間近にせまっているのは、平和か、戦争か?
Paul Craig ROBERTS | 10.02.2015 | 00:00
現時点で、モスクワでのメルケル、オランドとプーチンの会談結果は我々にはわからない。
二人はワシントンがロシアに対してとっている攻撃的姿勢を懸念し、ワシントンが、ヨーロッパを、ヨーロッパが望んでいない紛争に押しやることを心配している為、プーチンとの会合は、メルケルとオランドがもちかけたのだ。ところが、メルケルとオランドが、ワシントンの外交政策から進んで自立し、自らの外交政策を推進する主権国家としての権利を主張しない限り、メルケルとオランドはNATO/EU/ウクライナ問題は解決できない。
ワシントンの戦争欲によって、最終的に、ヨーロッパが自らの運命を自ら支配できるようにならない限り、プーチン-メルケル-オランド会談の一番ありそうな結果は、とりとめのない更なる会談だ。もしメルケルとオランドが、独立した立場で交渉していなければ、更なる会談のありそうな結論は、メルケルとオランドが、ワシントンをなだめる為に、プーチン説得を試みたが、プーチンは理不尽だったというだろうということだ。
ミュンヘンでの、ラブロフとヨーロッパとの会合に基づけば、ヨーロッパで、知性と独立の何らかの兆しを期待するのは見当違いに思える。ロシア外交は、ヨーロッパの独立に依存しているが、プーチンが認めた通り、ヨーロッパがワシントンから独立している様子は皆無だ。プーチンは傀儡諸国との交渉は意味がないと述べた。それで、プーチンは傀儡諸国と交渉をし続けている。
おそらく、プーチンの忍耐がとうとう実を結びつつあるのだ。ドイツとフランスが、ワシントンのウクライナへの武器提供計画に反対しているという報道がある。フランス大統領オランドは、今、ウクライナの分離派共和国の自治を支持している。彼の前任、サルコジは、クリミアはロシアを選んでおり、我々は彼らを非難することは出来ないし、ロシアに関しては、アメリカとヨーロッパの権益は分かれると述べた。ドイツ外務大臣は、ワシントンのウクライナへの武器提供計画は危険で、無謀だと述べた。しかも、こうしたことに加え、キプロスは、ロシアに空軍基地提供を申し出た。
ワシントンが、フランスの声明にどのように対応するのか見る ロシアに関しては、ヨーロッパの権益は、ワシントンとは異なる。ワシントンは自らの利益以外のいかなる利益も認めない。それゆえ、ロシアが、ワシントンとワシントンのEU属国と交渉するのは無益だ。ワシントンと合意するためには、ロシアは、ワシントンの条件に屈伏しなければならない。ロシアは、クリミアと凍結しないロシア軍港を引き渡さねばならず、東部と南部ウクライナの“分離派”州のロシア人は虐殺されたのに、モスクワは傍観していなければならないのだ。ロシアは、キエフの敵対的政権を、借款、助成金、割安なガス価格で支援しなければならないのだ。
EUはワシントンの方針を支持しているので、ロシアが、ワシントンとの取り引きで得られるものはこれしかない。フランス大統領が、今やこう言っていると報じられている。“我々はロシアと共通の文明の一部だ”。ヨーロッパは、独立への道にいる。
ヨーロッパはこの道を進み続けられるのか、それとも、ワシントンは、ドイツとフランスを自分の路線に引き戻せるのだろうか? それは、偽装攻撃で実現できよう。ワシントンは全てを支配したがる病的存在で、アメリカ覇権というネオコン・イデオロギーが、ワシントンを一層の支配魔にしている。独自外交政策ができるヨーロッパは、ワシントンにとって、支配力の大幅喪失を意味する。もし、ワシントンが支配力を維持したり、取り戻したりした場合には、ロシアには、二つの選択肢があるだろうと思う。
一つは欧米から完璧に離別することだ。欧米は、道徳的に堕落し、経済的に破綻した組織だ。ロシアの様にまともな国が、悪、つまり欧米と統合されたいと願う理由は皆無だ。ロシアには、ドル決済制度や欧米とのあらゆる金融関係を放棄するという選択肢がある。
欧米の一環となろうとして、ロシアは戦略的な過ちをおかし、ロシアの独立を危うくしてしまった。ロシアが欧米金融体制に依存していたことが、ワシントンがモスクワに対して力を行使し、ワシントンがロシアに経済制裁を課することを可能にした。
ロシアが欧米の一部になりたいと願ったことが、ワシントンの経済制裁と、ワシントンの対ロシアプロパガンダを可能にした。欧米に受け入れられたいというロシアの願望が、キエフにおける、ワシントンの大胆なクーデターに対する、ロシアの弱腰をもたらしたのだ。ワシントンは、ウクライナを、対ロシア策に利用している。キエフの支配権を掌握した後、“分離派”諸州が、ウクライナの自治共和国となるという平和的解決をワシントンが承認する可能性はない。
ワシントンが対立しか望んでいない時に、ワシントンとの交渉は可能だろうか?
ロシアにとって別の明白な選択肢は、NATO加盟諸国へのエネルギー資源販売を止め、NATOを破壊することだ。諸国は、NATO加盟国であるより、エネルギーを選ぶだろう。
ロシアは、一体なぜ、相手のエネルギー需要に応じて、自らの明らかな敵を力づける必要があるだろう? ロシアは、ギリシャ、イタリア、スペインやポルトガルに、債務不履行し、融資を、ロシア、中国と、BRICS銀行に頼る様に奨励することも可能だ。中国は莫大な量のドルを保有している。ワシントンのヨーロッパ帝国を崩壊させる為に使わないという手があるだろうか?
ロシアも、欧米に対して債務不履行することが可能だ。自分を破壊しようとしている敵に、ロシアが支払う必要などあるだろうか?
もしヨーロッパが独立することができなければ、どこかの時点で、ロシアは、ワシントンに服従するか、あるいは、ワシントンのヨーロッパ属国諸国が、ワシントンの臣下であることの代償を理解し、自らの生存の為に、ワシントンを放棄するという決断をさせるような断固たる行動を実行するかのいずれかだ。
もう一つの方法として、ロシアは欧米のことを忘れて中国と東方と統合することが可能だ。ワシントンの覇権姿勢を考えれば、ロシア外交が通じる相手は存在しない。
政策には、意図しない結果があり得るし、壊滅的被害をもたらすブラックスワン イベント事象をもたらす可能性もあるので、予測というものは困難だ。例えば、「イスラム国」はイスラム世界における、ワシントンの戦争の意図しなかった結果。「イスラム国」は、リビアのカダフィに対してワシントンが編成したイスラム教部隊から生れたものだ。こうした勢力は、シリアのアサドを打倒すべく送り込まれた。イスラム教徒が、ISISの旗の下に集まり、武勇伝が高まるにつれ、ISISは、自らが、過激化したイスラム教徒で構成される、新たな独立した勢力であることを自覚したのだ。
急進的イスラム教徒は、欧米の優位と欧米によるイスラム領土支配にうんざりしている。ISISの自我の目覚めにより、新たな国が生み出され、イギリスとフランスが描いた中東の国境を描き直している。
イランとロシアが、「イスラム国」を、ワシントンよりも危険なものと見なし、「イスラム国」に対するワシントンの動きを支持しているのは奇妙なことだ。「イスラム国」は、ワシントンの中東政策を破壊することが可能なのだから、イランとロシアには「イスラム国」に資金を提供し、武器を供与する動機があるはずだ。「イスラム国」ではなく、サウロン王が住み、支配をすべく、軍勢を集めているのはワシントンだ。
ヨーロッパとの交渉では、プーチンとラブロフは、EUが、おなじEU仲間と交渉する気が皆無であるのに注目すべきなのだ。我々の目の前で、メルケルとオランドが、仲間であるギリシャというEU同胞を破産させるところを見ているのだ。
EUはギリシャ新政権に、EUは、ギリシャも国民も知ったことではないと思っていると語った。ヨーロッパは、ドイツとオランダの銀行が、かつてギリシャ政府に対して行った不良貸し付けの経費を押し付けられずに済む様にということだけ気にしている。
著書『自由放任資本主義の破綻』に書いた通り、“公的債務危機”の狙いの一つは、民間の貸し手は、判断を間違えても、責任を負わなくても良いという原則を確立することだ。その代わり、借款に当事者ではない国民が責任を負うのだ。EUは危機を、強力な私益を守るためのみならず、負債過剰の国は、自国財務の支配を、EUに奪われるという実績を確立するのにも利用している。言い換えれば、EUは、国家主権を破壊すべく、権限を集中する為に、危機を利用しているのだ。
ワシントンとEUが、仲間の国であるギリシャの主権を尊重していないのに、一体なぜ、ロシア政府が、ワシントンとEUが、ロシアやウクライナの主権を尊重するなどと考えるだろう? インド、ブラジルや他の南米諸国、あるいは中国も。現在ワシントンは、キューバ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアと、アルゼンチンの政権を転覆させようとしている。
ワシントンは誰も尊重していない。従って、ワシントンと話しても時間の無駄だ。これがロシアのやりたいゲームなのだろうか?
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2015/02/10/is-peace-or-war-at-hand.html
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大本営公報紙、日々見出しを読むだけで気がめいる。
ODA軍事転換。TPP交渉の順調な進展。
そういう記事を読むたびに、まともな批判をするブログを拝読して、気をとりなおそうとしていた。昨年秋から更新されなくなったプログ、筆者が先月末亡くなられていた。
神州の泉。植草氏と響堂雪之氏が追悼文を書いておられる。
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ヽ(*≧ε≦*)φ
中東のこと、これまでよそ事みたいに観てましたが、
今後は真剣に注目ですね。
気が重い・・・です。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年2月12日 (木) 03時23分
待っているのは、戦争。
資本主義ですから!!!!
投稿: けだまねこ | 2015年2月12日 (木) 02時54分