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2013年10月12日 (土)

ケーブル地政学への回帰? (第一部)

Jovan Kurbalija

2013年10月7日
Diplo

BRICSケーブル敷設のニュースは、一世紀昔の電信ケーブル敷設のニュース同様、世間の注目を集めた。イギリス、ドイツとフランスという当時の主要産業・植民地大国による‘ケーブル・ラッシュ’は、今日も依然として存在しているケーブル地政学の始まりの先駆けとなった。地理の終焉とインターネットの‘潜在力’が散々喧伝されているが、地理は依然として重要だ。ケーブル戦略地政学が再び脚光を浴びるようになるのだろうか?

 

本記事の第一部では、ケーブル戦略地政学の出現を検討する。次の記事では、BRICS ケーブルの潜在的な影響を含め、電信とインターネット・ケーブル地政学との間の相似点について論じる予定だ。教師として色々限界はあるものの、少なくとも、何を避けるべきかについて、歴史は、いくつかの有用な洞察を与えてくれる。

電信の発明とケーブル地政学

電信は、人類の歴史で初めて、通信を輸送から完全に切り離したのだ。電信の発明まで、通信の速度と信頼性は、その時々に利用可能な様々な運送手段に依存していた。例えば、徒歩伝令、騎手や、船。[1]

今日のインターネット同様、数十年のうちに、電信は急速に発展した。ITU統計では、1868年、2900万通のメッセージが送られていた。これが1880年には1億2100万通に、世紀末には3億2900万通に増えた。

国際電信ネットワーク発展に対する最初の難題は、大西洋横断ケーブル敷設だった。ビクトリア女王と、アメリカのブキャナン大統領は、1859年にメッセージを交換することができたが、わずか732通のメッセージが送られて数ヶ月後、ケーブルは機能を停止した。ケーブル・システムが1866年に完全に機能するには更に二つの試みが必要だった。この遅れの一つの理由は、アメリカ南北戦争(1861-1865)だった。

大西洋横断リンクを建設しようとして失敗したいくつもの試みが、ロシアから、アラスカ州を購入するというアメリカの決定理由の一つとして引用されることが多い。(アメリカの電信会社)ウエスタン・ユニオン社長ハイラム・シブリーは、urgedカナダ西部、ロシアのアラスカ州、ベーリング海峡をわたり、シベリアを通って、アメリカ・ヨーロッパ間の26,000キロの地上電線を設置するために、アラスカ州購入。この陸上電信計画は、1868年、大西洋横断ケーブルが成功であることがわかって放棄された。

電信ケーブルは、主要な新投資分野となった。電信発展のための、主として大西洋横断ケーブルへの民間投資は、ほぼ1200万ドルにものぼった。この投資の規模は、1860年のアメリカの全軍事予算が1500万ドルで、1867年、アラスカ州はロシアから720万ドルで購入されたという事実が、くっきりと示すことが可能だ。

イギリスの早期着手と‘ケーブル独占’

イギリスは電信の経済的可能性を発見した最初の国で、非常に早期に迅速に、世界への電信ケーブル敷設へと動いた。世紀末には、イギリスが、グローバル電信ネットワークの大半を支配していた。

支配的な電信ネットワークのおかげで、二つの世紀の変わり目で始まった来るべき国際危機に、イギリスは十分に準備できていた。イギリスの優勢の度合いは、他の国々が公式・外交通信の為にイギリス・ネットワークを使わざるを得なかったという事実が如実に表している。

他の国々が、電信ネットワークを所有することの重要性と、イギリスの優勢な度合いに気がつくのは比較的遅かった。フランスは電信開発(‘機械式電信’)の先駆けだったが、グローバル電信ケーブル・ネットワーク開発の上では新参者だった。一連の危機(トンキン、シャムやファショダ)の後、ようやくフランス議会は、自前の電信ネットワークを持っていないことと、この分野におけるイギリスの優勢という問題を、深刻に受け止めはじめた。

ドイツもケーブル・ネットワーク開発競争には遅れて参入した。これには、主な植民地が他の大国によって確立されたずっと後に、遅れて植民地帝国開発を始めたことも含め、多くの理由がある。電信ネットワーク開発の重要な動因としての、自国の植民地とのリンクを維持する必要性が存在しなかったのだ。ところが、ドイツは極めて急速に戦略的能力を獲得した。驚くほどの科学・技術開発で、ドイツは世界的プレーヤーとなるのに必要な臨界量を達成した。とはいえ、グローバル・ゲームで活躍するには、ドイツはグローバル通信システムを必要としていた。

ドイツも、フランス同様、この分野でのイギリスの優勢に直面した。何度も失敗した後、ドイツは、アゾレス諸島経由で、独自の大西洋横断電信リンクの創設に成功した。このケーブルは、他のドイツ所有の電信ケーブル同様、第一次世界大戦の始めに切断された。電信ケーブルの戦略的重要性は一層明らかになった。ドイツにとって、一つの障害が、利点へと変化した。イギリスの‘ケーブル独占’に直面して、ドイツは独自の無線通信開発を開始したのだ。

グローバル政治・経済大国としてのアメリカ合州国の登場は、世界ケーブル・ネットワークへのアメリカのシェアでも辿ることができる。これは、第一次世界大戦後とりわけ顕著だった。イギリスが、ケーブル独占を南北アメリカにまで拡張しようとした際、アメリカは、南北アメリカに独自のネットワークを開発して対応した。ある種‘ケーブルのモンロー・ドクトリン’だ。

電信と地政学

電信ケーブル戦略地政学の歴史は、ヨーロッパの勢力バランス体制という複雑な戦略地政学を反映する部分が大きい。例えば、イギリスのケーブル・システムはマハン/マッキンダーのリムランド(周辺地域)線に沿っていた(ジブラルタル-マルタ-スエズ-アデン-インド)。他の競争相手、主にロシアとドイツはハートランド(中核地帯)を強化しようとした(ヨーロッパ-アジア大陸塊)。ロシアは、ケーブル・ネットワークをアジアに向けて拡張した。新たな電話ケーブルはベルリン-バグダッド鉄道を支援するはずだった。

リムランド保護というイギリスの主要目標は、バスラ (ペルシャ湾)とゴア(インド)間の電信ケーブルを設置するというドイツの計画を妨害したことでも明らかだ。ケーブル敷設権を公式に拒否したのは、オットーマン帝国(バスラ)とポルトガル(ゴア)だったとは言え、そのような計画に対する主要な反対者は、実際は、オットーマン帝国とポルトガルに対して強い影響力を持っていたイギリスだった。最終的に、1913年、ドイツは本当の意思決定者、イギリス外務大臣エドワード・グレイ卿にもちかけたが、彼はその要求を、インドのケーブルを支持して断った。‘ドイツには、そのようなケーブルに対する大きな実需はない… そして彼は、彼らの要求の狙いは政治的なものだという結論に至った。’

同様な状況が、植民地と勢力圏分割の後に電線敷設が行われる、覇権を求める植民地戦争にも存在していた。これはイギリスとフランス植民地帝国の間の関係で特に目につく。

電信と外交

電信を支配することで、イギリス外務および英連邦省は、国際政策を策定する上で大変な優位を得ていた。大半のグローバル事業や政府通信はイギリスが支配するケーブルを経由しなければならなかった。この優位が決定的な意味をもった歴史的な例は無数にある。

通信支配の軍事紛争の結果に対する影響についての歴史的な例の一つは、アフリカにおける、フランスとイギリスの植民地の野望から起きた、ファショダ危機だ。フランスのアフリカを西から(ダカール) 東に(ジブチ)支配しようという計画は、カイロからケープタウンまで、大陸を巡る南北支配を確立しようというイギリスの野望とファショダで衝突した。この危機におけるイギリスの勝利は、イギリスの司令官(フランスお相手方とは違って)には、電信という本国司令部との通信手段があったことに帰するところが大きい。

これは二つの展開をもたらした。一つ目は、ロンドンが十分情報を得ていたのに対して、パリは、ファショダで一体何が起きているのか分かっていなかったことだ。二つ目は、通信の独占を活用して、イギリス司令官キッチェナーは、ファショダにおけるフランス軍の困難な立場に関する偽情報を伝えた。逆説的に、ファショダの現場での、フランスの強い立場にもかかわらず、危機の結果は、フランス権益にとって有利とはいえなかった。技術的な優位が余りに強かったので、フランス当局者は、イギリスの相手方に、イギリスの電信を使って、パリにメッセージを送るように依頼せざるを得なかった。

イギリスは、通信の有利な立場を、商業目的でも活用したことが報告されている。例えば、アメリカは、電信でアメリカ商品取引所に送信される情報は、イギリス企業にも知られてしまっているのではと懸念した。

電信の利用は次第に国際生活や外交戦術の一環となった。スティーヴン・カーンの様に、著者達の中には、‘電信の混乱’が、7月危機と1914年の戦争の勃発を促したと主張する人々がいる。彼はこう述べている。最高レベルでの‘この電信交換が、メッセージの行き違い、遅延、突然の驚きや、予測不可能なタイミング等に電信が貢献し、外交の派手な失敗を劇的に表現した’

次の記事では、電信とインターネット・ケーブルの地政学の類似点に的を絞る。

この文章は技術と外交の歴史的な相互作用に関するより広範な研究の抜粋である。この話題に関する一連のウェビナーもご覧いただける。連絡先はjovank@diplomacy.edu

[1] のろし、かがり火や、鏡を使用した信号を含む、直接、輸送手段には依存しない、いくつかの原始的な通信手段が存在していた。伝書鳩も、直接、輸送手段には依存しない通信手段の一つだ。

記事原文のurl:www.diplomacy.edu/blog/back-cable-geo-politics-first-part
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新聞を開くと、TPP洗脳解説を読まされる。そして、
「知る権利」など明文化しても、秘密保護法案の危険性は変わらない。
「解雇特区、限定正社員… 雇用でも企業優先」
特区については、ブログ『街の弁護士日記 SINCE1992at名古屋』を拝読すれば、着々と国家まるごとタコ部屋化が推進されていることがよく分かる。ストーカーや病院火事は恐ろしいが、はるかに壮大な脅威、国家規模の99%国民収奪については報じてくれない。大本営広報プロパガンダではなく、恐ろしい事実を書いたこうした記事こそ広まって欲しいものだ。

2013年10月11日 (金)『産業競争力法』という名の毒矢

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