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2014年4月17日 (木)

ロシア・ガス供給をアメリカ・シェール・ガスで置き換える? EUに嘘をつくアメリカ政府

F・William Engdahl

New Eastern Outlook
2014年4月7日

ホワイト・ハウスと国務省は、ロシアのガス供給に置き換える為の十分な天然ガスを供給するアメリカの能力に関し、EU各国政府に厚かましいウソをついている。最近のオバマ大統領とジョン・ケリー国務長官による声明は、余りにあきらかなほどの偽りで、ウクライナ対モスクワの状況を巡る、アメリカ政府の信じられない程の自暴自棄をさらけ出している。あるいは、アメリカ政府は、あらゆる現実の実態から余りに離れていて、発言内容など全く気にしないことを示しているのだ。いずれにせよ、EUにとって信頼できない外交パートナーであることを示唆している。

最近のEU指導者達との会談後、オバマは、主要民間多国籍企業によって、こっそり秘密裏に交渉されている秘密の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)は、アメリカのヨーロッパへのガス輸出を容易にし、ヨーロッパがロシアのエネルギーへの依存を引き下げるのを助けるという信じがたい声明を発表した。“貿易協定を締結しさえすれば、ヨーロッパ向け液化天然ガス・プロジェクトの輸出承認はずっと容易となるが、これは現代の地政学的環境上、明らかに非常に重要なことだ”とオバマは述べた。

アメリカが画策した2月22日のウクライナ・クーデター後の、ロシアのガス喪失というEUの恐怖につけこんで、こう着状態のTTIP交渉を押し進めようとする政治的なご都合主義は、アメリカのシェール・ガスをEUに送ることに関する問題は、アメリカとEUでの、LNG承認手順を容易にすることにはないという事実を無視している。

別の声明で、最近のアメリカの非在来型シェール・ガス・ブームに触れて、オバマもケリーも、アメリカには、EUに対する全てのロシアのガスを置き換えて余りあると述べたが、物理的現実に基づいた真っ赤なうそだ。ブリュッセルでの会合で、オバマは、EU指導者達に、ロシア・ガスの代替として、アメリカからシェール・ガスを輸入すべきだと語った。ところが、それには大問題があるのだ。

シェール革命の失敗

第一に、アメリカの“シェール・ガス革命”は失敗しているのだ。“水圧破砕”つまり,頁岩層からガスを強制的に取り出すことによるアメリカの天然ガス生産の劇的な増加を、シェルやBP等の最大のエネルギー企業が、もうからない為、見捨つつある。シェルは、アメリカのシェール・ガス開発への関与を大幅に削減すると発表したばかりだ。シェルは、テキサス州、ペンシルバニア州、コロラド州、カンサス州の主要シェール・ガス地域にある、約700,000エーカーのシェール・ガス生産用地の借地権を売っており、シェール・ガスによる損失を止める為に、更に多くを処分しなければならないかも知れないと述べている。シェルのCEO、ベン・バン・ブールデンはこう述べている。、“業績は率直に言って、容認できるものではなく … わが社の探査の賭けにはうまく行かなかったものもある。”

経験豊かなエネルギー専門家デイビッド・ヒューズによる、最近のアメリカにおける数年間にわたるシェール・ガス抽出の実際の結果分析は、シェール・ガス幻想に関する有用な要約だ。彼は書いている。“シェール・ガス生産は爆発的に成長し、アメリカの天然ガス生産の約40パーセントを占めるに至った。ところが生産は、2011年12月以来横ばいだ。シェール・ガス生産の80パーセントは、5箇所からのものだが、そのうちいくつかは衰退しつつある。シェール・ガス井戸の減少率が非常に高いので、継続的な資本投入が必要だ。生産を維持する為、7,000以上の井戸を掘削するのに、年間420億ドルかかると推計されている。対照的に、2012年に生産されたシェール・ガスの価値はわずか325億ドルだ。”

だから、オバマはアメリカのシェール・ガス供給の実情に関して顧問達にだまされているか、あるいは意図的に嘘をついているかのいずれかだ。前者の可能性が高い。

ロシアのガスに置き換わる為の、EU へのアメリカ・ガス“提供”の二つ目の問題は、EUの同様な巨大なLNGターミナル港へとガスを運搬する巨大なLNGスーパータンカーを扱える、新たな液化天然ガス・ターミナル建設という、巨大で高価なインフラストラクチャーを必要とすることだ。

国内エネルギー輸出に関する様々なアメリカの法律と、供給要因から、アメリカには稼働しているLNG液化ターミナルが存在しないことが問題だ。現在建設中の唯一ものは、ルイジアナ州、キャメロン郡にある、元CIA長官のジョン・ダッチが取締役に就いているCheniere Energyが所有するサビーン・パスLNG積み出しターミナルだ。サビーン・パスLNGターミナルの問題は、大半のガスは、EUではなく、既に、韓国、インドや他のアジアのLNG顧客向けに契約済みということだ。

二つ目の問題は、たとえロシアの供給に置き変わり、EUのガス需要を充たすに十分な巨大な港湾施設が建設されたとしても、それはアメリカ国内の天然ガス価格をを押し上げ、豊富で安いシェール・ガスで活気づいたミニ製造業ブームに水を差すことだ。EU消費者に対するアメリカLNGの最終的なコストは、ノルド・ストリームなり、ウクライナ経由なりでパイプラインで輸送される現在のロシア・ガスより遥かに高くなるだろう。もう一つの問題は、EU市場に供給する特別なLNGスーパータンカーが存在しないことだ。こうしたものには、環境上の承認、建造期間を含め何年もかかり、最良の条件で、おそらく平均7年だ。

EUは、現在最も急速に伸びているエネルギー源、ガスの約30%を、現在ロシアから得ている。2007年、ロシアのガスプロムは、フランスの14パーセント、イタリアの27パーセント、ドイツの36パーセントを供給しており、フィンランドとバルト諸国は、100パーセントまで、ロシアからのガス輸入に頼っている。

EUにはロシアのガスに対する本当の代替策はない。最大の経済、ドイツは愚かにも原子力を段階的に止めることに決定したが、“代替エネルギー”の風力や太陽光発電は、経済的・政治的大惨事で、たとえ代替エネルギーが全市場のごくわずかなものであっても、消費者の電気料金は急上昇する。

要するに、ロシアのガスをやめて、アメリカのガスに変えるという荒唐無稽な話は、経済的に、エネルギー的に、政治的に、たわごとなのだ。

F・ウイリアム・イングドールは、戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の政治学位を持つ、石油と地政学についてのベストセラーの著者。本記事はオンライン雑誌“New Eastern Outlook”独占。

記事原文のurl:journal-neo.org/2014/04/07/white-house-lies-to-eu-about-us-gas-supply/

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マレーシア航空機の行方不明の次は韓国客船沈没事故。悲惨な事故が続いている。

筆者には申し訳ないが、原子力を段階的に止めるドイツ、愚かと思わない。そうでなく、深刻な事故後、収束も全くできないくせに、再稼働し、建設し、輸出し、もんじゅまで維持する国を、たわけの極みと思う。宗主国向け核兵器材料製造が義務なのだろうか?

筆者、エネルギーについて焦点を当てた『ロックフェラーの完全支配 ジオポリティックス(石油・戦争)編』という興味深い本を書いている。残念ながら絶版らしい。
他にも著作はあるが、残念なことに、日本語翻訳は出ていない。くだらない本は世に満ちている。最寄りの書店、よいしょ本というか、ファシズム、属国化推進本を店頭に並べてある。悪貨は良貨を駆逐する。本も、ジャーナリズムも、タレントも?

園遊会にずらり並ぶ太鼓持ち芸人・御用学者、大本営広報部部員はそういう本を出版しない。歌はひどい代物だが、そういう作者の会に出る参加者名を調べる気分にもならない。

収入の 減りゆく春は 八重桜

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