ケリー中東歴訪という失策
2014年6月26日
wsws.org
アメリカのジョン・ケリー国務長官は、慌ただしい三日間の中東歴訪後、火曜日にブリュッセルに到着した。歴訪は、イラク、シリアのイスラム国(ISIS)による攻勢と、スンナ派暴徒の増大を前にした、アメリカが訓練したイラク治安部隊の崩壊に代表される、ワシントンにとっての歴史的な失敗に対応して、計画された。
とは言え、ケリーがNATO外務大臣会議の為、ヨーロッパに到着するずっと前から、彼の歴訪が、現在の崩壊をもたらした、偽善的で犯罪的な政策を浮き彫りにし、中東において、その略奪的な狙いを追求する上で、ワシントンが次々と積み上げてきた矛盾を一般公開する以外、何も達成できまいことは明らかだった。
最初の訪問地カイロで、ケリーは、エジプト大統領で事実上の軍事独裁者、アブドルファッターフ・アッ=シーシーを前に卑屈に振る舞った。彼の訪問は、アメリカの軍事支援の蛇口がまたもや全開になっている事実の慶賀だった。シーシーが、何千人もの抗議行動参加者を虐殺し、少なくとも20,000人の政治囚を投獄し、2,000人以上の政敵に、軍事裁判で死刑を判決し、広範に拷問を行っているという事実にもかかわらず、これだ。
10日前、ワシントンがエジプト軍への5億7200万ドルの資金援助を密かに解除したことが明らかになった。シナイのイスラム原理主義戦士攻撃に使用されることが想定されている兵器だが、大衆反乱を弾圧する上で致命的に有効なはずな10機のアパッチ攻撃ヘリコプターのエジプト政府への引き渡しを、アメリカが進めていることをケリーは強調した。
舌の根の乾かぬうちに、ケリーは“全てのエジプト人の普遍的権利を守る”思い入れを語り、シーシーが人権を守ることについて“非常に強い気持ち”を感じたと述べた。
わずか24時間以内に、エジプトの人権擁護者シーシーは、エジプト裁判所が“誤ったニュースを広めた”かどで告訴された三人のアル・ジャジーラのジャーナリストに、形式だけの裁判で、7年から10年の刑を判決したことを支持し、ケリーのおべっか的称賛に報いた。ワシントンはこうした判決を正式に非難はしたが、アパッチ攻撃戦闘ヘリコプターは輸送途上であることを明らかにした。
イラク、リビアやシリア等の政権転覆の標的とされている国々で、“民主主義”の戦士のようなふりをし、偽善的に、いわゆる“アラブの春”支援を装いながら、アメリカ帝国主義は、中東における戦略では、エジプトのシーシーから、サウジアラビア、ヨルダンや湾岸諸国の反動的な君主制国家に至るまでの一連の独裁政権に基盤にしているのだ。
予告無しに訪問したイラクで、防弾チョッキを身につけて軍用機を下りたケリーは、イラクのヌリ・アル-マリキ首相と90分間の会談を行ったが、そこで、うわさによれば挙国一致政権の形成と、全関係者に“宗派的分裂を越えて立ち上がる”様主張したという。
ケリーがイラクを去って間もなく、マリキは、挙国一致政権構想を“憲法に対するクーデター”だと非難し、“テロに対する聖戦”の呼びかけで、明らかに宗派的言辞を用いる演説を行った。
アルビルのクルド指導部に対する、バグダッド政府に結集するようにというケリーの呼びかけは、クルドのマスード・バルザニ大統領によって、そもそも呼びかける前に、即座に拒否された。ケリーとの会談直前のインタビューで、バルザニは“我々は、イラクにおける新たな現実に直面している”と宣言し、一つにまとまった国を想像するのは“極めて困難”だと述べた。クルディスタンは、ISIS攻勢で生み出された危機のさなか、クルド勢力が押さえた、キルクークと周囲の油田は確保しながら、独立に向かって進むつもりだと彼は示唆した。
ケリーの歴訪は、イラクでアメリカ政策が生み出した崩壊を悪化させたにすぎない。歴訪中、カイロでの記者会見で、最も驚くべき声明をだした。“リビアで起きたことも、現在イラクで起きていることも、アメリカ合州国の責任ではない。”と宣言した。彼は更にこう続けたのだ。“アメリカ合州国は、イラク人が自ら自治を行えるようにすべく、長年、血を流し、懸命に働いた。”
一体なんと言う傲慢さと偽善だろう! アメリカ帝国主義は、イラクとリビア (シリアは言うまでもなく)の危機のみに責任があるだけでなく、こうした国々で行った犯罪が相まって、現在のイラクの大惨事をもたらしたのだ。
イラクでは、全社会を滅ぼすために、あらゆる組織と、イラクの全てのインフラを破壊し、百万人以上の命を奪い、アメリカ軍の総力が解き放たれた。分割して統治せよの戦略を利用して、ワシントンは、イラク民族主義を消滅させる為、意図的に宗派政治制度を植えつけ、それによって、今再燃している、むごい宗派間内戦が解き放たれたのだ。
リビアとシリアで、政権転覆の為の宗派内戦で、突撃専用部隊として、ワシントンが武器を与え、資金を提供したISISを含むイスラム原理主義戦士達が、またもや何十万人もの命を奪っている。今やバシャル・アル-アサド政権に対し、アメリカとそのトルコ、サウジアラビアや湾岸君主制国家といった反動的同盟諸国が支援するISISが国境を越えてイラクに入り、アメリカ帝国主義があおった戦争を、地域紛争へと転換しつつある。国境のシリア側では、ワシントンは既存政府をforISISに対する軍事攻撃で非難しているが、イラク側では、ISISを打ち破る為に、政府軍を組織しようとワシントンは躍起になっている。
イラク人に民主主義を与える為に“血を流し”たというイラク戦争を復権させようとするケリーの企みは、新たな一層残酷な介入に備える為、このアメリカ侵略戦争を正当化する為の、本来反戦感情の波に乗って政権の座についたオバマ政権による、組織的な活動の一環だ。アメリカがイラクを侵略したのは、大量破壊兵器を発見する為でも、民主主義を植えつけるためでもなかった。目的は当時も今も戦略的資源とペルシャ湾諸地域と中央アジアに対するアメリカの覇権を押しつける為、アメリカの軍事力を利用することだった。
1971年、ベトナムでの四ヶ月間から帰国した若かりしケリーは、ベトナム退役軍人の集団の為に、上院外交委員会で、アメリカ軍の犯罪-民間人殺害、村落の破壊、囚人の拷問、無差別爆撃の詳細を述べて、戦争に反対する感動的な声明を読み上げた。こうした犯罪の全てが、三十年後、イラクで繰り返された。
外交委員会に対する声明で、“ベトナム、カンボジアやラオスにおける、一人のアメリカ人の命の損失を、そのような損失を、自由の維持と結びつけて正当化しようとするのは…我々にとっては犯罪的偽善の極みであり、この国を引き裂いていると我々が感じる類の偽善だ”と宣言して、ケリーは当時のアメリカ人政治家達を告発した。
“ベトナム、カンボジアやラオス”という国名を“イラク”に変えるだけで、43歳年をとり、何億ドルも裕福になったケリー本人に対する告発として完璧に役立つものになる。
Bill Van Auken
記事原文のurl:www.wsws.org/en/articles/2014/06/26/pers-j26.html
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衆狂寄せ集め与党による国家破壊驀進中、大本営広報部紙媒体も、電気洗脳機も憂鬱の源。皆様いかにして憂鬱にならぬようにしておられるのだろう。
スポーツの世界大会で負けたことは大きな話題になり、帰国選手を迎える方々が多数空港につめかける。
国家の大規模崩壊推進は大きな話題にならず、ごく僅か抗議する方々が国会周辺に集まる。
「この世はもうじきおしまいだ」(マリリン・モンロー・ノーリターン歌詞冒頭)
安保改訂時、彼の祖父は言った。
「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りである。私には“声なき声”が聞こえる」
孫時代、支配体制は更に強化され、大手ジャーナリズムは大本営広報と化し、孫は“声なき声”だけ楽しく聞き、お食事会をしている。
「国会周辺も騒がしくないし、ブラジル各地や日本国内の大画面会場はいつも通りである。私には“声なき声”だけしか聞こえない」と思っているかもしれない。
驚くべき傲慢で無責任な宗主国のご命令に従って、驚くべき傲慢で無責任な属国軍兵士も、どこかの無辜の人々に「民主主義を与える為」に“彼等と、属国の若者の血を流す”ことになる。集団的先制侵略攻撃権の名において。
侵略戦争で派兵される方々、最期は「安倍首相万歳!」と叫ぶのだろうか?それとも、お経をとなえるのだろうか?
というわけで、『志村建世のブログ』の「売られてもいない喧嘩を買いに行く」をもじらせていただこう。福島みずほ氏の言葉のようだが、日本は戦争をするのか 集団的自衛権と自衛隊 (岩波新書 新赤版)の著者、半田滋氏の言葉にもある。
売られてもいない喧嘩を買って出る
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