なぜソマリア人海賊がいるのかを説明しない『キャプテン・フィリップス』
Paul Gottingerと、Ken Klippenstein
Dissident Voice
2013年10月21日
『キャプテン・フィリップス』は、2009年のソマリア人海賊による、マースク社の商業コンテナ船アラバマ号ハイジャックに関する映画だ。アメリカ人が大好きな人物の一人である海賊、最近のカリブの海賊三部作人気をお考え願いたい、がこの映画では忌まわしい野蛮人だ。海賊は仲間を殺害し、見捨て、怪我をしても助けず、概して人間的な思いやりの最も基本的なものすら欠如しているように描かれている。対照的に、題名となったキャプテン・フィリップスを演じるトム・ハンクスは、ソマリア人海賊に仲間の負傷者を手当てするよう促す。自分を捕らえた連中に,父親のような気配りをする。“君はいくつだ、16歳か、17歳か? こんなことをして、ここにいるには若すぎるな”。海賊の行動に対する義憤を表現する。“これが君達の仕事のやりかたか? 人を撃って?”そして、繰り返し、ハイジャッカー達に言う。今すぐ、無条件で30,000ドルを持って、去って良い。これはおべんちゃらを言うクイズ番組の司会を思い起こさせる(リージス・フィルビンをイメージしているのだが)。
海賊は、自暴自棄からではなく、貪欲さで動いているという考え方なのだろう。どう見ても、海賊を演じている俳優達はがい骨のように瘦せこけていて、配役は平等ではない。この極めて無慈悲な緊縮時代にあっては、飢餓が盗みの正当化の理由と見なされなくとも、私は驚かないが。多分、もし海賊が大企業の貨物船ではなく、ペンションを襲撃していたなら、映画は、彼等をもう少し寛大に扱っただろう。
映画の最後には両腕を壁に縛りつけられた姿で現れるフィリップスは、十字の形を見せるが、キリストの様な役柄とはほど遠い。同船の機関長は、CNNに“船長の無謀さゆえに、海賊が出没する海域に入り込んでしまった”と語っている。乗組員達はフィリップスは、経費節減の為に、この危険な航路を選んだと言っている。現在、乗組員達は、危険な状況に追い込んだとして、船会社を訴えており、フィリップスは、訴訟では悪役を演じている。この話題に関するビジネスウイークの見出しを引用すると“『キャプテン・フィリップス』映画の英雄は、裁判では悪漢として描かれている”。
フィリップスが、映画を有頂天なものにするにはほど遠いことは、多少驚きではあるが、映画中のソマリア人描写はそうではない。過去、ソマリア人は、ハリウッドにとっては、好都合な悪漢役だった。『ブラックホーク・ダウン』は、ソマリア人を残酷な血に飢えた人々として描き、必ずアメリカ人はあらゆる命を尊重する様に描いている。残念ながら、事実はこの表現を裏づけていない。現実のブラックホーク・ダウンの出来事では、アメリカ奇襲部隊員が混雑する市場に降下した際、1,000人のソマリア人が殺害された。映画のソマリア人描写が余りに歪曲されているので、カリフォルニア州のソマリア公正擁護センターは、映画は“ソマリア人を粗暴な野蛮人として描き出している”と主張して、映画のボイコットを呼びかけた。
『キャプテン・フィリップス』は、マースク・アラバマ号が多少の人道的支援物資を輸送していたことをしきりに強調するが、地域におけるアメリカの大規模な犯罪への言及を無視している。例えば、ソマリアの残虐な独裁者シアド・バーレを、1991年に権力を失うまで、アメリカは支持していた。アメリカの“人道的”ミッション、“希望回復作戦(Operation Restore Hope)”は、7,000-10,000人のソマリア人を殺害し、内戦、飢餓と、政治的混沌をもたらした。
2001年、アメリカは、同社はアルカイダに資金を注ぎ込む為に使われていると主張して、送金企業バラカートを閉鎖した。同社はアルカイダとは全く関係がなく、何千人もの貧しさにあえぐソマリア人が、外国の家族からバラカート経由で送金されるお金に依存していた。ソマリア専門家のマイケル・デル・ブオノは、バラカート閉鎖の決断“一般市民の殺害に等し”かったと述べている。
2006年、アメリカが、ソマリア軍閥の長達を資金援助していたことが明らかになった。これらの軍閥の長達は、イスラム教運動を支持する人々を、無差別に殺害したり、逮捕したりして国中をおびえさせる暗殺部隊を創設した。暗殺部隊によって逮捕された人々の中には、お金と引き換えにアメリカに引き渡され、拷問された。
アメリカが支援する軍閥の長達によるテロに対応して、軍閥の長達を撃退する為に、宗教派閥が団結し始めた。各派閥は、イスラム法廷会議UICという名前のもとで団結した。UICは、司法制度と安定性をもたらし、それにより、栄養不良のソマリア人に対する救援物資配給が自由になった。2006年には、UICはほとんど全ソマリアを統一していた。対ソマリアの国連最高幹部、アフメド・ウルド-アブドゥラーは、UIC統治時代は“黄金時代”であり、ソマリア人にとって、絶えざる苦難の連続に対する唯一の小休止だったと述べている。UICは、15年間で始めての、安定した中央政府の装いだった。
Wikileaksが公開した漏洩外交電信で、UICがソマリアを支配するのを、アメリカが容認しようとしなかったことが暴露された。ブッシュ政権は、UICはアメリカの影響力から余りに独立的だろうと思い込み、UICが過激派イスラム教徒を匿っていると誤って見なしたのだ。
2006年、アメリカはエチオピアのソマリア侵略を支援した。アメリカ軍兵士を現地に派遣し、アメリカの諜報機関が戦略を教え、アメリカ空軍力が支援するという、典型的なアメリカの代理戦争だった。侵略は、残虐な2年間の占領と化し、何十万人を強制退去させ、16,000人の民間人を殺害した。
戦略国際問題研究所CSISのロブ・ワイズは、エチオピア占領が、アル・シャバーブを、ソマリアにおける非常に弱い勢力から“ソマリアで最も強力で過激な派閥へと”変貌させたと述べている。
おそらく『キャプテン・フィリップス』の最も不快な要素は、一体なぜソマリア沿岸で、海賊が活動しているかについて、全く説明しないことだ。ソマリアを、沿岸警備隊を持つことができない破綻国家する上でのアメリカの役割への言及は皆無なのだ。その結果、漁業海域は、外国人による乱獲や、ヨーロッパ、アジアや、湾岸の企業による、ソマリア沿岸の海への毒物や放射性廃棄物廃棄によって壊滅されてしまったのだ。どこか他で廃棄物投棄をするには膨大な金額を払わなければならないはずの企業にとって、警備されていない海域は、無料ごみ捨て場だ。国連ソマリア特使のアフメド・ウルド-アブドゥラーは“ウラン放射性廃棄物がありました。鉛がありました。カドミウムや水銀等の重金属がありました。産業廃棄物、医療、化学廃棄物がありました”と語っている。彼は更に続けて言う。“放射性廃棄物はソマリア人を殺している可能性があり、海を完全に破壊しています。”
20年間、飢餓、内戦、海洋の破壊が続いた後、漁民に残された選択肢はごくわずかだった。そこで彼等は海賊を始めたのだ。
2007年に 国連は、ソマリアは、ダルフールよりも栄養失調率が高く、殺戮が多く、救援活動従事者が少ないことを認めている。アフメド・ウルド-アブドゥラーは、ソマリアの窮状を“アメリカ大陸最悪”と表現している。
欧米は、20年間、ソマリア破壊に共謀してきたが、ソマリアの物理的破壊だけでは不十分なのだ。ハリウッドは、ソマリア人の人格を破壊しなければならない。自分達の残虐な侵略の犠牲者を、攻撃者として描き出すことほど下劣なプロパガンダ行為はありえまい。
Paul Gottingerは、未解決の問題に関するウェブwhiterosereader.orgを編集している。彼にはpaul.gottinger@gmail.com または、Twitterで @PaulGottingerで連絡ができる。Ken Klippensteinは、whiterosereader.orgを共同編集している。彼には atken.klippenstein@riseup.net または、 Twitter @KenKlippensteinで連絡できる。
記事原文のurl:dissidentvoice.org/2013/10/captain-phillips-doesnt-explain-why-somali-pirates-exist/
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ご丁寧に原作『キャプテンの責務』も翻訳が刊行されている。キャプテンのお国、宗主国のご指示に合わせて、秘密保護法案つまり、侵略戦争推進法案を応援するプロパガンダ映画にすぎない映画、招待されても行く気になれない。まして金を払っての鑑賞なぞ御免。最近ぼけてきた脳が益々劣化するだけ。
もっともらしいことを言って、善人のごとく装い、実はとんでもない悪人の『キャプテンの責務』、無責任な売国『首脳の責務』を思わせる。
首相の祖父による安保改定に対する全国的デモと比較して何十倍規模の反政府運動があって当然の売国暴政のさなか、新聞は無人機の話題を掲載する。宗主国による主権侵害・違法殺人を批判するのは結構なことで、台風一過の救済作業も、ご苦労なことだが、何といっても、目の前の亡国の火の粉、秘密法案にこそ最大の注目を払うべきだろうに。ひがんだメタボ・オヤジには、いずれも悪質な目くらまし作戦としか思われない。
便乗する意図は皆無だが、ソマリア海賊、無人機について、かつていくつか翻訳している。ご参考までに、ごく一部をリストにあげる。右コラムの一番したにあるキーワードの検索で、更に他の関連記事をお読み頂ける。
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東京電力、除染経費の負担を拒否しており、政府はそれを黙認しているという見出し。当然予想されることで驚かないが、結局、無駄な出費は国民の税金による負担になる。ゼネコンとあやしい組織が潤うだけの愚行。物心ついて以来原発に反対している者として、勝手に原発を建設し、つけを回すインチキ企業・傀儡政府・傀儡政党・御用組合・御用学者・大本営広報部は許せない。
というわけで、新刊の『原子力発電の政治経済学』伊東光晴著が書棚に並んだかどうか書店に見にでかけようと考えている。月刊『世界』に連載され、某氏との連続討論の形になった記事も収録されているはずだ。
伊東京都大学名誉教授、『君たちの生きる社会』(ちくま文庫)で、(元はちくま少年図書館、1978.6刊)早い時期から、原子力発電が不経済であることを論じておられる。某氏等とは全く違う本物の御意見。
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