アフガニスタン: 敗北の中の勝利
Eric Walberg
Al-Jazeerah, CCUN
2011年7月4日
ベトナムとアフガニスタンの間には、多くの類似点がある。最近のアメリカの市長達による「終結を早める努力を支持する」決議と、軍隊が撤退するというオバマ声明は、あらためて思い起こさせてくれるものではあるが、それが語っている話は、厳しいものだ。
バルチモアで、全米の市長達が議論し、年次大会で、「終結を早める努力を支持する」決議を採択した。ベトナム戦争時代の1971年に、同様の決議を採択して以来、戦争に対して、態度を明確にしたのは初めてのことだ。反戦決議は、TVニュースにさえなったが、ニュースは、大多数のアメリカ人が、長年、アメリカの違法な戦争を終わらせたがっているという事実を軽視していた。
40年前、ベトナム戦争時代に始めて政治体験をした人々にとって、郷愁で一杯となる瞬間ではあっても、それから40年後の一般教書演説を評価するのは、到底無理な話だ。リンドン・B・ジョンソン大統領の“貧困撲滅運動(貧困に対する戦い)”は“対テロ戦争”にとって変わられた。今日、アメリカには黒人大統領がいるが、不景気に陥っており、生活水準は下落し、インフラは崩壊し、公民権は侵害されるばかりだ。
ユダヤ系アメリカ人は、はなやかさがより衰え、より無力な、現代の反戦運動の中で、不可欠な部分ではあるが、かつての軍人支持者達とは違って、戦争支持の運動は、声高な親イスラエルだ。これは、イスラエルは、もはや単なる腕白な、パレスチナ人の土地の一時的占領者ではなく、アメリカの最も献身的な協力者で、それ自体、尊敬されている(というより、むしろ恐れられている)帝国主義者で、中東におけるアメリカの戦争を画策する上での中心的存在である新時代の反映だ。
市長達が果てしない戦争を止めるよう呼びかけたのと同じ頃、既に三ヶ月目に入った、宣戦布告なしの新たな対リビア戦争で、議会はオバマを非難したものの、資金支出を拒否するまではしていない。市長決議、国会決議、いずれも有効ではなかった。しかし、将軍達がうるさく付きまとうので、抜け目のないオバマは、この二つの抗議行動を、自らの背後を守るのに利用して、今年末までに撤退させる10,000人を含め、2012年9月までに、33,000人の兵士を、アフガニスタンから撤退させる計画を発表した。“アメリカは、国内での国造りに力を注ぐ頃合いだ。”
オバマの発表は、ベトナム戦争とのもう一つの類似点を想起させる。1972年の大統領再選キャンペーン中のニクソン声明“和平は目前だ”で、彼は、国民が二期目も大統領に選んでくれれば、敵と交渉した後、戦争を段階的に縮小するつもりだと言った。1972年、彼は歴代アメリカ大統領の中でも最大の得票で勝利した。選挙に勝利した後、カルザイ(失礼、チューとキだ)に、タリバン(失礼、共産主義者だ)との取引に合意するよう説得に成功し、その結果、1975年の印象的な、ヘリコプターを使った在サイゴン・アメリカ大使館撤退に至り、ベトナムを、アメリカ人占領者からとうとう解放したのだ。美しい“計画”ではなかったが、ともかく機能した。
1960年代末期には、大多数のアメリカ人が、ベトナムを共産主義者に“明け渡す”リスクを冒しても、東南アジアでの戦争反対へと変わっていたのと同様、現在56パーセントのアメリカ人が、アフガニスタンからの即時撤退を望んでいるが、56パーセントは、安定した政府はできず、タリバンが権力に復帰しかねないと予想している。しかし、40年前と同様、アメリカ人は関心を失っている。
類似は、完璧ではない。オバマは、将軍達が同意さえしていれば、2009年にアフガニスタンから撤退していただろう。“オバマは、実質的に、勝利は不可能だということを証明するためだけに、この18カ月間の増派をせざるを得なかったのだ”ボブ・ウッドワードは、オバマの戦争側近の言葉を引用している。予想通り、増派は驚くほどの失敗で、無防備な標的を増派したようなものだった。スタンリー・マクリスタル司令官は、昨年、面目を失って解任され、彼同様に意欲に満ちた後継者デービッド・ペトレイアスは、CIAへと追いやられ、隠密作戦のみで戦争を継続するようにさせられた。残された将軍達は怒り狂ってはいるものの、平静を装っており、ヒラリーは、タリバンに“働きかける”と語り、彼らの“心”を獲得することを期待しているのは確実だ。
オバマは、彼が龍を退治し、寺院内から両替商を追い出し、地に平和をもたらしてくれることを期待していた連中を失望させてはいても、それでもなお、この狡猾な政治家は、先輩のニクソンにも匹敵する。ニクソン同様、彼もふんぎりをつけるべき時期であることを充分承知しており、観客を沸かすための演技をしたのだ。“我々は、強い立場から、この縮小を開始する”彼はアメリカ人に厳かに語った。この演技と、ビン・ラディン暗殺で、二期目も、ほぼ確実に再選されるだろう。
多国籍軍仲間の離脱が、昨年のオランダから始まり、最終期限 (これも実は、選挙戦略と、アメリカのごり押し次第で、変わるのだが)を設定した、カナダ、ドイツとイタリアが続いている以上、縮小は決して早過ぎることはない。イギリスは既に派遣部隊を削減しており、喜んだフランス大統領ニコラ・サルコジは、フランス軍は来年夏までに帰国すると即座に宣言した。
“戦争に負けているのだ。タリバンに働きかけているのは、決して‘強い立場’の証明ではなく、アメリカの弱さの明らかな兆しだ”オバマが厄介な問題を、巧みに処理していることを認めながら、解説者のボリス・ヴォルコンスキーは、そう書いている。彼はオバマ演説を“現実の明敏な認識”と呼んでいる。実際、オバマに対する唯一の公的批判は、ジョン・ マケイン上院議員のような常軌を逸した連中による、“ボロボロになった敵”を最終的に打ち破れる、アフガニスタン駐留軍司令官達の能力を、オバマは否定しているというものだけだ。ハミド・カルザイ大統領は、アメリカ軍が撤退するという声明を、“アフガニスタンにとって幸福の瞬間”だと表現した。
ベトナムとアフガニスタンの大きな違いの一つは、撤退後もアフガニスタンに基地を維持する計画だ。アフガニスタンの隣人、ロシア(ほぼ隣人)、中国、イラン、パキスタン、カーブルの傀儡政権さえも、そんなことにはさせないと誓っている。まるでタイミングを見計らったかのように、今週、イラン大統領マフムード・アフマディネジャドは、カルザイとパキスタン大統領アースィフ・アリー・ザルダーリーを、対テロ会議と、一対一の対話のためテヘランに招待した。アフガニスタンに対するアメリカの計画とは別に、ザルダーリーの話は、アメリカが強く反対している、イラン-パキスタン石油“平和パイプライン”プロジェクトの完成に関連していた。しかし、アメリカとて、この友情構築に驚くべきことは全くない。増派とビン・ラディン暗殺のマイナス面は、アメリカの徹底的包囲から、パキスタンが、とうとう何の弁解もせずに抜け出せることだ。
カルザイは、予兆に気づきながら、更に今後数年、生き延びたがっており、憎まれているアメリカ人に、とって代わって欲しいと、隣国諸国に言い寄っている。いずれの隣国も、彼を支援する様子を見せている。彼のテヘラン訪問も、決して驚くべきことではない。アフガニスタンを二つに分断するというブッシュ時代の“ブラックウィル計画”の一環として準備された、アフガニスタン北部の舗装したばかりの軍事基地を、アメリカは、ほぼ確実に放棄せざるを得まい。このネオコンの白日夢は、もし、タジク族が多数派を占める北部を、アメリカが取るのを認めさえしてくれれば、タリバンがそこに“大パシュトーニスタン”を作ってもかまわないという条件で、南部をタリバンに割譲するものだ。カルザイも、ザルダリも、こんな案は支持しない。中国も、ロシアもイランも支持しない。タリバンが支持する可能性も、極めて低い。
イランのアフマド・ヴァヒーディ国防相は、先週カーブルを訪問し、アフガニスタンのモハメッド・ファヒム副大統領に、“偉大で勇敢な国アフガニスタンは、地域外部勢力の介入無しで、自国の安全保障を、最善の形で確立することができます。”と語った。二国間安全保障協力契約を、イラン側の相手と署名する際、アフガニスタンのアブドゥッラヒム・ワルダク防衛相は、“イランとアフガニスタンの共同防衛・治安協力は、地域の平和と治安確立上、極めて重要だと確信しています。”とまくしたてた。
最も重要で、非常に気掛かりなのは、これらのアメリカの戦争で、一体誰が“勝利”したのかという認識と現実の類似点だ。一般的な見方は、アメリカはベトナムで敗北し、アフガニスタンでも敗北したというものだ。しかし、それは誤解を招くものであって、アメリカは、いずれの場合も“敗北の中での勝利”を達成していたのだ。
ベトナムの場合、東南アジアの非帝国主義的な転換における触媒として、強力な社会主義国が見事に発展するという、あらゆる可能性を壊滅させた。キューバのフィデル・カストロ同様、ホー・チ・ミンは立派な教育を受けており、国民からも、また重要なことだが、ソ連・中国、両国の指導部にも大いに尊敬されていた。アメリカがベトナム侵略を侵略していなければ、現在、東南アジアの全ての国は、(名前のみではない)共産主義となっていた可能性が極めて高い。世界はもう全く違った姿になっていただろう。
同様に、中東でも、アメリカは、中東を率いるイギリスの帝国主義指導に習って、受動的で内向き思考のワハビ主義で反共産主義のサウジ君主制を育成し、サウジは、帝国主義者達が、一世紀以上、地域中を踏みにじるのにまかせ、貴重な石油を常に西欧に提供してきた。サウジアラビアと共に、帝国は、非宗教的な挑戦者であるイラン、エジプト、アフガニスタン、イラクとリビア(現在、作業進行中)、アルジェリアと革命後イランの、イスラム教の挑戦者を弱体化させ、決して地域のモデルにはならことを許さず、帝国に対する脅威にもならないようにした。
1975年のベトナム同様、イラクとアフガニスタンは現在廃墟となっている。アメリカの後見のもと、40年間の新自由主義と、蔓延する腐敗で、エジプトは致命的に傷つけられた。イランのイスラム教徒は、アメリカの資金提供を受けたイラクとの十年間の戦争を、更に、アメリカ、イスラエル、および他のギャング連中による、20年間の経済制裁と破壊を奇跡的に生き抜いたが、その厳格で陰鬱な政権は、例えば、西欧化したエリートがいて、退廃的な西欧と多数の親密な絆を持つエジプトにとって、大したモデルとはならない。(イスラエルは言うまでもなく)アメリカによる戦争と破壊がなければ、今頃、全中東は現代版イスラム・カリフ統治区として団結し、イスラム教の要求に応じて、石油の富を分け合い、地獄に落ちろと、帝国に言っていた可能性が高い。
だから、たとえ近い将来、カーブルから、カルザイや最後のアメリカ外交官達をヘリコプターで撤退させる羽目になっても、煽動家連中とそのネオコン腰巾着どもは、依然“勝利”を祝うことができるのだ。ある意味で、彼らは正しい。
Eric Walbergは、http://ericwalberg.com で連絡がとれる。彼の著書、Postmodern Imperialims: Geopolitics and the Great Gamesは、http://www.claritypress.com/Walberg.htmで購入できる。
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この記事、Global Research、CounterPunch等、様々な英語のwebに掲載されている。
Al-Jazeerah掲載日は絶妙!ベトナム戦争遂行に対する日本の貢献、はかりしれないものがある。
2009/3/12掲載の「オバマ、アフガニスタン戦争の戦略を提示」中に、カルザイの弟、麻薬で蓄財とある。護衛に殺害されたと報道されている人物だろう。ヘリコプター脱出、そう遠くはないのかもしれない。
講読紙、朝刊で、明確に脱原発・脱リサイクルを表明したのにびっくり。エープリール・フールではないだろうか?と我が目を疑った。
テレビ、菅下ろしの動きと、セシウム汚染牛肉のニュースばかり。ストレス・テスト、もちろん、八百長テストになるだろう。菅下ろしを進める連中、原発推進派であっても、脱・卒原発ではない。一難去って、また、(あるいは、もっとひどい)一難。
牛乳も、豚・鶏(牧草は食べないが)も、穀物・野菜・茶、果物も、魚も、水も空気も発表しないだけで、おそらく同じ。もちろん一口食べても飲んでも「ただちには健康に影響はない」だろうが、長期的に蓄積した後どうなるかは官房長官も福島県健康アドバイザー教授も保証してくれない。(してくれても、信じない。)御用学者は反論するが、放射能に、しきい値はないだろう。日本中チェルノブィリ状態は長期に続く。期間はチェルノブィリが参考になるだろう。
チェルノブィリ、25年後の今も、崩壊原発、安全解体とほど遠い。アパート群は無人。チェルノブィリ後のソ連・東欧・西欧、牛乳・肉、穀物で似たようなエピソードに事欠かない。癌で亡くなる人が増加しても、体に「チェルノブィリ発」の判子が押してあるわけではない。
フクシマ、25年後も、崩壊原発、安全解体とはほど遠い状態にあるだろう。
フクシマを引き起こしたご本人の、官、学、企業、労組、マスコミ集団が、他の原発の安全性を、調査したり、保証したりするのを、本気にする一般人、おられるのだろうか。(玄海町長氏のように利権をもっていれば、本気にしなくとも、賛成するのはわかる。)この地震国、他にもたっぷり原発はある。「事故は他原発では発生しない」という犯罪人諸氏の保証、詐欺か嘘か夢想でしかないだろう。
(恥ずかしながら名前を知らない)有名男性タレント・グループが、「日本は元気安全ですから、観光においでください」というコマーシャルに登場し、ニュヨークかどこかの大型スクリーンに、その宣伝がうつされるニュースがあった。もちろん、そうあって欲しいものだ。「日本人は、エリート官僚も、政治家も、御用学者も、大企業も、マスコミも、タレントも、信用できない。」とならないよう願たい。しかし、日本全国、風評被害状態ではなく、もはや汚染被害状態。
知人から、観光客ならぬ、留学生が激減していると、数日前に聞いたばかり。学童を、妊婦を、それと知りながら、放射能の中にさらしたままの国に、わざわざお金を払ってやってこられるカミカゼ留学生、まれだろう。深刻な状況に直面しているのは観光業界だけではない。熱烈な日本ファン増加の緊急停止・消滅。留学生十万人計画、たしか、原発導入の張本人、大勲位氏の発想。自業自得。
「日本は安全ではないから、資金さえあれば、どこか安全な海外移住したいものだ」と思いながら、節電上、宅急便配達の方がこられても対応できない「ほぼハダカ状態」でテレビを眺めていた。
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