ポーランドが試したウクライナ分割の可能性:
Dmitry MININ | 30.10.2014 | 00:00
Strategic Culture Foundation
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、当時のポーランド首相に、ウクライナを両国で分割しようと持ちかけたと、ポーランド国会議長ラドスワフ・シコルスキが発言したと報じられている。アメリカのウェブサイト、ポリティコで、プーチンが、2008年、ポーランドのドナルド・トゥスク首相のモスクワ訪問時に行った1対1の会談で提案したという、9月まで、ポーランド外務大臣をつとめていたシコルスキ発言が掲載されたものだ。トゥスクは、2014年12月1日に欧州理事会議長になる。シコルスキがこの発言をしたのは思いつきでなく、意図的なものだ、という事実が意味するものは大きい。
シコルスキは、ウクライナの分割という考え方に対する一般の反応を探り、同時に、国境書き換えという問題を、国際的議題に載せることを狙ったもののようだ。
図々しいシコルスキは、ワルシャワの本当の意図を第三者になすり付けた。“彼(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領)は更に、ウクライナは人工的な国家で、リヴィウはポーランドの都市なのだから、両国でこれを解決しようではないかとまで言った”とシコルスキは語ったと報じられている。
注: ラドスワフ・トマシ“ラデク”シコルスキは、ドナルド・トゥスク内閣で外務大臣だった。2014年9月、彼は国会議長になるため辞任した。シコルスキは反ロシア言辞で有名だ。1986年、反ソ連のムジャヒディンを支援すべく、サンデー・テレグラフの従軍記者として、アフガニスタンに出張した。彼はムジャヒディン部隊勢力の仲間に入り、対ソ連軍兵士の戦闘行為に加わった。この事実は彼の著書中で触れられている。
この事実がでっち上げであることがばれるのにそう時間はかからなかった。ポーランド元首相ドナルド・トゥスクは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は両国でウクライナを分け合おうという提案をしてはいないと否定した。10月24日、ラジオTOK-FMのインタビューで、トゥスクは、プーチンは、ポーランドとロシアによるウクライナ分割など決して提案していないと語った。“プーチン大統領とのどの会談でも、そのような提案が出されたことはない”とポーランド首相は述べた。“プーチン大統領と行った会談の中で、ウクライナは一度も話題になったことがない”。トゥスクは更に、2008年2月、モスクワでの会談は一対一ではなく“4、5人”が参加したグループ会合だったと述べた。
元首相はロシア大統領はそのようなことを全く言っていないと明確に否定した。
シコルスキはじたばたし始めた。最初、彼は自分は誤解されていると言い、やがて彼は全てを記憶障害のせいにした。後に、撤回があった - 当時の首相ドナルド・トゥスクは、“もう一つのモロトフ-リッベントロップ協定”参加を拒否したのだから、欧州理事会を率いるのにふさわしいと言った自らの発言を撤回した。
シコルスキ発言は、ワルシャワが演じた即興とは思えない。ウソがばれた後、ある欧米ジャーナリスト、記憶が正しければイギリス人が、ソチでのヴァルダイ会議の会合で、プーチン大統領に、ウクライナの仮定の分割についてどう思うか、リヴィウ州全体が“文化的-歴史的”観点から、どの国に所属すると思うのか?としつこく質問した。シコルスキが先に発言したことと、少なくとも間接的に符号するような答えを、ロシア大統領にさせようという明らかな意図があった。大西洋同盟諸国は自らに忠実だ。連中はウクライナの分割を考えていながら、その様な計画を心に抱いているといって、ロシアを事前に非難するのだ!
ヴァルダイ国際クラブ年次会合でのプーチン大統領演説と質疑応答
大統領の答えは実に明確な表現のものだった。彼は、ロシアには、そのような構想を持ち出す意図は皆無であり、ウクライナ分割は支持しないと述べた。実際、ウクライナの社会も、リヴィウの住民も均一ではない。リヴィウはポーランドの文化的影響を受けた都市だ。これは良く知られている歴史的事実だ。しかしだからといって、ウクライナの分割ということにはなるまい。事実は尊重すべきだが、ワルシャワでの、民族主義感情の広まりを引き起こしながら、ウクライナ政権がやっているような形で、ウクライナ国民生活の完全な画一化を実現しようとするべきではない。
だが言葉は既に語られ、周知のことになっている。彼がモスクワのせいにしようと企んでいた、シコルスキの狙いは失敗したが、ポーランドの新聞ガゼータ・ヴィボルチャは、シコルスキは、圧力を受けて言葉を撤回せざるを得なかったが、当初述べた言葉は、額面通りに受け取るべきだと書いている。クレムリンは、ウクライナに対して、悪意を抱いており、宴会後の分捕品の分け前の様な形で、リヴィウ州をポーランドに与えたがっている。この場合、ロシアは、共犯者を得られ、世界に対して、行為を正当化できるのだ。ウクライナは人為的な組織であろうし、ポーランドも同じ様に考えているのだ。しかも、トゥスクにはシコルスキを厳しく批判する十分な理由があるはずだろうが、ところが彼は実際、シコルスキを擁護している。“この話は皆、人の記憶は時には当てにならないことを示している”と、トゥスクは述べた。彼は、過去20年間で、最も優れたポーランド人政治家の一人であるとシコルスキを称賛し、一度の“不適当なインタビュー”が彼の経歴を損なうようなことにならないよう願っていると言ったのだ。国会議長は、他のポーランド人指導者達から見れば、役に立つことをしたということの様だ。失った領土を、ポーランドに取り戻すという考え、違法に奪われた領土という発想は新しいものではない。ポーランド・マスコミは、決まったように、この話題を繰り返している。アメリカの世界的諜報企業ストラトフォーの会長ジョージ・フリードマンは、ポーランド・ブロックが中欧と東欧を支配するべきことについて語る際、あからさまで、正々堂々としている。こういう話題は、以前は、単に有力者が大声で語るような話題ではなかったのだ。今やそれを変え、本音を語るべく、機は熟したのだ。実は、その意欲もかつてほど強くはなくなっている。シコルスキによる言葉の曲芸が示した通り、ウクライナを“バルト海-黒海枢軸”の一部にする、あるいはキエフとワルシャワ連合という計画は、ユゼフ・ピウスツキ(ポーランド人政治家; 首相(1918-22)、“初代ポーランド元帥”(1920年から)、第二次ポーランド共和国の事実上の指導者(1926-35))時代にポーランドに属していた領土に限定される。ウクライナが負うには余りに思い荷物であることを、ポーランドは理解し始めたのだ。ドンバスでの抵抗運動や、ノヴォロシアの他の場所で広がりつつある感情は、この文化的・歴史的地域を、ポーランド化するのに有利な条件を生み出すことはない。
シコルスキ発言は、西ウクライナにおけるヨーロッパ・ガリチア・アセンブリー活動の激化と同期している。この組織は分離主義と見られている。ウクライナ西部を、ウクライナから分離したいと、あからさまには言わないが、公式目標は、ガリツィアの発展とヨーロッパへの統合だ。組織のトップ、ウラジーミル・パブリフは、三つの州 - リヴィウ州、テルノーピリ州と、イヴァーノ=フランキーウシク州は、統一すべきだと考えている。ガリツィアは、ウクライナでは、欧州統合への用意が最も整っている部分だと彼は述べている。ガリツィアは、ザカルパッチャ州とブコビナが参加することも期待している。
注: ヨーロッパ・ガリチア・アセンブリーは、ウクライナの西部三州の欧州連合に統合し、ウクライナの他地域から分離に賛成する立場の過激な公的組織。この団体は、ウクライナの西と東の人々は、違う気質だと信じている。
ポーランドとガリツィアの親和性という希望は、間違ったものであることがわかる可能性が高い。この文化の十字路における矛盾の蜘蛛の巣は、複雑で、残酷な歴史がある。西ウクライナの、ステパーン・バンデーラとウクライナ武装反抗勢力軍というカルトは、バンデラが率いた戦士達に先祖が苦しめられたポーランド人から否定されている。原状回復という脅威もある。旧リヴィウや他の都市の住民達が自分の資産を取り戻したがる可能性があるのだ。
注: ステパーン・バンデーラ (1909-1959)は、モスカリ(ロシア人)、ポーランド人やイード(ユダヤ人の侮蔑的表現)を敵と見なすウクライナの過激民族主義の唱導者、理論家。彼は西ウクライナOUN (ウクライナ民族主義者組織)の一員だった。バンデーラは、ポーランド領土でのテロ活動に関与し、第二次世界大戦中、ナチスに協力した。現在、彼は、10月26日の選挙の結果、国会(ヴェルホーヴナ・ラーダ)議員になったウクライナ民族主義者にとっての英雄だ。
ガゼータ・ヴィボルチャは、ポーランド国内でポーランド人とウクライナ人の間の緊張が高まっていると報じている。プシェムィシル東ヨーロッパ国家高校で起きたスキャンダルが表面化した。9人のウクライナ人学生がUPAの旗を掲げている写真を掲示したのだ。10月14日、ペトロ・ポロシェンコは、2月23日に祝っていたソ連後の同様祝日に代え、10月14日を、ウクライナを防衛した人々を慶賀する日とする政令に署名した。10月14日は、ウクライナ武装反抗勢力軍設立という象徴的な日だ。ポーランド民族運動は、この決定は、UPAの歴史を“現代ウクライナ国家の神話の基盤”にすることを意図するものと受け止めている。十月始め、ポーランド人学生の団体が“オポル大学のウクライナ化反対”運動なるものを立ち上げた。彼等は生まれながらウクライナ人である学生を依怙贔屓する、大学管理部の差別を批判している。ポーランド石炭をただで手に入れようとするキエフの企みは否定されているのみならず、ポーランド・マスコミのあざけりの的にもなっている。
注: UPA(ウクライナ蜂起軍)は、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一部で、ウクライナ人の武装反抗勢力だ。第二次世界大戦時代には、ドイツ国防軍、警察や治安機関を含め、ヒトラーのドイツと協力した。UPAは赤軍に対して戦い、ウクライナ西部のポーランド人絶滅に関与した。UPAは、ヴォリンで、20万人のポーランド人とユダヤ人が殺害されたヴォリン虐殺を組織した。ペトロ・ポロシェンコ大統領は、ソ連後、2月23日に祝っていた同様の祝日の代わりに10月14日をウクライナを防衛した人々を慶賀する日とする政令に署名した。現在UPAの紋章とシンボルは、ウクライナ国家イデオロギーの一部だ。それが、ファシズムを拒否するロシア人が暮らしているドンバスの悲劇の主要因だった。
* * *
シコルスキ発言の背後には長期的な戦略がある。いにしえの上流階級の野望は、ポーランド人の中に今も生きているが、それを現実に実施しようという企みが失敗したことは肝に銘じるべきだ。もしポーランドの誰かが、ヨーロッパの国境を引き直そうとする海外からの影響に触発されれば、再び起こりかねない。
記事原文のurl:http://www.strategic-culture.org/news/2014/10/30/prospects-for-ukraine-division-poland-tries-it-out.html
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大本営広報部、国営放送、ハロウィーンで賑わう大都会やら、子供達がトリック・オア・トリートといって歩き回る風景を映している。
ガヴァン・マコーマック氏の『属国』『空虚な楽園』そのままの世界。あるいは、アレックス・カーの『ニッポン景観論』 。マッカーサーが言った通り、この国の人々の精神年齢、12歳のままなのかもしれない。
しかし、大昔の小学校の学級委員長とて、あれほど愚劣な金持ちのぼんぼんが選ばれた記憶は皆無。大半は、それなりに納得できることが多かった。金遣いが鷹揚なだけでは人気は得られなかった。えこひいき教師が、凡庸な同級生を要職に押し上げた記憶があるが、どうやったのかは全く知らないし、記憶も興味もない。その教師、他の同級生は慕っていて、クラス会に招いたことがある。恩師が来るのを知って、申し訳ないが、クラス会欠席した。教師への信頼度、目をかけて頂けたか否かという理由に帰結するように思うのは貧乏人の僻目だ。貧乏人は悲しい。
ポーランドとロシア、歴史的確執は古い。といっても素人の受け売り。恥ずかしながら『ポーランド・ウクライナ・バルト史』以外の本、読んだことがない。
国会議長氏夫人は有名ソ連・東欧ジャーナリスト、アン・アプルボーム論説委員。勤務先はあのワシントン・ポスト。
発言と背景の関係が「わかりやすい組み合わせ」の御夫婦だ。
夫人の著作は翻訳もあり、今年の夏には白水社から『鉄のカーテン』翻訳がでる、という記事をどこかのウェブ記事で読んだことがある。
白水社『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』Webページにある著者紹介文、一部を引用させていただこう。
1964年、ワシントンDC生まれ。イェール大学でロシア史・ロシア文学を学び、卒業後、マーシャル基金奨学生として英国に留学。ロンドン大学とオックスフォード大学で国際関係論を履修。88年、『エコノミスト』ワルシャワ特派員としてポーランドに移り、ジャーナリストとしての活動を開始。旧ソ連および中・東欧諸国の共産政権崩壊や市民社会形成の過程を取材。
「マーシャル基金」、先日翻訳したドイツ人ジャーナリストも、“大手マスコミの主立った連中は皆CIAの手の者”これで、アメリカに招待されたと明言している。
『グラーグ』ソルジェニーツインの翻訳なら大昔に購入したことがあるが、読まないうちに行方不明。何しろ長い。ジャック・ロッシの本も読み飛ばしたような記憶があるが、これも国会議長氏同様、「記憶の誤り」かもしれない。
『鉄のカーテン』格別期待しているわけではないものの、夏は去り、秋も終わる。
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