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2013年4月16日 (火)

“もうひとつのアメリカ史”: オリバー・ストーンとオバマとベトナム戦争

2013年1月11日

Counterpunch

マイケル・D・イェーツ

オリバー・ストーンのショウタイム・シリーズ番組「もうひとつのアメリカ史」は私がこれまで見た大手テレビ番組の中で最もラディカルなものだ。目を見張るような場面、大統領達の衝撃的な演説、ストーンの素晴らしいナレーションがあいまって、見ずにはいられないシリーズとなっている。ストーンと歴史学者ピーター・カズニックによる700ページの本が、8回の番組に合わせて刊行された。ショウタイムの各回よりも、詳細を描き、より深く扱っており、視聴者は、アメリカの“語られなかった、もうひとつの歴史”をより一層良く理解できる

主としてベトナム戦争(第二次インドシナ戦争とも呼ばれた)を扱うエピソード7では、画面に釘付けにされてしまった。ストーンは、戦争の恐ろしさ、残忍な暴力を、生々しく描き出して、ベトナムで兵士だったことで彼が感じていた罪悪感を償っている。私は当時、政治がわかる年頃になっていたが、爆弾や枯れ葉剤が落下し、犠牲者達が叫び、政治家や将軍達が嘘をつくのを見て、再度憤慨させられた。嘘の達人で戦犯のヘンリー・キッシンジャーが亡くなり、大量虐殺を共にしたお仲間、リンドン・ジョンソンとリチャード・ニクソンに加わる日は喜ばしい日になるだろう。彼の名は人殺しの同義語になるべきだ。

ストーンとカズニックが記録して通り、アメリカ合州国によって、東南アジアにもたらされた大虐殺は、気が遠くなる程だ。

*約400万人のベトナム人が殺された。

*ベトナムには、歴史上、これまでの全ての戦争で、あらゆる軍が投下したより多量の爆弾、第二次世界大戦であらゆる軍が投下したものの三倍が投下された。

*71,915,000リットルの除草剤で大地を汚染した。

*南ベトナム南部の15,000の村落のうち、9,000が破壊された

*北ベトナムでは、6つの工業都市全てが破壊された。30の地方都市のうち、28都市と、より小さな116都市のうち、96都市が爆撃で破壊された。

*アメリカ合衆国は、核兵器を使うと言って、13回威嚇した。ニクソンは、キッシンジャーが、そうするのに余りに神経質過ぎるといって、たしなめた。ニクソンは自分自身は全く気にならないと言っていた。

*戦後、あちこちに広がった不発弾と地雷は、更に42,000人の命を奪った。何百万エーカーもの土地が、未だに不発弾の処理が終わらないままだ。

*エージェント・オレンジや他の除草剤が、何百万人ものベトナム人に深刻な健康問題をもたらした。

*ベトナムの熱帯雨林のほぼ全てが破壊された。

*カンボジアでの“秘密”戦争中に、100,000箇所を、3,000,000トンの砲弾を投下し、広範な社会的混乱、農作物の破壊と、飢餓を引き起こした。カンボジアにおけるアメリカの爆撃作戦は、ポル・ポトが率いるクメール・ルージュの勃興と、後に起きた大虐殺(ベトナム軍が最後に、ポルポトの恐怖政治を終わらせた際には、アメリカ合州国は実際、ポル・ポトに味方した)の直接の原因だ。ストーンとカズニックは、クメール・ルージュ幹部の言葉を引用している。

    爆撃された後は、いつも人々を連れて、クレーターを見に行った。クレーターがどれほど大きく深いのか、いかに土がえぐりだされ、焦土と化するのかを見るために … 大型爆弾や炸裂弾が落ちてくると、一般人は、時に文字通り、大便を漏らしていた。心は凍りつき、口も利かずに三日も四日もさまよい歩くのだ。おびえて半狂乱になって、人々は、何でも言われたことを信じるようになった。クメール・ルージュに協力しつづけ、クメール・ルージュに加わり、自分の子供達を連中と同行するよう送り出したのは、民衆が爆撃に不満を抱いた為だ。 … 時に爆弾が落下して幼い子供に命中し、父親達は皆クメール・ルージュ支持派になった。

*ラオスの113,716箇所に、2,756,941トンの砲弾が投下された。ラオスの風景の大半が粉々に吹き飛ばされた。

1977年の記者会見で、アメリカ合州国には、ベトナム再建を支援する道義的責任はあるのかという記者の質問に、ジミー・カーター大統領がこう答えたことは悪名高い。

    破壊はお互いさまだ。我々は、領土を奪おうとか、アメリカの意志を他国民に押しつけようとかという狙いを持たずにベトナムに行ったのだ。我々は、謝罪したり、自らを罰したり、責任を認めるべき必要などないと私は思う。

お互いさま? カーターの発言は、権力の傲慢さと、帝国の独善さという粗野な感覚を反映している。戦争で、58,000人のアメリカ兵士が死亡し、300,000人以上の負傷者と、多数の精神的、肉体的疾病、自殺、崩壊した家庭や他の苦悩が生じている。ストーンは、こうしたこと全てを、息子がミライに行った母親が、あるジャーナリストに言った言葉で見事にとらえている。“私は軍に良い子を渡したのですが、軍は人殺しを返してくれました。”だがアメリカ国内で何が起きようとも、ベトナムで起きたことには到底かなわない。お互いさま等とというもの等全く存在せず、そういうものがあったと発言するのは非常識だ。アメリカ合州国がベトナムやカンボジアやラオスで行なったことは、20世紀における最悪の残虐行為に比肩する。もし東南アジアの人々が、我々が彼等に対して行なったことを、我々に対して行なったとすれば、そしてベトナムでと同じ割合で、アメリカ国民が殺されたとすれば、ベトナム慰霊の壁には約20,000,000人の名前が刻まれることになろう。

アメリカの政治支配者達は、、北ベトナム軍と民族解放戦線が軍事的にベトナムを解放した1975年以来、公的記憶からベトナムの恐怖をぬぐい去るだけでなく、レーガン大統領が“高貴な大義”と呼んだ様に、戦争を描きだそうとし続けてきた。大統領の座について以来、レーガン大統領称賛者のオバマ大統領は、これをする上で、あらゆる大統領を凌いでおり、“ベトナム戦争記念式典”を誇示することによって、戦争とは別の形とは言え、アメリカによるまた別の残虐行為を働こうと企んでいる。2008年の国防権限法は、国防長官に、ベトナム戦争の15周年を記念するイベントを組織する権限を与えた。2012年の戦没者追悼記念日から、2025年11月25日までに、13回の周年記念式典が想定されている。

アメリカ国民全員に、参加を促す、まるで自画自賛と健忘症の饗宴にも等しい声明の中で、オバマ大統領はこう述べた。

    ベトナム戦争50周年を祝うにあたり、栄誉をもって国に尽くした世代の勇敢さを、荘厳な畏敬の念を抱いて、私達は熟考する。勇敢に軍務につく為、家族から離れ、自分たちが知っていることや愛する人々と、全くの別世界に赴いた300万人以上の男性・女性軍人をたたえよう。イア・ドラン渓谷から、ケサン、フエから、サイゴン、そしてその間の無数の村々を、彼等はジャングルや水田、暑さとモンスーンの中を突き進み、アメリカ人として、我々が大切にしている理想を守るために、英雄的に戦った。十年以上の戦いを通して、空、陸、海で、こうした誇り高いアメリカ人達が、わが国軍の最高の伝統を支えたのだ。

これを聞いて私は泣きたくなった。CIAのフェニックス計画で、反政府派や支持者と疑われた何万人ものベトナム人が暗殺された。500万以上の村人達が強制的に家を追われ、“戦略村”に押し込まれた。 政治囚は投獄され、“虎の檻”で拷問された。意図的な爆撃 of北ベトナムの堤防や病院; ミライでの、約500人の女性、赤ん坊、子供と、老人(多くは、まずGIに強姦されてから、虐殺された)の殺害。こうしたものは一体どういう勇敢な取り組みだろう? こうしたものは一体どのような雄大な理想を体現しているのだろう?

国防長官は、下記全てを満たすべく、記念式典全プログラムを組織する責務がある。

    1. 戦争捕虜(POW)として捕らえられたり、あるいは行方不明兵(MIA)としてリストに載せられたりしている人員を含め、ベトナム戦争の退役兵士達に、アメリカ合州国を代表しての服務と犠牲に、そして、こうした退役兵士達の家族に、感謝し、讃えること。

    2. ベトナム戦争中の国軍の尽力と、国軍と共に尽力したり、支援したりした、連邦機関および、政府、非政府組織の貢献を浮き彫りにすること。

    3. ベトナム戦争中、アメリカ合州国国民によって、アメリカ国内でなされた貢献に敬意を表すること。

    4. ベトナム戦争中に行なわれた軍事研究に関するテクノロジー、科学、医学の進歩を浮き彫りにすること。

    5. ベトナム戦争中、アメリカ合州国の同盟者達によってなされた貢献と犠牲を認めること。

いずれもひどいものだが、四番目では、ナチスさえ誇りに思うだろう。

現在、記念式典の議長は、元ネブラスカ選出上院議員で、ベトナム戦争で戦った退役軍人チャック・ヘーゲルだ。彼は次期国防長官としても検討されている。もし彼が長官になれば、これに関連するあらゆる事の主催者となるわけだ。進歩派の中には、ヘーゲルは、アメリカ殺人機構の頂点における、理性と品格の稀な声になるだろうと主張する人々がいる。しかし、このトランク1杯の嘘を主催するなどということに同意する人物が、どうして理性的で品格ありえよう?

ラジカル派の人々には、何であれ、この残虐行為の慶賀に対抗してできることをして欲しいと願っている。私が関係しているマンスリー・レビュー誌は、この雑誌のアーカイブから、そして書き下ろし寄稿による、ベトナム戦争に関するエッセイ・シリーズを掲載する予定だ。2012年11月、その最初のものとして刊行されたのは、エージェント・オレンジによる被害を受け、その影響で若くして亡くなった元海兵隊員レオ・コーリーによる、オリバー・ストーンの映画「プラトーン」についての素晴らしい批評だ。東南アジアにおける戦争の歴史を書き換えようという最新の取り組みに対する良い解毒剤だ。ベトナム戦争は決して忘れさられてはならない。ベトナム戦争は、アメリカと人類そのものの汚点だった。ベトナム戦争の賛美は恥ずべき犯罪だ。我々アメリカ人が、自分達の為にしてきたより、ずっと果敢に、外国支配から自らを解放するために戦い、ずっと苦難を味わったベトナム人をこそ讃えるべきなのだ。

マイケル・D・イェーツは、マンスリー・レビュー誌の共同編集者。彼はCheap Motels and Hot Plates: an Economist’s Travelogueと、Naming the System: Inequality and Work in the Global Economyの著者。彼はWisconsin Uprising: Labor Fights Backの編集者。イェーツには、mikedjyates@msn.comで連絡できる。

記事原文のurl:www.counterpunch.org/2013/01/10/oliver-stone-obama-and-the-war-in-vietnam/

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わずかの間、テレビ・新聞に、ほとんど触れずに過ごした。

精神衛生には極めて良いと思う。しかし、そんなことをしても「砂嵐の間、砂に頭を突っ込むダチョウ」と同じで、現実が良くなるわけではない。

しかし、デタラメ・プロパガンダ大本営報道に再度触れれば、絶望感のみ。

ストーン「原爆投下は不要だった」とはっきりと主張している。

オリバー・ストーンのこの番組の中で、当然、ミズリー号での降伏文書署名におもむく日本人幹部の映像が写る。

そして、山田正彦元農林水産大臣は、TPPのひどさを、ミズリー号艦上の降伏文書署名になぞらえておられる。

TPPに関する日米事前協議の合意はミズーリ艦上降伏文書に等しいのでは?

内田聖子氏のブログには両国発表の比較が書かれている。 Acts for Democracy 嘘とごまかしの政府発表―TPP日米事前協議内容を検証する

そして、岩月弁護士によるブログ「街の弁護士日記」 2013年4月16日 (火)の記事は必読。

【拡散希望】逃れられない日米FTA 事前協議合意の露骨な含意

新聞の見出しに、ミニ統一選・野党が苦戦とある。野党が苦戦しているのは事実だろう。しかし、新聞に書いてある「野党」なるものの先頭に「維新」があげられている。

憲法を破壊し、TPPを推進する政党を、野党と呼べるだろうか?

大本営広報部、TPPの損失について、今頃書き始めている。「事前に反対しろ」と言いたいが、大本営広報部が民衆の声を聞くわけがない。よまない、講読しない、見ない以外対策はないのではと素人は思う。

本澤二郎氏は「日本の風景」(1274)<それでも新聞人に期待する>といっておられるが。

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コメント

この記事にコメントすべきか悩んだのですが、ボストンマラソンを含む連続爆破事件の報道を見て真っ先に感じたのは、連邦政府はこの期に乗じて国防権限法を本格的に適用して米国民に対する弾圧を開始するかも知れない、ということでした。
犯人は誰でも良い、いや誰もが犯人として疑われ調査され管理される。そんな悪夢が起こらなければ良いが、と心配です。

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