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2015年8月17日 (月)

プーチンは、アサドを売り渡そうと計画しているのだろうか?

Mike Whitney

2015年8月15日
" Counterpunch"

シリアにおける、モスクワの地政学的目標は、ワシントンの目標と正反対だ。この単純な事実を把握することが、戦争で荒廃した国で、実際に起きていることについてはっきり理解する為の最も容易な方法だ。

ワシントンが望んでいることは、“シリアの脱構築: 最も絶望的なアメリカの戦争用の新戦略”と題するブルッキングス研究所のマイケル・E・オハンロンによる論文で、詳細に説明されている。以下は、その抜粋だ。

“…唯一、現実的な今後の方向は、実際は、シリアを脱構築する計画かも知れない…。時間とともに、シリア国内に、より存続可能な安全保障と統治がある小さな地域を作り出す様、国際社会は動くべきだ…

こうした聖域を設置すれば、自治区は、決して再び、アサドや、ISILに支配されるような可能性に直面する必要が無くなるだろう…。

暫定的目標は、いくつかの極めて自治的な区域の連合シリアかも知れない… 連合は、国際平和部隊による支持を必要とする可能性が高い…。これらの区域を、防衛可能で、統治可能…にする為。自治区は、アサドや、後継者による支配に逆戻りすることは決してないことをはっきり理解することで、解放されるだろう。”

(“シリアの脱構築: 最も絶望的なアメリカの戦争用の新戦略“、ブルッキングス研究所、マイケル・E・オハンロン)

ISISと、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領を当面忘れ、“自治区”、“聖域の創設”、“安全地帯”や“連合シリア”等の用語に注目してみよう。

こうしたもの全てが、シリアを、アメリカ-イスラエルの地域覇権に対して脅威にならない、より小さな区画に分けるという、アメリカ政策の主要目的を強く示唆している。かいつまんで言えば、これがアメリカの戦略だ。

対照的に、ロシアは、分割されたシリアを望んではいない。モスクワとダマスカスは、長年の同盟国であるという事実はさなおいて(しかも、ロシアは、シリアのタルトゥースに極めて重要な海軍施設を保有している)、シリアを小国分裂することは、ロシアにとって深刻な脅威となるが、その中でも、特に重要なものは、テロリストを中央アジア全体に配備する作戦用の、聖戦戦士基地が出現し、両大陸を、リスボンから、ウラジオストックに到る巨大な自由貿易圏へと統合しようというモスクワの大構想を台無しにすることだろう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、テロの脅威を極めて深刻に受け止めているが、それこそが、何故彼が、戦闘を終わらせ、シリアの安全保障を再度確立するための交渉に、サウジアラビア、トルコ、イラク、シリア、イラン、クルドや、シリア反政府集団の指導者達を参加させようとし、昼夜兼行で、働いているかという理由だ。主に、プーチンを、世界中の他の指導者達の間で尊敬される仲裁役で、テロの広がりを止めるべくあらゆる努力を払っている人物に見せてしまうという理由から、欧米マスコミで、こうした極めて重要な交渉について、事実上の報道管制が行われていることは注目に値する。プーチンを新たなヒトラーとして描き出しているマスコミとは明らかに一致しない為、連中はこうした会談を報道から排除してきたのだ。

アメリカとロシアとの違いは相いれないものだ。ワシントンは、国民国家体制を終わらせ、新たな世界秩序を作りたがっているが、プーチンは、国家主権、自決と、多極を保持すべく、現在の体制を維持したがっている。これがロシアとアメリカ間の対決の基盤だ。プーチンは、一極世界支配を否定しており、アメリカのしつこい介入、操作や、武力侵略に対抗することができる連合を構築する為、できる限り迅速に動いている。これは決して簡単なことではなく、膨大な思慮が必要だ。プーチンは、いたる所で、アメリカ・ゴリアテと対決する為の必要な手段を持ち合わせてはいないので、戦闘を入念に選び、大半、身を潜めて活動せざるを得ず、それを彼は実践しているわけだ。

過去数カ月の間、プーチンは、シリアのドラマにおける主役全員と会談を開催し、危機解決の上で、かなり前進した。現在、主な行き詰まりの原因は、アサドが大統領として残るのか、それとも、サウジアラビア、トルコやアメリカが要求している様に、排除されるのかだ。プーチンは、多くの理由から、この結果に抵抗している。第一に、信頼できるパートナーとしての彼の評判を酷く傷つけることになるので、彼は、同盟者を裏切っている様に見なされてはならないのだ。第二に、彼としては、国際法を回避し、最終的には、将来のクーデターで、彼に対して利用されかねない“政権転覆”ドクトリンに従うわけには行かないのだ。外国の指導者達が、一体誰が“正統な”指導者で、誰がそうでないか選別することを認めるのは、リビア、イラク、アフガニスタンや、今のイエメンで明らかの通り、災厄の処方箋だ。最後に、プーチンは、これだけの規模の大問題でワシントンに楽勝を許すわけには行かないのだ。結局、アサドは権力の座を去ることになるだろうが。

すると、水面下では、一体何がおきているのだろう?

6月に、プーチンは、サウジアラビア国防大臣ムハンマド・ビン・サルマン王子と、サンクトペテルブルクで会談し、“地域におけるテロと戦う同盟を設置する為の国際的な法的枠組み”に関する作業を始めた。それから間もなく、彼は、反政府集団のトップや、サウジアラビア、トルコ、シリア、イラクとイランの高官達と会っている。目標は、2012年6月30日に批准されたいわゆるジュネーブ・コミュニケを実施することだった。要するに、ジュネーブ・コミュニケは以下を規定している。

政府と反政府派、相互の同意の下で形成されるべき、双方のメンバーを含めた、完全な行政権を持った暫定管理機関の設置

意味のある国民的対話プロセスへの、シリア社会のあらゆる集団の参加

憲法秩序と、法制度の見直し

設立された新たな制度や公職の為の自由で公正な複数政党選挙

お分かりの通り、ジュネーブ・コミュニケは、中心的課題を解決していない。つまり“アサドが留まるか、去るか”だ。この疑問は、明確に答えられてはいない。これは、もっぱら“暫定管理機関”の構成と、将来の選挙結果に依存している。

明らかに、これがプーチンが望んでいる結果だ。ラブロフが二日前この様に要約している。

“私は以前にも言っているが、ロシアとサウジアラビアは、2012年6月30日、ジュネーブ・コミュニケの全ての原則、特に、シリア軍を含む政府機関を維持する必要性を支持している。テロリストに対する効果的な戦いへの参加が、極めて重要だと私は考える。

既に申しあげた通り、危機の解決については、我々は同様な立場にあるが、意見の相違もあり、その一つは、シリア大統領バシャル・アル-アサドの運命についてだ。移行期間と政治改革の諸要因を含めて、和解のあらゆる問題は、シリア国民自身によって解決されるべきだと我々は考えている。ジュネーブ・コミュニケは、これらの問題は、政府と、あらゆる反政府勢力との間の合意によって解決されるべきだとしている。”

この声明で、プーチンが本当に望んでいるものがわかる。彼は、イラク風悪夢シナリオの再演を避ける為“シリア軍を含む政府機関を維持する”ことを望んでいる。(注: ブレマーが軍を解体した後、イラクで何が起きたか想起されたい。) もう一つの破綻した、小国に分割された、最終的には、モスクワのドアを叩くことになるだろうテロリストの温床として機能する悪の巣窟をもたらす様な力の真空状態を生み出すことを、彼は決して望んでいない。彼はそのようなものを決して望んでいない。これはロシアの目的ではなく、ワシントンの目的に役立つだけだ。

また“暫定管理機関”と“自由で公正な複数政党選挙”という考えは、アサドを犠牲にしていると見られることなしに、アサドから身を引く道をプーチンに与えている。

恐らく、これを批判して、プーチンは“友人・同盟者を売り渡している”というむきもあるだろうが、それは必ずしも正しくない。彼は、二つの相反する物事を同時に調和させようとしているのだ。彼は、同盟者に対する彼の誓約を守ると同時に、彼が戦闘を終わらせるのを支援することに彼等が同意する様に、サウジアラビアの要求を受け入れようとしているのだ。確かに多少は日和見の要素もあるが、彼に他にどのような選択肢があるだろう? 実際問題としては、彼が取り引きを素早くまとめられるか、絶好の機会がバタンと閉じるにまかせるかだ。

何故だろう?

ワシントンは、そういう合意を望んでいないからだ。ワシントンは戦争を望んでいる。もし調停者プーチンが勝利すれば、ワシントンは、シリアを分裂させ、中東の地図を書き換えるという狙いを実現できなくなる。このように表現しよう。もしプーチンが、サウジアラビアを参画させられれば、聖戦戦士集団に対する財政支援のかなりの部分が干上がり、イラクと、クルド軍の支援を得て、シリア軍は戦場で大いに成功を収め、ISISは撃滅されるだろう。

これは、一体どのようにワシントンの権益に役立つだろう?

役にはたたない。たとえ、アサドが排除されても、(ジュネーブ)プロセスは、次の大統領が、抜擢されたアメリカ傀儡ではなく、シリア国民の大多数に支持される誰かにする仕組みになっている。言うまでもなく、ワシントンはそういう考えを好まない。

この計画で唯一の問題は、プーチンが極めて素早く動かなければならないことだ。アメリカは、トルコのインジルリク空軍基地から無人機攻撃と空襲を開始する許可を、既にアンカラから得ており、つまり今後、数週、数カ月間、戦闘は激化することを意味している。トルコの強硬派レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も、シリア北部の主権領土を盗み取り、そこを“安全地帯”と宣言する為の隠れ蓑として、アメリカによる空爆を利用している様に見える。8月11日、インターナショナル・ビジネス・タイムズIBTimes記事の抜粋をお読み願いたい。

“月曜日午後、シリア国内に「イスラム国」集団のいない“安全地帯”を作るというアメリカ-トルコ共同構想の第一段階を開始すべく、トルクメン人戦士の集団が、シリアのアザズに到着したと、北シリアで戦っている二人の兵士が、インターナショナル・ビジネス・タイムズに、スカイプで語った。戦士を載せた戦車が、南トルコから、国境のバブ・アル-サラムを経て、シリアの町アザズにはいり、ISIS、あるいは、ISILとしても知られている「イスラム国」過激派集団による攻撃の波を、マレアの町で開始し、アルカイダ過激派集団アル・ヌスラ戦線を撤退させた。

“最初、誰もが、戦車はトルコ人兵士で満員だと思ったが、トルクメン人だった。” と、反政府派戦士の一人は語った。

火曜日、IBTimesがインタビューした兵士達は、トルコ国内で訓練された、シリア国内最大の穏健派-反政府連合の一つのメンバーだ。彼等は戦闘中なので、匿名を条件に語った。シリア国内で、反政府集団の同盟関係が変化するので、もし公式に正体を明かせば、報復を受けかねないと懸念しているのだ。兵士達の一人、ある司令官は、最近、首都アンカラで、シリア北部に安全地帯を作り出すことに関するトルコ・アメリカ計画にかかわる会談にトルコ政府との参加した。” (“トルコ、アメリカ、シリアISIS禁止安全地帯: トルクメン人旅団がシリアに入り込み、アル・ヌスラ戦線は出て行っていると、兵士は語る“、IBT)

そこで、トルコによって、武器を与えられ、訓練された兵士を満載したトルコ戦車が、国境を越え、シリアに入り、彼等が、おそらくはアレッポを含む領土を片付け、占領するものと期待されているわけだ。

これは、私には侵略の様に聞こえる。読者にとってはどうだろう?

結論: もしプーチンが、ワシントンが、シリアを分裂させ、テロリストの温床に変えるのを防ぎたいのなら、素早く動く必要がある。サウジアラビアを参画させ、流血の惨事を終わらせ、ジュネーブ・コミュニケを実施することだ。

これは容易なことではないが、彼は正しい軌道に乗っている様に思える。

Mike Whitneyは、ワシントン州在住。彼は Hopeless: Barack Obama and the Politics of Illusion(『絶望: バラク・オバマと、幻想の政治』)(AK Press刊)にも寄稿している。同書は、Kindle版も入手可能。fergiewhitney@msn.comで連絡ができる。

記事原文のurl:http://www.counterpunch.org/2015/08/14/is-putin-planning-to-sell-out-assad/

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翻訳を終えて、Paul Craig Roberts氏のサイトを再確認したところ、ゲスト・コラムとして、まさにこの記事が興味深いものとして紹介されていた。全く同感。

RTを読んでいると、大統領とサウジアラビア国防大臣との会談だけでなく、シリア問題関係者とのラブロフ外相の会談の記事が目立つ。一体どういうことなのか、まさにタイトルの様な疑問をもち始めていた。

国立競技場デザイン、チャラになっても揉めている。ロゴ・デザインは訴訟問題化、デザイナー別作品は盗作発覚。戦争法案、川内原発再稼動と桜島噴火予想、泣きっ面に蜂状態。

一度苦情を書いた国会議事堂周辺の警備過剰、東京新聞8月6日 こちら特報部で大きな記事が載った。大いに納得。官邸前見守り弁護団の方々も、国会周辺の抗議活動に対する警察の過剰警備に抗議する申入書を提出されたという。「抗議参加者に対するビデオ・写真による撮影は肖像権・人格権の侵害である」という。悪いことをしているつもりは皆無だが、あの撮影は実に気になる。経験上、警察の腕章をつけた人物が、参加者を堂々と撮影している。

とんでも談話も、支持率を更に低下させているという記事をみかける。
宗主国用・大企業用政策が基本である以上、支持率回復用サプライズ策、実施しがたいだろう。
時間がたてばたつほど、宗主国・大企業用政策しか考えない政党であることがバレルだけ。戦争法案に対案を出す自称野党という偽装レッテル別動隊も実態がバレるだろう。

「平和安全法制の早期成立を求める国民フォーラム」なるものの設立が報道された。
詳細を知りたくて検索ツールで見たが、そういう組織のウェブもブログも見あらたない。
今どき、ブログも、ウェブもなしで、運動が拡大するのだろうか。
いや、こうした方々の言論を喜ぶ方々、比較的ご年配で、ネットと無縁ということを分析しておられる上での結果の可能性も高い。彼等に抜かりあるはずがない。
前列にいた方々の名前を並べ入力すると、国家基本問題研究所というものに行き当たった。

「平和安全法制の早期成立を求める国民フォーラム」あるいは国家基本問題研究所、メンバーの方々、大半重複しているように見える。恐縮ながら、基本的にこういう皆様の本を拝読したことも、講演を拝聴したこともないのだが、見覚えのあるお顔の方が一人おられた。
最近たまたま参加した立派な施設での講師として、話を拝聴したのだった。
始めて講演を拝聴するので、偶然持っていた携帯パソコンで、内容を入力するつもりだった。中国との領土問題やら珊瑚泥棒やらの方向に進むので、我慢してその場に、じっと留まったものの一言も入力しなかった。講演名さえ忘れ、内容もほとんど覚えていない。
有名大企業主宰だったが、実に困った講演。出身母体を見れば講演内容見当がつく。
知人に誘われ出かけたもので、実は「講演」題名も内容も全く知らなかった。
それでも長時間、我慢してじっと座っていたのには、個人的にれっきとした理由がある。
講演後の立食パーティーで、食事を頂き、お酒を飲むのが目的だった。それで誘われたのだ。講演で我慢した分、十分無銭飲食させていただいた。飲食内容に全く不満はない。

講師の方、電気洗脳箱バラエテイ番組解説に良く登場されているのに気がついた。

憲法擁護派団体が講演を企画すると、役所が共催を降りたり、場所を貸さなかったりするようだが、大企業がスポンサーについたこうした洗脳工作、やりたい放題では、世論の方向、庶民にとって好ましい方向に行くはずがないだろう。

もしも再度さそわれたら、是非とも立食パーティーのみ参加させていただこうと思う。

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今日の論文”counterpunch"は混迷する中東問題を読み解くうえで極めて有益だ。とりわけISが出現する以前からシリア問題は緊急課題で以前よりプーチンがコミットしている。当方のブログにも書いた通り、一度ならずプーチンの名指揮ぶりがオバマの戦争志向を挫折させギャフンと言わせオバマに煮え湯を飲ませたことがあった。それからというものオバマはことあるごとにプーチンに反発。オバマのPIVOT TO ASIA論は空論に終わった。米の一極支配、世界覇権の維持、軍産複合体による戦争への志向はすでに古い時代の考え方。プーチン氏の多極世界へのパワー・バランスの移行こそが新しい時代には理に適っている。だからと言ってプ氏が主張することが100%正しいと言っているのではない。彼にもブログなどでは書ききれない肯定できない点もいくつかあるが、彼の世界政治に対する見方は基本的にはそうそう外れてはいない。ラブロフ外相も言っているように、シリア問題は、2012年6月30日、ジュネーブ・コミュニケの全ての原則を支持し、政治改革の諸要因を含めて、和解のあらゆる問題をシリア国民自身によって解決されるべきであり、未解決問題は、政府と、あらゆる反政府勢力との間の合意によって解決されるべきだということだ。

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