シリアを巡るロシアとの対決を脅すワシントン
Bill Van Auken
2015年9月9日
wsws.org
バッシャール・アル・アサド大統領のシリア政権を支援してのロシアの軍事力増強という根拠のない主張を巡り、オバマ政権は、モスクワとの緊張を激化させた。
シリア領でのロシア駐留のいかなる増強も、イラクとシリアのイスラム国 (ISIS)に反撃する狙いとされるもので、シリアを爆撃しているワシントンの“連合軍”との“対決”に至る可能性があると、週末、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣との電話会話で、アメリカのジョン・ケリー国務長官は恫喝した。
世界の二核大国間の武力衝突という、途方もないケリー国務長官の恫喝を、火曜日、ホワイト・ハウスのジョシ・アーネスト報道官が繰り返し、“ロシアが追加の軍事要員や飛行機をシリアに配備する可能性”という報道を巡るアメリカ政権の“懸念”を表明した。
“こうした措置は、生命のより大きな損失につながりかねず、難民の流れを増し、シリア国内で活動しているISIL [ISISの別の略称]連合との対決というリスクをもたらす可能性がある”と彼は警告した。
ワシントンによる軍事的脅威には、シリアへの補給飛行の為、両国の空域を利用するロシアの権利を拒否するよう、ギリシャとブルガリア政府に、アメリカが強要するという更なる挑発が伴った。
ギリシャ同様、NATO加盟国のブルガリアは、火曜日、不特定の数のロシア航空機が、シリアへの途上、その領土上空を飛行する要求を拒否したと発表した。ギリシャ外務省筋は、月曜日、アテネのシリザ党政権が、同じような行動をするようにという要請を、アメリカから受けたことを明らかにした。シリア政府軍用の軍事補給を運んでいるという理由で、ロシア機の上空通過を9月24日まで禁じるようワシントンが要請したと、彼等は述べた。
この行動はモスクワの怒りを引き起こし、ロシアのミハイル・ボグダーノフ外務副大臣がインターファックス通信社にこう語った。“もし誰かが、この場合、ギリシャとブルガリアだが、何らかの疑念があるなら、彼等は、もちろん一体何が問題かを説明すべきだ。”
“アメリカの要請で、飛行に何らかの制限、あるいは禁止措置をとると言っている両国について言えば、他の国々の飛行機、特にロシアの飛行機が、空域を通過することについて決定を行う、彼らの主権に関する疑問か生まれる”と彼は述べた。“我が国の飛行機はどこに飛行しているのか、目的と貨物が何かを彼等に説明した”と述べ、更に、その様な飛行は長いこと、日常的なものだと指摘した。
ありそうな、差し迫ったロシアのシリア“介入”に関して、興奮してまくしたてるアメリカのマスコミ主張は、匿名を条件に、ペンタゴン当局者が語った、シリアに飛行するロシア航空機の数は増加しており、ロシア軍によって使用される得ると思われるプレファブ住宅がシリアに建設されているという発言に要約される。
シリア制圧を狙うISISや他のイスラム原理主義過激派に対し、アサド政府を支援する為の、シリア国内におけるロシアの駐留は、この同じ勢力に対して、隣国イラク政府を支援する為のアメリカによる取り組みと比較すれば最小限だ。本当の問題は、モスクワが、アサド政府を支持し続けていることが、ISISの壊滅ではなく、既存政権の打倒と、政権を、より従順なワシントンの傀儡で置き換えるという、アメリカが率いるシリア介入の本当の狙いにとって、障害となっていることなのだ。
“アメリカの諜報機関筋の情報”を引用して、火曜日、ニューヨーク・タイムズは、アメリカの主な懸念は“いくつかの主要地域で、ロシアがシリアの防空手段を強化している”ことだと報じた。 防空システムの強化は、アメリカがシリアにおける主な狙いだとしている物事、つまり対ISISとシリア一般国民の保護の為の攻勢実施に対する脅威とは解釈しようがない。もしワシントンと同盟諸国が、その空軍力を、ISIS標的に対する散発的攻撃から、イラクとリビアでかつて行われた空爆の様な、シリア政権を破壊し打倒することを狙った“衝撃と畏怖”作戦へと変える準備をしている場合にのみ、それが問題なのだ。
ウラジーミル・プーチン大統領のロシア政権は、その様な介入を阻止することを繰り返し目指しており、反政府派各派との政権協議の手配、あるいは、アサドを辞任に追い込むであろう暫定政府に基づく、シリア内戦を終わらせる為の、何らかの合意を仲介しようとしている。
2013年9月、偽ってシリア政府軍のせいにされた毒ガス攻撃を口実に、オバマ大統領がシリアへの空爆を命令する寸前、プーチン政府が、シリアの化学兵器廃絶を基盤にした代案を出し、政権転覆の為のアメリカによる直接の戦争を阻止した。ところが、この協定に至るまでの時期に、アメリカとロシアの間の緊張は、急に激化し、両国の戦艦がシリア沖近くに配備された。
最近では、モスクワは、シリア和平計画を提示し、ロシア、イランとシリア政府軍と共に、アメリカと同盟諸国も含む対ISIS共同作戦を、アサド政権や、シリア反政府派と、クルド部隊の各派を巻き込んだ新たな統一政府構築と併せて提案している。
ところが、ロシア、アメリカとサウジアラビアの交渉は、すぐに行き詰まった。カタールとトルコと共に、ISISや、アルカイダとつながるアル・ヌスラ戦線や、他のイスラム原理主義過激派に対する主な後援者で、資金提供者である、サウジアラビア君主体制が、無条件のアサド政権打倒を含まない、いかなる合意の受け入れも拒否している。ワシントンは、元来、アラブ世界第一番の同盟国、サウジアラビア王家に肩入れしてきた。
シリアの事態進展におけるロシアの役割については、ホワイト・ハウスの広報担当官が週末、明らかにした通り、ロシアの行動は、それがワシントンと“連合国”の狙いに沿ったものである範囲でのみ容認されるのだ。だが、アメリカは、この帝国主義の最前線に、ロシアを組み込むことへの興味を全く示していない。
こうした狙いは、いずれにせよ、地域における、かつてのソ連の影響力の遺産たる、中東最後のアラブ同盟国として、シリアを重視するロシアの国益に全く反する。ロシアは依然、シリアの港タルトゥースに、旧ソ連以外でロシア軍唯一の基地である海軍基地を維持している。
ロシアの石油企業は、シリア沖にある埋蔵石油の採掘で、シリア政府と契約した。国営エネルギー企業ソユーズネフチェガスは、この目的で、25年間の契約を結んだ。
しかも、シリアを、アメリカとアラブの王政産油国の傀儡国家に変えると、シリアは、ロシアと地中海間から、ヨーロッパ市場からその先へという潜在的なパイプライン・リンクから、何十億ドルもアサドの失脚を狙っているいわゆる“反政府派”支援に注ぎ込んでいるカタールからのガスをもたらすライバル・パイプラインの経路へと変換する。
アメリカ帝国主義にとっては、シリアで大虐殺を引き起こすことは、中東、ユーラシア大陸と地球全体に対するアメリカ覇権戦略を推進するための更なる一歩にすぎない。ロシアのシリア介入が、ロシアとの軍事的対立という直接的脅威をもたらしたというが、それはロシアの軍事増強とされるもの等の為ではなく、この戦略の結果だ。
軍事増強のそうしたでっち上げ報道は、ヨーロッパの難民危機と共に、アメリカが率いるシリア介入をエスカレートする口実として利用されている。ここ数日で、フランスもイギリスも、シリアでの爆撃強化計画を発表し、オーストラリアも間もなく続くと見られている。
アメリカが率いる中東介入での、ロシアとの対決という威嚇と共に、シリアにおける帝国主義的軍国主義の更なる噴出は、第三次世界大戦への道を開く危険をもたらすものだ。
記事原文のurl:http://www.wsws.org/en/articles/2015/09/09/syri-s09.html
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常総市の堤防決壊(新石下)しか知らなかったが、「ソーラーパネルを設置する為、自然堤防を削った部分で、鬼怒川は堤防を越えた」場所(若宮戸))があった!役所の方がおっしゃていったのだから、事実だろう。
Paul Craig Roberts氏も再三指摘しておられる「費用の外部化」の見本。
原発も基地も戦争法案もTPPも、新自由主義軍産複合体による「費用の外部化」。
RTに、この記事につながるロシア外務省報道官の発表記事がある。
Russia has always supplied equipment to Syria to help fight terrorism - Foreign Ministry
アメリカには、どの国の政権を、いかに、いつ転覆するか決定し実行する権利がある。
ブルガリアやギリシャ政府と同様、日本政府にも、宗主国の命令のまま、どの侵略戦争にでも、どこまででも、ついてゆくことを決める自由がある。
「どこまでもついてゆきます下駄の石」
武器輸出「国家戦略として推進すべき」 経団連が提言
とうとう本音。とんでもない国に、とんでもない時代に生きている。こういう連中が属国政策を決め、とんでも道徳を決め、とんでも歴史教科書を押しつけて、戦争を推進する。
原発も基地も戦争法案もTPPも、新自由主義軍産複合体による「費用の外部化」。
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