日本の首相、戦争に備える
wsws.org
2013年3月5日
先週、日本の安倍晋三首相が、島を巡る中国との紛争で、自分の強硬な立場を正当化する為に、フォークランド戦争の例をあげたのは、新たな恐ろしい世界的紛争の断層線が、アジアでひかれつつあるということの身も凍るような警告だ。
安倍首相は、1982年、アルゼンチンに戦線布告する元イギリス首相マーガレット・サッチャーの冷笑的論拠の発言“国際法が力の行使に勝たなくてはならない”を引用した。彼女は、南大西洋にある大英帝国のささやかな名残を確保するため、イギリス軍を、双方の側で何百人もの命を失った血なまぐさい争いに派兵したのだ。
安倍首相の発言は、日本では尖閣、中国では釣魚として知られている東シナ海にある無人の岩だらけの複数の露頭を巡る支配権を守るため、彼の政権は中国と戦争をする用意があるという、まぎれもない宣言だ。
大変危険なことなのは明白だ。アルゼンチンとは違い、中国は大国で、核兵器を保有し、益々高度化しつつある大軍をもっている。日本と中国間のいかなる武力紛争も、手に負えない状況となり、 他の大国、特に、既に列島を巡る戦争で、東京を支持するつもりだと述べたアメリカ合州国を巻き込むようになりかねない。
これらの緊張をかき立てている主な責任は、2009年以来、潜在的な経済・軍事上のライバルとしての中国を弱体化させることを狙って、アジア中で、外交的、戦略的攻勢を展開しているhオバマ政権にある。オバマの“アジア回帰”が、アメリカの同盟諸国と戦略的パートナー達に、中国に対して、より強固な姿勢をとるよう元気づけ、朝鮮半島や、南シナ海の領海紛争や、国境を巡るインドと中国の間の未解決の紛争を含め、地域の多くの潜在的火種を煽ったのだ。
資本主義の世界的破綻の悪化が、この軍国主義の爆発を推進している。20年間、アメリカ帝国主義は、軍事力を利用して、衰退を埋め合わせようと、必死の試みを行っている。アジアへと焦点を移動することで、オバマは、核兵器保有国間の紛争を誘発する脅威をもたらし、計り知れない程リスクを高めたのだ。
右派国粋主義者の安倍首相は、その間に日本が世界第二位の経済大国の地位を中国に奪われた、20年間の経済停滞を終わらせることを目指して、同様な戦略を追求している。彼は経済的、軍事的手段の両方によって、日本帝国主義の利益を擁護できる“強い日本”を作ると固く決意している。
新たに選出された安倍政権は、戦後日本の“平和主義”憲法に拘束されない、軍強化の計画を素早く実施している。同時に、円安で、日本のライバルを犠牲にして輸出を増加させるという、アメリカ連邦準備金制度の“量的緩和”に似た積極的通貨政策を採用した。
安倍首相のフォークランド戦争への言及には、もう一つの不穏な警告が含まれている。南大西洋で戦争をするというサッチャーの決断は、イギリスの力を世界の舞台で示すことを狙っただけではなかった。彼女が後に“内部の敵”と述べるようになる、イギリス労働者階級にも向けられていたのだ。以前、彼女の市場原理志向の企みに対する労働者の抵抗を潰し損ねていた為、サッチャーは、労働者階級に対する正面攻撃に備えるべく、労働党の支持を得て、国粋主義と、好戦的愛国主義を煽り立てる為、フォークランド戦争を利用し、ついには、1984-85年、イギリス坑夫ストライキの敗北に終わった。
同様に、安倍首相の“強い経済”という野望は、日本の労働者階級の社会的立場に対する総攻撃を必要としているのだ。世界中の支配階級同様、日本の支配階級は、悪化する世界的な経済破綻の重荷を、海外のライバルと国内の労働者に負わせることを狙っている。既成政治勢力全てが固執している、日本の愛国主義と軍国主義の促進は、わずかに残された日本の“終身雇用”制度と、限定された福祉国家攻撃の為に必要な準備だ。
日本軍国主義の復活は、1930年代の戦前期と、歴史的に深く共鳴している。大恐慌の際、日本資本主義は、世界貿易の崩壊で、特に影響を受けやすかった。市場と原材料獲得を目指して、日本帝国主義は、1931年、満州を占領する為に戦争を始め、1937年には、中国本土に侵略した。国内では、軍国主義政権が、耐え難い社会条件に対する労働者階級のあらゆる抵抗を粉砕するための手段、警察国家体制を作り上げた。
日本のどの政党も、その代表をしていない、労働者と若者の間の、日本軍国主義に対する根深い敵意には、歴史的なルーツもある。選挙中、日本共産党を含め、全ての既成政治勢力は、なんらかの形で、日本帝国主義の尖閣列島領有の主張を支持し、安倍と右派である自由民主党が権力の座につくのを可能にしてしまった。
中国共産党政権は、経済危機と、国内で高まる社会的緊張から注意を逸らすため、有害な国粋主義をかき立てるという手段を用いている。昨年9月の尖閣/釣魚列島を“国有化する”という東京の決定に対応して、北京は、日本人と企業を攻撃した反日抗議運動に許可を与えた。中国マスコミは、次第に中国の軍事能力についてコメントし、日本との全面戦争の結果を憶測する専門家達が牛耳るようになっている。
少なからぬ政治評論家達が、東アジアにおける現在の緊張と、第一次世界大戦に至ったバルカン諸国での紛争との間の、不気味な相似に言及している。アジアなり、世界の他の場所なり、どこで引き起こされようと、第三次世界大戦に向かって押し流されているのは、資本主義の解決不能な矛盾の産物だ。一つは、世界経済と、時代に遅れた国民国家制度との間の矛盾、もう一つは、私有財産と、社会化された生産との間の矛盾だ。
戦争の惨害を終わらせることができる唯一の社会勢力は、歴史的に破綻した自由企業制度を終わらせるための統一闘争をおこなう労働者階級だ。日本と中国、そして世界中の労働者は、東シナ海のわずかな数の、荒涼とした岩だらけの小島を巡る紛争には何の関心もない。労働者達の未来は、ごく少数の裕福なエリートの利益ではなく、大多数の人間の社会的要求に合致するように組織された、世界的に計画される社会主義経済の樹立を目指す戦いにある。
Peter Symonds
記事原文のurl:www.wsws.org/en/articles/2013/03/05/pers-m05.html
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この記事、参勤交代前、対中国姿勢の異様に高揚したトーンが目立っている時期の話。
TPP力をいれて「交渉します」という垂れ流しに報道機関はいらない。大本営広報機関。既に決まったことには口をだせない。交渉できる機会は限られている。シンガポール・ラウンドでのスクープで明らか。もちろん、そのスクープ、大本営広報部は伝えない。
丸飲みするのを、そうでないがごとき、ポーズをとっているのみの茶番報道。大本営広報洗脳からの覚醒の為、是非こちらを。IWJが迫ったTPP問題
福島第一、電源停止・燃料プールの冷却装置停止。大変な緊急事態。TPP加盟やら、軍事費予算増加やら、原発再開やら、憲法破壊やら、オリンピック招致より、まずは今の原発事故対策の本格化・見える化が先だろう。もちろん、除染等ではなくて。
日本の支配階級、本当にオウムどころではない、異常なカルト集団。オウムとちがって、政・官・財・学・マスコミ・労の全支配機構集団が団結して仲間褒め。
参勤交代帰国以来、中国との紛争をあおる報道、心なしか減ったような気がする。大本営広報、真面目に見たり、読んだりしていないので、気のせいか?
フォークランドの話をしている暇があるなら、「戦争絶滅受合法案」をこそ導入しろ、と思ったものだ。この「戦争絶滅受合法案「犠牲のシステム福島・沖縄」の中にも再三でてくる。前世紀の始めデンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムが考えたもの。
戦争が開始されたら、10時間以内に、
次の順序で最前線に一兵卒として送り込まれる。
それは、下記の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従わせること。
第一 国家元首(君主または大統領)
第二 その男性親族で、16歳に達した者
第三 総理大臣、各国務大臣、並びに次官
第四 国会議員。ただし、戦争に反対の投票をした者は除く
第五 戦争に反対しなかった宗教界の指導者
原発も同じ。導入を決めた幹部連中こそ最前線に出るべき。大勲位氏を先頭に。
もちろん、自国民を平然と侵略戦争に投入し、軍人でない民間人ですら戦火にさらしてきた連中の末裔か、お仲間の権力者連中、そういう発想皆無。文字通り人を食い、殺して生きる人々。「わが国民を食らうサトゥルヌス」。そういう連中が4/28売国記念日を慶賀する。
殺されても、なぶられても、これから締め上げられるのをご存じなのか、そうでないのか知らないが、忠実に売国奴に投票する恐るべき人々が多数であるかぎり、地獄は続く。
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大東亜共栄圏思想と言うものはどういうものであったのか知りたくなって検索したところ、原田勝正という歴史学者の講演録が見つかった。
私は大東亜戦争を初めるに当たっては、その頃国民の間に大東亜共栄圏...... [続きを読む]
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メタボ・カモ様
興味深い書籍のご紹介ありがとうございます。
新自由主義といえばシカゴ・ボーイズでしょうか。80年代の南米大陸に猛威を振るった軍事独裁政権群は米国支援のもとで地下資源の略奪、民衆の富の搾取を行ってきましたね。またいろいろと教えてください。
投稿: 海坊主 | 2013年3月19日 (火) 22時30分
海坊主様
「新版悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環」内橋克人著の118ページに、「アルゼンチンの新自由主義改革の失敗」の項があります。その前の項は、ピノチェット。
北朝鮮の異様な行動も、夏の選挙で、自民、維新、みんなという傀儡政党が、多数派をとれるよう支援すべく、宗主国のご下命を受けた活動だろうと想像しています。
投稿: メタボ・カモ | 2013年3月19日 (火) 13時17分
AS様
おっしゃる通りだと思います。
大本営広報、余りに愚劣なので、テレビ・ニュースは極力見ず、新聞はページをめくるだけの生活をしている為に、自分の希望を投影してしまったようです。戦争・紛争に時事刻々と着実に進んでいる事態は代わらないでしょう。内政のデタラメさを転嫁する唯一の政策として。
投稿: メタボ・カモ | 2013年3月19日 (火) 13時13分
ブログ主様
尖閣問題に関する国営放送の報道、全く減っていません。
中国問題のニュースでさりげなく忍び込ませ「今日も中国の監視船が接続水域内に……」と繰り返しています。
投稿: AS | 2013年3月19日 (火) 12時27分
ブログ主様、いつも興味深い記事のご紹介ありがとうございます。
サッチャー時代の英国経済は低迷期に陥ってなかなか抜け出せない、という報道を目にした記憶があります。資本家階級の代理人だった彼女は緊縮財政策を推進し、国内の労働者階級への徹底的な攻撃を行ってきました。所得税、法人税を切り下げて消費税税率を上げるといった現在の日本と変わらない政策を強行することで失業者を大量発生させることになりました。さらに人頭税、という忌まわしい手段を導入しようとしたこともあったそうです。
為政者は国内の不満を何処に向けて現実から目を逸らそうとするのでしょうか。国外、外患です。でも紛争は相手があってのことです。もう一方の当事国だったアルゼンチンはどうであったでしょうか。実はアルゼンチンも民衆の不満をそらすためにフォークランドの領土問題をクローズアップさせていたのです。なんたる茶番。双方の為政者は自分たちへの不満を逸らすために紛争をでっちあげたのです。紛争の犠牲者は民衆の一員である一般兵士です。
東アジアの軍事的緊張は関係各国の為政者たち主演の演劇のようなものです。日本、中国、韓国、北朝鮮の民衆は各国の為政者に強い不満を感じています。このままでは東アジアを舞台とする仕組まれた紛争は必ず起こると私は思います。それは歴史が語ってきた通りです。でも、もしそれを回避出来るとするならば、民衆が政治を取り戻すことです。中国と北朝鮮の国家体制がそれを許さないとするならば、相手方となる日本と韓国の民衆が政治を取り戻さなければなりません。
ブログ主様が紹介された「犠牲のシステム福島・沖縄」は興味深く読みました。国家に犠牲を強いられている福島と沖縄は国家を批判する正当な権利があり、行政府及び他県は福島や沖縄を非難する資格がないと思いました。「戦争絶滅受合法案」は国際条約として世界中の国々が批准すべき法案ですね。「戦争がしたければやりたい奴同士が他人の居ない土地でご勝手に」ですね。
投稿: 海坊主 | 2013年3月19日 (火) 07時34分