シリア: 究極のパイプラインスタン戦争
Pepe ESCOBAR
2015年12月7日 | 00:00
シリアはエネルギー戦争のただなかにある。その核心は、提案されている二つのガス・パイプラインの浅ましい地政学的競合、21世紀の帝国主義的エネルギーの戦場に対し、私がずっと以前に作った言葉、究極のパイプラインスタン戦争だ。
それは、EUに供給すべく、サウジアラビア、ヨルダンやシリアを横断し、はるばるトルコまで、イランが所有する南パース・ガス田に隣接する、カタールのノースフィールド・ガス田からのパイプライン建設を、カタールがダマスカスに提案した2009年に始まった。
ダマスカスは、そうはせず、2010年、競合する“イスラム・パイプライン”としても知られている、イラン-イラク-シリアの100億ドルプロジェクトを優先することを選んだ。合意はシリアの悲劇が既に始まったいた2011年7月に正式に発表された。2012年、覚書(MoU)が、イランとの間で調印された。
それまで、シリアは、GCCオイルダラー・クラブ諸国と比較すれば大した量の石油もガスもないため、地政学的-戦略的に無視されていた。しかし消息通は、地域エネルギー回廊としての重要性を既に知っていたのだ。これは後に、相当な量の海洋石油とガスの可能性が発見されて、更に強化された。
イランは、石油とガス大国として確立している。10年以上たってもヨーロッパの統一エネルギー政策を打ち出せずにいる、いつまでも続くブリュッセルでの騒ぎが、イスラム・パイプラインを巡って、かろうじて抑えている興奮の原因だ。これがガスプロム依存から多様化する理想的戦略となり得るのだ。しかしイランは、アメリカとEUによる核に関連した経済制裁を受けている。
そこでそれは、少なくともヨーロッパにとって、イランの核問題を外交的に解決するための主要な戦略的理由となった。(欧米にとって)“社会復帰した”イランは、EUにとって、主要エネルギー源となり得る。
ところがワシントンの観点からすれば、戦略地政学的問題がずっと頭から離れないのだ。いかにして、テヘラン-ダマスカス同盟を崩壊させるか. そして究極的には、いかにして、テヘラン-モスクワ同盟を崩壊させるか。
ワシントンにおける“アサドは退陣すべき”妄想は、複数の頭をもつ怪獣ヒドラだ。この妄想には、ロシア-イラン-イラク-シリア同盟の破壊(今や、シリアのサラフィー主義聖戦戦士各派と積極的に戦っているヒズボラを含む実質上“4+1”同盟だ)も含まれる。しかし、これは、アメリカの巨大エネルギー企業とつながる湾岸オイル・ダラー傀儡/属国が恩恵をえるため、彼らの間でのエネルギー協力から孤立させることも含まれる。
そこで、これまでのワシントンの戦略は、よく知られている「混沌の帝国の論理」を、シリアに注ぎ込むことだった。CIA、サウジアラビアとカタールによって事前に計画された、国内混乱の火を注ぎ、大詰めはダマスカスの政権転覆だ。
イラン-イラク-シリア・パイプラインは、アメリカの諸属国が敗北するというためだけでなく、なによりも、通貨戦争の点で、それがオイル・ダラーを迂回してしまうことになるので、アメリカ政府にとっては受け入れがたい。イランの南パース・ガス田は、ドルに変わる通貨バスケットで貿易されることになる。
これが、アメリカ政府の中で広く奉じられている歪んだ考え方と相まって、このパイプラインは、イラン、カスピ海や中央アジアからのガスの流れをロシアが更に支配することを意味するとされた。たわごとだ。ガスプロムは、合意のいくつかの点に関心があると既に述べているが、これは本質的に、イランのプロジェクトだ。実際、このパイプラインは、ガスプロムの代替役をつとめることになるはずだ。
オバマ政権の姿勢は、“イランに拮抗する方法として”また同時に“ヨーロッパへのガス供給をロシアだけでなく多様化する”ため常にカタール・パイプライン“支持”なので、そこでイランもロシアも“敵”と設定されたのだ。
岐路にあるトルコ
カタール石油が率いるカタール・プロジェクト、ヨーロッパの主な首都でのアメリカの大変な圧力と、カタールの強力なロビー活動を考慮すれば、様々なヨーロッパ諸国を引き付けられることは予想されていたことだ。パイプラインは、以前ウィーンに本部を置いていたプロジェクト、今や消滅したナブッコという悪名高いパイプライニスタン・オペラの経路の一部と重なる。
だから暗黙のうちに、始めから、EUは実際、ダマスカスの政権転覆推進を支持していた -これまで、サウジアラビアとカタールは少なくとも40億ドルを費やした(更に増えつつある)。1980年代のアフガニスタン聖戦と非常によく似た構図だ。戦略的仲介者(アフガニスタンの場合にはパキスタン、シリアの場合にはトルコ)に助けられて、アラブの国が国籍の聖戦戦士/傭兵集団に、資金提供し/武器を与えていたが、今や非宗教的なアラブの共和国と直接戦っている。
常に政権転覆を標的にして、“穏健派”反政府勢力を支援する、あらゆる種類の秘密作戦を、アメリカ、イギリス、フランスとイスラエルが、積極的に大幅強化して、もちろん状況は激化した。
イスラエル、パレスチナ、キプロス、トルコ、エジプト、シリアとレバノン沖、東地中海で最近発見された海洋ガスの富でゲームはさらに拡大した。この地域全体に、17億バレルもの石油と、3兆4,52億立方メートルもの天然ガスが埋蔵されている可能性がある。しかもそれはレバント地域における未発見化石燃料総量のわずか三分の一に過ぎないかも知れないのだ。
ワシントンの視点からすれば狙いは明確だ。新たな東地中海のエネルギー「たなぼた」から、ロシア、イランと“政権が変わらない”シリアをできる限り遠ざけることだ。
そこでトルコがSu-24撃墜後、今やモスクワから攻撃を受けやすい位置に立ったわけだ。
アンカラの野望、実際は妄想は、トルコを、全EUにとっての主要エネルギー分岐点にすることだ。1) イラン、中央アジアや、更には、ロシア(トルコ・ストリーム・ガス・パイプラインは破棄されたわけでなく、一時中断だ)からのガスの主要輸送拠点として。2) 東地中海における大規模ガス田発見の輸送拠点として。3) 更に、北イラクのクルディスタン地域政府(KRG)から輸入されるガスの輸送拠点として。
トルコは、カタール・パイプライン・プロジェクトで、主要エネルギー分岐点役を演じている。しかし、カタールのパイプラインは、シリアとトルコを経由する必要がないことに留意しておくことが重要だ。サウジアラビア、紅海、エジプトを経由し、東地中海に出ることが簡単にできる。
だから、ワシントンの観点からすれば、全体像として何より重要なのは、またしても、イランをヨーロッパから“孤立化させる”ことだ。ワシントンの策略は、EUのガスを、ガスプロム頼みから、多様化させる供給源として、イランでなくカタールに、そして輸送拠点として、トルコに特権を与えることだ。
これは、ズビグニュー“大チェス盤”ブレジンスキー本人が直接アゼルバイジャンで推進している金のかかるバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプライン建設の背後にあるのと同じ論理だ。
現状、二つのパイプラインの見通しはかなり暗い。シリアに関するウィーン和平交渉は、リヤドが、彼等が武装させた一団を“テロリストでない組織”リストに載せておくことを主張し、アンカラが、盗まれたシリア石油での怪しい事業に関与しながら、聖戦戦士の自由な国境通過を認めている限りは、全く先に進むまい。
確実なのは、地政学的-経済的に、シリア内戦をはるかに超えているということだ。これは、その大賞が、21世紀エネルギー戦争での大勝利を意味する、目のくらむように複雑なチェス盤における、浅ましいパイプラインスタン権力闘争だ。
Pepe ESCOBARは、独立した地政学専門家。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2015/12/07/syria-ultimate-pipelineistan-war.html
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自民党支持率 33.3%という。絶望的数値。えらい国、えらい時代に生まれ合わせたもの。
そして、統一会派結成は、与党助成・野党分裂策の一環。
高校の英語教科書、教科書採用工作であげられた三省堂のCrown Readerだった。興味深い題材が多かったように思う。
コンサイス英和辞典、クラウン英和辞典など、様々な辞典で今もお世話になっている。
違法フライイングなどしなくても、売れるのではと、素人は思ってしまう。
一方で、社会科で、とんでもない右翼教科書採用が広まっているという。
教師だか、教育委員会だかの皆様は本気で良い教科書と思って選んでいるのだろうか?
心配で、わざわざ教科書選択に関する議会だか、教育委員会の討議?だかを傍聴に行かれた知人がいる。まともな論議ではなかった、という感想を伺った。
子供が洗脳されるのを放置するわけには行かないのだが。
おかしな親が幼児に覚醒剤を飲ませるなど、とんでもないことだ。それは報道される。
おかしな傀儡政権が生徒に洗脳教科書を押しつけるなど、とんでもないことだが報道されない。
-stan、ペルシャ語由来で、「国」ということのようだ。たしかに○○スタンという国、イラン周辺に多い。
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