行方不明の経済回復
Paul Craig Roberts
2013年3月1日
公式には、2009年6月以来 アメリカ経済は、2007年12月の不況から経済回復しつつあることになっている。だがこの回復、一体どこにあるのだろう? 私には見つけられないし、何百万人もの失業したアメリカ人も、そうだ。
景気回復は、実際よりも少なくされたインフレ指標で、値が小さめにされた公式実質GDP指標と、仕事を探すのをあきらめた求職者を計算に入れない為に、小さくなった失業率指標U.3に存在しているにすぎない。
他のデーターで経済回復を示すものはない。実際の小売売り上げも、住宅着工件数、消費意欲、就業者数、或いは平均週間収入も、経済回復を示してはいない。
連邦準備制度の通貨政策もそうではない。連邦準備制度の、マイナス金利を維持する為の債権購入という拡張的貨幣政策は、回復へ向かう中、3.5年も続いている。もちろん、連邦準備制度のマイナス金利の狙いは、経済を押し上げることではなく、“大きすぎて潰せない”銀行の帳簿の資産価値を押し上げることだ。
低金利は、退職者の預金口座、公社債投資信託や米長期国債の利子収入を犠牲にして、銀行のバランス・シート上の不動産担保デリバティブや他の債務に係る資産の価格を押し上げている。
回復はなく、アメリカ人の雇用機会もないのに、議会の共和党は、大企業が就労ビザで雇用できる外国人の人数を増やす法案を発案している。企業は十分に能力のあるアメリカ人を見つけることができないのだと主張している。これは絶えず聞かされ続けている最も見え透いた嘘の一つだ。
外国人雇用は、労働力に対する追加ではなく、置き換えだ。大企業は、アメリカ人従業員に外国人を教育訓練させ、それからアメリカ人従業員を解雇する。もし熟練従業員が不足していれば、レイオフなど無いだろう。更に、もし熟練者が不足していれば、給料は下がるのでなく、上がるだろうし、2011年にエンジニアリングの博士号を得て卒業した人々の36%が失業したままになってはいるまい。全米科学財団の報告書“アメリカの大学の学位取得者”によれば、エンジニアリング博士号をもった卒業生のわずか64%しか就職できていない。
長年にわたり、様々な機会に報告してきた通り、従事者雇用統計も、労働統計局の雇用予測も、大学卒業生の雇用機会を表してはいない。しかしそれでも、選挙キャンペーンへの献金と引き換えに、議会は、アメリカ企業がアメリカ人従業員を解雇する手助けをするのを止めようとはしない。
そう遠くない昔、アメリカの大企業が、従業員、顧客、納入業者、企業が立地しているコミュニティー、そして株主に対して、義務を負っていることを認めている時代があった。今日、彼等は株主に対する義務しか認めない。それ以外の全員が、利益を最大化し、株主のキャピタル・ゲインと幹部のボーナスを増やす為に犠牲にされている。
是が非でも利益にこだわることで、大企業はアメリカの消費者市場を破壊している。雇用を外国に移すと、人件費が下がり、利益は増えるが、国内消費者所得も引き下げるので、その企業の製品の国内市場も縮小する。しばらくの間は、消費者所得の減少は、消費者の借金で埋めることはできるが、消費者が債務限度に達すれば、売り上げは増え続けられない。雇用を外国に移した結果は、国内消費者市場の破壊だ。
現在、株式市場が高いのは、売り上げ収入拡大による利益のせいでなく、人件費削減によるものだ。
アメリカの経済政策は、本当の問題と、そうした問題の結果、つまりアメリカの莫大な財政赤字から、注意をそらせてきた。突つかれたい利益集団など存在しない為、1兆ドル、プラス毎年の財政赤字に議会は対処できず、その継続が、ドル崩壊とインフレの懸念を高めている。
ジョン・メイナード・ケインズが大昔に明らかにしている通り、緊縮政策で、GDPに対する負債の率を引き下げようとしても、現在のギリシャの様に、うまくは行かないのだ。
世界の国々の中でも、アメリカは特別な立場にある。アメリカには、政府赤字に資金提供するのに必要なお金を与える中央銀行があるだけではなく、そのお金、アメリカ・ドルは、あらゆる国々の間の国際勘定を清算するのに使われる世界の準備通貨でもあり、それゆえ、常に需要があるのだ。ドルは、こうして世界の国際取引通貨であり、また黒字分をアメリカ長期国債や、他のドル建て資産に投資する貿易黒字の国々にとって、価値の保存先にもなっている。
ドルに交換価値(ドルの外国通貨での値段)を与える、準備通貨という立場がなかったなら、連邦準備制度の長年の量的緩和で生み出されるドル量の莫大な増加は、ドルの交換価値低下を引き起し、利子を上げ、インフレ昂進を招いていただろう。私が政府で働いていた頃から、アメリカは輸出依存経済になっているが、輸出依存経済は、通貨が交換価値を失えば、国内インフレに見舞われやすいのだ。
要するに、大企業が利益にばかりこだわり、アメリカの所得を、アメリカ国民が消費する商品の製造やサービスと切り離してしまい、国内消費者市場を弱体化させ、究極的に破壊してしまったのだ。連邦準備制度が、愚かな規制撤廃によって、“大きすぎて潰せな”くしてしまった銀行の救済にばかりこだわることが、マイナス金利の債券市場バブルと、供給量の大幅な増大に並行して、ドル為替レートが低下しないという、ドル・バブルとを生み出した。大企業と連邦準備制度とが、労働の鞘取り(より安い外国労働力による、アメリカ労働力の置き換え)で得た利益と、連邦準備制度が彼等に提供しているお金で投機する銀行のおかげで、株式市場バブルを生み出したのだ。
この状況は維持困難だ。遅かれ早かれ、何かでこのバブルははじけるだろうし、その結果はすさまじいものになるだろう。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2013/03/01/the-missing-recovery-paul-craig-roberts-2/
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必読情報満載のブログ「カレイドスコープ」に既に同一文の翻訳が掲載されている。枯れ木も山の賑わいで拙訳を掲載する。後出し翻訳だが、先行翻訳を参考にさせて頂いたわけではない。翻訳を終えてから気がついた。知っていれば翻訳中止していたろう。
アベノミックスで、日本経済は、20年来年の不況から回復しつつある「ことになっている」。だがこの回復、一体どこにあるのだろう? 私には見つけられないし、何百万人もの失業した日本人も、そうだ。
大本営広報部、株の値上がり、輸出大企業のボーナス増を慶賀している。
株価表示板の前で値上がりを嬉しそうに語る皆様。満額ボーナスを家族サービスに使いたいとおっしゃる方が繰り返し報じられる。
小生、株値上がり、ボーナス増とはほとんど縁がない。上がる灯油や他の物価の影響は受けている。
「朝三暮四」という話を、高校漢文の教科書で読んで深遠な哲学に驚いた。
今の「朝三暮四」状況。アメが全員に行き渡るかのような幻想を振りまいて、参院選挙で、売国奴連中が大勝するための作戦だ。大勝した後で、牙をむく。嘆いてもあとの祭り。地獄への道をまっさかさまに落ちて行く。
この道は、いつかきた道。
必読書「新版悪夢のサイクル」ネオリベラリズム循環 内橋克人著 2009/3/10
72ページを引用させていただこう。
1990年代半ば以降の政策変更の中で、「規制緩和」「税制のフラット化」「資本行動の自由化」という三つの政策の変化が、日本社会における格差の拡大に大きな影響を及ぼしました。問題は、なぜ、年収600万円以下という日本の大多数(2006年現在で約八割)が、こうしたみずからの首をしめるような政策変更を受け入れたか、ということです。
そこにはさまざまな理由がありますが、主だった要因を挙げるならば、
一つには「『規制緩和』を戦後の官僚支配を打破する特効薬と錯覚したこと」、
二つめには、「学者をメンバーにいれた一見中立にみえる政府の審議会、あるいは首相の私的(!)諮問委員会の口あたりのいいキャッチフレーズにまどわされたこと」、
三つめには「これら審議会の意見を大きくアナウンスした大マスコミの存在」、
そして四つめには「小選挙区の導入」があげられるでしょう。
『規制緩和』を良いものと錯覚させられたのは、三つめの大マスコミによるものだ。
つまり、大マスコミと小選挙区が、日本の地獄スパイラルに大貢献しているわけだろう。
この威力、昨年末の衆議院選挙で、しっかり示された。
みんな、やら、維新やら、自民党右翼別動隊に過ぎない連中を、崩壊する民主党に代わって強力に推進した大マスコミの宣伝が功を奏して躍進した。
支配体制の中で、正式に大本営広報部として活動するマスコミの本質、ブログ『独りファシズム』の記事Night Porter にも、詳細に書かれている。
同じ条件は全くかわらず、むしろ大マスコミ・プロパガンダが一層強化されている現状では、参議院選挙の結果は見えている。千葉知事選が証明している。完全消滅すべき売国集団、自民、維新、公明、みんなが優勢。
一度没落の道を滑り落ち始めたら、地獄の底に落ち続けるのだろう。
まともな家、地方、会社、国を作り上げるのは、適切な計画と、長年の地道な努力が必要だが、小泉・竹中郵政破壊でみられるように、壊すのなら、誰でも短時間にできる。
明治維新、日清戦争、日露戦争、満州事変、真珠湾攻撃、一体どこの時点で、この国、完全植民地となる引き金を引いたのだろう。
TPP、増税、原発再稼働、憲法破壊、ショック・ドクトリン施策総動員体制。1%が、99%に戦争をしかけている。『ゆきひろ社会科日記』階級闘争である①も同じお考えだ。
歴史は繰り返す。何度目も悲劇。繰り返させる側から見れば、喜劇だろう。他国の富をまんまと収奪する連中から見れば。
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