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2011年7月18日 (月)

福島事故にもかかわらず、ロシア原子力産業は営業開始

John Daly

oilprice.com - 2011-07-08

3月11日におきた、原子炉6基を擁する福島第一原子力発電所での大惨事は、世界的に影響を与えたが、民間の核エネルギーに、過去50年間にわたって投資された何兆ドルもの資金を考えれば、驚くことではない。皮肉なことに、わずか一年前、原子力業界は、地球温暖化に対する世界的な懸念のおかげで、温室効果ガスを発生しない核エネルギーの利点を、多くの人々に再検討させ、今にもルネッサンスを迎えようというところだった。

日本での出来事が、全てをすっかり変えてしまい、民間用原子発電技術輸出国の"ビッグ・スリー"、アメリカ、フランスと、ロシア連邦を痛打した。

前者の二国は、絶望し、お手上げと、あきらめたように見えるが、モスクワは原子雲には希望の兆しが潜んでいると見て、挑戦しようと立ち上がっている。

論争の的であるイランのブシェール原子炉の完成は全く別として、ロシア原子力産業は、原子力発電所の建設から廃炉までに至る、様々なサービスを提供しようとしている。

先週、チリの上院議員、グイド・ジラルディ、ホルヘ・ピザッロ、フルヴィオ・ロッシと、ゴンサロ・ウリアルテがモスクワを訪れ、ロシアのエネルギー省大臣セルゲイ・シュマトコを含め、様々な政府高官と会見した。シュマトコ大臣は、サンチャゴの"エル・メルクリオ"紙の記事によると、チリに原子力発電所を建設しようと申し出て、代表団を"驚かせた"という。困惑した南米の議員達は、日本での事故後、そういう考えは、"国民の大変な反対"に直面するので、チリに建設することは"思いもよらない"と答えた。協力的にしようと努めて、シュマト大臣は、チリの潮汐エネルギー・パイロット・プロジェクト開発への支援を約束した。

そうした売り込みはともあれ、ロシアの国営原子力企業ロスアトムは、同社の報道担当局によると、企業に、外貨による資金提供をする特殊会社、ロスアトム・ファイナンスを立ち上げた。ロスアトム・ファイナンスは、キプロスで登録され、アトムエネルゴプロム株式会社に完全所有されており、核エネルギー事業に関与しているロシア企業、中でも、外国で原子力発電所建設を行う、非上場株式会社アトムストロイエクスポルト、核燃料メーカーのTVELと、核物質の輸出業者テフスナブエクスポルト等に、財政援助を提供することになっている。

過去4ヶ月の間にずっと大きくなった反原発側と協業しようとして、ロスアトムは、最近ドイツ原子力発電所の廃炉支援を含む、広範な原子力事業について、ドイツのジーメンス社と議論をしている。ロスアトムのキリル・コマロフ副総裁は、"原子炉のみならず、核医学や、原子力発電所の廃炉等、様々な形の協力関係が考えられます"とむしろ楽観的に、記者団に語った。

コマロフ副総裁の楽観的な発言は、2年間以上の関係によって築かれたもので、2009年には、ジーメンス社とロスアトムは、原子炉建設で協力する計画を発表したが、生まれたばかりの協力関係は、ベルリン-モスクワ原子力枢軸提案を、契約の競業制限条項違反と見なした、ジーメンス社の元パートナー、フランスの原子力企業アレヴァ社による反対のおかげで、その後、取りやめとなった。

純情ぶった艶めかしい女性のようなパリのアレヴァ社は、かつての嫉妬にもかかわらず、同社は、実際、ロスアトムのパートナーであり、コマロフ副総裁によれば、ブルガリアにベレネ原子力発電所を提供する共同事業体の一部だという。楽観的な、コマロフ副総裁は、ロスアトムは、"アレヴァ社と、ウラン採掘から、第四世代原子炉に至るまで、新たに広範な協力関係のオプションについて話し合う用意がある"と補足した。

ロシアは、建設から、廃炉に至るまでの全ての提供をすることで、世界中の民間原子力産業のホーム・デポとなる態勢を整えようとしている。モスクワでは、たとえセシウム137を含んだ雲であれ、あらゆる雲には希望の兆しが、というより、少なくとも、ユーロという希望の兆しが、あると見えるようだ。

記事原文のurl:oilprice.com/Alternative-Energy/Nuclear-Power/Despite-Fukushima-Russias-Nuclear-Industry-is-Open-for-Business.html

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フクシマにもめげず、セールス開始のロシアに驚くよりも、フクシマにもめげず、他の原発を安全と強弁する民主党・自民党政治家が圧倒的に多いことに驚いている。そして、各原発や、もんじゅの立地県、町村の首長の皆様の態度に。ことごとく、異常暴走、完全不安員ばかり。

チェルノブイリ事故のみならず、ジョレス・メドベージェフの『ウラルの核惨事』で有名になった、キシュチュムにおける放射性廃棄物爆発の大事故も経験しているロシア、核関連事故と被害規模については、大量の情報をもっていることは想像できる。情報をもっていることと、真実を公表すること、対策をとれることは、今経験している通り全く別の話だろう。

同じジョレス・メドベージェフによる『チェルノブイリの遺産』みすず書房刊、「フクシマの遺産」ガイドというか、予告編のように読める基本図書。ソ連共産党・民主党・自民党、いずれも、どんぐりの背比べと思えてくる。日本の対応の方がまとも、とは言い切れない。

日本の新聞・テレビ情報に振り回される前に、『チェルノブイリの遺産』のような本を読んでおけば、避難問題も、牛乳汚染問題も、肉汚染問題も、どういう展開になるか、おおざっぱな見当はつくだろう。本の価格、6090円、高いといえば高いが、良い情報の入手には費用がかかる。

百聞は一見にしかず。123ページの一部をコピー・転記させていただく。

     酪農への影響

 一九八六年五月、三〇キロ圏から住民が避難させられたとき、八万六〇〇〇頭の牛が汚染地域から移された。なかにはあまりにも多量の放射能(とくにヨウ素131)に侵され、放射線レベルの低下を待つより、屠殺したほうが手っ取り早いと考えられたものもあった。五月になると、干し草やその他輸送可能な、きめが荒く栄養の豊富な飼い葉は、ソ連には貯蔵がほとんどなくなっていて、移動させた牛に、汚染されていない干し草を十分に与えることができなかった。ウクライナ、白ロシア、ロシアの三共和国では、家畜は戸外で飼育される。八六年五月、放射性ヨウ素が放出されたために、かなりの量のミルクが許容レベル以上に汚染されてしまっていた。

「目次」部分を、ご紹介しておく。もちろん、読んだからとて、吸収したセシウムやストロンチウムが即排出され、体内被曝せずに済むという効用は無い。

   緒言と謝辞

 1 チェルノブイリ事故の事後検討………………………………………………1

   はじめに 1 チェルノブイリのRBMK1000型炉 4 設計上の問題点9

      不十分だった初期安全試験 12 事故の背景 20 大惨事 29

   おわりに 37 追記運転員の見解 40

 2 「放射性」火山…………………………………………………………………45

  はじめに 45 消火活動 46 国家非常態勢 51 炉心の二回目のメルトダウン 61

     グラスノスチの最初の兆し73 おわりに 80

 3 環境への影響…………………………………………………………………83

  はじめに83 放射性核種の環境への放出量、構成と動態 85 環境汚染の

  レベルとパターン89 放射能汚染の環境と生態系への影響、および汚染除

  去作業 100

 4 農業への影響…………………………………………………………………116

  はじめに 116 農地の汚染と損害 117 酪農への影響 123 その他の形態

   の農業と農村住民 129

 5 ソ連国内における健康への影響………………………………………………145

  はじめに 145 事故現場での初動救急医療対策 148 現場以外での緊急医療

   対策 152 三〇キロ圏と第二次避難 167 一般民衆のための放射線防護 175

   健康への長期的影響 185 おわりに 210

 6 地球規模の影響………………………………………………………………214

  はじめに 214 北欧諸国  218 欧州中・東部 225 欧州共同体(EC)加盟国233

     世界のその他の地域 245 おわりに 245

 7 ソ連の原子力計画………………………………………………………………251

  はじめにソ連ウラン計画小史 251 RBMK型原子炉 256 加圧水型原子炉 266

  高速中性子増殖炉 272 原子炉による地域暖房 277 原子力論争 280

  おわりに88

 8 ソ連における核事故の歴史……………………………………………………291

  はじめに 291 原子炉事故 294 記録に残っていない原子炉事故 302

  キシュチュム核事故 308 おわりに 316

 9 チェルノブイリ事故後の原子力………………………………………………319

  はじめに 319 エネルギーの分野でのソ連の選択肢 322 チェルノブイリ事故

  後のエネルギー危機 333 新世代の原子力発電所の将来性 338 おわりに 343

訳者あとがき 347

索引 注・参考文献

キシュチュムにおける放射性廃棄物爆発大事故、日本の場合、六ヶ所村で起きれば匹敵するだろう。わざわざ、匹敵するような大量殺人施設を作る政府・業界・学者・マスコミ。

『ウラルの核惨事』、第四章は、湖、水草、魚類の放射能汚染。

ジョレス・メドベージェフ氏が、フクシマについて書いた記事翻訳を下記でご一読を。Courier Japon 6/16

「チェルノブイリより恐ろしい……」旧ソ連出身の科学者が語る“フクシマ”

肝心の日本の魚については、『海と魚と原子力発電所』 水口憲哉著、印刷物は売り切れだが、PDF版は購入できる。1490円(パソコン等で読めるが、プリンタ印刷はできないという。)ただし、読みやすい本、とは言えないように思う。原発推進体制や、それと戦う運動の姿も語られているためだろう。「自分が助かるには」ではなく、既成の原発推進体制を崩壊させないかぎり、汚染は拡大するのだから、そういう記述になっていて当然ではある。

チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクトが、
ゴルバチョフの科学顧問を務めたロシアの科学者アレクセイ・ヤブロコフ博士を中心とする研究グループが2009年にまとめた報告書『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響』(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment)を翻訳中だという。

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コメント

貴ブログを毎回必ず読ませていただいています。適切な選択のもと、貴重な情報ばかりです。
海外情報だけでなく、ご本人のコメントも、多くの場合そのまま共感を覚えながら読みます。
ところで、日本国の原発推進派の「正気の沙汰」でない発言や発表、書面の数々に対する批判の妥当性はその通りと思います。
しかし、これはほんとうに「正気の沙汰」でないのでしょうか?
彼ら推進派はこれほどまで明らかな巨大な惨害(統計でない、顔をもった被災者の個々人)に対して、まったく無関心であり、気にもならず、痛みも悔いも恥も共感も感じていない人たちです。あとはすべて打算ずくで、所属する組織の組織益を通じて私益に通じる道だけを念頭において行動する人たちのように見えます。その私益追求においては、まったく正気であり、合理的といえる行動をしているように見えます。(九電玄海電発再開では墓穴を掘っていましたが。)
そうした人びとの多数が政治的社会的権限を有する組織の指導的立場にいるから、今日の国の路線選択上の困難があるように思います。国民の多数派は脱原発に向かうまっとうな判断をしていると思いますが、その思いを政治的社会的な力にする手段が見あたりません。
広瀬隆氏たちの訴訟は1つの手法ですが、経産省を対象にしませんでした。行政訴訟は日本では実績があまりに乏しいし、行政訴訟のための専門ルートもありません。
マスコミは国民多数派の意を汲みあげる努力はまったくしません。真実の隠蔽に繋がることには熱心ですが。
貴コメントのまっとうさを承知している積りですが、八方塞がりの社会の状況に対して、仮にあるとすればどこに突破口の可能性があるのか、コメントを書いていただきたいものと思っています。

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