デトロイト崩壊: アメリカ資本主義を告発
wsws.org
2013年3月7日
今週、デトロイト市が破綻へと向かい、州と現地の政治家達がギリシャ風緊縮プログラムを拡大する計画の概要を述べ始める中、ウォール・ストリートの金融エリート達はダウ・ジョーンズ工業株平均の新記録を慶賀している。
3月1日、共和党のミシガン州知事、億万長者の元ベンチャー・キャピタリスト、リック・スナイダーは、デトロイトの“財政非常事態”を宣言した。この行動は、労働協約を破棄し、年金債務を放棄し、重要なサービスを停止し、上下水道、動物園や美術館を含めた公共資産の大安売りを実施する広範な権限を持つ緊急財務管理者の早急な任命への道を開くものだ。
都市の掠奪は、アメリカにとっても、世界的にとっても、支配階級の模範だと見なす商業マスコミが、この動きをはやし立てている。“抜本的で、不人気な行動だけが、デトロイトの悪循環をくい止められる”と、月曜の論説でロンドンを本拠とするフィナンシャル・タイムズは主張し、緊急財務管理者を押しつける計画を称賛している。
銀行と、彼等の金で買われた二大政党の議員連中にとって、いかなる民主的手続きも、個人的資産の一層大きな集積を妨害してはならないのだ。デトロイトで、人々に押しつけられている苦しみは、億万長者のヘッジ・ファンド・マネージャーが持っている非課税市債に、最大の利益を保証するためのなのだ。
年金、医療費給付、公立学校、街灯、公衆衛生等の形で、労働者階級が得るささやかな金は、取り戻し、新たな利益源へと転換されなけばならない。
デトロイトの運命は、アメリカ資本主義総体の進化の集中的表現だ。戦後ブームの全盛期、自動車工場の都市が世界中の自動車の大多数を製造していた頃、自動車労働者の大衆闘争のおかげで、デトロイトは一人当たり収入と住宅所有率がアメリカで最も高い都市の一つだった。
現在、デトロイトの街路には、放棄された工場の錆びた骨組み、約79,000軒の放棄された住宅、新車以下の価格で売られている区画や住宅が散乱している。
デトロイト崩壊に、その上に想像を絶する額の富を自分達が築き上げた残骸という、自らのイメージを、アメリカの支配階級は見ている。アメリカ産業の衰退と、過去30年間、金融投機という一層寄生的な形への支配階級の移行は、二大大企業政党に支持された、労働者階級の雇用、生活水準と社会的地位に対する容赦ない攻撃と同期していた。
この都市が独特なわけではない。2008年の金融危機は、長らく朽ちかけのアメリカ資本主義の基盤を暴露した。金融危機は、新金融貴族の膨大な経済・政治力も明らかにした。
サブプライム住宅ローン・バブルがはじけた時、オバマ大統領は、共和党の前任者同様、何兆ドルも、直接の現金注入、保証や、事実上無利子のクレジットをウォール・ストリートに注ぎ込んだ。過去四年半で、危機を引き起こした金融貴族は、完全に損失を回収したのみならず、新たな投機騒ぎに乗り出して、更に好調だ。
これは、圧倒的多数の国民の収入が低下し続ける中、“経済回復”とされるものの最初の二年間に総収入の121パーセントを得ている人口の1パーセントの最も裕福な人々へ、労働者から莫大な富の移転をすることで、実現された。
この前例は、2009年、新規労働者の50パーセントの賃金カット、一日8時間労働の撤廃と、工場での厳しい作業強化を要求した、オバマ政権による、ゼネラル・モーターズとクライスラーのリストラの際に作られた。その結果、2012年、自動車会社は110億ドルの利益を得て、オバマの“報酬監視責任者”が承認した数百万ドルのボーナスを自動車会社幹部に支払った。
一方新規の自動車労働者の賃金の購買力は、1930年代レベルに落ち込み、自動車工場の何千人もの新規雇用労働者は自分が製造する自動車を購入できない。利益が国内総生産GDP中、史上最大のシェアとなる中、総賃金は史上最低、GDPの43.5パーセントに低下した。
同時にオバマ政権は、連邦、州、地方レベルでの予算削減という冷酷な政策の先頭に立った。2009年以来、300,000人の教師を含む約700,000人の公共部門労働者が職を失い、学区では推計4,000の公立学校を閉鎖した。フィラデルフィア、ワシントン, DC、シカゴ、ニューヨークや他の都市で、当局は、何百校もの閉鎖と営利目的のチャーター・スクールの増加を狙って、更なる学校閉鎖を要求している。
国家レベルで、オバマ政権と議会の共和党は、幼稚園から高校までの教育支援、ヘッド・スタート・プログラム、子どもの栄養管理、ホームレス防止プログラムや長期失業者用の失業給付を含め、1.2兆ドルの連邦予算削減を実施するのに“強制歳出削減”危機を利用した。 これは、メディケア、メディケイドや、何千万人もの退職労働者や貧しい人々が頼りにしている社会保障に対する大攻勢計画の頭金に過ぎない。
デトロイトでも、アメリカでも、世界中でも、繰り返される言葉は同じだ。株式市場が急騰し、大企業の利益が最高レベルとなる中、現代社会の最も不可欠な生活必要品を保証する金はないのだ。
祝賀と投機の大騒ぎで、ウォール・ストリートとアメリカ支配階級は、彼等以外の社会に対する、その寄生的関係と、彼等が擁護する社会制度、資本主義の歴史的な破綻を実証しているに過ぎない。
Jerry White
記事原文のurl:www.wsws.org/en/articles/2013/03/07/pers-m07.html
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既に、日本に先駆けて、競うようにして植民地条約、米韓FTAを結んだ韓国でも、参加を表明した日本でも、軽自動車攻撃が激化している。もちろんデトロイトを本拠とする自動車会社による圧力。そうした圧力をかけた結果、宗主国の労働者は多少は暮らし向きが良くなったりしているのだろうか。こうした事態からみるかぎり、そういうことは皆無。
TPP、大企業利益・活動の自由を拡大するだけ。自国労働者の幸福、考慮の対象外。まして、外国の労働者、どうなろうと無関係だろう。
宗主国企業の利益の為の無理押しを、理不尽な非関税障壁に対する「正当な要求」にしてしまうトリック道具がTPP。もちろん、ことは軽自動車にとどまらない。
外務省のウェブにある文書 中でも、その要求、明記されている。
TPP協定(日本との協議に関する米国政府意見募集の結果概要:主要団体の意見詳細)
平成24年2月1日
1 米国政府意見募集の結果
(別添2)我が国の関心表明に対する否定的な意見(主たる意見のポイント)
デトロイトは、下記の三つの意見のおひざもと。NAFTAも、TPPも、庶民の為の施策ではなく、多国籍大企業の、飽くなき強欲に起因する世界支配の為の方便であることは明白。
1 American Automotive Policy Council (AAPC) 全米自動車政策評議会
2 AFL-CIO 全米労働総同盟産業別組合会議
3 International Union, United Automotive, Workers of America(UAW)全米自動車労働組合
[立場の理由]
・日本の自動車市場は先進国の中で最も閉鎖的であり、その改善は容易でないため、日本の交渉参加は交渉の遅延につながる。
・日本の参加は、米国の製造業と雇用を犠牲にして、日本の輸出依存体制を温存させることになる。
・日本との間のFTAは、日米自動車貿易の一方的な関係を固定化するのみ。
―TPP交渉妥結前に日本が交渉参加すれば、TPP協定が高い水準のものとなることが著しく遅延する。
・日本にのみ利益をもたらすFTAは、米国の主要輸出産業たる自動車産業の足かせとなり、追加投資を妨げ、雇用創出も妨げる。
[一般的指摘・要望等]
・日本は、TPP交渉参加の前に、自動車市場を輸入車に開放する複数年に亘る約束を示すべき。
[個別具体的指摘・要望等]
-21世紀のFTAたるTPP協定には、為替操作の取り扱いに関する基準を設けるべき。
・日本の自動車の技術基準及び認証手続は(国際標準と)完全には調和しておらず、日本に輸出される自動車に対して大幅な開発-製造コストがかかる。
・日本の自動車関連規制及び規制の策定過程は閉ざされており、公開された時には既に制度が固まっているため、変更提案は難しく、ほとんど受け入れられない。この完全な透明性及び提案容認の欠如によって輸入自動車メーカーの間で予測不可能であるという感覚が広まっている。
・日本において国内生産者のみが利益を受けている軽自動車規格に対する特別な待遇は廃止すべき。
2 AFL-CIO 全米労働総同盟産業別組合会議
[立場の理由]
・交渉中のTPP協定は未知の点が多いため、労働者に与える影響等について見解を示すことは困難。
・自動車関税の撤廃は対日自動車貿易赤字を拡大させ、日本メーカーが米国内で生産するインセンティブを減少させる。不適切な形で日本がTPP協定交渉に参加する場合には、米国経済及び労働者への利益がなく、日本に一方的に利益を与えることにもなり得る。
・仮に適切な交渉がなされれば、TPP協定が貿易均衡を改善し、対日輸出の増加によって(米国内に)雇用を創出する可能性があるが、その実現性は大変疑わしい。
NAFTA等のFTAによる雇用創出効果の見積もりも不正確だった。
[一般的指摘・要望等]
・(自動車分野を例に挙げて、)日本の非関税障壁(為替操作、排他的な「系列」の取り決め等を例示)への対処が必要(具体的指摘はなし)。
・日本は貿易協定による利益を確保する前に、自動車分野における持続的な市場改革を行なうべき
[個別具体的指摘・要望等]
・日本のTPPへの加盟に係る意志決定には、下記の諸点に関する影響について回答が必要。
―グローバル・サプライ・チェーン
―国有企業を国内的に規律することに向けた各国の取組
―為替介入に対する対応
―国内の雇用及び賃金水準
3 International Union, United Automotive, Workers of America(UAW)全米自動車労働組合
[立場の理由]
・米国の労働者に真の利益を与え、国内生産を増加させ得る協定を作り出し、交渉する能力を米国交渉担当者が示さない限り、日本、メキシコ、カナダその他各国への参加国の拡大は時期尚早であり、懸念。
[一般的指摘・要望等]
・米国交渉者は、TPPによって既存の対日貿易赤字を悪化させたり、投資を促進させたり、失業を助長したり、賃金格差を拡大したりすることのないようにするべき。
・日本との経済関係の規模に鑑み、二国間の貿易問題はTPPの枠外で取り組まれることが望ましい。
[個別具体的指摘・要望等]
・日本の不公正な為替操作や、根深い非関税障壁により、深刻な二国間自動車貿易の赤字が引き起こされている。
・日本には自動車市場の開放に関する持続的かつ複数年にわたる実績の確立を要求すべき。
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投稿: 小浜 | 2013年3月20日 (水) 01時12分