もしシナイでの墜落がテロであれば、欧米にとってタイミングは完璧
Dan Glazebrook
公開日時: 2015年11月7日 12:56
Strategic Cultuer Foundation
Maxim Grigoryev / ロイター
惜しまれているアメリカ人コメディアン、故ビル・ヒックスの出し物にアメリカ人将軍の記者会見がある。“‘イラクには信じ難い兵器がある’と将軍は言った。‘どうして、ご存じなのですか?’と質問された。“ああ、そう、うん、領収書を見たんだ。’”
先週エジプトでのロシア航空機墜落を受け、特にイギリスは、墜落は「イスラム国」(以前のISIS/ISIL)がしかけた“テロ爆弾”の結果だと素早く主張した。すると、キャメロンは、一体どうして、彼のシリア政策が生み出したテロリスト集団が、この攻撃を実行するのに必要な訓練、装備や必要な手段を持っていると、それほど確信を持てたのだろう? 彼は領収書を見たのだろうか?
明らかなのは、もし飛行機が爆弾で墜落し、その爆弾をISISがしかけたのであれば、それは、この集団にとって、大きな転換を意味するということだ。
英国王立防衛安全保障研究所のラファエロ・パントゥーチによれば、ISISによるこの種の攻撃は“彼らの爆発物製造や、装置を機内に密かに持ち込む能力の洗練度合いが未曾有のものとなったことを告げる”ものだ。
しかし、新たな技術的技巧であると同時に、そのような攻撃は、戦術の憂慮すべき変化を意味する。タイムズ紙は、こう主張している。“もし飛行機墜落が、シナイにいる「イスラム国」系列のしわざであることが判明すれば、これはまだ民間人に対する大規模攻撃をしかけていなかった聖戦士集団の極めて重要な展開を意味するものとなる。”
だから、もし旅客機が実際、シナイ半島でISISの爆弾で、撃墜されたのであれば、テロ集団が突然に驚くべき新技術を獲得したか、あるいは、彼らが突然、戦術を一般市民の大量殺人に変更したことを意味する。後者であれば、一見して、彼らを標的にした一年以上の欧米による空爆を受けながら、ISIS欧米の民間人に対する、そうした攻撃をし損ねていたのに、欧米によれば、彼らを狙ってさえいないロシア空爆作戦には、わずか数週間で反撃できるというのは、いささか奇妙ではあるまいか?
いずれにせよ、欧米の地政学という観点からすれば、墜落のこれ以上完璧なタイミングはあり得ない。4年間失敗した後、欧米によるシリア“政権転覆”(国家の大規模破壊の婉曲表現)作戦は、今やロシア介入のおかげで、差し迫る完全な敗北という見通しに直面している。しかもこの作戦を救済するための選択肢は、実際、極めて限られている。
全面的占領は全く見込みがない。イラクとアフガニスタンの後、アメリカ軍もイギリス軍も、もはや公式にそのような冒険的企てを実施することは不可能だ。地上の暗殺部隊をNATOによる上空援護で支援するリビア・オプションは、常にロシアの反対に会ったが、今や事実上、不可能になっている。しかも多くの対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステムが大慌てで現場に投入されているのに、反政府暗殺部隊だけに頼るのでは成功の可能性はほとんどない。結局送り込めたのは、これだけの数のテロリストと傭兵でしかなく、マイク・ホィットニーが言う通り、世界は既に“テロリスト絶頂期”に達しているのかも知れない。
ロシアを追い出し、アメリカとイギリスの空軍力を、シリア国家に対し、あからさま、かつ決定的に振り向けることが、欧米の計画立案者連中にとって主目的となった。しかし、一体どのようにして? 一体どうすれば、ロシア人を介入反対にできるだろう? タイムズ紙はこう書いた。“これまでのところ、シリアでの戦争はロシア国民の広い支持を得ている…。[しかし]もし、戦争で、テロリストが、飛行機に爆発物を隠して、一般ロシア人に対し、復讐をするようになれば、この熱烈な支持姿勢も変わりうる。”これは、少なくとも恐らく、タイムズが望んでいることだろう。
2015年11月5日、ロンドン、ダウニング・ストリート十番地での記者会見で、エジプトのアブドル・ファッターフ・アッ=シーシー大統領と握手するデービッド・キャメロン首相(右) Stefan Rousseau / ロイター
しかも、エジプト領内での飛行機撃墜は、シーシー初のイギリス公式訪問直前ではないか?
エジプトは歴史的岐路にある。1970年代のサダト時代に、社会主義陣営から欧米の“軌道”に移行したが、エジプト指導部は、ワシントンとロンドンの命令を益々聞かなくなっていた。ムバラク支配の後半にこのプロセスは始まり、シーシー支配下でも続いていた。スカント・チャンダンが言うように、欧米のシリア政権転覆作戦で、エジプトはロシアと共に主要な“妨害者”を演じてきたために、こらしめられたのだ。
しかもムバラク政権は、民営化や、IMFが要求する“構造調整”に消極的だった。そして観光は、強欲な国際銀行へのエジプトの依存を引き下げるのに役立つ、昔も今も主要な収入源だ。しかし先週土曜日以来、こうした全てが今や不安定な状態にある。フィナンシャル・タイムズが述べているように、墜落が爆弾によって引き起こされたという疑惑は“苦境にあるエジプト観光産業にとって、壊滅的な影響をもたらす可能性が高い”のだ。
イギリスのフィリップ・ハモンド外務・英連邦大臣はこれに同意した。“もちろん、これはエジプトに対して絶大な悪影響をもたらすだろう”と彼はあっさり表明し、一見ひとかけらの遺憾も無しに、エジプト向けイギリス便を止める決定を述べた。訪問する観光客が大幅に減少することで、エジプトはIMFに頼ることを強いられる可能性は高いが、IMFは、もちろん借金の返済を大規模民営化と“緊縮策”という形で要求する。
ところが、エジプトの欧米への経済依存は、事故のおかげで深化したのみならず、特にイギリスが、エジプト軍と治安部隊に再度取り入るのに、事故を利用しているように見える。第一に、イギリス当局は、エジプトは危険なほど不安定であり、警備業務を欧米に外注するしか安全に戻る方法はないと世界を説得し、あらゆる機会を捕らえ、エジプトに屈辱を与えてきた。今週、シーシーがイギリスに到着した際、タイムズ紙は、“イギリスは、エジプト指導者にあからさまに反論して、彼はシナイ半島を完全に支配しきれていないと示唆し”、エジプト当局者は“シャルム・エル・シェイク空港の警備体制を点検するため6人の職員を派遣したことに‘我々を子供扱いしている。’とコメントした”と報じた。
最後に、もちろんイギリス政府は、シリアに対するイギリスのより深い関与を推進するのに悲劇を利用する好機を見逃さなかった。イギリスのマイケル・ファロン国防長官は、過去二日、もし飛行機がISISによって墜落させられたことが証明されれば強化されることになる、シリアを爆撃する主張の説明に費やしている。暗殺部隊の主要な支援国家の一つが、シリアに更に深く入り込めば、何らかの形で暗殺部隊の威力を低減するようになることは、もちろん説明されない。それが帝国主義の本性だ。
欧米の力が急激に落ち込む世界で、欧米覇権を拡張し、南の発展途上の勃興勢力を弱体化させるため、テロはしっかり、最後にわずかに残る実行可能な選択肢の一つになった。もしこの攻撃がISISによって行われたことが明らかになれば、欧米帝国主義権益の最前線で活動する役を買って出たISISは何と親切なことだろう。また、組織にいる何百人もの欧米工作員が、彼らを止めるため何もしなかったのは、何と好意的なことだろう。
本コラムの主張、見解や意見は、もっぱら筆者のものであり、必ずしもRTのそれを代表するものではない。
ダン・グレイズブルックは、フリーランス政治ライターで、RT、カウンターパンチ、Zマガジン、モーニング・スター、ガーディアン、ニュー・ステーツマン、インデペンデントやミドル・イースト・アイ等に寄稿している。最初の著書“Divide and Ruin: West’s Imperial Strategy in an Age of Crisis”は、リベレーション・メディアから2013年10月に刊行された。本は、2009年以降の、経済崩壊、BRICSの勃興、対リビアとシリア戦争と'緊縮政策'のつながりを検討する記事の集成だ。彼は現在、1970年代と80年代の北アイルランドや中米、そして現代の中東とアフリカにおける自立した国家や運動に対する、アメリカ-イギリスによる宗派的暗殺部隊の利用に関する本のために調査をしている。
記事原文のurl:https://www.rt.com/op-edge/321159-plane-crash-egypt-terrorist/
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大本営広報部では、余りこの事件の呆導をみかけない。
翻訳しながら、横目で昼のバラエティ番組を見てみたが、御用評論家と茶坊主のかけあい漫才。電気代がもったいないので相撲に切り換えた。
TPP、電気洗脳箱で、元首相の息子は、黒子と組になった、二人羽織では?という指摘のみ。TPPについての報道がもっと必要とは言ったが、外国では全文がその国の言語で開示されているのに、この属国政府は、ごくわずかの現地語要約しか発表しないことには触れなかった。
「ブラックバイト」を国が調査、ということをしきりに報道するが、TPPで、丸ごとそうなることには決してふれない。
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