もはや機能しないロシアの赤の恐怖
Finian Cunningham
2016年1月19日
"Sputnik"
アメリカとイギリス政府は、クレムリンがヨーロッパの政党やマスコミに工作員を潜入させているという大げさな主張で、ロシアを悪魔化する更なるマスコミ・キャンペーンを開始した。卑劣なロシアの狙いは、欧州連合を破壊することだと我々は教えられたのだ。
ウクライナと"新ヒトラー、プーチン"に関するこの脅し作戦の別バージョンを我々は見てきた。だが、このあくびを誘うような行動は、かつて支配者たちが持っていた欧米の大衆に対する魔法が、もはや機能しないことを実証している。欧米プロパガンダという阿片は、効力を失ったのだ。
ロシアは気にすることなどない。ワシントンの無謀な政策への意気地のない追随ゆえに、EUは、その現在のストレスや緊張を、自分以外の誰にも責める相手はいないのだ。
冷戦終結とソ連解体から25年後、ワシントンとロンドンの忠実な助手は、自国民を、恐ろしい物語で支配することができていた"古き良き時代"に、時計を必死に逆転させようとしている。
欧米当局が、自国民を、恐怖心と、"ロシア人がやってくる"という不安から動員した"潜入している共産主義者"、"赤の脅威"、"悪の帝国"等々、人を脅すために使い古された悪い子をさらう鬼のお話を想起願いたい。
今振り返ると、そうした脅し戦術をしたのに、この欧米の洗脳作戦がまんまと逃げきれたのは驚くべきことだ。しかも当時は、それがかなり機能したのだ。それでアメリカと、NATO同盟諸国が、地球を何度も絶滅できる膨大な核兵器蓄積を構築することが可能になった。この洗脳が、全て、"悪のロシア"に対して、"自由世界"を守るという口実で、アメリカが、特に世界中の何十もの国々に軍事的に干渉し、政権を打倒し、残酷な独裁制を据えつけることを可能にしたのだ。
先週、我々は冷戦の洗脳公式の再現を目の当たりにすることになった。悪名高い心理戦御用達業者、イギリスのデイリー・テレグラフが、ロシアとウラジーミル・プーチン大統領を、 "政党への資金提供"と"モスクワが支援する不安定化"によって、ヨーロッパの統一を破壊させようとしている悪の妖怪として描く記事を掲載した。
イギリスの右派政治支配体制との深いつながりゆえに、嘲笑して"トリーグラフ"として知られている新聞は、匿名のイギリス政府幹部の発言を引用している。
"実際に新冷戦が起きている。EU全体で、様々な極めて重要な戦略問題について、ヨーロッパの統一という構造を破壊しようとしているロシアの取り組みの憂慮すべき証拠を、我々は目にしている。"
同じ記事で、アメリカ議会が、ジェームズ・クラッパー国家情報長官に、"過去十年のヨーロッパ政党に対するロシアの秘密資金提供に対する本格的調査を行うよう"命じたとも報じられていた。
ロシアが操作している推測されるヨーロッパの政党には、デイリー・テレグラフによれば、ジェレミー・コービン率いるイギリス労働党、マリーヌ・ルペン率いるフランスの国民戦線や、オランダ、ハンガリー、イタリア、オーストリアやギリシャの他の政党が含まれている。
ヨーロッパの政治を不安定化させるためのロシアの陰謀とされる話を裏付ける証拠は一片たりとも提示されていない。ロシア政府に向けられた"ニュース" として脚色された典型的な、かつての欧米の冷戦プロパガンダ非難は、当て付けや偏見や悪魔化に頼っていた。ロシアと、指導者のウラジーミル・プーチンが "悪い"のは、そう、我々が彼らは"悪い"というからだ。
ここで本当に起きているのは、膨大な人数の普通の市民が、非民主的な奇怪さに全く幻滅しているがゆえに、欧州連合の縫い目部分が、実際にピンと張りつめているのだ。このEUに対する不満は、右派、左派両方の政党に投票した人々にあてはまる。
容赦のない緊縮策という経済政策、失業と貧困の増加、公共サービスの極めて過酷な削減をする一方、銀行と大企業の利益と、裕福な少数の人々を益々豊かにし続け、EU5億人住民のうち非常に多くの部分を敵に回すこととなった。
EUの政治指導者連中は、保守派、リベラル、社会主義者、あるいは他の様々な名で呼ばれていようとも、より民主的な政策を生み出したり、大衆の需要に合わせたりする能力がないことをさらけ出している。多くのヨーロッパ人の目から見れば、既成政党は全て同じで、いずれも奴隷のように、既に大富豪な人々のための資本家の福祉という方策を守っている。
問題の大きな部分は、EUがワシントンからの自立を全く示せないことだ。アメリカが率いるNATO軍事同盟のくびきのもと、ヨーロッパ政府は、アメリカのアフガニスタン、イラク、リビアとシリアでの政権転覆のための破滅的で違法な戦争に無批判に参加した。こうした戦争は、ヨーロッパに、第二次世界大戦以来最悪の難民危機を負担させられるという跳ね返りになっている。
困難を悪化させているのは、ウクライナ危機を巡る、ロシアとヨーロッパの間の全く無用かつ不毛な対立だ。地政学的な狙いで、ロシアを孤立化させるためウクライナを不安定化させるワシントンとブリュッセルの政策のおかげで、ヨーロッパの農民、企業や、労働者が苦しんでいるのだ。ワシントンが、ヨーロッパ大陸への主要エネルギー供給者としてのロシアを追い出そうという自らの私利のために、ロシアを孤立化させたがっていることが明らかなので、この点、ヨーロッパ政府は特に嫌悪すべきだ。自らの墓穴を掘っているのだ。
こうした一連の問題を考えれば ヨーロッパ諸国民が、彼らのいわゆる政治指導部に不満を抱いていても不思議はない。ブリュッセルに対する大衆的な侮蔑は、最高レベルに達しているが、それも当然なのだ。
ワシントンの経済・外交政策に対する、ヨーロッパの痛ましいほど卑屈な服従が、抗議行動と、EUというプロジェクト全体に対する反対という形で表現されている。ポーランドの右翼、国粋主義与党の勃興は、時代の兆しの一つだ。
ところが、ヨーロッパ全体に広がった不満を潔く受け止めることはせず、ワシントンとイギリスなどの大西洋主義同盟諸国がしようとしているのは、ロシアを生贄にすることだ。
皮肉なのは、ワシントンとロンドンが、苦悩と、ヨーロッパにおける不一致の増大を、ロシアのせいにしようとしていることだ。ヨーロッパが、縫い目からほころびているようにみえる主な原因は、ワシントンとロンドンであるのに。
それを狙って、全ヨーロッパに対する自らの悪意ある破壊的な影響力から注意をそらす方法として、アメリカとイギリスが、ロシアを悪魔化するためのかつての冷戦の口汚い言葉を再開しているのだ。
何十年も前は、反ロシア悪口も大衆に効果があっただろう。特に欧米報道機関と連中のCIA、MI6が潜入した"ジャーナリスト" が、世論に対して効果的な独占を享受していた頃には。そういう時代は終わったのだ。欧米大衆はもはや、子どものように怖いお話の影響を受けはしない。より正確な構図を得るために彼らが利用できる多数の代替情報源が存在しているのだ。
しかも、このヨーロッパ問題の正確な構図はロシアの不正行為とされるものとはしっくりしない。そうではなく、不正行為はワシントンと、追従者のヨーロッパ諸国政府に十分帰せられるのだ。
ワシントンとロンドンによる"赤の恐怖"巻き戻しの企みは、簡単に確実に片づけられよう。しかし興味深いのは、それが、益々イライラして、怒った欧米の国民の注意をそらすための、この二国のプロパガンダ・アイデアがどれほど種切れかという深い印を漏らしていることだ。
人々は益々募る社会・経済問題に対して、何十年も前に有効期限が切れた馬鹿げた怖いお話ではなく、本当の解決策を求めている。欧米の大衆は、このようなたわごとで侮辱されればされるほど、彼らは自国の支配者連中を益々軽蔑するようになる。破綻して、無能な欧米資本家の権力は、行き詰まり状態だ。かかってこい。
この記事で表明されている見解は、もっぱら筆者のものであり、必ずしもスプートニクの公式的な立場を反映するものではない。
記事原文のurl:http://sputniknews.com/columnists/20160119/1033390804/russia-media-tactic-west.html
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国会で、<憲法解釈議論>法制局長官、記録不作成認める 参院委
この国の支配層、確信犯の集団。それを批判しない大本営広報部は太鼓持ちの集団。
赤の恐怖で、欧米世論を変えることはできなくとも、原油安は、ロシアに痛切なボディー・ブローで効いてくるだろう。
アメリカの輸出解禁も、イランの核を理由にした経済制裁解除も、サウジアラビアが減産しないのも、全てロシアに対する経済戦争だろう。
表題は『もはや機能しない日本共産党の赤の恐怖』と読み替えられるだろう。
反共労組をもとにした、反共政党・民社党を核にしているだろう党に方針転換を求めても時間の無駄だろうと個人的には偏見をもっている。自民党ではなく共産党が敵というのが原則。
本物のジャーナリストは、それでも、しっかりインタビューをしておられて頭が下がる。
2015/12/25 「緊急事態条項」への認識を問う! 憲法を「眠らせ」ようとしているのは誰か 民主党は「ナチスの手口」に屈するのか? 岩上安身が岡田克也代表を単独直撃インタビュー!
偏見をもたず虚心坦懐に国会論戦を見れば、共産党が良き保守党で、与党なるもの新自由主義と売国クーデターが党是の破壊・革命政党。治安維持法の対象。全くアベコベ状況。
国会中継で、共産党参議院議員、田村智子氏、学費を上げ、アルバイトで苦しむ大学生の実情を訴える前に、余りな賄賂問題を軽く追求した。
「女子大学生を対象に、風俗業が求人している」という話もあった。ポール・クレーグ・ロバーツ氏が、資本主義作動中で、「学費で苦しむアメリカの女子大生がネットで愛人を募集する」と書いておられるのを思い出して驚いた。属国では全て宗主国並になる。ギリシャでは、OLが生活苦のため売春をしているとも書いておられた。人ごとでなくなる可能性大。若い男性は侵略戦争のため砲弾の餌食。不幸になるのを避ける秘訣は日本に生れないこと。
寺島隆吉著『英語で大学が亡びるとき「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』明石書店には、驚くべきことが書いてあった。
傀儡政府、傀儡官庁、アメリカに留学生を多数送り出そうとしているのだそうだ。
アメリカ人自身が、余りに高騰する学費にいやけがさして、カナダに留学するようになっており、アメリカの大学は学生減で苦しんでいるのだそうだ。
そこで、穴埋めに、日本からカモを大量に送り込む壮大な計画だという。
宗主国の侵略戦争に、砲弾の餌食として、世界中に自衛隊を送り出すのと同じ売国発想。国家的女衒活動で、外国人慰安婦に苦難をあじあわせた連中の師弟が、今度は同国民を、宗主国留が苦に送り出す。血は争えない。
治安の悪さ、程度の低さからしても、大学留学は決して奨めないと寺島氏はおっしゃる。
武者修行をしたければ、日本の大学で博士号をとり、研究テーマがはっきりした上で、研究員や招聘教授として遊学した方がはるかに有益だ。
日本は、英語をまなぶより、日本語を輸出すべきだという鈴木孝夫氏の論も詳しく解説されている。英語を話すと戦闘的になり、日本語を話すと温和になる、タタミゼ効果があるという。
より詳しくはご本人による『百々峰だより』の、たとえば下記記事をお読み願いたい。
『鈴木孝夫の世界』第4集(書評その5)――「地救原理」を広め、世界を「タタミゼ(畳化)」せよ!
小生、日本語で書いても過激なのは、独学で英語を長く学んだせいかもしれない。この国の傀儡政治家諸氏、宗主国に留学しておられる皆様、頭の中は英語なのかもしれない。
日本語が実に達者な外国人を何人か知っているが、皆様目をつぶって話せば、100%日本人。言葉のうまさだけでなく発想が。個人的に「タタミゼ効果」という言葉を初めて知ったときに、ああやはり、と思った。
学生をだけ送り出すのではなく、国民、市場を丸ごと、宗主国巨大多国籍企業、特に、保険や、アグリ企業に売り渡すための仕組みが、売国協定TPPだ。2月4日にニュージランドで署名する運びだという。
膨大なページの条約、驚くべきことに日本語が正文ではない。正文は英語、フランス語、スペイン語のみ。一億人の運命が永遠に変わる条約を、中身を理解もせずに署名する馬鹿、日本以外のどこの国にいるだろう。
「オレオレ詐欺に注意」といって美人アナウンサーに告知させている暇などないだろう。
国そのものが、国民全員が犠牲になるオレオレ詐欺への振込にのめり込んでいるのだ。
ネットにあった大本営広報部週刊誌見出しを見て、購入しないで良かったと安心。
TPPのプロパガンダ記事を読むのに、金を払わされてはかなわない。太字強調は小生。
難航したTPP交渉を大筋合意に導き、評価を高めた甘利明TPP担当大臣。今国会では承認が控えるが、そんな矢先、その適格性が問われる重大な疑惑が発覚した。甘利大臣や秘書が、口利きのお礼として多額の金を受け取ったというのだ。
国家主権を廃棄し、多国籍企業に実権を与える売国行為で、庶民に地獄をもたらす、TPP交渉を大筋合意に導き、多国籍企業からの評価を高めた人物。
この見出しを読ませたくて、センセーショナルな記事を載せたのだろう。
皮を切らせて、肉を切る。肉を切らせて、骨を切る予想通りの羊頭狗肉作戦。
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欺されないために その3 翻訳の勧め
欺すつもりが欺されて,つまりミイラ取りがミイラになることがある。しかし加藤周一が言いたかったのは立場が逆になることもあるということではない:
「武者小路実篤(一八八五-)は,敗戦後,戦争中をふり返って,『私はだまされていた』といった。そうかもしれない。しかし『だまされていた』のは,だまされていたいとみずから望んでからである」と当時の知識人を批判した。そして「誰が『だまされていた』ことではなく,なぜみずからだまされたいと望んだかということである」と,戦争を「聖戦」と呼んだ知識人の心理を分析しようとしている(「戦争と知識人」,日本の内と外,文藝春秋,1964)。
今回の戦争法(安保法)でSEALD's の学生,芸能人,若者,主婦,学者,海外在住の人たちが立ち上がり,加藤の言う『老人と学生(若い人)との同盟』が成立した。その同盟が国政選挙にどんな影響を及ぼすかはまだ分からないが,立ち上がった人たち皆は武者小路のように「みずからだまされたい」と望んではいないだろう。
だまされないために,加藤が唱えるのは,『翻訳の勧め』(夕陽妄語IV)である。「異文化との接触において,その文化内部の対象を理解するために,常に翻訳を必要とするとはかぎらない(故吉川幸次郎博士の中国古典文学研究)」が,「一般に一人の人間がみずからものを考えるということは,事故の枠組みまたは体系のなかにあらゆる対象をとりこむことを前提とする。その枠組みまたは体系は自国または異国の文化によって強く条件づけられるが,それだけでなく,同時にまたその人自身の個性的なものである。そもそも個性が成り立つのは,同じ社会と文化の中で思考の枠組みが人によって異なるからである。他人の言葉で考えるのではなく,自分の言葉で考えなければ,個性はない。そこで翻訳の第三種が日常的に必要となるだろう」と論じる。
翻訳の第三種とは批判的翻訳であるが,集団主義を特徴とする日本社会(ムラ)で個性を発揮しようとすれば,それがムラの全体意志に反するモノであれば,村八分にされ,大きな不利益を被る。
そこで,タタミゼ(tatamiser)を考えた場合,外国人が日本人に遜色劣らない日本語を話すとすれば,日本社会(ムラ)に溶け込み,母国の思考枠組みを捨てた結果であると考える。したがって日本的ムラ社会で数年生活した後,母国に戻れば,日本的思考の枠組みを捨て,母国の文化的枠組みで直ちに力量を発揮することは難しいだろう。すなわち,タタミゼという現象はもしあるとしても数ある現象の一つに過ぎない。
鈴木孝夫先生の英語教育不要論は,外交官や専門的な学者あるいは新聞記者等を除いて,多くの日本人が英語やフランス語で話す内容は何もないということである。したがって学校教育では,「話す」よりも「読む」ことに力点,重点を置くべきと主張しているに過ぎない。証券教育や「白を黒と言いくるめる」ディベ-ト教育は英語教育とは何の関係もない。フランス語でやっても,スペイン語でやっても日本語でやってもいろいろな教育は可能である。
問題は,「フジの山は世界一」のごとき文化の輸出である。ましてや人が殺されるのに,どちらが残酷か,残虐かなど論争しても,殺される側にとっては,同じである。フツ-ツチ族であれ,グアテマラの原住民であれ,アルジェリア人であれ,ヴィエナム人であれ,アメリカインディアンであれ,人の生命が失われるのに,変わりはない。残虐性云々は,殺す側の論理である。
昔,朝日新聞の年頭の記事で哲学者中村元東大教授が「キリスト教は一神教だから残虐で,多神教の日本は残虐でない」旨の発言をされていた。さすがにこれに驚いた加藤は反論を書いた。
今また,「タタミゼ」を輸出せよという。日本人は英語国民より残虐でないからという理由である。しかし,しかしポル・ポトであれ,戦国時代の武将であれ,比叡山焼き討ちの信長であれ,あるいは天草四郎キリスト教一派を弾圧した徳川幕府を無視して,非英語国民が,残虐性が低かったとするブログ「百々峰」の論は,粗雑である。しかしそれだけではない。
旧日本軍は旅順大虐殺を行い,南京大虐殺の蛮行に及んだ。また満州では石井731部隊が人体実験を行った。研究に従事させられた下級日本兵でさえ,精神に異常をきたしたという。南洋では何をしたかまだ解明されていない。ドロ-ンで空爆を繰り返すアメリカ兵とどこが違うのか。
『日本の良さ(地救原理)を広め、世界を「タタミゼ(畳化)」せよ』は以上のように,米語話者が残虐であるが,日本語話者の残虐行為を「さらり」と流し,残虐性が低い「タタミゼ」を世界に拡げようとする「文化帝国主義」である。
英語教育の問題は,武者小路実篤のように「だまされない」教育をいかに実施するかに係わる。『日本文化』にどっぷり浸かった小・中高生に米会話を強制することより「だまされない」教育が必要であろう。自民党はTPPとは反対と言いながら,自国の不利益を顧みず,TPPを推進した。民主党政権は,増税しないといいながら増税した。かように日本語社会はウソで満ちている。ゆえに加藤は『翻訳の勧め』を書いて,「願わくは各人が各人の翻訳をなせ」と日本人に訴えたのである(翻訳とは「外国語の場合に限らず,日本人がいった言葉でさえ,自分の言葉に直して考えるという意味である)。
追記:JICAに応募できるTOEFLの合格最低点は350点だそうだ。早期退職前に,小生はこれを受けたが,すれすれ(tangent)で合格した。「読み」を重視する高校英語(必要条件)と英語を忘れたくないという動機(十分条件)があれば,高齢になっても,たどたどしいが,十分通じる(JICAの派遣前研修が,放射線量高い,フクシマの二本松市で行われるというので,応募を断念した)。
追記2:青年の頃,「英語を習って何になる」という英語教育批判があった。また「8年習っても一つも会話ができないから英語教育の方法を変えよ」という批判もあった。しかしTPP交渉に参加できない一般国民は翻訳するしか方法がない。何しろ,日本語正文がないのだから。
追記3:日本人に対する英語教育の問題について,加藤の『再び英語教育について』(夕陽妄語Ⅵ)及び時事英語研究(研究社,1976年10月号・11月号)が参考になると思いますので,若い人には読んでいただきたいと思います。
投稿: 箒川 兵庫助(1ーさ-3) | 2016年1月24日 (日) 21時32分
呆れたことにイギリス政府、IS退治のロシアの足を引っ張るために今更リトビネンコ暗殺がプーチンじゃないかと出来レース臭い調査委員会報告を持ち出してきやがりました。この10年近く何を油を売っていたら、こんな見苦しい言い訳ができるんでしょうね、イギリス政府は。もうプーチン叩き、ロシアバッシングのネタが尽きてませんか?
投稿: 特命希望 | 2016年1月23日 (土) 00時10分
アメリカの秘密工作は正義と自由民主主義を世界に広げるためで正しいのだと。
ワシントンとマクレーン(CIAの現在の所在地です。ダイハードの主人公との偶然は何だろう)のこの手の宣伝はもう飽き飽きです。
マッカーシズムと赤狩りをいつになったら反省するのだろう。
投稿: AS | 2016年1月22日 (金) 17時38分