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2013年3月13日 (水)

米国の狙いは日本に非関税施策を解除させること-米議会調査局文書(5)「日本のTPP参加可能性と、その意味あい」まとめ風

日本の環太平洋連携協定への参加可能性と、その意味あい

TPP交渉への日本参加は、アメリカの日本との通商と投資における機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって構想され、交渉されている
TPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本がTPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。

米議会図書館議会調査局文書「日本の環太平洋連携協定への参加可能性と、その意味あい」の、市場アクセスという項目に明記してある。

大本営広報部は、「関税の聖域、一部農産品除外の条件闘争」以外は絶対に報道しない取り決めがあるに違いない。テレビで、抗議デモを映しても、各地の農協の方が、米問題を主張するコメント風景しか流さない。
自民党内の調査会?での茶番大声論争を流し、党内は条件闘争でまとまったという。

そうではない。条件闘争では、根本的問題は全く解決しない。関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。

米議会図書館議会調査局2012年8月24日付け文書 「日本のTPPへの参加可能性と、その意味あい」
Japan's Possible Entry Into the Trans-Pacific Partnership and Its Implications
の部分翻訳

ここからpdfファイルをダウンロード可能。

なお、同じ性格の文書で、より新しいものに、米国議会図書館議会調査局「TPP交渉と議会にとっての問題点」がある。
The Trans-Pacific Partnership Negotiations and Issues for Congress
January 24, 2013

ごく一部、「日本」という項目のみ米国議会図書館議会調査局「TPP交渉と議会にとっての問題点」 部分訳として翻訳してある。

「日本のTPPへの参加可能性と、その意味あい」の内容は以下の通り

「アメリカのステークホルダーの意見」という未翻訳の項目、各界からコメントを求めた結果概略がある。外務省ウェブにある興味深いPDFと関連しているように思える。TPP 協定(日本との協議に関する米国政府意見募集の結果概要:主要団体の意見詳細)

要約(今回翻訳文を追加)
目次
はじめに(未翻訳)
TPPの概要(未翻訳)
アメリカ製自動車の市場アクセス
貿易関係の管理
残された課題とTPP
アメリカ牛肉の市場のアクセス
アメリカ製自動車の市場アクセス
保険、宅急便と、日本郵便
日本のTPPへの参加可能性と、その意味あい
アメリカの全体的目標
市場アクセス
ルールに基づく貿易の枠組みと、公平な紛争処理
TPPの強化
日本の狙い
日本政治とTPP
アメリカのステークホルダーの意見(未翻訳)
見通し、ありそうな結果と影響(未翻訳)

要約

2011年末、一年間内部で延々審議した後、日本政府は環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の可能性を検討することを決定した。TPPは少なくとも
11ヶ国-オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、アメリカ合州国と、ベトナムの間の
自由貿易協定 (FTA)となる予定だ。アメリカ合州国と、TPPパートナー諸国は、協定を
“貿易と投資を自由化し、新規の問題や伝統的な貿易問題や、21世紀の課題に対処する包括的な次世代の地域協定”として構想している。

議会はアメリカのTPP参加問題に対して、直接的な監督の役割を持っている。もしTPP
がアメリカ合州国に適用されるのであれば、議会は法律制定を承認する必要がある。既に、議員の中には、日本がTPPに参加することを認めるべきか否か、ま
たどのような条件で認めるかについて、議論に参加している人々もいる。プロセスが進行するにつれ、より多くの議員がそうする可能性がある。

日本の指導者達は、TPPについての最終判断をまだしてはいないが、メインのTPP交渉とは別に、9ヶ国のTPPパートナーのそれぞれと協議してき
ている。(カナダとメキシコは、 公式には協議に参加していない。) 執筆時点で、日本は6ヶ国との協議を終えており、その全てが日本の参加
を支持しており、その全てが既に日本との二国間
FTAを交渉してきたか、現在交渉過程にある。アメリカ合州国、オーストラリアと、ニュージーランドとの協議は継続中だ。オバマ政権は、もし、アメリカ合
州国に、日本のTPP参加を支持して欲しければ“頼醸成措置”として、日本が対処する必要がある三つの問題を明らかにしている。日本のアメリカ牛肉輸入制
限、デトロイトを本拠とするアメリカ・メーカーが製造した自動車の日本市場アクセス、そして国営の日本郵便の保険と宅急便子会社の優遇である。協議完了の
期限は設定されていない。

TPPは、オバマ政権の主要なアメリカ貿易政策イニシアティブであり、地域のルールと規範を形成する上で、より積極的な役割を演じることで、アメリ
カ外交政策の優先度をアジア太平洋地域に“重心を移す”という、政権の取り組みの核心である。アジア第二の規模、世界で第三位の経済であり、またグローバ
ルなサプライ/製造チェーンの主要リンクである為、日本の参加は地域の自由貿易協定としてのTPPの威信と実行可能性を強化する上で極めて重要である。

アメリカ合州国とともに、日本がTPPに加盟すれば、事実上の米日FTAということになろう。もし日本がアメリカ製品とサービスに対する市場アクセ
スにかかわる、積年の問題を解決できるのであれば、アメリカ実業界の大きな部分は、日本のTPP参加を支持する。しかしながら、デトロイトを本拠とするア
メリカ自動車業界は、日本のTPP交渉参加に強い反対を表明している。

TPP貿易交渉に参加すべきか否かという問題は、日本国内で、様々な注目や論議をひきおこした。参加への反対は、特に農業団体等の既得権益集団の間
で強く、与党も最大野党も分裂している。現職の野田佳彦首相は、晩夏か、初秋、いくつかの国内の優先問題を済ませた後に、日本の交渉参加をする決意だと、
多くの専門家は考えている。しかしながら、8月には、"早い時期"、恐らくは2013早々に議会選挙を行うと約束するよう主要野党が強いており、野田が権
力の座にいられる可能性は低い。野田首相の党、民主党は振るわない結果になり、恐らく首相の座を失うだろうと広く予想されている。最大野党は、ある種の例
外が認められない限りTPPに反対している。日本政治的不安定さを考えれば、たとえ日本が交渉参加に成功することに成功したにせよ、最終協定を承認する時
期となった際、東京の政権が、この反対を克服するのに十分強いかどうかは明らかではない。

日本のTPP交渉参加の見込みは、現時点では不明で、様々な要素に依存している。恐らく、最も重要な要素は、日本の政治指導者が、交渉を進めるか否
かについて、そして更に、参加の条件について、日本がTPPパートナーと合意できるのかどうかについて、政治的合意に至れるか否かである。2012年秋の
交渉に正式に参加するカナダとメキシコが加わったことは、この二国が日本に対するそれぞれの要求を持っている可能性がある為、交渉を複雑化させる可能性も
ある。

TPP問題は、アメリカ合州国と日本にとって、リスクと好機の両方である。一方で、もし成功すれば、二国に、積年の困難な問題に対処することを強い
て、関係をより上のレベルへと高めることを可能にすることで、安定してはいるものの、停滞している経済関係を再度活性化できる可能性がある。
一方、成功し損ねれば、内在する問題が、克服するには余りに根本的であることを示しかねず、
関係を後退させかねない。アメリカ合州国、および/あるいは、日本がより開かれた貿易関係に対する国内の反対に対処しそこねたことを表しかねない。


貿易関係の管理

長年にわたり、米日経済関係は、時には同盟の安定性を脅かす程にまで至る、様々な摩擦を経験してきた。第二次世界大戦後、長年、アメリカ合州国が、
日本との経済関係を支配していた。アメリカ合州国は、圧倒的な世界最大の経済であり、日本は安全保障をアメリカ合州国に依存していた。アメリカ合州国が議
題を設定し、この議題に上げられる問題は、アメリカ合州国への輸出、および/あるいは、アメリカの輸出と投資に対する障壁
を取り除くという、日本に対するアメリカの要求によって決められていた。

1960年代と、1970年代、主要問題は、高関税や、国境での制限を通して実施されていた、日本の他の保護貿易主義的経済政策とみなされるもので
あった。日本経済が次第に発展し、競争力を増すにつれ、関税および貿易に関する一般協定(GATT)、現在の世界貿易機構(WTO)、の他の加盟諸国と、
日本が関税引き下げを交渉した際に、表向きは保護貿易主義ではないが、貿易を制限するような形で適用され得る政府規制等の“国内”施策を含む非関税障壁
に、アメリカ合州国は焦点を当てた。ある種の施策はWTO協定の対象ではなく、それが非貿易的な機能である為、現在、貿易交渉中では容易には対処されずに
いる。そのような施策の例には下記のようなものがある。

    • 輸入車販売に対する差別と言われている自動車購入に対する国内税や他の規制
    • 特定の国内建設サービス企業をひいきする政府契約入札制度
    • その保護を意図して作られた小型店より、輸入製品を販売する可能性の高い大型小売店の開店を阻害する区画規制
    • その多くが輸入である、 新規で最先端の医薬品や医療機器の購入を阻害する政府の健康保険診療報酬支払い規制; そして
    • 半導体製造に対する政府助成金

これらの非関税障壁に対処するため、日本とアメリカ合州国は、主としてアメリカによる教唆により、政府対政府の経済関係を行う特別な二国間の枠組みと取り決めを導入した。これらの取り決めの中には下記がある。

    • 市場志向型分野別 (MOSS) 協議 1985年開始;
    • 構造障壁協議; (SII), 1989年3月開始;
    • 米日包括経済協議、1993年開始;
    • 日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく年次改革要望書(改革要望書)、1997年開始;
    • 成長のための日米経済パートナーシップ(経済パートナーシップ)2001年開始; および
    • 日米経済調和対話、2010年開始、現在二国間協議用の主要な二国間フォーラムとして機能中。

二国は、自動車と半導体を含む特定製品の日本の貿易慣行に関するアメリカの懸念に、日本が対処することに同意するという二国間の取り決めや覚書(MOU)も締結した。
こうした取り決め の手法は様々だった。しかしながら、これらは、いくつかの基本的特徴を共有している。これらは二国間のものだった。規制や他の基本的障壁に焦点を当てることで、米日貿易問題を解決するように設計されていた。そして、主にアメリカ合州国側が提案していた。しかしながら、それが対処すると期待された問題の多くが、そのまま残っている事実から判断して、これらの方策の効果は限定されていた。

残された課題とTPP

米日経済関係をいらだたせ続けてきた問題の多くが、TPPの枠内で対応可能かも知れない。アメリカの議員や他のステークホルダーは、もし解決ができれば、日本をTPPにとりこむことへの、アメリカの支持を強化しうる“信頼構築の施策”と見なすことができるであろう三点を特定している。問題点は以下の通り。アメリカ牛肉に対する日本の制限、デトロイトを本拠とするアメリカ自動車メーカーが製造した自動車の日本での市場アクセス、そして、国営の日本郵政の保険と宅急便子会社の優遇措置だ。

アメリカ牛肉の市場アクセス

2003年12月、ワシントン州で、牛海綿状脳症(BSE、いわゆる“狂牛病”)のアメリカ最初の事例が発見されたことに対応して、日本は、他の多
数の国々と共に、アメリカ牛肉輸入禁止を課した。2006年、多数の交渉後、日本は20カ月以下の牛の牛肉を認めるよう制限を緩和した。(韓国や台湾等、
他国の中には、30カ月以下の牛のアメリカ牛肉輸入を許可している)
アメリカ牛肉生産業者と一部の議員は、国際的監視機関が牛の年齢とは無関係にアメリカ牛肉は安全だと宣言しているので、日本は制限を完全に解除すべきだと
主張している。アメリカと日本の当局者間の交渉は、この問題を解決できていない。

2011年11月12日、ハワイ、ホノルルでのAPEC指導者フォーラム会合前の、オバマ大統領との会談で、野田首相は、日本の牛肉輸入規制を改訂し、アメリカ牛肉の市場アクセスを拡大する取り組みが進行中であることを示した。ホワイト・ハウスによれば、“大統領は、こうした初期対策を歓迎し、科学に基づく、この積年の問題を解決することの重要性に言及した。野田首相によって行われている迅速な対策に励まされる思いであり、 こうした構想で彼と密接に仕事をすることを期待している。”14
2011年11月17-18日の東京での日本の当局者との会合で、デメトリオス・マランティス米通商部(USTR)次席代表は、アメリカ牛肉に対する制限
解除の問題を話題にした。15
2011年12月、日本は、日本に輸出するアメリカ牛肉用の牛の最高年齢を20カ月から30カ月に上げるという目的で、BSEに関連する規制を見直していると発表した。

2012年4月24日に、アメリカ農務省(USDA)検査官が、中部カリフォルニアのレンダリング施設で、この病気のサンプリングをしたものの中で、牛のBSE症例を発見した。USDAは、 この牛は、人間の消費用に屠殺したものではないので“食品供給や、人間の健康にとって、決してリスクにはならない”と述べた。16
日本当局者は、最近BSEが発見されたが、アメリカ牛肉の輸出に対する政策は変えていないと発言した。17

アメリカ製自動車の市場アクセス

自動車と自動車部品関連の貿易と投資は、米日経済関係の中で、非常に微妙な問題であり続けてきた。問題の根は、1970年代末と、1980年代初期、主としてガソリン価格急速な高騰に対応して、アメリカ消費者の小型車需要が増加した結果、アメリカの日本製自動車輸入が急増したことにある。

一方、アメリカ製の自動車の需要は急落した。日本製の自動車輸入制限という形での、アメリカ自動車業界の圧力と、議会からの圧力に直面して、1981年に、レーガン政権は、自発的輸出制限に合意するよう、日本を説得した。日本の自動車会社は、制限に対応して、アメリカ合州国内に製造工場を建設し、高価値の乗用車を輸出することにした。アメリカのメーカーは、日本国内での外国製自動車販売と、アメリカ合州国で製造された日本車でのアメリカ製部品使用を制限する為、日本は様々な手段を使っていると主張した。これらの問題は、1990年代中、二国間交渉と合意の対象とされた。合意は、概して、政府規制が、日本でのアメリカ製自動車の販売を決して妨げないようにするという日本政府の約束と、アメリカ合州国で製造される自動車で、アメリカ製自動車部品の使用を増やすという日本メーカー側の自発的努力という形のものだった。アメリカ政府は、日本へのアメリカ製自動車の輸出促進プログラムを実施すると約束した。

デトロイトに本拠を置く三社の自動車メーカー、クライスラー、フォードと、ゼネラル・モーターズは、日本がTPPに参加する可能性に対し、日本政府の規制が、日本国内の自動車売り上げ中で、彼等が応分のシェアを得るのを妨げ続けていると非難している。彼等は日本の全自動車売り上げ中の、伝統的に小さな輸入車のシェア、約5%に触れている。対照的に、2010年の輸入は、アメリカでの軽自動車の売り上げの26%を占めている。18アメリカ・メーカーはまた、2010年の総売り上げ中の、アメリカ製自動車の0.2%という小さなシェアを指摘している。

とりわけ、アメリカ自動車メーカーは、安全規制と、車検規制と、そうしたものの進展と実施での透明性の欠如が、アメリカ製の車の輸入を妨げていると主張している。アメリカの自動車メーカーは、日本で、自分達の車を販売するディーラーを設立する障壁にも言及した。19
日本側の業界は、アメリカ・メーカーが、日本で需要がある小型エンジン車両を十分な量、製造していないのだと主張している。対照的に、ヨーロッパ・メーカーは、そうしたモデルを多く製造しており、2010年の日本国内販売で、彼らのシェアは、2.9%である。20

保険、宅急便と、日本郵便

日本は、アメリカ合州国に次いで、世界で二番目に大きい保険市場である。アメリカに本社を置く保険会社は、市場参入が困難であることに気がついた、特に、生命保険と年金保険。彼等は、日本の国内の保険市で大きなシェアを有する国営郵便制度の保険子会社、日本郵政保険に政府が与えている有利な規制の扱いを憂慮している。日本郵政は、他の業務からの収入で、保険業務を補助している。また、日本郵政の保険は、他の国内、外国、両方の民間保険会社に対するのと同じ規制を受けずにいる。同様に、アメリカの宅急便会社は、日本郵政の宅急便運送会社は、国有の親会社から補助を得ており、それが、競争上の不公平な優位性を与えていると非難している。

日本の環太平洋連携協定への参加可能性と、その意味あい

2007年10月1日、当時の小泉純一郎首相政権は、日本郵政の改革と民営化を導入し、彼の政権の主要目標とした。ブッシュ政権と多くのアメリカ企業、特に保険会社は、こうした改革を支持した。しかしながら、民主党が率いる後継政権は、改革を巻き返す措置を講じた。2012年3月12日、政府は規制の要求を緩和する法案を提出し、2012年4月27日、日本の議会が、法案を法律として成立させた。業界報告や他の意見によれば、法案は小泉政権が導入した改革を逆転するものだ。21 法案は、与党の民主党と、二大野党、自由民主党 (自民党)と公明党議員達による妥協パッケージだとされている。22

アメリカの全体的目標

日本のTPP参加の可能性は、様々なアメリカの貿易、外交政策目標に関わっている。アメリカ合州国は、2011年11月のTPP参加の可能性を追求するという野田首相の声明を積極的に歓迎した。しかしながら、USTR ロン・カークは下記のように明記している。交渉に参加するためには、日本は貿易自由化のTPPの高い水準に合致する用意ができていて、農業、サービスと、製造業に対する非関税施策を含む障壁について、アメリカ合州国が関心を持っている特定の問題に対処しなければならない。日本のTPPへの関心は、この構想の、この地域に対する経済的、戦略的重要性を実証している。23

市場アクセス

TPP交渉への日本参加は、アメリカの日本との通商と投資における機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって想定され、交渉されているTPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本がTPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。

ルールに基づく貿易の枠組みと、公平な紛争処理

アメリカ合州国と日本が過去に使ってきた二国間の枠組みの欠点の一つは、そこに正式な紛争処理機構がないことである。例えば、アメリカ製自動車と自動車部品の日本市場アクセス、半導体の日本の貿易慣習や、建設サービスの日本市場アクセスを含む1980年代と、1990年代の、多数の貿易紛争は、アメリカによる一方的な行動の脅しをともなう、全体的な関係をむしばみかねない、深刻な政治問題と化した。

紛争は通常、瀬戸際で解決されたが、日本の貿易慣習の意味ある変化や、対象になっているアメリカの製品輸出の大幅な増加をもたらさないことが多かった。TPPは、WTOを越えるが、問題解決において、1対1の対決の役割を小さくするよう、WTOで用いられているような、公平な複数メンバーの紛争調停機構を用いる可能性の高い、相互に合意した一連の規則を提供することとなろう。

TPPの強化

アメリカから見て、日本は、TPPの経済的重要性を増すだろう。TPP(オリジナルの9ヶ国プラス、カナダとメキシコ)がカバーするアメリカ商品の貿易額を、2011年データに基づく、34%から、39%に増大するだろう、また、TPP内でのサービス貿易と、外国投資活動も増大するだろう。(図1参照) 日本は、TPP加盟国(カナダとメキシコを含む)占める世界経済でのシェアを、約30%から、38%に増大させるだろう。

日本の参加は、TPP内の多くの問題で、アメリカの立場を強化する可能性がある。アメリカ合州国と日本は、以下を含む目標を共有している。知的財産権の強力な保護、外国投資の保護、貿易を促進する明確な原産地規則、サービスの市場アクセス。

日本の狙い

日本のTPP交渉参加の背後にある根底的な論拠は、二十年間、相対的に伸び悩んだ後、中国や、韓国の様なミドル・パワーと比較して、日本の経済的、政治的影響力が低下しているという、多くの日本人の間で増大しつつある感覚だ。急速に高齢化し、次第に減少しつつある日本の人口のせいで、生活水準を上げるのではなくとも、維持する為には、成長の新たな源を開発する必要があるという感覚が、多くの人々の間で強くなった。日本のTPP支持派は、消極的なものもあれば、積極的なものもある、様々な重なり合った理由から、交渉参加を訴えている。

    • 特に急速に成長しつつあるアジア太平洋地域に日本の輸出を拡大することで、日本の成長を促進し、日本の空洞化を、つまり他の国々への日本企業移転防ぎたいという切望。WTOの貿易交渉“ドーハ・ラウンド”の10年間にわたる行き詰まり、プラス、過去十年間の二国間、多国間FTA爆発的増加により、日本も慎重にFTA締結を目指すようになった。27
      先に触れた通り、日本はアジアのグローバル・サプライ・チェーン中の重要なリンクであり、TPPはサプライ・チェーン内の運用を促進する可能性がある。逆に、より大きな環太平洋経済統合は、こうした製造・輸出ネットワークにおける日本の立場をむしばむ可能性がある。28
    • 日本がFTA交渉で立ち遅れているという感覚。日本は、13のFTA、経済連携協定(EPA)と呼ばれるものを締結しているが、主要経済大国とのものは、恐らく、2011年の日印EPAという例外の他にはなく、そうしたものの多くは、農産物貿易を除外している。(表3を参照)
      対照的に、多くの日本人が、今では自らを比較するようになっている国の韓国は、アメリカ合州国や、欧州連合(EU)とFTAを締結し、2012年には、中国と交渉を開始した。もし日本が、FTA競争に遅れをとれば、日本の企業は競争上、不利なまま取り残されてしまうという感覚だ。29
      日本は遅ればせながら、EUとのFTA交渉を開始するかどうか論議し、中国と韓国との三国間FTA交渉を開始することに合意して、格差を埋めようとしてきた。実際、この二つの交渉-とりわけ“CJK”(中国-日本-韓国) FTA交渉を、TPP参加の代替案と見る日本人もいる。
    • TPP参加は、日本国内の経済改革を推進するのに役立つという考え方。長年にわたり、多くの専門家や政府幹部は、経済を刺激するには、日本には構造改革が必要だと主張してきた。多くの日本人評論家や当局幹部は、改革に対する既得権益からの反対を克服する一つの方法は、(真の狙いを隠す)政治的大義名分として、改革志向の集団や個人の助けになる、TPPの様に、包括的で高い水準のFTA交渉を利用することだと考えている。また、TPP交渉は、交渉のパートナー達から譲歩を得ることで、日本が貿易構造改革の恩恵を得られるようにする可能性がある。
    • TPP加盟は、日本のアジアにおける戦略的な立場に役立つという希望。TPP加盟は、アジア地域内と周辺のミドル・パワーと東京との関係を強化することで、米日同盟を補強するという近年の日本の動きを補完する。この活動の背後にあるのは、中国の勃興が日本の影響力を衰退させており、いずれは安全保障と経済的利を脅かしかねないという懸念だ。

日本がTPP交渉に参加するかどうかを巡る交渉事前の時点では、日本政府が、アメリカ合州国に、何らかの譲歩を要求した様には見えない。日本が交渉
に入るのを、政治的により容易にする為、恐らくアメリカ合州国が日本に提供することができるものがいくつかありそうだ。こうしたものの中で、最も重要なも
のは、最終的な協定では、米等いくつかの例外が認めらるだろう、という理解だろう。そのような約束は、全ての項目が“検討対象だ”というTPPの運用前提
の違反とはなろうが、多くの人々が究極的には、最終的な協定は、少なくとも少数の“聖域”を残すことを認めるだろうと考えている。

日本政治とTPP

日本がTPP交渉に参加すべきか否かという問題は、一面記事となることが多く、参加可能性についての真面目な議論が、2009年と2010年に始まって以来、大きな政治論争がまきおこった。与党の民主党も、最大野党の自由民主党も、TPP問題を巡って党内は分裂している。頻繁な首相交替で、現首相は5年で6人目で、二党を超えたTPP賛成派を団結させるような指導力を生み出し損ねている。こうした政治的弱さが、首相の権力の伝統的、制度的な制限を増幅させ、本気の利益集団が政府の行動を効果的に止める可能性を高めている。その結果、日本の指導者は、交渉に参加するつもりだと断固発言したり、TPPに伴って起きる変化に対する反対を乗り越える政治力があるのを行動で示したりもしていない。30

大半の観測筋は、野田首相が日本をTPP交渉に参加させたがっていると考えている。とはいえ、2011年9月の首相就任以来、野田首相の長期在任は、ほとんど常に疑問視されており、彼がTPP問題で攻勢にでるのを困難にしている。更に、野田首相は、消費税増税法の成立、2011年3月11日の地震と津波の余波を受けた経済再建と改革の推進、新たな日本のエネルギー供給対策を含め、他の項目を優先リストの上位においている。

2012年の大半、野田首相の戦略は、日本がTPP交渉に参加する為に必要な支持を取り付ける前に、これら問題全てではないにせよ、大半を解決しようとしているように見えてた。TPPを無理押しすれば、野田民主党から離党者を出し、首相を選出する衆議院での多数派の立場を失いかねない。2012年8月、自民党とその盟党が、野田首相に、消費税増税案成立と引き換えに、衆議院選挙を約束するよう強いて、2012年中にTPPに参加する可能性は伸びてしまった。大半の専門家は、選挙は2013年早くに行われると予想している。民主党は振るわない結果になり、恐らく首相の座を失うだろうと広く予想されている。自民党は公式に、いくつかの例外を認めないのであれば、協定への参加には反対だとしていた。31

日本の強力な農業団体、とりわけ全国規模の農業組合組織JAは、事実上、日本が過去40-50年間、求めてきた全ての貿易自由化協定についてそうであったように、TPP加盟に対する最も強い反対勢力だ。日本の農業部門は、農村地域が国会議員の人数が多すぎる事実に乗じている。その結果、農業ロビーは、与党の民主党と、自民党の両方に大きな影響力を持ち、農業部門が恩恵を受ける一連の政策を支持してきた。例えば、多くの農産品は、高い関税障壁の背後
で保護されて続けている。(表4を参照)
更に、他の様々な政策が、日本の農業が、益々高齢化する兼業農家に担われ、他の大半の国々の農業と比較して、一般に生産性が低い小規模のままでいられるよう保証している。日本政府は、農業世帯への直接収入として、毎年約1兆円(約120億ドル)支払っている。32
TPP参加に対する反対をなだめる取り組みの一環として計画された、2011年秋、野田政権は農業改革政策を発表したが、日本農業政策専門家オーレリア・ジョージ・マルガンによれば、わずかな暫定対策を越えるものではないという。33

JAは他の様々な有力な利益団体と連携して、積極的なTPP加盟反対のキャンペーンを行っている。こうした他の組織の中で最も重要なのは、TPPは薬品と医療機器に対し、より高い費用の支払いを強いるので、日本の国民皆保険制度を消滅はさせないにせよ、弱体化させると主張している日本医師会かも知れない。多くの専門家は、日本の伝統的農業利益団体、医療ロビーや他のTPP反対勢力が、日本国内でのTPP議論をうまく支配したと主張している。彼等は“TPPを慎重に考える会”に参加している約100人の民主党議員集団を含め多数の議員の支持を得ている。TPP反対論者の多くの主張の中には、アメリカ合州国が、野田政権に交渉参加を検討するよう強いているというものがある。

松岡正剛の千夜千冊『グローバリズムという妄想』記事を拝読すると、まるでTPP詐欺予告。

Globalismjg_2

一番ぴったりの項目をコピーさせていただく。太字は小生が加工。

(4)グローバル資本主義の生みの親は、どう見てもアングロサクソンによるものだ。アングロサクソンは「合意」のための「契約」が大好きな民族だから、その合意と契約による経済的戦略を非アングロサクソン型の国々に認めさせるためには、どんな会議や折衝も辞さない。その象徴的な例が、たとえば1985年のプラザ合意だった。
 こういう合意と契約が、各国に押しつけがましい構造改革を迫るのは当然である。ニュージーランドやメキシコや日本が、いっときではあれそのシナリオに屈服しようとしたのは、不幸というしかない。

固有名詞と年号を入れ換えれば、現状そのまま。

グローバル資本主義の生みの親は、どう見てもアメリカによるものだ。アメリカは「合意」のための「契約」が大好きな民族だから、その合意と契約による経済的戦略を非アングロサクソン型の国々に認めさせるためには、どんな会議や折衝も辞さない。その象徴的な例が、たとえば2013年のTPPだ。
 こういう合意と契約が、各国に押しつけがましい構造改革を迫るのは当然である。ニュージーランドやメキシコや日本が、そのシナリオに屈服しようとしているのは、不幸というしかない

「Brezza di Lago」『グローバリズムという妄想』ジョン・グレイ 2012/12/21はTPPにも言及しておられる詳細な紹介。

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