単独で進めるより議会を抱き込んだ方が安全と判断したオバマ
Paul Craig Roberts
2013年9月1日
戦争を開始する独裁的権限は、自らの権限だと主張しながらも、議会の承認無しに、アメリカを戦争に進ませるのは弾劾されるべき違反だということを指摘する160人以上の下院議員の書状を受け、戦争犯罪の掩護役をしてくれる国が皆無で、傀儡イギリス政府や、NATO傀儡諸国すらも、アメリカの対シリア軍事侵略宣言を支持するまいことを見て取り、オバマは、対シリアの一方的攻撃を保留にした。
オバマが、議会からの承認無しで、リビア攻撃をしても済んだのは、彼がアメリカ軍ではなく、アメリカ政府のNATO傀儡諸国を利用したおかげだ。そういう策略で、オバマは、アメリカは直接的に関与しないと主張できたのだ。
掩護がなく、議会からも異義が出され、専制君主志望者オバマもシリア攻撃を保留せざるをえなくなった。今後一体何が期待できるだろう?
スーザン・ライスを自分の国家安全保障顧問に任命する様な人物は明らかに理性的ではないが、もしオバマが理性的であれば、これから議会が9月9日に再開し、財政赤字と債務限度という解決できそうにない問題に直面しようという時に、シリア攻撃など、影が薄くなり、消滅するにまかせるだろう。
有能な政権なら、印刷機をフル活用しない限り、つけを支払えない政府は、シリアで何が起きているかなど思い煩う所ではない深刻な状態にあるのを理解するはずだ。有能な政権なら、中東戦争の突発という結果、そして、石油価格の高騰、更には、アメリカ政府が直面する経済状況の悪化をもたらしかねない軍事攻撃などという危険を冒すだろうか。
だがオバマと、彼の不適格者集団は、能力皆無であることを実証した。政権も堕落していて、組織丸ごとが、嘘のみによって支えられているのだ。
掩護無しには、オバマが戦争犯罪を犯せないことを、ホワイト・ハウスが認識した今、こういう展開になりそうだ。論議はアサドが化学兵器を使用したかどうかから離れ、議会は、アメリカ侵略戦争の最新の表看板たるオバマ大統領を支持し損ねて、アメリカの威信と信憑性を損ねてはならないという論議になるだろう。
ホワイト・ハウスは、議会を買収し、言いくるめ、恫喝しようとするだろう。政権の主張は、アメリカの威信と信憑性が危険にさらされているのだから、議会は大統領を支持しなければならないというものだ。アサドの罪と、アサドを懲らしめる決意について大統領と国務長官は明確な宣言をした。狂っているアメリカ政府にとって、シリア国民の化学兵器による殺害(とされること)に対し、アメリカ政府が、アサドを懲らしめる方法は、巡行ミサイルで、更に多くのシリア国民を、アメリカ政府が殺害することだ。
これがもし読者にとって意味不明であれば、読者は、オバマの政府にも、アメリカ・マスコミにも属しておられず、決してネオコンにもなれないだろう。
ホワイト・ハウスは、決定に対し、議会に投票させるようにして、オバマが議会に妥協したのだから、議会側の妥協として、支持して欲しい、と主張するだろう。妥協しよう、とホワイト・ハウスは言うだろう。
イスラエル・ロビー、スーザン・ライス、ネオコンや、ジョン・ マケインやリンジー・グラハム等の主戦論上院議員は、オバマのシリア攻撃への支持の欠如は、アメリカの信憑性を損ない、“テロリスト”を支援し、“アメリカを無防備にしてしまう”と主張するだろう。議会の承認を待つという躊躇と、体制転覆という元々の計画を、限定攻撃に置き換える優柔不断さを、オバマが示したのは非常にまずかったと連中は言うだろう。
イスラエル・ロビーと軍安保複合体からの惜しみない選挙献金を止められてしまう脅威に直面して、下院と上院は、次の戦争犯罪を犯そうとする“国を支持する”よう協力させられかねない。アメリカの威信を支持させるための、賄賂、恫喝と、愛国風嘆願の組み合わせが、議会を揺り動かす可能性がある。160人程の下院議員達が、オバマに警告しようと真剣に考えていたのか、それとも、彼らは単に何かを欲しがっていたのかどうか、誰も実際は知らない。おそらく彼らは、オバマに何とか自分達の承認を求めさせたかっただけなのだ。
もし議会が、もう一つのアメリカの戦争犯罪を支持すれば、イギリス首相デービッド・キャメロンも、議会に、オバマが“議会を説き伏せ、掩護を得ることになったと告げ、もしイギリス議会が賛成しなければ、我々も金を止められてしまう”と言うだろう。
資金を止められて平気なイギリス人政治家は、ジョージ・ギャロウェイを除けば、ごく僅かしかいない。
もしキャメロンが議会を説き伏せれば、他のNATO諸国も金を貰える側に回ろうと決めるだろう。金欠より、金は多い方が良い、というのが欧米文明の最も重要な原則だ。
アメリカ政府と、そのNATOヨーロッパ傀儡諸国は、ロシアと中国を安全保障理事会の拒否権を行使して、正義、自由と民主主義をシリアに国連がもたらすのを妨害したと批判するだろう。欧米売女メディアは、こうした偽物の主張を活用して、アメリカ政府のシリア攻撃に対する、国連安全保障理事会の反対の重要性を損なうだろう。アサドの化学兵器使用を支持した安全保障理事会理事国によって、アメリカ政府が妨げられるべき理由などあろうかと、アメリカ・マスコミ売女は問うだろう。アメリカ・マスコミを構成する娼婦の様な連中は、アメリカ政府が更に多数のシリア国民を殺害できるよう、できる限りあらゆる事するだろう。殺人は、アメリカであることの品質証明のようなものだ。
人類の歴史が証明している通り、人は金のためならなんでもする。エドワード・スノーデン、ブラッドリー・マニングと、ジュリアン・アサンジは注目に値する例外だ。こうした真実を語る人々の誰かが、アメリカ政府に行って、沈黙する代りに“私を買収してくれ”と言えば、それで、彼らが安楽な生活を送れたであろう莫大な財産を、アメリカ政府は提供していたろう。
アメリカ政府の堕落のひどさと、アメリカ政府が自分が決めたことを進めようとしている覚悟を考えれば、国連化学兵器調査団は危険な状態にある。彼らはSEALチーム・シックスのような事故に会う可能性が高い。しかし、陪審員のように隔離されないかぎり、彼らは買収の対象になる。もし国連報告が、ホワイト・ハウスの立場を支持しなければ、報告書を要領を得ないものにすべく、事務局長が圧力を受けるだろう。結局、アメリカ政府が、国連が活動し続ける為の金を支払っているのだから。
アメリカ議会が、証拠に基づいて投票するなどと決して期待してはならない。しかも、これまでのところ議会は、アサドが化学兵器を使用したか否かとは無関係に、アメリカを攻撃してはいない国シリアへのむき出しの侵略をすることは、アメリカにとって戦争犯罪であることの理解を示していない。現政権を打倒しようとするアル-ヌスラ過激派の企みを、シリア政府が、どのように抑えようと、アメリカ政府の知ったことではないのだ。
アメリカとイスラエルがしている様に、白燐弾と劣化ウラン弾で人間を殺害するのはかまわないが、サリン・ガスで殺害してはいけないというオバマの主張は筋が通らない。http://www.washingtonsblog.com/2013/08/the-u-s-and-israel-have-used-chemical-weapons-within-the-last-8-years.html
アメリカ政府自身には、イランの地下原子力発電施設に対し、核バンカー・バスター爆弾を使用する有事計画がある。もしアメリカ政府が、大量破壊兵器は許しがたいと考えるのであれば、一体なぜ、アメリカ政府は、それほど大量の大量破壊兵器を所有し、そうした兵器を使う有事計画があるのだろう? 降伏する為に、日本政府ができる限りのことをしていた、まさにその頃合いに、アメリカ政府が、二発の原子爆弾を日本の民間都市に投下したことを、アメリカ政府は悔いているだろうか?
危険な冷戦が終結して以来、武力に訴える戦争がアメリカ外交政策の大黒柱となっている。ジョージ・H・W・ブッシュは、ブッシュの大使がサダム・フセインにクウェート攻撃の許可を与えた後に、イラクを攻撃した。クリントンは、偽りの口実で、いかなる憲法上、法的権限も無しに、セルビアを攻撃した。ジョージ・W・ブッシュは、アフガニスタンとイラクを、嘘に基づいて攻撃した。オバマは、アフガニスタンやイエメンへの攻撃を再開し、パキスタンとソマリアも攻撃した。オバマはNATO傀儡諸国をリビア攻撃に派遣し、傭兵をシリアに送り込み、今自分の傭兵の敗北を、シリア攻撃で防ぐつもりなのだ。
アメリカ政府は、ロシアと中国を取り巻く一連の軍事基地を構築している。こうした基地は極めて挑発的で、核戦争の前兆となるものだ。
膨大な核兵器備蓄を有し、堕落し、正気でない政治指導者達の国アメリカは、地球上の生命に対する大きな脅威だ。アメリカ政府が世界にとって最大の脅威であることは、愛国主義の主張を鮮明にしているアメリカ人を除いて、広く認められている。こうした騙されやすいカモ連中が、戦争による人類の消滅を幇助しているのだ。
アメリカ経済が崩壊するまでは、政府はお金を印刷し、政府の犯罪に対する黙認を買収することが可能だ。嘘を事実であるかのように報じる売女マスコミをアメリカ政府は頼りにできる。アメリカという砂上の楼閣が崩壊するまで、世界は安全にはならない。
自分達は世界最高の国に暮していると考えている無知なアメリカ国民を私は気の毒に思う。中米から、ベトナムから中東やアフリカで無数の生活を、自分達の政府が破壊していることを気にかけるアメリカ人は余りに少ない。アフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリアの民間人を、アメリカ軍は日常茶飯事の様に殺害しており、1,000,000人ものイラク人の死と、4,000,000人のイラク人難民はアメリカ軍のせいなのだ。アメリカ風の“世界最良の国”の定義は、最も無辜の人々、決してアメリカを攻撃したことのない人々、かつてアメリカを世界の希望として見なしていたが、今や重大な脅威と見なしている人々を殺戮できる国だ。
余りに多くのアメリカ人は、自国民の五分の一が政府支援に依存していることを全く分かっていないし、あるいは分かっていたとしても、そうした不幸な人々を、納税者の財布を食い物にしていると非難する。アメリカでは、賃金と雇用の機会は減少している。金融機関による国民の略奪に対しては何の妨げも無く。警察の無法さと残忍さには制限がなく、現実に気付かせないまま、アメリカ国民を、「マトリックス」の中に閉じ込めたままにする嘘に限界は無い。
そのような国民が、一体どうして、自由を維持したり、あるいは、どうしても戦争をすると決めた政府を制止したりできるのか考えると、想像力が使い過ぎで痛んでしまう。
我々の子供達や孫達の債務負担を思い悩む共和党の連中は、決してやって来ないかも知れない未来を思い煩っているのだ。アメリカ政府の傲慢さは世界を核戦争へと押しやっている。
“世界最高の国”とは、多数の様々な国民の暮しや将来の見込みを現在破壊しており、地球上のあらゆる生命をも破壊しかねない邪悪な勢力なのだ。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2013/09/01/obama-has-decided-that-it-is-safer-to-buy-congress-than-to-go-it-alone-paul-craig-roberts/
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大本営広報部記事、「無人機導入」、「TPP・国有企業問題」、「滋賀の日米訓練・オスプレイ参加」。植民地状態を自覚させてくれる記事満載。
フィフィさんの単行本広告を見た。別の頁に、ムスリム同胞団・事実上の非合法化。
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