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2015年5月14日 (木)

保守党勝利の本当の教訓

Jonathan Cook

2015年5月8日

イギリス選挙での保守党の勝利について、今日語れることは多々ある。決してデービッド・キャメロンの方が強かったわけではない。ともあれ、権力の一部を、少数派の連立相手、自由民主党と分けざるを得なかった彼の前回の政権に比較して、彼は今や、少数ながらも、議会の絶対多数を得たのだ。

保守党が、全有権者のわずか25%以下で、実際の投票者の三分の一を僅かに越える支持しか得ていないにもかかわらず、イギリスの制度の決まりによって、彼は党のあらゆる政策を遂行する付託を勝ち取ったことになる。これは、それ自体で、何らかの意味ある観念として、イギリスは民主主義だ、という考え方を傷つけるのに十分だったはずだ。

しかし、私は、今回の選挙が明らかにした二つの問題に絞りたいと思う。これはイギリス選挙についての話だが、教訓はアメリカの選挙にもあてはまる。

一つ目は、コメディアンのラッセル・ブランドが、労働党党首エド・ミリバンドにインタビューし、その後、ミリバンドを支持して、極左の一部を惹きつけた議論だ。ブランドが、政治体制全体が、元々不完全で非民主的だと主張して、過去18ヶ月にわたって、イギリス政治を揺さぶったことを考えれば、これは大いに驚くべきことだったし - 失望だった。彼は、この制度には、国民にとってなんら正当性がないことを示す一つの方法として、投票にはゆかずに、エネルギーを、違った形の草の根政治に注ぐよう呼びかけていた。ブランドや他の連中は、イギリス二大政党は、現在、イギリスと世界の大半を支配している大企業の権益を代表しているのだと主張していた。

保守党や労働党というレッテルは、イギリスに、ある程度は階級的な政治活動があった頃の紛らわしい名残だ。保守党が、まぎれもない資本家階級の権益を、労働党が、組織労働者の権益を代表していた頃の。しかし、マーガレット・サッチャー指揮下の保守党が、ずっと昔に労働組合の力を破壊した。保守党に助けられ、大企業が彼らの力を蚕食するにつれ、労働党の財政と労働者を組織する能力は消滅し、脱け殻となりはてた。

権力に飢えたトニー・ブレアの下、労働党は、メディア王ルパート・マードックとのファウスト的契約でまざまざと実証されている通り、まさに同じ大企業によって乗っ取られるにまかせた。労働党は、僅かながら残っていた魂を売り払い、「薄めの保守党」となり、その結果、マードックと彼のメディア帝国の支持を得た。

ブランドはこれは理解しているように見えて、我々に必要なのは、1%の権益を代表する二大政党に対する5年毎のいかさま選挙に背をむけることだと主張した。その代わり、人々は、非暴力的政治革命を助長し、権力を取り戻すことが必要なのだ。ブランドの以前の主張を考えれば、ブレアの信条をほとんど取り入れた人物、ミリバンドに投票することに、一体どうして意味があるだろう?

ブランドはその変心を、おなじみの主張を使って正当化した。彼はミリバンドが完全とはほど遠いことは認めたが、それでも彼はキャメロンの保守党と違い、人々の声を聞こうとする姿勢があるので、より好ましい選択肢だ。彼は“よりましな”選択肢だった。

彼の論理の問題は - 信仰に基づく要素は別として - 同じ主張が、最近のどのイギリス選挙にでも使えただろうことだ。現実政治に関与するのを避ける口実だった論理だ。

トニー・ブレア支持者達は、ブレアがイラクを侵略し、最高の戦争犯罪を行った後でさえ、保守党もイラクを侵略していただろう - しかも医療制度や教育制度により大きな損害を与えて、国内でも、もっと悪いことをしていただろうと、いかにも、もっともらしく主張することができた。そこで、よりまし理論によれば、戦犯ブレアに投票することが正当なことになってしまう。ブレアの様な人物は、他の国も破壊しかねず、大半のアメリカ人にとって、到底想像できないような規模の苦難を引き起こすのに、それでも、相手がもっと酷い為、道徳的優位があると主張するのだ。

よりまし理論の間違った論理は、ブレアの例を考えた瞬間に明らかになる。もし、他の連中の方がよりひどいという理由で、究極的な戦争犯罪を行うことが命取りにならないのであれば、有権者は、政治制度に対し、一体どのような本当の影響力をもっていることになるだろう。“左翼”票は、不快さがちょっとだけ少ない資本家の党へと常に引き寄せられることになる。変革は実際不可能になる。実際、時間と共に、大企業が益々大きな権力を集中するにつれ、政治的重心は、実際起きている通り、益々右へと移動してゆく可能性が高い。

更に、ブランドの論理は、ミリバンドが敗北した今、アメリカについては一体どうなるのだろう。もしミリバンドが権力を得ていれば、我々に耳を傾けてくれただろうという確信が我々にあるなら、その確信を彼の後継者にも広げれば良いではないか? もし我々がよりまし理論に満足するなら、ひどさがもう少しましな他の候補者を首相官邸に送り込めるかどうか見るため、次回選挙まで待てば良いのだろうか? 本当の変化を要求する選択を無期限に引き延ばすことが可能になる。

二つ目の点は、キャメロンのマニフェストの核心にある極端な緊縮政策プログラムは、過去数年間、大半の経済学者達によって、完璧に正しくないことが示されてきた。労働者と中流階級から奪い取って、金融エリートに再配分して、国民の圧倒的多数を苦しめるのみならず、長期的な経済の健全さにも大きな害を与えるのだ。言い換えれば、イギリス有権者は究極のマゾヒストのようなものだ。彼らは自分自身を、そして自国の権益を、ひどく傷つけるべく投票したのだ。イギリス人全員、正気でないのだろうか?

もちろん、そうではない。すると、今週の彼らの正気でない選択は、一体どのように説明できるのだろうか? 答えは、アメリカを見据えていたことにある。実際、ブレアは、アメリカに、イギリス選挙で勝利するためには、一体何が必要かを見せたのだ。権力を得ようと願う政党は、まず大企業と、連中のメディア部門を惹きつける必要がある。マスコミが選挙についての語り口を巧妙に支配するので、大半のマスコミを味方につけない限り、どの政党も勝利する見込みがなくなる。例えば、一体何を“争点”にする、指導部や綱領を、どのように見せるか、一体何が、そして誰が信頼できそうに思えるか、等。

ミリバンドの失敗は、ブレアと違って、議会と首相官邸で1%の代弁者となりたいという熱望という点で、いささか不熱心に見えたことだ。あるいは、ブランドが、ミリバンドに惹きつけられたのは、労働党が自分達の党首となるよう仕立てた、大企業の従業員という上辺の下に、依然見えている、ほんのわずかの人間性だったのかも知れない。

イギリスとアメリカで必要な革命は、大手マスコミによる物事の説明から自由になることから始めるべきなのだ。連中の説話は無視しなければならない。信じがたいほど裕福な事業者達や大企業に支配されず、大企業からの莫大な助成(広告という形で)に依存せず、BBCの様に、政府からの資金提供にも依存しない、草の根メディアのほうが、有権者の好みを公正に反映するように、徹底的に見直された選挙制度より、我々には重要でさえある。我々には、自立したジャーナリストが必要で、新たなマスコミの資金調達モデルを要求する必要があるのだ。しかも、我々は、主流マスコミが、自由なメディアとは一体何かという言説を完全に支配している中で、こうした全てをこなす必要があるのだ。

これは壮大な課題だが - 我々自身のイデオロギー的監禁状態の程度を反映しているのだ。政党同様、我々も1%によって、囚われているのだ。我々の知的領域が、すべてを支配する巨大マスコミ複合企業の、新聞、TVやラジオ局、我々が見る映画、我々が遊ぶビデオ・ゲーム、我々が聞く音楽によって完全に制限されているので、我々は異なる世界、異なる経済体制、異なるメディアの様相を想像することができない。想像力の上で、余りに限定されている為、我々の精神が歩き回ることを許されている狭い範囲を仕切る壁さえも見ることができないのだ。

精神病質のマードック帝国から、ガーディアン・メディア・グループという資本主義者まで、マスコミが1%の権益代表である限り、我が国の政治家は、保守党という青トーリー党から、労働党という赤トーリー党までに限定されるだろう。そして我々は隷属状態のままだろう。

Jonathan Cookは、ナザレを本拠とするジャーナリストで、マーサ・ゲルホーン・ジャーナリズム特別賞受賞者。

記事原文のurl:http://www.jonathan-cook.net/blog/2015-05-08/the-real-lessons-of-the-tory-victory/
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筆者、選挙制度改革より、代替マスコミを生み出す方が重要というが、両方だろう。イギリスの選挙にからんで、選挙制度を論じたまともな記事、大本営広報部には当然ない。ネットにはある。

たまたま電気洗脳箱のあの、まずい時間帯番組を見てしまった。

美人アナウンサーが、淡々と上院でのTPPのファスト・トラック権限審議が拒否されたと伝える。横で元宗主国首都支局長がじっと聞いている。

  • TPPとは何か?
  • ファスト・トラック権限とは何か?

の真実について、は絶対に伝えない洗脳大本営広報。見れば見るほど、頭脳にも、精神にも、ふところにも悪いだろう。百害あって一利なし。こういう番組を見続けて、反論を考えるのは体に悪いだろう。

ロシアの‘心’を狙う欧米の戦い:ステロイド常習NGOの末尾に書いたジョン・カーペンターの映画『ゼイリブ』に出てくるテレビ・アナウンサーを思いだす。あの映画では、地球人(実は庶民だろう)を搾取する宇宙人(支配層エリートだろう)が、特殊眼鏡をかけると、骸骨になって見える。特殊眼鏡をかけてみると、アナウンサーは骸骨に見える。ミステリー・あるいは、オカルト二流映画扱いされているのかも知れないが、現実を的確に表現した傑作。

このテーマで、有り難いコメントを頂いた。要点のみ引用させていただく。

今回の○○党持ち上げ発言には、驚きました。失望しました。

中略

限られた時間、わかりきった大本営を見る、聞くなら、有意義な本を読みます。まともな人と話をします。

気になって、評論家氏のブログだかwebだかを拝見したところ、更新を中止するとあった。カルト政党万歳という最後っ屁?彼の著作を読んだ時間が惜しい。

そういう言説を読むのではなく、正解はコメント頂いた通りだろう。

有意義な本を読みます。まともな人と話をします。

先日、文学者の方が、「騙されている?政府支持者の心情を理解するには、大本営広報(その方は、『マスコミ』と表現したように思う)を見聞きする必要がある」とおっしゃったのに対して、「小生、人生短いので、そういう時間的余裕はありません。」と申しあげた。申しあげたかったのはこのこと。

大手マスコミによる物事の説明から自由になることから始めるべきなのだ。連中の説話は無視しなければならない。

大本営広報部がとりあげる著名人発言の例を明治と昭和であげよう。まず明治。

二十世紀の怪物 帝国主義』幸徳秋水著 山田博雄訳 新刊の172ページ。

ところが今や、かのチェンバレンの野心はむくむくと湧き上がり、ピット、ディズレーリの事業を受け継いで、この平和的な大国民を率いて、軍国主義、帝国主義の悪酒におぼれさせ、古来の「武力第一の帝国は滅亡を避けられない」というあの失敗を繰り返そうとしている。わたしはこの名誉ある国民のために残念に思わざるを得ない。

 キップリングとヘンリー

  しかし、功をあせる軍人や政治家、思いがけない利益を得ようとする投機家は、まだしも許すことができよう。だが、学問芸術についての知識があり、国民の精神的教育に無限の責任をもつ文士・詩人が、こぞって武力の増大を唱えるにいたっては、痛嘆の極みである。イギリスにおいて、キップリング、ヘンリーなどはその最たるものだ。

そして、昭和。新刊『日米開戦の正体』孫崎享著 第八章 真珠湾への道に反対を唱えていた人たち の430ページ。

戦争遂行に協力した知識人・文化人。
旧軍人の今井武夫は、軍国路線を進めたのは軍人のみでなく、多くの知識人もそうであったと指摘しています

そういう言辞を丁寧に読んで批判していたら、人生いくつあっても足らない。対策は、読まないこと、見ないことだろう。有意義なブログを読みます。まともな人と話をします。

街の弁護士日記 Since 1992 at 名古屋 2015年5月14日 (木) 記事
TPP 『永遠の忠犬ポチ』の偉大な誤算 明日あがる反TPPののろし

さて、TPPであるが、追い打ちをかける狼煙が明日5月15日にあがる(予定である)。
TPP交渉差止・違憲訴訟である。
誤解される向きもあるようなので、念のために確認しておくが、これは『プロパガンダ』訴訟でも、政治目的の裁判でもない。
70頁を超える訴状で展開された議論は、正真正銘の憲法論であり、勝つために提訴した訴訟である。
提訴後には、ホームページに掲載されると思われる訴状を読んでいただければ、わかっていただけると思うが、TPPは内政全般にわたってグローバル企業が内政干渉するための法体系である。
条約であるから法律に優越する、したがって、日本国憲法体系に変えて、TPP法体系を国政の根幹に据えることになるのである。
基本的人権尊重原則に代わって、グローバル企業の利益の尊重が国家原則になり、国民主権の内実がグローバル企業主権にすり替えられるのである。

Paul Craig Roberts氏、こうした状況を、マトリックスの世界になぞらえている。

デモクラシー・ナウ!でのマクチェズニー・インタビューを思い出す。
ロバート・マクチェズニー『資本主義がインターネットを民主主義の敵にする』について語る

その中で、上記文章の

信じがたいほど裕福な事業者達や大企業に支配されず、大企業からの莫大な助成(広告という形で)に依存せず、BBCの様に、政府からの資金提供にも依存しない、草の根メディアのほうが、有権者の好みを公正に反映するように、徹底的に見直された選挙制度より、我々には重要でさえある。我々には、自立したジャーナリストが必要で、新たなマスコミの資金調達モデルを要求する必要があるのだ。しかも、我々は、主流マスコミが、自由なメディアとは一体何かという言説を完全に支配している中で、こうした全てをこなす必要があるのだ。

に照応する文章がある。

この国は途方もない人数の有能な人があふれています。この国は有能な人に満ちています。ここで不足しているのは、彼らを支える資金です。素晴らしいメディアの仕事をしている沢山の人々がいる事実は嬉しいことですが、彼らがきちんと食べられるようになって欲しいと思います。家族を持てるようになって欲しいものです。彼らの頭上には屋根があって欲しいですし、昼間の別の仕事や家事の残り時間で、ジャーナリズム活動をするというようなことを無くしたいものです。子供達を寝かせ着けた後、家を掃除し、会社での仕事に行くべく目覚めるよう床につく前、夜11:00に作業する人々が、報道や文化を担っていては、自由な社会は築けません。資金の保障がなければいけません。我々に必要な良いもの、文化、ジャーナリズムを生み出すことが出来る人々が、まともな報酬を得られるようにすべきです。

だから、そういう志のある人々の組織の存続・拡大を期待し、支持することが不可欠だろう。

たとえば、大本営広報部と対照的に、TPPの深層を追っているジャーナリスト集団を

【特集】IWJが追ったTPP問題

岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal

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