パウェル国連演説から十年、ベテラン連中、更なる流血の準備完了
Norman Solomon
2013年2月6日
2003年2月5日、国務長官コリン・パウェルが国連安全保障理事会で話した際、アメリカ合州国の無数のジャーナリスト連中は、サダム・フセインのイラクが大量破壊兵器を所有しているという主張の仕方の素晴らしさを褒めそやした。この演説が後に悪名高いものとなったという事実とて、戦争を始める過程で、真実がどれほど簡単に、どうでもよいことにされてしまうかということを覆い隠すことはできない。
大虐殺をもたらした破廉恥なごまかしの歴史的証しであるパウェル演説から10年後、当時の熱狂的大絶賛の凄さを忘れてしまったのかも知れない。当時、偉大なアメリカ新聞とされるものも含め、アメリカ主流マスコミ世界は、へつらいの称賛で満ちあふれていた。
ニューヨーク・タイムズは、パウェルが“善と悪との戦いという黙示録的なものの援用を省き、フセイン政権に対する、慎重な事実に基づく反論を作り上げることに焦点を絞ったがゆえに、一層説得力があった”と社説で論じた。ワシントン・ポストは、更に戦争に夢中で、論説に“反論の余地なし”と見出しを付け、パウェルの国連プレゼン後は“イラクが大量破壊兵器を所有していることを疑うなど到底想像できない”と主張した。
ところが、パウェルの国連演説に基本的欠陥はたっぷりあった。盗聴した電話会話の偏った翻訳は、悪意あるものの描写となった。ぼけた監視写真の解釈は、最悪をでっち上げるよう誇張された。都合の良いものだけを選んだ諜報情報の要約は、イラクはもはやWMDを所有していないという証拠を迂回していた。ウランを探し求めるイラクに関する大々的に宣伝された文書は偽物だった。
アメリカの特権を巡る前提も、ほとんど問題にされないままだった。パウェルの警告に対し、アメリカが率いるイラク侵略を承認し損ねれば、国連安全保障理事会が“見当違いになってしまう危険性”があり、アメリカ・マスコミの追従は、ワシントンの願望に屈することでのみ、国際連合は“妥当”な存在になれる、という考え方を奉じていた。仕立てられた諜報情報と地政学的傲慢さの組み合わせが、国内の熱狂的評価を実現させ、やがて起きることのお膳立てをした。
侵略はパウェルの国際連合での名演技から6週間後に始まった。間もなくイラク大量破壊兵器捜査は本格化した。何も見つからなかった。2004年1月、パウェルの国連演説から11カ月後、カーネギー国際平和基金が、ブッシュ政権幹部が“イラクのWMDと弾道ミサイル計画の脅威を組織的に偽って伝えたと結論する報告書を公表した。”
風の中でねじれていたのは、その中で“控えめな見積もり”をしたパウェルの対国連安全保障理事会演説だ。イラクには“100から 500トンの化学兵器用薬物の備蓄がある。”国務大臣はこう宣言した。“サダム・フセインが生物兵器と、素早く更に大量製造する能力を有していることは疑いようがない。”
演説から19カ月後、2004年9月中旬、パウェルは、簡潔な公的発言をした。“いかなる備蓄も見つけられる可能性はないだろうとと思う”と言ったのだ。しかし、どのような極めて慎重な譲歩も、イラクで続く流血の惨事を和らげることはできない。
十年前、政治的演出技法で繰り返し使われるものの中で、コリン・パウェルは主役を演じた。脚本は様々だが、似たようなドラマが様々な規模で演じられている。透ける様なカーテンの背後で戦争の意思決定に関与している高官連中は民主主義を軽んじている。戦争の知恵に影響を与える決定的重要情報は、大衆にとって、不明瞭か見えないままだ。
マスコミと連邦議会の有力者や、さほど有力でない連中の間では、戦争に対する大統領の勢いに従うというのが、未だに基本的な立場だ。公的な率直さや政策への内省は不足したままなのだ。
新国務長官ジョン・ケリーは、パウェルが国連安全保障理事会に行くほぼ四カ月前、前任者ヒラリー・クリントン同様、上院でイラク戦争決議に賛成していた。決定的に重要な準備段階の月々、ケリー上院議員は侵略への熱烈な支持を見せようと苦心していた。2002年10月始め、若い士官候補生の聴衆が画面に一杯の、シタデル士官学校からの生放送で、MSNBC番組“ハードボール(真剣勝負の意)”に一時間出演してケリーは言った。“私は前進する覚悟がある。サダム・フセインが危険であることを国民は理解していると思う。”
以来ケリーは、イラクが実際には大量破壊兵器を持っていないと知っていたとしても、戦争決議に賛成しただろうと公的に語っている。しかし上院でケリーは、なぜサダム・フセインが“大半の国々は試みようとさえしないのに、核兵器を開発しようとしているのか”知りたいと大げさな前口上を言って、戦争賛成票を投じた。上院議員は“諜報情報によれば、イラクには化学兵器と生物兵器がある”と強調した。
パウェルが、このテーマを国際連合で高らかに語ってから数カ月後、後のアメリカ国連大使スーザン・ライスによる発言を含め、推薦の言葉がどっと溢れた。“イラクがこうした兵器を所有しており、それを隠していることを彼は証明したと思うし、情報に通じた多くの人々がこれを疑うだろうとは思わない。”
一方、ワシントン・ポストの“反論の余地なし”という見出しの論説を載せた版でも、見開きページの投書欄は、それぞれ満場一致で賛成していた。
ポストのコラムニストを長らくつとめているリチャード・コーヘンは、パウェルの疑う余地のない信憑性を以下の言葉で証言した。“彼が国際連合に提示した証拠は、あるものは間接的に、あるものは実に骨まで凍り付くような詳細で、イラクが大量破壊兵器について説明していないのみならず、依然それを保持しているのが疑いようもないことを、をあらゆる人々に証明した。ちがう結論を出すのは、馬鹿者かフランス人だけだろう。”
ほんのわずか離れた所で、もう一人の立派な評論家も弁舌を振るっている。パウェルは“昨日、イラクの秘密兵器とテロ計画についての得力のある詳細な精査を世界に提示する”ことに成功した、とポスト紙の外交政策専門家ジム・ホーグランドは書いていた。彼はこう結論づけている。“ブッシュ政権は、証拠を挙げて主張の正しさを説明することができていないと言い続ける為には、コリン・パウェルは、彼が行った最も深刻な発言で、嘘をついていた、あるいはでっちあげられた証拠に騙されていた、と信じなければならない。私は信じない。読者も信じるべきではない。”
現代に早送りしてみよう。リチャード・コーヘンとジム・ホーグランドは、イランについて一体どういう記事を書いているだろう?
2012年2月6日、イラクが大量破壊兵器を所有していることを疑うのは“馬鹿者だけ”だと宣言してからぴったり9年後、コーヘンのコラムはきっぱり書いている。“究極的解決策はイランの体制転覆だ。”四カ月前、コーヘンは“オバマ大統領の、核兵器は許さないという、越えてはならない一線を越える前に、まだイランには引き下がる時間がある。この戦争はまだ機が熟していない。”と述べてコラムを締めくくっていた。まだだ。
ホーグランドは、コリン・パウェルの“イラク秘密兵器についての説得力ある詳細な精査”を信じるべきだと読者達に説いた十年後、イランに対する彼の我慢も限界であることを明らかにしている。ホーグランドは5週間前に書いている。“最近までは、イランと平和的な解決に至るための時間はあるというオバマ大統領の主張に、さほど違和感が無かった”ホーグランドのコラムは、対イラン軍事攻撃は“世界にとって破滅的な政治的・経済的結果を招く恐れがある”ので、そういうものが必要になる前に、そのような攻撃の必要性を回避するよう外交努力を試みるべきだとまで言っている。
戦争を巡る、主要な論説と政策決定の様相も、熱望から不承不承までと様々だ。戦争の為のプロパガンダ下準備も、戦争そのもの同様に様々だ。それでも、そういうプロパガンダは、どのスタイルも皆欺瞞に依存しており、あらゆる戦争は言語に絶する恐怖だ。
次から次の戦争へと、不気味な便乗を続けて来たアメリカのマスコミ支配層は、次の戦争でも役に立てる。現在のアメリカ国連大使もそうだ。新しい国務大臣もそうだ。連中は血まみれのベテランだ。連中はこりごりなどしていない。
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以前翻訳した記事「ハワード・ジン「歴史の効用とテロリズムに対する戦争」を語る」から、この顛末についてのハワード・ジンの言葉を引用しておこう。
ジャーナリスト達はI・F・ストーンからは学ばないのでしょうか?「ひとつだけ覚えておくように」と彼はジャーナリズムを勉強している若者に言いました。「ひとつだけ覚えておくように。政府は嘘をつくものです。」ところがマスコミはそれには注意を払わなかったのでしょう。マスコミは支持したのです。彼らは大量破壊兵器というアイデアを喜んで受け入れたのです。覚えておいででしょう。コーリン・パウエルがイラク戦争開始の直前に国連に登場し、彼によればイラクが所有するのだといううんざりするほど大量の武器を国連で説明し、大変な詳細まであげたのです。この弾筒がいくつあるか、これが何トンあるか、云々と。そして翌日、新聞報道は称賛で輝いていました。彼らは、質問してみるという、自分たちの仕事をしなかったのです。彼らは尋ねるという自分たちの仕事をしなかったのです。「どこに?あなたの証拠は何ですか?どこからそうした諜報情報を入手したのですか?誰と話をしましたか?あなたの情報源は何ですか?」
イラク侵略から10年。過去の過ちを反省し、現在の問題を指摘する記事を書く人がいる。一方この国では出鱈目を言うと人気者となり、長期政権を維持し、国を破壊できて、反省など決して要求されず、人気者のまま。
大量破壊兵器が見つからないからといって、どうして大量破壊兵器がないといえよう。
今イラクのどこが非戦闘地域で、どこが戦闘地域か、そんなの私に聞かれたって分かるわけがないじゃないですか!
新刊の孫崎享著『これから世界はどうなるか-米国衰退と日本』ちくま新書、36-42ページ、この話題を扱っている。福島原発事故時の東大話法教授達と同様、当時も二人の東大教授が、アメリカ支持のとんでも発言。42ページの孫崎氏の文章。
しかし日本は変わった国です。間違ったことを唱えていた人々がますます大学や学界、言論界で幅をきかせていくことになります。
日本社会で求められるのは、学者であれ、官僚であれ、真実を追求することではありません。大勢に乗る術です。権力に迎合する術です。
そう。この属国では、お役所も、おざなり報告でお茶をにごして済む。デタラメ学者も首相も何の批判もうけず、ますます隆盛。孫崎氏の新刊、原発、増税、ミサイル防衛、米軍駐留や、TPPについての詭弁にも触れている。
自民、公明、異神、たまたまテレビで見た国会討論、質問する方も応える方も出鱈目。共産党笠井議員によるアホノミクス追求問答以前の質疑、聞いているだけで腹がたつものがほとんど。全く理由無く、TPP加盟を言いたてる、やつらの党やら異神。一体どこの国の代表だろう?
今朝の新聞、引退される宗主国高官様による、根拠・理由説明皆無のTPP加盟強要。
- 福島原発の現状、
- 放射能拡散や、
- オスプレイ問題は報道管制する一方、
- PM2.5と
- 照準用レーダー照射の話題ばかり。
この属国の害毒自体、もはや北朝鮮そのものを越える。
きわめつけは、
経産相、TPP協議へ渡米…首相訪問前に見極め、という大法螺。
属国民をたぶらかす為の、単なるセレモニー渡米。
「国益を確保できて『聖域なき関税撤廃』ではない、ということにするための。
自民党、これまで国民が感動するような、宗主国との協議結果を出したことがあるだろうか?一度もないだろう。
彼等がすること、ことごとく、宗主国支配層に役立ち、自分たちがおこぼれを頂ける制度を強化するものにすぎなかった。(と、『原発洗脳』を読んで改めて思う。)
TPP、名著『拒否できない日本』で暴かれた「年次改革要望書」の集大成にすぎまい。
毎年考えださなくとも、思いついたことを、いつでも押しつけ、脅迫できる、ビンの中に永久属国として日本を閉じ込めるのに究極的効果がある魔法の呪文。安保条約を補完する、宗主国支配層にとって、夢の日本改造条約。
敗戦から六十余年、属国のベテラン連中とマスコミ、更なる苛斂誅求と流血の準備完了。 連中はこりごりなどしていない。
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