アンドレ・ヴルチェクは、作家、映画製作者、調査報道ジャーナリスト。様々な国々における戦争や紛争を報道している。
公開日時: 2015年5月25日 14:14
RT
2014年11月19日、日本南部での、キーン・スゥオード15軍事演習における、アメリカ海軍と日本の海上自衛隊の艦船(ロイター / Chris Cavagnaro)
日本の安倍政権は、アメリカが草稿を書いた日本憲法を修正し、日本の軍が戦争を行えるようにすることを狙っており、かつての帝国主義的傾向の復活を恐れる人々もいる。
日本は戦後の平和憲法を変えようとしている。日本は、戦艦を建造し、戦闘機を購入し、急速に隙なく武装しつつある。募集ポスターは至る所にある。その一方で、日本は、従順かつ忠実に、占領者であり最も親密な同盟国である、アメリカ合州国を支持している。
状況を踏まえれば、安倍の‘民族主義’とは一体何か、疑問に思わざるを得ない。彼の忠誠心は、欧米、とりわけアメリカ合州国の方に向いているように見える。決して彼自身の国やアジア諸国にではない。
アメリカが望むあらゆることを日本は支持する。ワシントンは、そこでワシントンが決定的役割を演じる‘太平洋の世紀’を夢想している。ワシントンは容赦なく‘アジア基軸’ドクトリンを推進しており、そこでは、軍事的に、煽動的に、日本はがっちりアメリカ側でいることをもくろんでいる。ワシントンは、12ヶ国による、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を執拗に追求しており、日本は拍手喝采している。
靖国神社(写真 アンドレ・ヴルチェク)
北方領土のジレンマ
そこからロシアの島サハリンが見える日本最北端の都市、稚内では、軍事レーダーや監視システムが音をたて、歴史的な港では、海上保安庁の船舶が、いつでも出動できるよう待機している。
温泉を訪れた男性客が、もし女湯に入れば起訴されるという警告に至るまで、市内標識のほとんど全てが、日本語と、ロシア語で書かれている。
宿泊しているホテルの窓からは、天気が良いとサハリンが見える。夏の間は、二隻の大きな船が、稚内とサハリン島にあるロシアの町コルサコフの間を日本人観光客を載せて往復する。ロシア漁船は頻繁に北海道を訪れ、文化交流や貿易さえ行われている。
ペチカ・レストランでは、美味しいロシア料理が供され、ビールが注がれ、ロシアの歌が歌われている(人気の歌は‘百万本のバラ’だ)。駐車場の向こう、副港市場には、実際、千島列島が、全て日本に所属していた時代のサハリンの古いモノクロ写真が誇らしげに掲げられている。
北方領土は、解決不能状態の問題となっている。日本側のプロパガンダは、第二次世界大戦末に、ソ連が北方領土を乗っ取ったという主張の繰り返しだ。何十年も、日本は、返還を要求してきた。
だが稚内においてさえ、この問題でロシアが妥協すべきだということに必ずしも全員が納得しているわけではない。ある小型日本漁船の船長はこう説明する。
“日本には、極右首相がいます。彼は、両国を敵にまわし、そして実際、ロシア・中国両方を破壊したがっている可能性が極めて高い国、アメリカ合州国ときわめて親密です。もし千島列島やサハリンが、日本に戻れば、皆、即座に、もう一つの沖縄に変えられてしまうでしょう。ロシア本土のすぐそばのアメリカ空軍と海軍基地だらけに。”
日本の戦闘機(写真 アンドレ・ヴルチェク)
約3,000km離れた場所で、元いにしえの沖縄王国は、占領と、その後の軍駐留という悪夢の中にある。沖縄から、何千ものアメリカと日本の航空機が、年中中国や北朝鮮を挑発している。その一方、現地住民は占領に激怒しており、大規模抗議行動で島は揺れている。県民は、アメリカ軍駐留終了を要求しており、アメリカ軍基地撤去を望んでいる。だが安倍政権は、更なるアメリカ装備品、更なる滑走路、更なる作戦演習を望んでいる。
私は沖縄で二度仕事をしたことがある。最近では、2013/14年、南米の放送局テレスールの米軍基地に関するドキュメンタリー映画‘沖縄戦’に関与した時だ。
那覇で、元アメリカ空軍パイロットで、現在は作家で教授のダグラス・ラミスが状況をこう説明してくれた。
“沖縄は、日本内のアメリカ軍兵士と、アメリカ施設の約75パーセントを擁しています。米軍兵士や基地は、本土に暮らす大半の日本国民にとって、全く見えないので、忘れられています。沖縄は、首都東京から何千キロも離れていますから。沖縄県民と話して見れば60年以上たった今も、基本的に、アメリカ-日本軍事同盟の負担を引き受ける様、要求されていることに、彼らが、怒り失望していることがわかります。アメリカとの軍事同盟は、あらゆる面で、ワシントンに対する卑屈な態度と批判する人々が表現する状況をももたらしている。外交政策について、ワシントンが望むことを日本が妨げるようなことはほとんどない。”
長崎の海上保安庁船舶(写真 アンドレ・ヴルチェク)
基地は、辺野古湾の様に、沖縄の自然のままの地域にまで拡張しつつある。
沖縄の学者、友知政樹准教授は、アメリカと日本両国の帝国主義的傾向と彼が感じているものに対して警戒感を表明している。彼は現地住民の苦難は十分わかっている。
“アメリカ帝国主義は、日本植民地主義を、我々に対して利用しているのだと思います。日本政府は、アメリカ合州国と安全保障条約を結び、そして、アメリカ合州国は、日本を利用して、我々沖縄県民に、アメリカ軍事基地を受けいれるよう強いているのです”と彼は説明した。
沖縄: 嘉手納空軍基地上空を飛行するアメリカ空軍F-15戦闘機(写真 アンドレ・ヴルチェク)
基地が、中国や北朝鮮やロシアと敵対し、挑発する為に、そこに存在しているのは疑いようがない。第三次世界大戦が、沖縄から始まりかねないと考えている人々は多い。
卓越したオーストラリア人歴史学者で長崎大学名誉教授のジョフリー・ガンは、この地域において、益々攻撃的になりつつある日本の役割を懸念している。
“安倍政権が尖閣/釣魚[諸島]を国有化して、全てが変わりました。日本が、これらのいわゆる係争中の諸島を巡って、実際、係争はないと宣言した為に現状が変わったのです。それで東京の政権が中国を怒らせたのです。中国は、この現状変更に憤慨しているのです。”
沖縄戦の絵の一部(写真 アンドレ・ヴルチェク)
矛盾の国、日本
長年、日本は、信じられないほど思いやりのある社会モデルを発展させながら、金持ちと貧乏人との間の格差が、世界で一番小さいことを誇ることができていた。支配者達の中にはどれほどの右翼がいるか知れないが、様々な点で、日本は、ほとんど‘社会主義’国として通用するだろう。
だが一つ基本的な問題がある。日本は、自国民にとってのみ、社会主義者なのだ。
日本の大企業は、何十年間も、東アジアの至る所で、植民地主義の強盗団のようにふるまってきた。例えば、日本の自動車会社は、多くの都市を破壊し、現地政府を買収し、包括的な公共交通機関を建設しないようにさせたと何度も聞かされた。現在、自動車やオートバイの排気で息が詰まりそうになるジャカルタやスラバヤ等の無数の巨大都市は、地下鉄路線や軽軌条システムが一本もない。
普天間基地でアメリカ空軍ジープを囲む抗議行動参加者(写真 アンドレ・ヴルチェク)
この理由は、アジア諸国民に親欧米的世界観を吹き込むという日本の取り組みによって、ほとんど説明できる。日本の大学は、何十年も、貧しい東南アジアの国々の学生達に‘奨学金’を提供してきた。日本の大学は、こうした学生達に、親欧米教義を吹き込み、革命精神を挫き、若者達を帝国の使用人として振る舞うよう変えてしまう。本質的に、日本に対してなされたことを、他のアジア人に対して行っているのだ。
第二次世界大戦で敗北した後、日本は結局欧米のご主人達に、忠実になった。元マレーシア首相マハティール・モハマドを含む多くのアジア指導者達が“日本はアジアに帰れ”と要求してきた。日本は決して戻らなかった。朝鮮戦争中に、欧米の軍隊向けの製品や装備を製造して、日本は豊かになった。ベトナム戦争中も、日本は同じことをし続けた。日本は現在、同じ道を辿っている。
長崎の戦艦(写真 アンドレ・ヴルチェク)
アイルランド人で、東京にある有名校、上智大学講師のデイビッド・マクニールは日本の国営放送、NHKでも仕事をしている。彼は、新たな、軍国化し、洗脳された日本について、益々批判的になっている。
彼らは教科書を書き換えています。彼らは第二次世界大戦を飛ばし、わずか8ページしかさきません...民族主義は盛り上がりつつあります。喜劇作家の百田尚樹が、‘永遠のゼロ’と題する神風戦士についての小説を刊行しましたが … 小説は、500万部も売れました! 日本で、500万部も売れる本など他にありません!
“安倍首相は、その本を読んで、気に入りました。彼は、作家をNHKの理事にしたのですよ! それに、NHK理事長も、右翼のチンピラです。”
原爆遺産、広島のドームは保存されている(写真 アンドレ・ヴルチェク)
デイビッドは、益々憤慨した様子でこう続けた。
“現在、日本のマスコミでは大変な自己検閲が行われています。そして政府は、例えば、いわゆる‘オレンジ・ブック’という‘ガイドライン’を発行しています。‘広がりやすいもの’...あるいは歴史に関するあらゆることを、どう扱うべきかというものです。作家や翻訳者に対する指示があるのです。例えば、‘南京虐殺の様な言葉は、外国人専門家の発言を引用する場合以外には決して使わないこと’。あるいは‘靖国神社では、それについて“議論の的になっている”という言葉は決して使わないこと’。我々は、第二次世界大戦の‘慰安婦’については、書くことができません。”
日本の大衆は、時事問題について、一方的な解釈を吹き込まれているとも言った。ロシア、シリアや中国という話題になると、日本人は、もっぱら欧米プロパガンダを吸収させられている。
“しかも、彼らは実際、NHKが言うことを信じているのです”とデイビッドは言う。
靖国神社にある、第二次世界大戦時の戦闘機(写真 アンドレ・ヴルチェク)
香港の‘雨傘革命’の画像を、ノーム・チョムスキーと作っている映画に取り込んでいる際、フィルム編集者の、はた・たけしは、こういって笑った。
“日本では、香港での、こうした‘カラー革命’や最近の出来事の背後に欧米がいることを人々は理解していません。日本では、香港での動きは、自由と民主主義の為の運動だというのが、全員の合意なのです。それは他に、代替のニュース情報源がほとんどないせいです。”
アブダビやベイルートの様な場所でさえ、RTの様なテレビ局の放送を、あらゆる一流ホテルで見ることができる。日本ではそうではない。あらゆる大手国際チェーンのホテルでは、ほとんどが、日本の放送局と、CNN、BBCとFox程度だ。
靖国神社入り口(写真 アンドレ・ヴルチェク)
従来通りの政治に対する不満
日本の現在の政治進路に対する不満は至る所で見えるようになっている様子で、しかもそれは、一部の、小さな反体制集団に限らない。79歳の元大手建設会社副社長、Segi Sakashiは、最近彼の怒りを私に語ってくれた。
アメリカとの極端に親密な関係と、ロシア、中国や他の国々に対する敵対的態度で、安倍首相が、日本を強引に、隣国、つまり韓国や中国との軍事衝突に追いやりつつあるのに、国民はこのことを全く気がつかずに縮小し続ける社会福祉にしがみついている。
過去の遺物(写真 アンドレ・ヴルチェク)
“近隣諸国の反感を買う必要など全く皆無なのですから、こうしたことは全く馬鹿げていて、とんでもないのです。中国は、日本の主要貿易相手国の一つです。韓国もそうです。我々は経済的に、お互いの損益で、成長(あるいは、縮小)してきたのです。率直に言って、安倍首相は、1960年のアメリカとの安保条約ゆえに、我々はこういう風に行動しなければいけないと思い込み、実に愚劣なゲームをしているのです。”
日本中の公園の芝生や、他の場所に、白い標識が立っている。いくつかの言語で書かれている黒い文字は“世界人類が平和でありますように!”
日本の外交政策を考えれば、こうした言葉は偽善と解釈されかねず、皮肉でさえある。欧米が、世界を、中国やロシアの様に、平和的ながらも、強力な国々との破滅的な衝突に向けて押しやっている最中、日本はその欧米を支援しようと頑張っているのだ。
嘉手納基地の巨大格納庫と、奇妙な飛行機(写真 アンドレ・ヴルチェク)
そこで、日本の指導者は、アジアの多くの場所では、激怒されながら、欧米では、大いに支持され、称賛されるわけだ。偉大な日本の哲学者、岡倉天心が、100年以上前に、著書‘茶の本’に書いた言葉を思いだすのは時宜にかなっているだろう。
“一般の西洋人は、茶の湯を見て、東洋の珍奇、稚気をなしている千百の奇癖のまたの例に過ぎないと思って、袖の下で笑っているであろう。西洋人は、日本が平和な文芸にふけっていた間は、野蛮国と見なしていたものである。しかるに満州の戦場に大々的殺戮を行ない始めてから文明国と呼んでいる。”
とりわけ安倍首相を、イデオロギー上、彼が帰化した太平洋対岸の祖国に送り出した後、もし日本が茶の湯に専念してくれたなら、アジア大陸は大いによろこぶだろう。
本コラムの主張、見解や意見は 、もっぱら筆者のものであり、必ずしもRTのそれを代表するものではない。
記事原文のurl:http://rt.com/op-edge/261693-japan-us-dangerous-right-wing/
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いくら、異常な事態をてんこもりにして屁理屈を並べても、所詮は宗主国侵略戦争兵站活動の為、これから世界中に出てゆく、宗主国侵略戦争支援作戦推進法案。うまい説明などありうるはずがない。
「政府は矛盾のない十分な説明をすべきだ」等たわごとを読まされたくはない。矛盾のない十分な説明など金輪際不可能に決まっている。
祖父は安保改訂時の大衆デモの盛り上がりで、辞職せざるを得なかった。孫は、原発事故をひき起こしておいて、責任をとらず、辺野古基地大拡張を推進し、TPPで、日本の医療から、教育、公共調達、ありとあらゆるものを宗主国大企業に差し出し、あげくの果てに、侵略戦争に軍隊まで提供する。この国が終わろうとしているのだ。祖父の時の何十倍もの群衆が、連日国会を取り囲んで不思議はないはずなのだが。彼の言う通り、原発ではなく、大本営広報部が完全にアンダーコントロールにあるので、安心して暴政が行える。
いくら騙しても、普通の見識があれば、この国がとんでもない、宗主国用のおとりデコイであることは直ぐわかる、という例が、この記事。
鋭い洞察をする筆者、どういう人か疑問をもたれる方もおありだろう。
Андрэ Влчек氏、1963年、当時のレニングラード、現在のサンクトペテルブルク生まれのジャーナリスト。
折しも、レニングラード生まれの指揮者ウラジーミル・フェドセーエフが率いるチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(旧称モスクワ放送交響楽団)来日中。大変な人気。本番も楽しめたが、アンコールも素晴らしかった。
以前訳した彼の記事に下記がある。
対アメリカ経済制裁?2015年2月19日
また藤永茂氏のブログ『私の闇の奥』で、アンドレ・ヴルチュク氏の記事翻訳が読める
まもなく平凡社から彼の著書翻訳が刊行される。
チョムスキーが語る戦争のからくり: ヒロシマからドローン兵器の時代まで
2015年6月刊行予定とある。是非とも読みたいもの。
こまつ座『戯作者銘々伝』、現在上演中。
江戸時代後期、黄表紙や洒落本が風俗を乱すと咎められ弾圧されながらも『笑い』というものにすべてを賭け、筆を折らなかった江戸の戯作者たちの鬼気迫る生き方。
書くことに魅せられ、コトバと心中した男たちの数奇な運命を第47回紀伊國屋演劇賞個人賞、第20回読売演劇大賞優秀演出家賞、第16回鶴屋南北戯曲賞の異才・劇団桟敷童子の東憲司が新作書下ろし。
戯作者・山東京伝に北村有起哉を迎え、多彩多芸多様と三拍子揃ったキャストでお届けする今一番新しい江戸が平成に甦る。
現代のマスコミ状況を連想させる芝居を見て感じたのは
平成時代後期、テレビや新聞で、売国行為の提灯記事を書きながらも『今だけ、金だけ、自分だけ』にすべてを賭け、筆を折っている現代の茶坊主たちのあきれる生き方。
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