"誰がバルカン諸国を破壊したのか": ホルブルックか、ミロシェビッチか?
Global Research、December 21、2010
Counterpunch.org
亡くなったばかりの人物を厳しく批判するのは避けるのが良いことだと普通は考えられている。だがリチャード・ホルブルック自身、そうしたエチケット破りの特筆すべき例を示していた。スロボダン・ミロシェビッチが獄中で死亡したのを聞いたホルブルックは、ヒトラーやスターリンにも比肩しうる"怪物" として彼を描くことを躊躇しなかった。
ホルブルックの職業上最大の功績である、ボスニア-ヘルツェゴビナ内戦を終わらせた1995年のデイトン合意は、ほぼ全面的にミロシェビッチのおかげであることを考えれば、これは下品な忘恩行為だ。このことは彼の回想録「To End a War」(ランダムハウス、1998年刊)の中で、非常に明確に書かれている。
だが、マスコミの共謀によって実現したホルブルックの偉大な才能は、現実を、自分にとって有利な風に粉飾することにあった。
デイトン和平合意は、アメリカ合州国により"交渉の席につくべく爆撃される" 必要があった、いやがるミロシェビッチから、聡明なホルブルックが引きだした、英雄的な和平の勝利として描かれてきた。実際には、アメリカ政府は、致命的な経済制裁からセルビアを解放するため、ミロシェビッチが、ボスニア和平に熱心であることを十分承知していた。アメリカの軍事支援を受けて、戦争を続けたがっていたのは、ボスニアのイスラム教徒指導者アリヤ・イゼトベゴヴィッチだった。
実際には、イゼトベゴヴィッチを交渉の席につかせるため、アメリカはセルビア人を爆撃した。しかも、1995年秋に成立した合意は、欧州共同体の支援の下、三つの民族集団による1992年3月に成立した合意と、さほど違ってはいなかった。もしも、当時のアメリカ大使ウォーレン・ジマーマンに鞭撻されて、合意を撤回したイゼトベゴヴィッチによる妨害がなければ、内戦を防げていたでだろう。要するに、バルカン半島における偉大な調停者どころではなく、アメリカ合州国は、まずはイスラム教徒側を、集権化したボスニアという目標の為に、戦うようそそのかし、次に住民が希望を失い、つらい思いをするようになったほぼ四年間の流血の後、弱体化した連邦制ボスニアを支援した。
こうしたこと全ての本当の目的は、ホルブルックが著書「To End a War」で明確に述べている通り、ヨーロッパは自らの極めて重要な問題を処理することができず、アメリカ合州国が"必須の国家"であり続けていることを、はっきりと示すことだった。彼の著書はまた、イスラム教徒指導部は、完全な勝利に達成せぬまま戦争を終わらせるのを腹立たしいほどいやがっており、進んで妥協しようというミロシェビッチだけが、デイトン合意を失敗から救い、ホルブルックが英雄と讃えられのを可能にしたことを明記している。
ホルブルック外交の機能的役割は、ヨーロッパ諸国によって行われているような外交は、必ずや失敗するということの証明だった。彼の勝利は、外交の敗北なのだ。爆撃の壮観とデイトン合意は、脅迫、あるいはアメリカの軍事力の行使のみが、紛争を終わらせられるのだということを見せつけるよう仕組まれていた。
ミロシェビッチは、自分の譲歩によって、アメリカ合州国との和平と和解と至ることを念じていた。実際には、ホルブルックにその職業的勝利を差し出した唯一の報いは、セルビアからコソボ州をもぎとり、ミロシェビッチ自身の失墜を準備するための、1999年の国へのNATOによる爆撃だった。このシナリオの中で重要な役割を演じていたホルブルックは、1998年夏突然、その時までは国務省によって"テロリスト"と評価されており、それから間もなく、州から治安部隊を撤退させない限り、事実上、ホルブルックの承認によって、自由の戦士へと変身した元テロリストに、州を引き渡さない限り、セルビアは爆撃されることになるとミロシェビッチに宣言し、シャッター・チャンスを利用し、その武装アルバニア人分離主義者とテントの中で一緒に座り、裸足でポーズをとった。
ベトナムから、アフガニスタンにまで至る長い経歴の中で、ホルブルックは多くの戦線で積極的に活動していた。1977年、インドネシアが東チモールを侵略し、元ポルトガル植民地の住民虐殺を開始した後、ホルブルックは、アメリカ合州国により、"人権" を促進するという建前で派遣されたが、実際には、スハルト独裁政権が、東チモール人に対して武装する援助をしたのだ。時には、政府が反乱側に対して戦い、時には、反乱側が政府に対して戦うという、矛盾した見掛けにもかかわらず、そこで終始一貫していたものは、世界中にアメリカの帝国主義的権力を広めるための、悲劇的な現地紛争の冷笑的な利用と悪化だった。
ホルブルックとミロシェビッチは、同じ年、1941年の生まれだ。2006年に、ミロシェビッチが亡くなった際、ホルブルックは、BBCに、人間的な優しさの片鱗もない長い声明を出した。"この男がバルカン諸国を破壊したのだ"とホルブルックは語った。
"彼は、四つの戦争、300,000人以上の死者、250万人の家なき人々を生み出した戦争犯罪人だった。怪物たちは、時として歴史に多大な影響を与えることがある。ヒトラーやスターリンだ。そして、この人物の場合も、そうだ"
ホルブルックは自らを、立派な大義のため、悪に対処する善だとしている。ミロシェビッチと交渉する際、"自分は、歴史における、ひどい役割の、実に多数の死者を生み出した怪物に対峙して座っているのだという事実を自覚していた。"
一体誰が怪物だったのだろう? 医療の欠如のために亡くなった人々を含め、ハーグ国際司法裁判所では、誰一人、ユーゴスラビア解体戦争における悲劇的な死に、ミロシェビッチに責任があることを実際に証明してはいないのだ。一方ホルブルックは、少なくとも一部は、彼が遂行したアメリカ政策の結果としてもたらされた、ベトナム、東チモール、アフガニスタン、イラクと、そう、旧ユーゴスラビアにおける全ての死者のかどで、裁判にかけられることは決してなかった。
自称の道徳的高みから、ホルブルックは、このセルビア人指導者を、政治的信条もなく、共産党員でも、民族主義者でもない日和見主義者、単なる"自分自身のために、権力と富を求めた日和見主義者に過ぎない"と断じている。
実際には、ミロシェビッチが自らのために富を追い求めたり、得たりしたという証拠は皆無だが、ホルブルックは様々な職歴を持っていた。クレジット・スイス・ファースト・ボストン取締役副会長、リーマン・ブラザーズ常務取締役、非公開投資会社ペルセウスLLC取締役副会長、またWikipediaによれば、"AIGが金融制度全体を破滅させるのを防ぐため、納税者達に何千億ドルも負担させる必要があるような、極めて投機的なクレジット・デフォルト保険スキームにAIGが関与していた"時期、アメリカン・インターナショナル・グループAIGの取締役会メンバーだった。
ミロシェビッチは、厄介な環境にあって、亡くなる前に、自らの弁護さえすることもできずに長年裁判にかけられていた。ホルブルックは、彼の獄死という結果を、完璧に満足なものと見なしている。"彼がハーグ国際司法裁判所に送られてすぐ、彼は二度と日の目を見ることはあるまいと私は悟った。彼は独房で亡くなったが、それが正しいことだったのだから、正義は奇妙な形で実現されるものだと思った。"
ホルブルックによるバルカンの災難のごまかし、ベトナム、東チモール、イラクやアフガニスタンの悲劇、実に冷笑的に利用する彼のやりくちには、他にも嘘やごまかしの多くの例がある。とはいえ、彼の重要性を誇張すべきではあるまい。道徳の怪物も、彼等が、血に狂った官僚的軍事機構の単なる空虚な手先である場合には、歴史に対して、必ずしも大きな影響を与えるわけではないのだ。
Diana Johnstoneは、Fools Crusade: Yugoslavia、NATO and Western Delusionsの著者。彼女には、diana.josto@yahoo.frで連絡できる。
記事原文のurl:www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=22476
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彼女のFools Crusade: Yugoslavia、NATO and Western Delusions、是非読みたいと思うのだが、町の書店には売っていない。
日本版ホルブルックたる総督二氏によるプロパガンダ本の宣伝が新聞に載った日、またもや属国の対宗主国密約が明らかになった。
沖縄密約の存在を暴露した英雄であるべき西山太吉氏が職を追われ、
「密かに情を通じて」という迷言により、彼を追い落とした東京地検特捜部佐藤道夫、第二院クラブから出馬して議員となり、民主党に転じた。
西山太吉氏の情報を使い、政権を追求した横路孝弘は、今や衆議院議長。
アリスの不思議な世界より不思議な世界だ。
WikiLeaks関連の報道も大切かもしれないが、まずは自分の足元、沖縄密約事件・日米安保の変質を継続的に報道できてこそ、日本のマスコミ、存在意義もあるだろうに。
思いやり予算、属国マスコミ用語では、日本側負担駐留経費?(普通の素人感覚では、みかじめ予算)が聖域状態にあるのを、決して追求しないマスコミ、小生のような貧乏人にとって、存在意義などあるとは思えない。支配体制にとっては存在意義、十分あろう。
2010/12/27:「セルビアを攻撃した」ではなく、「セルビア人を攻撃した」が正しいというご指摘を頂いたので、置き換えた。
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「アメリカはセルビアを爆撃した」とありますが、「セルビア人を爆撃した」という方が適切かと思われます(原文でも"the Serbs")となってます。
ボスニア内戦時に当時の新ユーゴであるセルビア共和国に対してNATOが空爆を行った実績はありません。あくまでもボスニア内のスルプスカ共和国軍に対する攻撃でした。
投稿: | 2010年12月27日 (月) 01時50分