アメリカ政府は世界を戦争に向かわせている
Paul Craig Roberts
2014年3月16日
アメリカ政府は、一体なぜこれほど、クリミア自決に反対しているのだろう? 答えは、アメリカ政府によるキエフ・クーデターの主目的の一つは、ロシアをクリミアの黒海海軍基地から追い立てる新傀儡政権を実現することだったからだ。もしクリミアがウクライナの一部でなくなれば、アメリカ政府は、自分がウクライナにしつらえた政府を、その目的に使えなくなってしまうのだ。
アメリカ政府が明々白々にしたのは、“自決”というのは、アメリカ政府が自分の狙いの為に利用する武器だということだ。もし自決がアメリカ政府の狙いに役立てば、アメリカ政府は賛成する。もし自決がアメリカ政府の狙いの推進に役立たなければ、アメリカ政府はそれに反対する。
ロシアが拒否権を行使した、アメリカ政府が提案した国連安全保障会議決議は、クリミアの国民投票、住民が要求した国民投票は、“いかなる妥当性も持ち得ず、クリミアの立場のいかなる変化の基盤とはなり得ないと偽りの声明をしている。そして、全ての国々、国際機関や、専門機関に、この国民投票を基にした、クリミアの立場のいかなる変化も認めないよう、そして、そのようないかなる立場の変更の承認と解釈されかねないいかなる行動や関係も慎むように要求している。”
アメリカ政府は、これ以上しようのないほど、クリミア人による自決に真っ向から反対していることを明らかに示した。
ウクライナの全国民が投票して、クリミア人の決定に同意しない限り、国民投票は有効ではありえないと、アメリカ政府は偽って主張している。アメリカがコソボをセルビアから盗み取った際、アメリカはセルビア人の投票を認めなかったことにご留意願いたい。
しかし、アメリカ政府の全くの偽善と、虫のいい二重基準を吟味しよう。クリミアの立場のいかなる変化も、有効とするには、分離しようとしている国の国民の投票が必要だという、アメリカ政府の主張を適用しようではないか。もしこれが本当なら、クリミアは、一度たりとウクライナの一部となったことはない。
アメリカ政府の国際法解釈の下では、ウクライナは依然ロシアの一部だ。フルシチョフがクリミア(ただし、セバストーポリ、黒海基地は除く)を、ウクライナに引き渡した際、ロシア人は投票させてもらえなかった。だから、アメリカ政府自身の論理によれば、クリミアをウクライナの一部として認めることはできない。これは、レーニンがウクライナに移転した、他のロシア地域にも当てはまる。アメリカ国連の論理の下では、ウクライナのかなりの部分は、ウクライナの合法的な一部ではないのだ。ロシア人は自分達のウクライナへの引き渡しについて投票が認められなかったのだから、彼らはロシア領土に居続けているのだ。かくして、アメリカ政府の論理によれば、クリミアは依然ロシアの一部なので、“ロシアがクリミアを併合する”ことに関しては、全く問題がないことになる。
ウクライナ危機が、ロシアを軍事的に弱体化させるという唯一の目的の為、危機丸ごと、アメリカ政府の立案者連中により創り出され、突如でっちあげられたものだという、これ以上の証拠がご必要だろうか?
3月14日、ネオコンがジョン・マケインの為に書いた、アメリカ政府のウクライナ侵略を、ロシアによる侵略として説明する戦争挑発の長口舌を、ニューヨーク・タイムズが掲載しても誰も驚かなかった。アメリカ政府による、ウクライナ民主主義打倒から人の目を逸らす為に、アメリカ政府が、選挙で選ばれたウクライナ政権を転覆しておいて、ロシアを“侵略し、クリミアを併合した”と非難するのだ。キエフに選挙で選ばれた政府は存在しない。キエフで政権として振る舞っている連中は、アメリカ政府がその職に就かせた傀儡だ。他に一体誰が連中を選ぶだろう?
ランド・ポールが集団ヒステリーに加わったのに驚いた人々もいる。ロシアに対するプロパガンダ暴言を、ランド・ポールがタイム紙に書き散らしたのだ。プーチンがクリミアを侵略したのは、“国際社会”を侮辱するものだ、とランド・ポールは不当にも主張している。そもそもクリミアがウクライナから分離するという決定は、クリミア住民と、選挙で選ばれた政府の判断であり、ロシアの決断ではない。だが議論の為に、ランド・ポールの嘘を真実だとしよう。“ウクライナの国家主権の甚大な侵害で、国際社会を侮辱する、ウラジーミル・プーチンのウクライナ侵略”は、アメリカ政府による、イラクとアフガニスタン侵略同様、アメリカ政府が支援したリビアやシリア侵略や、アメリカ政府が継続している、無人機による、パキスタン人やイエメン人の虐殺、そして、アメリカ政府の違法な経済制裁によるイランの主権侵害、選挙で選ばれた政権を打倒して、アメリカの傀儡を据えつけた、アメリカ政府による、ウクライナ主権侵害と同じものだろうか?
もしプーチンが、ランド・ポールが無知にも主張している通りに振る舞っているのであれば、アメリカ合州国は、クリントンがセルビアで、ブッシュがアフガニスタンとイラクで、オバマがアフガニスタン、リビア、シリアと、ウクライナで、確立した先例に続いているに過ぎない。アメリカ政府の主張は、煎じ詰めれば“我々、例外的かつ必要欠くべからざる国はそういう振る舞いができるが、他のどの国もそうできない。”ということだ。
ランド・ポールに見当外れな期待をしているアメリカ人もいるが、まさに、タイムで明らかにしている通り、彼とて、ネオコン戦争屋と軍/安保複合体に魂を売り渡したもう一人の阿呆に過ぎない。もしランド・ポールがアメリカの希望なのであれば、明らかに希望は皆無だ。
私が指摘してきた通り、アメリカ政府、そのヨーロッパ傀儡連中、ニューヨーク・タイムズ、タイムや欧米マスコミ丸ごとから流れ出るプロパガンダと嘘が、第一次世界大戦へと至った戦争への道を繰り返している。それが我々の目の前で起きているのだ。
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Paul Craig Robertsは、元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えていた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the Westが購入可能。
記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2014/03/16/washington-set-world-path-war-paul-craig-roberts/
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そういう宗主国の侵略戦争の砲弾の餌食に軍隊を送り出すことを可能にするのが、政府による「集団自衛権」容認。つまり、憲法9条の実質的廃棄。自民党の中で、「集団自衛権」容認の是非、意見が割れているという。反対するまっとうな政治家が自民党におられたという想像外の情報に驚いた。
本来は、官邸の阿呆氏が、「自分が責任をもって、国民を宗主国の侵略戦争の砲弾の餌食に軍隊を送り出す」と言っていること自体、驚くべきことだが。
知人から映画『ドストエフスキーと愛に生きる』を見るよう忠告された。
父親をスターリンの弾圧で失った、ウクライナで育ったロシア人女性が、進駐ナチス軍高官の通訳をした関係で、そのまま撤退するナチスについて、ドイツに移住する。やがて、戦後ドイツで、翻訳者、教師として頭角をあらわし、ドストエフスキーの大作をドイツ語に翻訳するに至ったご本人のドキュメンタリー。
ウクライナ、ロシアのスターリン、ドイツのナチス、とうってつけの三題噺。
ひょっとすると、小生のインチキな翻訳を婉曲に指摘して下さっているのだと一瞬思った。
しかし、冷静に考えれば、とんでもない趣味インチキ翻訳を日々行っているメタボと、ドイツの様々な賞を獲得しておられる名翻訳者、同じ土俵の訳がない。傲慢な思い上がり。
尊敬する知人の方は、まったく悪気なく、率直に、ウクライナ、ロシア、ドイツの関係が実に端的に描き出されているものとしてご紹介下さったのだと、宗主国政府並みに独善的に信じることにする。本当の話、尊敬する方の忠告、そう思わなければ耐えられない。前者であれば、「インチキな翻訳は止めろ」というのに等しいので。そうであれば、もちろん、ご忠告に従うつもりだ。
いつかお会いする際に、どちらなのか、質問させていただこう。
映画『ドストエフスキーと愛に生きる』については、別途考えたいと思っている。
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視野狭窄になったではいけない。もちろん不幸にして医学的に視野狭窄になった方には手厚い医療しか途はないが、国際情勢を視るのに国内の偏狭なマスコミ報道で分かる訳がない。し ... [続きを読む]
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1 第一次大戦が終わった1918年11月年から1945年8月までの約27年間に、罪のない人々を侵略して戦乱に巻き込んだ代表的な国家は日本、ドイツが双璧であることは間違いない。戦後はもちろん、アメリカである。
犠牲者には補償しなければならない。従軍慰安婦達が起こした補償請求は却下となったが、強制労働に動員された人達や遺族らによる提訴は今後も続きそうだ。これらは70年前近くか、それ以前のものだ。
2 転じて、ベトナム、イラク、アフガニスタン、ソマリアその他国々などを考えれば、アメリカが民間人を巻き沿いにして多くの人達を死に至らしめたのは事実である。それなのに、なぜ、補償問題が起きないのだろうかと常々疑問に思っている。
ベトナムでは村を焼き、イラクではトマホークで町を吹き飛ばし、アフガニスタンでは誤爆のオンパレードだ。ウソを信じて攻撃した、誤爆したはれっきとした過失で賠償責任が発生すると考えるのが合理的だ。兵士個人に犯意が無かったとしても、命令した国家には使用者責任、業務上責任が発生する。
3 日韓基本条約、日中友好条約でわざわざ求償権放棄を入れているのは、こうでもしなければ損害賠償で訴えられるからだ。
ベトナム、イラク、アフガニスタン、ソマリアの攻撃された町には被害者・証言者が生存しているし、アメリカ軍の作戦記録も残っている。従軍した兵士も生存しているし、映像もある。
殺された人の遺族達が集団提訴しても何もおかしいところはない。相手はアメリカだけではなく、被害を起こしたなら部隊を派遣した各国も含む。行動を起こすなら早い方がいい…そう考えるのだが。
4 死亡、傷害・後遺症、失った財産など補償対象は数限りがないだろうが、少なく見積もって死亡10万人として補償額平均30万ドル(3千万円)とすれば3兆円、傷害・後遺症5万人で平均10万ドル(1千万円)で5千億円、財産被害10万件として平均1万ドル(100万円)で1千億円。〆て3兆6千億円となる。
世界各国の腕っこき弁護士で大弁護団をつくり、初期費用はネットで募り、署名も世界規模で行い、世論形成につなげる。もちろん、アメリカの弁護士にも入ってもらう。
1割の3千600億円億円を1000人の弁護士報酬に充てたとしても、一人平均3億6千万円になるから旨みがあろう。
5 関係国の外交団には国連人権理事会、国際司法裁判所ほか、国際機関で動いてもらう。いずれの国も貧しいから政府、現場となった地域行政体が乗り気になるかも知れない。
戦争は高くつく、軍事費ばかりでなく、戦後補償も莫大…となれば、戦争抑止力につながる。国際法と国際正義を弄する国々には、国際法に則って国際正義を実践してもらう。いかがなものだろうか。
投稿: トム・ジーヤ | 2014年3月24日 (月) 23時45分
最近私は,ロシア軍兵士の服装をした女性バルバラさんの『カチュ-シャ』を聞いた(YouTube)。彼女自身の魅力もさることながら,男性の弾くアコーディオンの音も心に響いた。日本語で聞くのとは違った趣があり,大広場で旗や手を振りながら聞き入る大勢の人々の,これまでくぐってきた歴史を思いを巡らせるとき,敗戦直後に唱われた『青い山脈』などの昭和の歌謡曲とその暗い過去が重なる。
この歌に「来たれ,そして我に従え,ガリラヤの河畔」の勇ましさはないが,どの民族にも暗い過去と明るい未来があると思わざるを得ない。特に,クリミアの歴史を考えたとき,日本の映像もそれらを放映したが,心からロシア帰還を喜ぶ姿は,本物であろう。それはロシア軍に守られていたとか,いないとかに関係ないだおろう。
ところで,C.クレイグ氏の「アメリカ政府の国際法解釈の下では、ウクライナは依然ロシアの一部だ。フルシチョフがクリミア(ただし、セバスト-ポリ、黒海基地は除く)を、ウクライナに引き渡した際、ロシア人は投票させてもらえなかった。だから、アメリカ政府自身の論理によれば、クリミアをウクライナの一部として認めることはできない」は,その通りだと思う。歴史政治学者の面目躍如と言えよう。
しかし残念ながら,現代の日本の政治家や言論人で,クレイグ氏のように相手の論理を取り込んで切り返せる知識人がいない。おそらく戦後日本の教育の失敗は,「肉を切らせて骨を断つ」知識人を育ててこなかったことにあると,考える。
しかしそれにつけても,淡谷のり子氏のように,軍部に「もんぺ」を履くように強制されても頑として聞かなかった歌手も少なくなった。ジョン・バエズもビ-トルズもいない。日本に明るい希望をもたらす歌手は今後TVに出るのであろうか。それとも米兵や日本兵の慰問団員に成り下がるのであろうか。バルバラ嬢よ,日本に来て唱ってね。
投稿: 空又 覚造 | 2014年3月18日 (火) 21時22分