原文にはなく、勝手に加工させていただいた。
1 国内と国外に恐ろしい敵を作り上げる
ミサイル?北朝鮮、尖閣中国、竹島韓国、北方領土ロシア。宗主国は不思議に恐ろしくない。
2 政治犯収容所を作る
3 暴漢カーストを育成する
4 国内監視制度を作り上げる
5 市民団体に嫌がらせをする
6 専断的な拘留と釈放を行う
辺野古基地反対の座り込みや、カヌー隊に対する取り締まり?をみれば明らか。
7 主要人物を攻撃する
的確な批判的発言をする報道番組キャスター三人に降板を強い、今は人気女優を攻撃している。
8 マスコミを支配する
総務大臣発言、支配層の総意だろう。
9 反対は反逆に等しい
10 法の支配を停止する 憲法の恣意的解釈。戦争法案、緊急事態条項
支配されたマスコミ、大本営広報部電気洗脳箱ではなく、たとえばLITERA記事をみれば、7 主要人物を攻撃する、8 マスコミを支配する様子がよくわかる。
大本営広報部でない、LITERAではまっとうな記事がある。
大本営広報部が垂れ流すのは、有名人の覚醒剤、北朝鮮「ミサイル」ばかり。絶対に自分の頭の蠅は追わない。TPPの悪質な本質には絶対ふれない。
月刊 現代農業 TPP協定案全文から読み取れる恐るべき暴力性 内田聖子
アホノミクスの惨状も屁理屈でごまかす。
植草一秀の『知られざる真実』
54兆円損失解消棒に振り新たに18兆円の損失 2016年2月13日
支配されたマスコミ、大本営広報部電気洗脳箱、たとえ終日みていても、キーワードなるものでも、絶対にTPPの客観的評価番組はありえない。 大本営広報部、実質、ある種の4 国内監視制度でもありそうだ。
ちくま文庫『夕陽妄語 1』1984-1991 を購入した。
成田龍一氏による解説冒頭を引用させていただこう。
二〇〇四年四月の「夕陽妄語」は、
思えば、戦後日本の歴史は、「安保」が次第に「九条」を侵蝕していく過程であった。その過程がこの十余年の間に加速的に進んだのである。
と述べる。おりからの小泉純一郎内閣のただなかでの記述であった。加藤周一が主要な呼びかけ人のひとりとなる「九条の会」の発足は、この直後二〇〇四年六月のことである。それから、さらに十余年がたち、安倍晋三内閣のもとでの〈いま〉、ことはいっそう「加速的」である。
二〇〇四年四月の加藤周一の指摘、今もそのまま。二〇〇七年四月のナオミ・ウルフの指摘、今もそのままであって不思議はない。
共産党潰しが本来の存在理由である労組・政党、選挙協力はせず、肝心のTPP問題追求もせず、余りに酷い議員を辞職させ、国会でTPPに関する質問をしても回答できる人物をなくして、TPP議論自体を潰そうと、与党とぐるの「辞職」実現を狙っているのではあるまいか、といつもの妄想ぐせがでる。妄想であって欲しいものだ。
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