資本主義の社会的費用
Paul Craig Roberts
2013年5月30日
私が経済学の大学院生だった時代には、資本主義の社会的費用は、経済理論における大問題だった。ここ数十年、資本主義の社会的費用は爆発的に増えたのに、この問題は、もはや経済門家を悩ませてはいないように見える。
社会的費用というのは、製造業者が負担しない、あるいは製品価格に含まれない製造費用のことだ。典型例は数多い。大気汚染、水質汚染、採鉱、天然ガス採掘の水圧破砕、石油掘削や、パイプラインの漏れ、化学肥料農法による土壌汚染、GMO、農薬、原発事故で放出される放射能、抗生物質や人工ホルモンによる食品の汚染等。
これらの伝統的な社会的費用は、明確に定義された財産権によって対処できると考える経済専門家がいる。情け深い政府が、社会的費用を、社会の為に管理してくれると考える向きもある。
現代、グローバリズムによってもたらされた新たな社会的費用がある。先進国にとって、それは、製造業と専門的サービス業の海外移転による失業、消費者収入や、税基盤や、GDP成長の消失、そして貿易赤字と経常収支赤字の増大だ。貿易赤字と経常収支赤字は、通貨の交換価値の下落と、輸入価格のインフレ的高騰をもたらす可能性がある。開発途上国にとっての費用は、自給自足ができなくなることと、国際企業の需要に合わせる為の、農業のモノカルチャーへの転換だ。
グローバリズムとは自由貿易であり、自由貿易は常に良いものだと誤って思いこんでいる為、経済専門家達は、社会的費用の、この新たなまん延に無関心だ。
経済専門家達は、規制撤廃の社会的費用にも気付いていない。“大きすぎて潰せない銀行”に対する膨大な公的助成金が必要な継続中の金融危機は、政府が、金融制度の規制を撤廃しろというウォール・ストリートの圧力のいいなりになり、グラス-スティーガル法を廃止し、投機筋に対する取引額限度を無くし、商品先物取引委員会にデリバティブ規制をするのを禁じ、反トラスト法を空文と化し、膨大な経済力の集中を可能にした結果による、社会的費用だ。大企業ロビーが成功することによる社会的費用は膨大だ。ところが、市場は自己調整するものだと信じている経済専門家達は、莫大な社会的費用ではなく、効率上、莫大な進歩が得られたと考えているのだ。
規制撤廃された金融制度を破綻させずにおくために、連邦準備制度は過去数年間にわたり何兆ドルも流動性を供給してきた。本当の金利は、マイナス領域に追い込まれている。退職者達は貯蓄に対する利子所得を全く得られず、生活費をまかなう為に貯金を取り崩さざるを得なくなっている。
連邦準備制度の量的緩和政策による、金融市場への流動性の供給は、膨大な債券、株式市場バブルを生み出した。バブルがはじければ、より多くのアメリカの資産が消失し、より多くの雇用が失われる。
雇用海外移転の社会的費用という例を考えてみよう。アメリカ企業が、アメリカ人に売る商品やサービスを海外で生産すると、アメリカに流れ込む商品やサービスは輸入となる。そこで、貿易赤字は比例して増加することになる。
貿易赤字とは、アメリカは、輸出で外貨を稼ぐより多く輸入しているということだ。大半の国にとっては、これは問題になるが、アメリカではそうならない。米ドルは世界の準備通貨、つまり国際支払いの手段なので、外国の中央銀行が自国通貨の価値を保証する為に、米ドルを準備金として持ち続けるのだ。
時間がたつにつれ、外国人が、貿易黒字で得たドルを、収入を生み出すアメリカの資産の買収に使う為に、この利点は不利益に転換する。外国人が、米長期国債やアメリカ企業の社債を購入し、利子収入は外国に出ていってしまう。彼等はアメリカ企業を買い入れ、利益、配当やキャピタル・ゲインはアメリカから出て行く。彼等がシカゴのパーキング・メーターや、アメリカの有料道路を賃貸し、収入は外国に流出する。
収入の膨大な流出は、アメリカにとって、経常収支の大赤字をもたらし、つまり外国人が更なる余剰ドルを得て、それで更にアメリカ資産を購入することになる。言い換えれば、慢性貿易赤字は、アメリカの収入や利益を外国の手中に入るよう変える方法なのだ。
国家の所有権が、自国民から、外国人へと変わりつつある。ロイターによれば、1971年、外国企業は、アメリカの全企業資産の1.3%を所有していた。http://www.reuters.com/article/2008/08/27/us-companies-ownership-usa-idUSN2744743020080827
Economy In Crisisの記事によれば、2008年迄に、鉱業の21.5%、製造業の25%、卸売業の30.2%、情報産業の12%、不動産業の12%、金融業と保険業の15%、専門的、科学的、技術的サービス業の25%、娯楽とレクリエーション業の11%、宿泊業と飲食サービス業の11%を含め、外国人がアメリカ全産業の14.2パーセントを所有している。http://americawakeup.net/ownership
今や非常に多くの著名アメリカ・ブランド名は外国人が所有する企業だ。バドワイザーはオランダ企業のものだ。アルカ・セルツァーはドイツ企業のものだ。ファイアーストーンは日本企業のものだ。雑誌のカー・アンド・ドライブや、ウーマンズ・デイはフランス企業の所有だ。ガーバー・ベビー・フードやピュリナ・ドッグ・フードはスイス企業のものだ。ヘルマン・マヨネーズやベン & ジェリーのアイスクリームはイギリス企業のものだ。アメリカ企業の生産の海外移転によって膨張したアメリカ貿易赤字の結果として、何千もの元アメリカ企業が外国の支配下に入っている。
海外で一番安い労賃を追い求める政策、つまり自由貿易の基本である比較優位の正反対の、絶対優位を追求することは、アメリカの利益、キャピタル・ゲイン、不動産収入、利子、パーキング・メーターや高速道路料金の行き先を外国の手中へと変えることなのだ。
だから、自分達の業績賞与を最大化する為、短期利益を追い求める大企業幹部のおかげで、莫大な社会的費用が生じているのだ。海外移転された生産による利益は、経済効率や社会福祉の兆候ではない。アメリカに対する海外移転された製造の社会的費用は、雇用を海外移転することで得られる利益を上回り、アメリカ経済に対する純損失となる可能性が極めて高い。GMOの社会的費用が、モンサントの利益を越えるだろうことに疑問の余地はほとんどない。
だが、主流派経済専門家達が注意を向けてくれるだろうなどと期待してはならない。連中は、グローバリズムの利点、高失業率と低賃金、金融危機と、ドル価値の下落というニュー・エコノミーの賜物を、依然とうとうとまくし立てている。http://rt.com/usa/dollar-danger-as-world-currency-977/
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
ご寄付はここで。https://www.paulcraigroberts.org/pages/donate/
記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2013/05/30/the-social-cost-of-capitalism-paul-craig-roberts/
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同じ著者の同様趣旨の記事『我々にとっての沈黙の春?』 2012年6月19日、「外部費用」という単語が使われている。
「社会的費用」という言葉、名著『自動車の社会的費用』宇沢弘文著、岩波新書を思い出す。これだけは手元にある。『環境破壊と社会的費用』(K.W.カップ著)という本を昔読んだ記憶がある。あるいは宮本憲一『環境経済学』。
年代から想像すると、著者が触れているのは、同じK.W.カップでも『私的企業と社会的費用―現代資本主義における公害の問題』あたりだろう。
- 足尾鉱毒の社会的費用、古河銅山の利益を越えていただろうか?
- イタイイタイ病の社会的費用、カドミウム生産の利益を越えていただろうか?
- 水俣病社会的費用、チッソの利益を越えていただろうか?
- アスベストの社会的費用、メーカーの利益を越えていただろうか?
- 原発の社会的費用、原発、燃料製造元、電力会社や政治家の利益を越えること余りに明白。
- 兵器の社会的費用、当然、軍需産業の利益を越えるだろう。
そういう膨大な社会的費用をものともしない多国籍企業に国家支配をまかせるのがTPP体制だ。膨大な社会的費用を合法化するとんでもない怪物。
『環境破壊と社会的費用』(K.W.カップ著)柴田徳衛・鈴木正俊訳 岩波書店 1975/10/29刊の冒頭の一部をご参考までに転載しておこう。
日本の読者へ
かつてイギリスとアメリカが、ひたすら経済発展をはかったため社会と自然を無惨に破壊した代表例とされていました。しかし今、西欧諸国と日本、とくに日本が急激にこれら両国に追いつき、さらにこと環境破壊にかけては、それを追いこしてしまいました。過去二〇年の間に日本を何回か訪れた人なら、その訪れるたびに、社会と自然の環境破壊が大きく進んでいることを痛感したでしょう。一九五〇年代に海外からこの日本を訪れた人々は、まだ小ぢんまりした都会のすぐ外側に、緑濃い渓谷、川の清流、豊かな穂波の美しい田園……がひろがるのを楽しむことができました。しかし六〇年代に様子は大きく変り、七〇年代に入ると、眼前にあるものは、東京・大阪・四日市・富士市といった恐ろしく急膨脹した都市と、その内外にひろがる極端な河川や海岸の汚れ、大気汚染……です。さらに自動草の氾濫、地価急騰、水俣病にイタイイタイ病等々は、挙げるまでもないでしょう。
日本のダイナミックな成長が、美しい風光をこれほどまでに傷つけたといっても、社会的費用の問題を少しでも真剣に考えたら、それほど驚くにも当らないでしょう。ただそれにしても、過去二五年間における日本の変貌ぶりは只事ではなく、その経済復興と発展が特別の条件下でなされたといわざるをえません。もちろん、技術革新、高度成長、都市化がもたらす荒廃を少しでも防ごうとして示された、幾つかの自治体の努力や成果は否定できません。しかし、日本経済の量的な成長・繁栄がどのような利益をもたらしたにせよ、それは環境破壊という高い社会的費用の犠牲を払って達成されたものであり、その犠牲が広く社会に転嫁され、とくに低所得者層や次の世代に重い負担となる事実は消すことができません。
著者、草葉の陰で、『原発の環境破壊と社会的費用』を書かねばならないと、悲しんでおられるに違いない。
梅雨とはいえ、真夏のような日射の中の6・2 No Nuke集会、芝公園では福島で農業をしておられた渡辺様がまっとうな怒りを表明された。
貧しい地域の人々をわずかな恩恵と引き換えに、安全・安心といって騙した。
その危険な代物を、世界に売り歩いているのは、昔世界に日本が迷惑をかけたことの繰り返しではないか?また大変な迷惑をかけることになる、と。
デモ参加者昨年に比べて減ったという。減少、小平の住民投票と同じ理由だろう。即効性がなければ、意味がない...と。
壇上の演者の皆様の何人かがおっしゃっていたとおり、デモだけではなく、選挙で売国政治家を落選させなければ、政策は変わらない。原発廃止を主張し、実行する政治家をえらばなければならない。自民、公明、みんな、維新やなどではなしに。
南海トラフ地震に備えよと新聞・テレビは連日かき立てている、被害220兆円想定 3・11の10倍。原発災害は計算に入っていない。
ペットボトル、レトルト食品、臨時トイレで一週間生き延びても放射能には勝てない。
不思議なことに、原発震災に備えるべき政府も電力会社も大本営広報部も、原発の危険に触れず、廃炉の検討は一切しない。ついには廃炉費用を電気代に上乗せするという。支配層諸氏、頭がメルトダウンしているに違いない。原発を導入してくれと言った覚えはない。原発と人の命は両立しない。
原爆の被害国というのは、3/11までの話。今、日本は、放射能加害国家。
宗主国に莫大なお金を支払って、海兵隊用の基地を活用して頂いているのは、世界に無辜の被害者を生み出す、社会的費用発生の片棒を担ぐことに他ならない。
イスラム教原理主義テロリストが本当に存在するのであれば、日本の原発破壊を狙って不思議はない。
日米宗主国・属国体制の社会的費用、宗主国・傀儡支配層の利益を越えるだろうこと疑問の余地は全くない。
GMOの社会的費用が、モンサントの利益を越えるだろうことに疑問の余地はほとんどない。と著者が指摘される中、アメリカで違法な遺伝子組み換え小麦が発見された。
慰安婦発言の後、とうとう大阪は、オスプレイを受け入れるという。異神の怪も、安全保障・基地なる真っ赤な嘘も、現代の代表的社会的費用だ。
パナソニック創業者が作った整形塾政治家の社会的費用、パナソニックの利益を越えるだろう。
だが、主流派の経済専門家達が注意を向けてくれるだろうなどと期待してはならない。連中は、アベノミックス、TPPの利点、高失業率とユニクロやワタミの低賃金、裁量労働制導入、金融危機と、円価値の下落というニュー・エコノミーの賜物を依然とうとうとまくし立てている。
IWJ
2013/04/16 「事故コスト、事実上は国民負担」―原発ゼロノミクスキャンペーン・シンポジウム 原発ゼロノミクス~脱原発のコストと経済性~
16日、原発ゼロノミクスキャンペーン、eシフト主催で原発をコストの面から考えるシンポジウムが開催された。講師として、原子力発電のコストなどを研究している大島堅一氏と原子力撤廃を主張している城南信用金庫理事長の吉原穀氏が招かれた。
大島氏は、「福島原子力発電事故のコストを負担するのは東電であるが、事実上は国民が負担」と話し、参加した人々にコストの内訳などの説明をした。また、吉原氏は再稼働中の大飯原発やアメリカでの原発に対する動きなどを説明した。
■内容
・原発の本当のコスト 大島堅一氏
・対談「脱原発で変える経営と地域」 吉原毅氏×大島堅一氏
■詳細
http://zeronomics.seesaa.net/article/353994276.html
このアーカイブの完全版は、IWJ会員のみ閲覧・視聴ができます。
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