イエメンのミステリーとピーターズ中佐の地図
Arkady DZIUBA | 25.04.2015 | 00:00
Strategic Culture Foundation
イエメンに対する、アメリカの姿勢は二つの要素で規定される。その一つは内部の政治状況だ。中東政策、特に、アメリカが、この地域の一体誰を信用すればよいのかという問題になると、二大政党は大いに異なっている。幾つかの点で差異は極めて重大だ。
民主党(あるいは少なくとも、オバマ大統領周辺でまとまっている一部の連中)は、イラン核問題の平和的な解決が、アメリカ中東政策の成功に極めて重要だと考えている。ホワイト・ハウスは妥協をする用意があるのだ。実際、アメリカは、最終的には、イランが約十年で、核保有国になるだろうという事実を我慢している。アメリカは、地域における野望を抑制することも含め、イランも妥協することを期待している。言い換えれば、イランは、アメリカ権益にとって不利な形で、シーア派社会への影響力を行使すべきではないのだ。おそらく、アメリカ支配層リベラル派の一部は、イランがアメリカ中東政策において、極めて重要な役割を演じていて、アメリカが直ちに核計画に関与できた、1979年以前の時代に戻ることが可能だと考えている。現在このシナリオは可能性かちはほど遠いが、事態が進展する中、何事も排除することはできない。
共和党は、これとは大いに異なる立場をとっている。アヤトラ・ホメイニは、アメリカ合州国のことを“大サタン”と呼んだ。今、共和党が“大サタン”役を演じている。彼らはイランの核計画に対するいかなる妥協には反対し、経済制裁(現状のままでも十分に過酷だが)強化を断固主張している。彼らの多くは戦争を開始する準備ができている。彼らは、アメリカ-イラン和解という可能性を死ぬほど恐れているイスラエルとサウジアラビア・ロビーの無条件支持を当てにしているのだ。共和党が議会を支配している。彼らは、イラン、イエメン他を含むオバマの中東政策に反対することが可能だ。
ここで、アメリカ外交政策の意思決定には、基本的な前提に基づく二大政党間の合意が必要になる。重要なのは、アメリカは、依然として世界の主導的国家ではあるが、既に全盛期は過ぎている。現在、アメリカ合州国は、もはや海外の傀儡達への資金提供を独力で負担することも、同盟国無しでの戦争勝利もできない。あらゆる潜在的敵国と比較して、大きな強みはあるが、ブッシュやクリントンが熱望した、世界的指導力という主張を正当化できるほどのものではない。
米ドルは、依然として世界準備通貨だが、アメリカの同盟諸国を含め、益々多くの国々が、中国との通貨スワップを始めている。これは漸次、ドルの立場を損なうことになる。アジア・インフラ投資銀行は、アメリカが率いる既存金融機構の強力な競合相手になる可能性もある。中国は二番目に大きな世界経済となり、追いつく途上にある。アメリカ軍ドクトリンには、世界のことなる地域で幾つかの戦争を同時に戦う能力は含まれていない。アメリカ軍は予算削減を味わっている。
アメリカの権力は衰退しつつある。ソフト・パワー、経済競争、砲艦外交 - アメリカの世界的な指導力を保障できるものはなにもない。現在、アメリカ合州国は次第にその力を失いつつある。国際舞台では、いかがわしい同盟者と付き合い、アメリカの競争相手を攻撃させるのに、テロリストに頼り、連中をお互いに扇動せざるを得ないのだ。アメリカは、より広範な地域で、緊張を助長することを最も得意としている。アメリカは、ある種の“調停者”役を演じて、多少の報酬をせしめているのだ。
イエメンや中東の他の部分での出来事で、ピーターズ中佐の、いささか忘れ去られた地図を思いだす。2006年、退役諜報将校のラルフ・ピーターズが、Armed Forces Journal誌に『血の国境』という論説を発表した。
ヨーロッパの植民地主義大国が決めた国境は不公平だったと彼は書いている。ピーターズは、民族、宗派や、部族境界に沿った中東と、アジアの国境は、地域の緊張を緩和する可能性があると示唆している。彼は、アメリカ政治家達と、一部共通する見解をもっている。彼によれば、“民族浄化は機能する”のだ。論説の締めくくりで、彼はこう書いている。“もし大中東の国境が、自然の血や宗教のつながりを反映するように、改定されなければ、この地域における流血の一部が我々自身のものであり続けるということを、信仰個条とせざるを得まい”。論文は、イラクでの戦争がたけなわで、アメリカが戦争を終わらせる方法を探していた頃に書かれた。
論説全文を繰り返す必要はない。論説の骨子が、イランとサウジアラビアから始まる“大中東”地図の書き直しに必要なのだ。
ピーターズによれば、“現在、頓狂な国境線を持った、イランは、統合アゼルバイジャン、自由クルディスタン、アラブ・シーア派国家と、自由バロチスタンに対して、多くの領土を失うことになるが、歴史的、言語的にペルシャと近い地域である現代アフガニスタンのヘラート周辺の諸州を得ることになる。イランは、事実上、再び、民族的に、ペルシャ人の国家となるのだが、一番難しい問題は、イランが、バンダル・アッバース港を持ち続けるべきなのか、それともアラブ・シーア派の国家に引き渡すべきなのかだ”。シーア派が住んでいるサウジアラビアの南東地域は、イエメンの一部になるべきだとピーターズは考えている。サウジアラビア王国の北東部は、現代イラクの領土に出現する新たなシーア派国家に取り込まれるべきなのだ。メッカとメディナの立場は変わるべきだと彼は考えている、“イスラム教徒でない者が、イスラム教の聖なる都市支配者の変化に影響することはできないが、メッカとメジナが、世界の主要イスラム宗派や、イスラム聖国家運動代表が輪番で交替する評議会に支配されたなら、イスラム世界が、どれほど健全になるか想像願いたい。偉大な宗教の将来が、単に布告するのではなく、議論される、ある種、イスラム教のスーパー・バチカンだ”。ピーターズは、“サウジアラビアが裕福な国家になり、結果的に、影響力を持つようになったのは、預言者の時代以来、イスラム世界全体にとって起きた最悪の事態で、オスマン(モンゴルでなければ)征服以来、アラブ人とって起きた最悪の事態なのだから、これが最善のシナリオだと考えている”。
民主党と共和党は、アメリカは、中東で一体誰を信頼するべきなのかを論じ続けるのかも知れない- サウジアラビアか、イランか。アメリカ政策の本質は、常に反乱や紛争や戦争を引き起こす破壊のままだ。中東で、アメリカは、彼らの国家主権、領土的一体性や、統治体制を保障してくれるかも知れないと真面目に信じている人々は、大いに苛立っているかも知れない。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2015/04/25/yemen-mystery-and-map-of-lt-col-peters.html
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今日の大本営広報、二大政党制度のゆきづまりのごとき記事を載せていた。
しかし、自分で懸命に推進した手前もあってなのだろうか、「だから、この破綻した二大政党制度をもたらした小選挙区制を見直そう」とは絶対に言わない。致命的な欠陥商品というより、欠陥事業。
間もなく歴史的な、ATMどこまでも付いてゆきます下駄の雪演説が行われる。
宗主国は、国際舞台では、いかがわしい同盟者と付き合い、競争相手を攻撃させるのに、テロリストに頼り、連中をお互いに扇動せざるを得ないのだ。宗主国は、より広範な地域で、緊張を助長することを最も得意としている。宗主国は、ある種の“調停者”役を演じて、多少の報酬をせしめているのだ。
そして
属国は、国際舞台では、いかがわしい同盟者と付き合い、競争相手を攻撃させるのに、テロリストに頼り、連中をお互いに扇動せざるを得ない宗主国のパシリをするしかないのだ。属国は、より広範な地域で、緊張を助長することを最も得意としている宗主国侵略戦争に兵站支援から入門する。属国は、ある種の“調停者”役を演じて、多少の報酬をせしめる宗主国に絞りとられ続けるのだ。
記事で触れられているラルフ・ピーターズ氏記事原文は下記で読める。
June 1, 2006
Blood borders
地図は下記で見られる。
October 2, 2013
Peters’ “Blood borders” map
このラルフ・ピーターズ氏記事は以前翻訳したことがある。
下記でお読み頂ける。
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